05:初クエスト 初弾装填、戦闘開始!
前回の更新から1ヶ月、間を開けてしまった……
暫く街道沿いを歩けば目の前に森が見えてきた。多分あそこがゴブリンの住処のある森なのだろう。中に入ったらまずは捜索開始だ。洞窟と言っていたから少なくとも街道から離れた所に有るのだろう。
そのために街道から離れたところから森へ入る。入り次第、MTで生体反応センサーを起動する。これさえ有れば多少なりとも捜索は楽になる。もっともゴブリンとか異世界の生物に反応するのかは分からないが……
こんなときに偵察用ドローンやプレデターが使えればその分早く見つけられるのだが生憎アイテムリストにドローンは入ってないしショップが使えない以上偵察支援要請も出来ない。生体反応センサーはMTに最初から付与されている機能で人かそれ以外かどうかといった区別が出来なく、ただ単にそこに生物が居るということだけを教えてくれる。
もっともショップさえ使えればそこからMTの機能強化が出来るのだか今はそれも叶わない。
森に入って間もなく、センサーに反応があった。
「ほぅ? 案外早く見つかるもんだな」
肩に背負った89式を構え、ベストからマガジンを取り出し銃を差し込む。そしてチャージングハンドルを引き初弾を装填、セレクターをセミオートを切り替える。これで何時でも撃てる。
銃を構えたまま姿勢を少し低くして、早足で反応のあった場所へ急ぐ。姿勢を低くしたのはこちらが先に見つかる可能性を少しでも下げるためだ。
距離もたいして離れていないため、直ぐに反応のあった場所付近へ到着した。どうやら森の中を抜ける街道に戻ってきてしまったようだ。すると向こう側から誰か来たようだ。すぐさまその場で伏せ、銃口を向ける。たぶん反応があったのはあれに違いないだろう。
段々姿が見えてくる。銃口は向けたままで、しっかりと相手が誰かを確認する。ある程度距離が縮まり相手が何者かはっきりと確認できた。どうやら街道を行く通行人のようだった。
「なんだよ、ハズレじゃないか」
小さく小言を呟いてからなるべく音を立てずにその場から下がる。これからゴブリン討伐に行くのに、ここからいきなり姿を現してあの通行人とトラブルでもあったら面倒だからな。そのまま深い森の中へ戻っていく。
街道沿いを後にしてすぐに別の方角から反応があった。先程よりも強く反応するのできっと数が多いのだろう。
「今度こそアタリを願おうか」
そう言って反応のある方へ走る。こんな時にあまり息が切れないのはゲーム時のステータスが影響しているのだろうか? そこそこの重装備な筈なのに何処までも行けそうな気がする。暫く走った先でセンサーの反応が強くなってきた。
先程と同じように伏せて周囲を警戒する。間もなくして小さなナニカが数体現れた。全身緑色の体に尖った耳、見た目は完全にファンタジーものでよく見るゴブリンそのものだった。
すぐさま撃とうとしたが目の前にいる個体だけを倒してもまだ他にも居るだろうからどうしたものか?
ここで倒して他のゴブリンを探しに行くのも面倒だし、ここは奴等が住処に戻るまでバレないように着いていこう。
そういえばゴブリンって頭に銃弾を撃ち込めば倒せるよな?
まあそんなことは後で分かることだ。それよりも今は如何にバレずに尾行出来るかだ。生憎俺は何処ぞの伝説の傭兵の様なスニーキングスキルは持ち合わせていない。それと当たり前だがダンボール箱もない。
途中余計な事を考えつつ、何時尾行がバレるかヒヤヒヤしながら着いていくと森の中に洞窟のような横穴が見えてきた。多分あそこが住処なのだろう。ゴブリンが入っていったから間違いない。
中に入る前に腰に下げている鞘から銃剣を抜き、89式の先端に着剣する。その後にMTからナイトビジョンを装備した。
さあ状況開始だ。
中は想像どうり薄暗く、外よりも涼しい。壁が何かでエメラルド色に光っていて肉眼でもなんとか行動出来る程の明るさだ。壁の光るものを触ってみたらどうやら苔が光っているようだ。
少し奥に進むとナイトビジョンの視界が白くなってきた。この奥で誰かが灯りを灯しているようだ。今まで以上になるべく足音を立てないようにゆっくりと進む。
少し進んだ先でナイトビジョンが必要無いほど明るくなった。ナイトビジョンを額にずらし、肉眼で見ると複数のゴブリンが居た。連中が焚き火を焚いていたらしい。成る程、火を起こす位の知能は有るようだ。
それと焚き火の近くに人が倒れている。どう見てもゴブリンではなく、あれは人間だ。ギルドで聞いた通り、ゴブリンは人を拐ってきているようだ。実際あの人の生死が分からないが、どちらにしても早くケリをつけたようがいいみたいだな。出来れば生きていてくれればいいのだが……
1発でも発砲すれば確実にバレるだろう。まあそれは大した問題ではない。どのみち攻撃すればバレるのだから。
そして一番近いゴブリンに照準を合わさる。頭部に狙いを定めて引き金を引く。
すると洞窟内に轟音が響き、銃口から発砲炎の閃光が光る。それと同時に89式から発射された5.56mm弾が目標目掛けて飛び出していった。音速を越えた銃弾が的を射抜かんと飛んでいく。
鉛の銃弾は吸い込まれるようにゴブリンの後頭部から侵入し内部組織を破壊しながら反対側へと貫通していった。撃たれたゴブリンは悲鳴を上げる間もなく絶命していった。
突如鳴り響いた轟音にゴブリンが一斉に音の鳴った方に振り向いた。そこにあるのは頭部から血を流し、絶命している仲間だけだ。それを見たからか「ギィ」「ギィギィ」と何かが擦り切れるような鳴き声をあげた。正直聞いていて不快な鳴き声だ。
さっさと倒してしまおうと次のゴブリンに向けて照準を合わせ撃つ。何体か倒すと残りのゴブリンが棍棒のような太い棒のような物を持ってこちらに近づいてくる。どうも発砲炎で気づかれたみたいだ。
相手の間合いに入る前にある程度数を減らそうと撃ち続けるが、向こうも自分達の仲間を次々に殺している敵がここに居ると確信したようで、いきなり走り出してきた。
単発射撃では埒が明かないと思い、セレクターをセミオートからフルオートに素早く切り替え、当たればどこでもいいと余り狙いを付けず撃ち続ける。次々に撃ち出された銃弾がゴブリンの体を貫く。それでも倒せたのは片手で数える位しかいない。当たっても致命傷になっていないか、そもそも当たっていないゴブリンが殆どだ。
それでも撃たれたゴブリンは今まで経験したことのない痛みに悲鳴を上げ、動きが多少鈍くなってもまだこちらに向かってくる。
今の一斉射でマガジンに残っていた弾を全て撃ちきった。それと同時に89式のボルトが後退位置で停止して、排莢口が開いたままになった。すぐにマガジンキャッチボタンを押し、空になったマガジンが重力に従い、自重で落ちていく。
次のマガジンを取り出そうとマガジンポーチに手を伸ばそうとしたとき、一体のゴブリンが雄叫びを上げ、棍棒を大きく振りかぶりながら飛びかかってきた。
「あまいわ!」
飛びかかってきたゴブリンに89式を向ける。振りかぶられた棍棒がこちらに当たる前に、89式の先端に取り付けられた銃剣が喉元に突き刺さる。刺した直後、相手を地面に叩きつけるように銃を思いきり降り下ろす。その時に刃物で肉を切る感覚が銃のグリップ越しに手に伝わる。
叩きつけられた既に虫の息のゴブリンに止めを刺すために、マガジンの刺さっていない89式から右手を離し、腰のホルスターに手を伸ばす。そこから使い慣れた拳銃―M1911A1コルトガバメント―を抜く。そして頭部に向けて1発撃つ。
完全に動かなくなったゴブリンから銃剣を引き抜く。引き抜かれた銃剣から血が滴り落ちる。右手にはガバメント、左手にマガジンの付いていない89式を持ち、近接戦闘に挑む。敵はまだまだ残っている。
「さあ次は誰だ?」
89式を向けながら言い放つ。射撃後からそのまま左手で持っているため、ハンドガードを掴んでいるので、通常の銃剣使用時の構えより多少リーチが短くなっている。だがその程度のことで不利になるわけではない。
一度動きが止まったゴブリンがまた一斉に動き出した。近づいてくるゴブリンに今度はガバメントで撃つ。ライフル弾よりも太く短い45ACP弾がゴブリンの身体を破壊する。
もともと少ない装弾数もすぐに撃ちきり、後退したスライドを戻し、ホルスターにしまう。そしてベストからレバーの付いた缶のような物を取り出し、ピンを抜いてそれを投げる。投げて直ぐに空いている手で耳を塞ぎ、目を閉じた。
投げて直ぐに洞窟内に閃光と轟音が響いた。―スタングレネード―轟音と閃光を放つ非殺傷性の兵器だ。
怯んだ隙に89式のリロードをする。初弾を装填して狙いを定める。視界を潰されまともに動けない連中など射撃練習用の的と同じだ。
連中がまともに動けるようになる前に素早く狙いを定め、次々倒していく。マガジンが空になる頃には動ける敵はいない。
「オールクリアー」
リロードと同時に周囲を完全制圧したことを確認する。あとはそこで倒れている人の安否確認をするだけだ。
近づいて改めて見ると女性のようだ。只ひとつ普通の人と違うのは獣のような耳と尻尾が生えていることだ。グローブを外し手を首に当て脈を確認する。脈はある、どうやらまだ生きているようだ。
それにしてもあれだけドンパチやったのに全く起きないとはなんと肝が据わっている人なのだろう? 気絶していてもあれだけの音がすれば普通は起きてもおかしくないのに……
「おいアンタ! しっかりしろ!」
彼女の身体を揺すり、起こそうとする。何度か揺すり彼女はゆっくりと目を覚ました。
「えっと……ここは?」
彼女は体を起こしながら回りを見回す。そこから見えるのは周囲に築かれたゴブリンの死体の山しかない。
「!?」
彼女は声にならない悲鳴を上げた。まずは落ち着かせるところから始めないと。
「オイ落ち着け。俺はアンタを助けに来たんだ」
彼女の肩を軽く叩き、同じ目線の高さになるようしゃがみながら声をかける。
「え? ええ、ありがとうございます。あの、これは貴方が?」
「あのゴブリンの死体の山のことか? それなら確かに俺が倒した。それよりもケガはないか? 見たところ無事のようだが?」
外傷ならばMTの中の医療キットを使えば対処出来るが、もし連中に乱暴されていたら流石に対処出来ない。
「大丈夫です。たぶん何もされてないようなので」
「なら良かった。ひとまずここを出よう。歩けるか?」
立ち上がり彼女に手を差しのべる。
「大丈夫です。一人で歩けます」
そう言って立ち上がろうとするがうまく立ち上がれず、足腰に力が入らないようでよろめいた。
「おいおい全然大丈夫じゃないだろ。ホラ、肩を貸すから捕まりな」
そして彼女を支えながら洞窟を出るべくゆっくり歩き出す。
「そういえばまだお名前を聞いてませんでしたね。私はアリシアと言います。あなたは?」
「俺もまだ名乗ってなかったな。俺は船坂春人。こっちの言い方だとハルト=フナサカってなるな。春人って呼んでくれればいいさ」
「ではハルトさん、何故貴方はあの場所に?」
「俺は冒険者ギルドのクエストでゴブリン討伐のために来たんだ。そしたら偶々彼処に君が倒れていたというわけだ。まあ冒険者と言ってもまだまだ駆け出しだけどね」
互いに自己紹介しながら歩いていくと目の前に出口が見えてきた。行きは周囲を警戒しつつなるべく音を立てないように来たから時間が掛かったが、帰りは大して時間も掛からず出てこれた。
「おい貴様! 武器を捨て、その子から離れろ!」
洞窟を出て早々、金色の髪を短く切り揃えた、彼女と同じような耳と尻尾を持った獣人が剣をこちらに向けながら叫ぶ。その周囲には剣や弓をこちらに向ける彼と同族であろう獣人の一団が洞窟の入口を取り囲む。
「全く、俺は面倒が嫌いなんだがな……」
誰にも聞こえないような声で愚痴を吐く。ここは大人しく彼らに従おう。見たところ彼女と同じ種族のようだから。まあ話せば分かってくれるだろう。
そしてゆっくりと地面に銃を置き、空いた手を上に挙げ、戦闘の意思が無いことを示す。
手を上げた直後に誰かに背後から後頭部を思い切り殴られ、そこで意識が落ちる。
あぁ、そういえばゴブリン討伐の証に成るようなものを取ってくるのを忘れたなという今この状況と余り関係ないような事を考えながら……