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60:御前会議

 将軍アレクセイ・イスカリオテが春人の元を訪れて二日ほど経った。彼の目的だった春人をトリスタニア王国へと招き入れるという目的は見事失敗に終わったが彼等は未だ春人を勧誘することを諦めてはいないだろう。


 春人が条件付きでの依頼としてであれば仕事を請け負うと言っても、彼等が春人がいずれ提示するであろうその条件を全て飲む可能性はあまり高くは無いだろう。そしていずれ時が経てば次第にもっと堂々と表立って勧誘してくる可能性もある。最悪の場合、アリシアを人質に脅迫してくることも考えられる。


 春人が今後起こりうるあらゆる可能性を考慮してはみたが、結果はどれも同じ結論にたどり着く。


――彼等が仮に敵対行為を俺にしてくるのであれば、俺は全力で彼等を排除しよう。


 そう考えていたのが今朝の出来事である。






――で、本当に俺が呼ばれるとは思わなかった。


 春人は今王城で行われている以前イスカリオテが言っていた御前会議に参加している。正確には強制的に参加させられていると言った方が正しい。


 アリシアと共に王都で暫くはゆったりとくつろごうと思っていたところに王城からの使いの使者が、


「ハルト様、本日は御前会議へと参上していただきます」


 と簡潔に言って、半ば拉致同然に春人を王城へ連れて行った。そのため春人は少々機嫌が悪い。


 その御前会議の場にはアレクセイと名も知らぬその他の将軍、それと大臣たちが参加していた。


「おうハルト、貴様もやっと来たな。何だそのムスッとした顔は? もっとシャキッとせんか」


 春人の機嫌が悪いことなど知らないアレクセイは先日と同じ調子で声を掛けてきた。そんな彼の事を春人はもう少し相手の事を気遣ってくれと内心思っていた。


「閣下……拉致同然で連れてこられりゃ、誰だってイライラしますよ」


「それはスマンかったな。もっと前もって伝えるべきだったな。それと余の事は閣下と呼ばんでいい」


「まったく、アリシアに何にも言わずに出て来たから帰ってからなんて言われるか……」


 春人は帰ってからの事を考えて頭を抱えていた。アリシアに何も言わずに出てきてしまったからである。


 そう考えているとトリスタニア王国の国王とそれと同時にベルカ帝国のルイズ第三皇女が彼女の護衛であるフィオナ達を率いてこの部屋に入って来た。


「皆揃っているようだな。これよりベルカ帝国との今後についての議論を始めよう。此度はこちらに一時亡命中のルイズ第三皇女殿下にも出席していただいている」


 御前会議の開始の合図を国王自らが行い、現在戦争状態にあるベルカ帝国との交渉内容などについての話し合いが始まった。この場に他の面々と共にルイズが出席しているので、この場での話し合いがこれからの両国の行く末を左右する事になりそうだ。


「皆さま御機嫌よう、今日は私も参加させていただきます。自分の国の行く末は自分で決めたいので……。どうぞよろしくお願い致します」


 国王に続きルイズも軽く挨拶を済ませ、改めて会議が始まろうとしていた。


「では始める前に我から一つだけ言いたいことが有る。ハルト・フナサカ殿、貴殿が我等に協力してくれることに心より感謝する。その辺の話はまた後ほど話そう。では改めて話し合いを始めようではないか」


 先日のアレクセイが訪ねてきたときに春人が言った依頼としてであれば協力すると言ったのがきちんと国王の耳にも届いていたようだ。それでも彼等が春人の事を諦めたかというとそうではないだろう。


 いずれ協力関係が終了すれば彼等はあの手この手で春人を引き留めようとしてくるだろう。春人はその時が来たらまた改めて考えたようと思っていた。


 そして会議が始まってから早数時間が経過していた。話し合いが進展したかと言えばそうではない。アレクセイ以下、参加している将軍たちは兵を国境沿いに展開させ、直ぐにベルカ帝国へ反撃に打って出るべきだと進言している。


 それに引き換え大臣たちは戦後の利権の話ばかり話している。大臣たちはもう自分たちが戦争に勝利したと錯覚しているのだろう。だから金銭やその他の利権の話しか出てこない。


 そのため始まってから今までずっと話は平行線のままである。


 そんな彼等を見て春人は苦い顔をしていた。こんな奴等しかいないが大丈夫なのかと声には出さないではいるがその内心ではずっと考えていた。それと同じくルイズもあまりいい表情をしていない。彼女もきっと春人と同じことを考えているのだろう。それか彼等に協力を仰いだのを失敗したと思っていることも考えられる。


 ずっと平行線の話に終止符を打つために、会議が始まってからずっと黙って周りの話を聞いていた春人がとうとう重い口を開いた。


「まったく聞いていれば話が全然進んでないじゃないか。ここに居る大臣がたはもう勝った気でいらっしゃる。将軍がたのどう反撃に出るかと話している方がまだ建設的だ。まずは戦うことが先決だ、戦後の利権などについてはその時が来てからでもいいでしょう?」


 進まない話をしている時ほど無駄な時間は無い。彼等に付き合ったのは間違いだったと思った春人はここに連れてこられた時以上にイライラを募らせていた。


「流石はウルブスで大戦果を挙げた武人は言う事が違う!」


「そうだ! 城に籠って討論するしか能のない連中にもっと言ってやれ!」


 春人が戦うことが先決だと言うと将軍たちがそれに賛同してきた。将軍たちは春人は自分達に味方しているのだと思っているらしい。勿論春人にそんな気はない。


「今のうちから戦後の事を話しておかなくてどうするのだ!」


「所詮お前は雇われの人間でしかないのだ。口を挟まないでいただきたい」


 大臣たちも大臣たちで言われてばかりではなく、彼等も反論してきた。その矛先が春人なのは気のせいでは無いだろう。それにもともと彼等は仲があまり良くないらしい。


「ではハルトさんには何か名案があるんですか?」


 ルイズが春人にそう聞くと、春人は軽く鼻で笑いながらこう答えた。


「名案も何も答えは一つだ。この件に関しては全て俺に任せろ。何から何までだ、例外は一切認めない」


 春人は両国の戦争は全て自分に任せろと言った。この場に居る全員は彼の事を愚かだとか無謀だ、蛮勇だと思っているだろう。


「待て、キサマ一人で戦うというのか!? それはいくら何でも無謀だ!」


「我等の居場所である戦場を奪おうというのか! それはウルブスの英雄である貴公でも許さんぞ」


「キサマ一人に美味しい所を持って行かせんぞ!」


「利権の独占とは大きく出たな。その代償は高くつくぞ?」


 将軍、大臣たちからの春人に対する非難の大合唱が始まった。こういう時だけは息がぴったり合うみたいだ。非難されることなど春人は最初から予測していた。


「では貴殿等に問うが貴殿等はこの戦争を即座に終結させるだけの策は有るのか? 即座に行動させられる大規模な戦力は? 貴殿等に任せていては埒が明かない。ただ無駄に時間と戦力を浪費させるだけだ。今現在、無駄にできる時間など一秒たりとも無いだろう?」


 避難するだけしか能のない連中だと相手を評価した春人は同じように彼等を非難した。


「ではハルト、貴様なら出来るというのだな? 貴様ならどう動く? あれだけの大口を叩いたんだ、相当な策が有るというのだな? ならばそれを聞かせてもらおうか。それで我等を納得させられれば余はそれ以上何も言わん」


 今まで春人を非難することなく黙って周りの声を聞いていたアレクセイが口を開き、春人の策を聞こうとした。どうやら彼は只の脳筋ではないようだ。


「策などと御大層な事は言わん。俺ならばすぐに終わらせられる。必要なら皇帝の暗殺することも容易だ。俺に任せてくれればそうだな……準備期間も含めて1ヶ月で戦争を終結させよう」


 春人は大きく出た。一人で一国を相手に1ヶ月という短期間で終わらせるというのだから。それを聞いていた皆は春人を笑っていた。そんな事出来る筈がない、一人で行ったことろで返り討ちに会うだけだと言っていた。そんな中でも国王やアレクセイ、それにルイズやフィオナ達は笑わずに黙って春人の話を聞いていた。彼等は何を思って黙って聞いているのかは分からないが、きっと春人ならやれるのかもしれないとでも思っているのだろう。


「一人で皇帝を殺しに行くとは大きく出たな。本当に面白い男だな貴様は。でだ、本当にそんなことが出来るのか?」


 アレクセイは腕を組みながら再度春人に出来るのかと聞いてきた。


「出来る出来ないで言えば俺には出来る。皇帝を殺すのも簡単だ。だが殺すのは俺じゃない、それは俺の役目ではない。ルイズ殿下、貴女はあの国を変えたいと俺に以前言ってくれましたね。その為に俺に力を貸してくれとも」


「え? ええ、言いました。でもあの時の話と今の話は何の関係が?」


「ああ関係あるさ。なんたって皇帝を殺すのは俺じゃあないからな。そいつを殺すのは貴女や、貴女の国の国民の役目だ。俺はそれに手を貸すだけに過ぎない」


 皇帝を殺すのは自分ではなく、ベルカ帝国の国民たちの役目だ。春人はそうはっきりと言い切った。それはトリスタニア王国にはベルカ帝国相手に手を出させないと言っているようなものだ。


「待て! それではワシらには手を出すなと言うのかキサマは! 傲慢なのも大概にしろ!」


 大臣の一人が春人の言いたい事に気が付いたのか、声を荒げて春人を非難している。


「ほう、利権しか考えていない大臣でもそこまで考えるだけの脳みそが有ったか。よく分かったな、オタクらは国境を越えて侵攻してくる部隊を監視、そしてそれの撃破を行ってもらおう。そして必要に応じて俺の方から増援を願い出る。その際には協力していただく。異論反論は一切受け付けない。両国の戦争を終わらせるのは俺の役目だ。そしてベルカ帝国を解放するのはルイズ殿下、貴女の仕事だ」


 春人は凄みを利かせて全体に指示を出し、無駄に長引いている会議を終わらせようとした。全体に指示を出している時の春人の姿は死神部隊を率いていた時の姿を彷彿させている。


「ふざけるのもいい加減にしろ! ここは国王陛下の御前だぞ! それ以上戯言をっ……!」


 春人の意見が気に食わなかったのか、一人の将軍が春人に詰め寄り、胸ぐらを掴もうとしてきた。だがそれは無情にも春人が腰のホルスターから抜いたガバメントによっと拒まれた。その銃口は彼の眉間に突き付けられている。


「戯言を……何だ? 言ってみろ、許さないとでも言うのか? 気に食わないから俺を殴るか? それもいいが、お前が拳を振るうより先にお前の脳髄が部屋にぶちまけられるのが早いぞ? 試してみるか?」


 ガバメントの安全装置を解除していつでも撃てる状態にした。あとは引き金を引けばこの将軍は将軍だったモノに早変わりするだろう。そして春人の殺気をもろに浴びたその将軍はただたじろぎ、無言で冷や汗を流している。下手な言動を取ればすぐに殺されると分かっているからだ。


「待ってくれ、早まるな。俺が悪かった。だから殺さないでくれ」


 そしてその将軍がかろうじて出せた言葉がまさかの命乞いだった。銃がどんな武器か分からなくとも自分の命が消えかかっているのは分かるのだろう。


「……分かればいい。この際だからはっきり言っておこう。俺はオタクらの味方ではない。だが今のところ敵でもない。そちらが敵対行為をしない限りはな。その辺はしっかりと理解してもらおう」


 抜いた銃をホルスターに戻しながら春人はこの場に居る全員に忠告した。自分は誰にも従うことは無いと……。


「我等の敵でも味方でもなければ貴公は一体何だと言うのかね?」


 今まで何も発してこなかった国王が顎に手を置きながら春人に訊ねてきた。お前はいったい何者なのかと。それに対して春人は考える間もなくこう答えた。


「自分は元一国の軍人です。ですが今は一人で一つの軍隊です。同時にこの国の冒険者でもあります。まあ後者は身分証と食い扶持が必要だったから登録しただけですけどね」


 現状の装備が有ればこの世界の国と対等にやり合えるだろう。だからこそ春人はこう答えたのだ。そして付け加えて言った冒険者の件は今となっては本当にどうでもよくなっている。先日の報酬であれだけの収入が有ったのだから……。


「そうか……そう言えば貴公は先日、依頼であれば仕事を引き受けると言ったな?」


「はい、そのように申し上げました」


「では貴公に依頼しよう。帝国の進攻を阻止し終戦へと導いてもらおう。あれだけのことを言ったのだ、失敗は許さんぞ?」


「私の辞書に失敗などという文字は存在しません。その依頼、しかと引き受けました。ですが私を雇うのであれば報酬は高くつきますので、その辺は覚悟しておいてください」


 まるでナポレオンの名言のようなことを言いながら春人は依頼を引き受けた。これでルイズの依頼を含めて請け負った仕事は二つになった。それでもやる事は両方ともほとんど同じなので負担になる事もない。


「ではこれにて今日の会議は仕舞にしよう。皆御苦労であった」


 国王の合図によって御前会議は閉幕した。


 そして宿に帰った春人は何も言わずに出て行った為にアリシアにひどく怒られてしまった。

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