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58:謁見の間

 春人達の元にルーデルとガーデルマンが訪ねて来てから一夜明け、春人達一行はルーデルに指定された北門に集合していた。それからすぐにハインツを連れてルーデル達も合流し、軽くルイズ達を彼等に紹介してから一行はトリスタニア王国の王都へと出発した。


 ハインツはルイズ達が同行するのを予想していたのか、特に驚くような事は無かったがルーデル達は違った。まさか同行する知り合いとは現在戦争中している敵国の皇女殿下とその護衛の近衛騎士達とは予想外だったのか、なんとも言えない表情をしていた。そんな彼等を見た春人はしてやったりといった顔をしていたそうだ。


 ルイズ達も事情を説明し、ルーデル達と敵対する意思はないと明言したので春人の時のように一触即発の事態になる事は無かった。


 そんな事もあったが春人達一行はトリスタニア王国の王都へと出発していった。その一行が道中何もトラブルが起こることなくウルブスを出てから数時間が経過した。日も傾き始めて空がオレンジ色に染まり始めてきた頃になってようやく王都の門をくぐった。


「諸君、長旅御苦労だった。今日はこちらで準備したこの宿でゆっくり体を休めたまえ。陛下との謁見は明日執り行う。ルイズ殿下、貴女方は私達と共にこのまま王城へとご同行してください」


 ルーデルは春人達を王室御用達の高級宿へと案内してからルイズ達を一足先に王城へと招いた。なぜ自分たちが先に王城へと招かれたのか分からないでいるルイズだったが、ここは大人しくルーデルに従って王城へと同行していった。


「ではハルトさん、また明日」


 宿の前から王城へと出発する前にルイズが一言呟いていった。それを聞いていたアリシアがまたルイズを威嚇しているのは春人にとって最早いつもの光景になりつつある。


「アリシア……そういうのはいいから……。ほら俺も馬車に揺られて疲れたからもう行くよ」


「ハルトさん、そんなに押さなくても自分で歩けますよ!」


 春人はアリシアの背中を押しながらルーデルに案内された宿へと入っていった。宿に入ってすぐに支配人が声を掛けてきたので春人はルーデルの案内で来たと言うと、支配人はにこやかと笑顔を浮かべながらお待ちしておりました、と春人達を迎え入れた。ルーデルが王都を出る前に既に予約を入れておいたのだろう。


 そして春人達が案内されたのは一番豪華な、所謂スイートルームという部屋だ。そこで二人は旅の疲れを癒し、春人は明日行われる国王との謁見に備えた。






 翌日、ガーデルマンが春人を迎えに来て、彼に連れられて王城へと参上した。その格好はいつもの戦闘服では無く、以前の葬儀で着ていたイタリア国家憲兵の軍服に袖を通していた。


 その二人は現在王城内の謁見の間へと続く廊下を歩いていた。


「しかし、直前になると緊張してくるな」


「まあそんなに構えなくても大丈夫ですよ。最低限の礼節さえわきまえていれば陛下もそこまで言及してくることはないよ。それにしても話には聞いていたが本当に遠い国から来たんだね君は。確かにこの辺じゃ見かけない軍服だ」


 春人の軍服姿をまじまじと観察しながらガーデルマンは最低限の礼儀作法を守れば問題無いと春人に助言をしてくれた。それを聞いて春人はただ溜息を漏らしていた。


「礼儀をわきまえて、後は普通に……か。まあなるようになるしかないか」


 頭に被る制帽を正しながら春人は覚悟を決めた。ここまできた以上、引き返す訳にはいかない。さっさとやることをやって、さっさと終わらせようと思っていた。


「さあ着いた。ここから先は君一人で行くんだ。では健闘を祈る」


 ガーデルマンに言われて気が付けば春人は人の背丈よりも遥かに巨大な扉の前に来ていた。その扉の前では衛兵が二人、手にしているハルバートを扉の前でクロスさせて待機している。そしてガーデルマンは自分の仕事が終ったからか、すぐにこの場から居なくなった。


 無言で佇む衛兵の前で春人は扉が開くのをただ待っていた。彼等は一言も言葉を発してはいないが、目を動かしてガーデルマンの時と同様に春人の軍服を観察している。それは不審な物を謁見の間に持ち込ませない為に持ち物をチェックしているのだろう。


 それから直ぐに扉が開き始めた。同時に扉の両サイドの衛兵が持っていたハルバートを掲げ、謁見の間へと続く道を開けた。


――行け……という事か?


 進んでいいのか少々疑問に思った春人だが、その思考をすぐに振り払って謁見の間へと入っていった。


 扉の先の謁見の間は予想以上に広かった。扉から国王の居る所まで赤絨毯がひかれ、室内には大臣だと思われる人間と近衛騎士団が控えていた。その彼等の先に一段高い場所に国王だろう男が大きな椅子に片肘をつきながら座って入って来た春人を見下ろしていた。彼は今までの苦労を感じさせる皺が顔中にあり、長い白髪を綺麗に流している。年齢は見た目から判断すると60代くらいだろうか。


 国王以下室内にいる全ての人からの視線を浴びながら春人は床の赤絨毯の上をまっすぐ歩き、国王の前まで進むと今まで被っていた制帽を脇に抱え、片膝を着いてこうべを垂れた。


「よく来てくれた異国のつわものよ。面を上げよ」


 国王に言わるがままに春人は顔を上げた。その国王は真っ直ぐと春人の目を見つめていた。その勢いは春人の内面まで見透かすような勢いだった。


――なんだかやりずらいな……俺の内側まで見透かしてきそうだ。


 国王の視線に不快感を感じながらも平常心を保とうと努力した。そして自分で覚えている限りの敬語を引き出し、頭をフル回転させて国王への返事をした。


「此度は私のような異国のいち兵士を王城にお招きいただき誠にありがとうございます」


 まずは国王に王城に招待してもらったことにお礼を言った。だが一国の元首を前にして緊張でからか堅苦しい返事になってしまった。


「そう硬くならずともよい。貴公はあまりこのような場には慣れておらんのだろう? まずは先のウルブスでの戦で勝利に大きな貢献をしてくれたことに感謝する。その礼を込めて貴公に報酬を進呈しよう。これ、あれを持ってまいれ」


 春人の緊張はは国王にバレバレだった。表面上は平静を装ってはいたが、さすがの国王相手には通じなかったようだ。国王はウルブスでの戦闘での功績を称え、春人に報酬を与えることにした。


 そして国王の脇から現れた家臣の男が大きな麻袋を両手で抱えながら春人の前へと立ちはだかった。


「少ないかもしれんが、心ばかりの礼だ。受け取ってくれ」


 春人は少々戸惑いながらも目の前の家臣の男から麻袋を受け取った。その麻袋を受け取った際に中から硬貨がぶつかる音がし、その袋自体も見た目とは裏腹に予想以上に重かった。


「陛下に心から感謝の意を表します」


 報酬を受け取り、再度頭を下げて感謝の意を示した春人に国王は僅かに笑みを浮かべた。


「して、貴公は自分の国へ帰る手立てが無いとウルブス駐屯兵団団長のハインツから聞いておる。それは誠か?」


「はい、国王陛下の仰る通りです。私はある事情により二度と自国へ戻ることが出来ません。もし仮に戻れたとしても私は脱走兵として処刑されるでしょう。ですので今はこの国で冒険者をさせていただいています」


 春人は以前にハインツと初対面した際に自分は異世界の軍人といったカバーストーリーで自身の出自を説明したのを思い出し、その事を交えながら国王に説明している。その内心はどこかでこのカバーストーリーがバレるのではないかと内心ひやひやしていた。


 春人より前に国王と謁見していたハインツが春人の事を説明する際に異国の軍人と伝えたのは国王に彼は異世界人だと言っても信じてはもらえないだろうと思ったからだ。これもハインツなりの心配りなのだろう。


 その心配りに春人は内心とても感謝していた。


「ほう冒険者とな? 確かにあれならば出自に関係なく誰でも就ける職業ではあるな。貴公のような強者が傭兵ではなく冒険者を選ぶとは中々面白い……そうだ、もう二度と自国に戻れぬというのなら我が軍門に下らぬか? 貴公がよければ我は大歓迎だが?」


「陛下! いくらなんでもそれはいけません! 他国の将兵を我が国の守りを司る軍に招き入れるなどあってはならないことです。もしかしたらそ奴はベルカ以外の第三国の密偵かも知れぬのですぞ」


 国王の問いかけにいち早く返答したのは春人ではなく傍で控えている大臣の一人だった。彼が国防を預かる大臣なのかは知らぬが、彼の言う事はまったくもって正しい。


 素性の知らぬ人間を一国の国王の傍に置くのはあまりにもリスクが大きすぎる。


「陛下のお誘いはとてもありがたいことです。ですがそちらの大臣の言う通り、私を傍に置くのはあまりお勧めしかねます。見ず知らずの出自もよく分からない人間である私をあまり信用しない方がよろしいかと」


 春人もいまの大臣と同意見である。だから遠回しに国王の誘いを断った。


「そうか、それは残念だ」


 春人に断られた国王は心底残念そうにしている。それもそのはずであろう、単身で幾百幾千もの敵兵を一撃のもと葬り去るような最強と言っても過言ではない戦士は喉から手が出るほど欲しいに決まっている。そんな相手に断られたらこうなるに決まっている。


 そして国王は無理やりにでも春人を自分のものにしようとも思ったがもしそんな事をしたら最悪、彼の刃がこちらに向けられるとも即座に考え付いた。そうなれば近衛騎士団や自身の首が飛ぶと想像するのは容易な事だろう。


「ですが自分は偶然にもこの国のいち冒険者です。クエストとしての依頼であれば陛下にお答えするのも容易でしょう」


 国王の心情を気にしてなのか、もしくは自分はトリスタニア王国と敵対する意思は無いということを示す為なのか春人は冒険者のクエストとしてであれば自分は仕事を受ける事が出来るだろうと進言した。


 それからの事は春人はあまり覚えていない。国王から幾つか質問された。やれ春人の出身国は何処に在るのかだの春人のような強者がまだ他にも居るのかだの春人がこの国にいる目的は何だのと質問内容は様々だった。それに正直に答えられるものは答え、それ以外は内容をでっち上げて答えた。


 そして春人が王城を出たのは暫くしてからの事だった。






「ハルト・フナサカ……か、実に面白い男だ。帝国から来たルイズ第三皇女をここまで送り届けたのは彼等を呼び出しに行ったルーデル卿らとあの男だそうだな。貴公らはあの男をどう見る?」


 春人が退場し、残った王城謁見の間では国王が大臣たちに春人の印象を聞いていた。ルイズが国王と謁見したのはどうやら昨日のようだ。


「確かに面白い男ではありますが、アレは腹に一物抱えておりますぞ。現にあの男はこの国に滞在している理由も先のウルブスでの戦闘に手を貸した理由もはっきりとした答えは言ってはおりませぬぞ」


「だが彼の戦闘力は本物のようだぞ? ウルブスでの戦闘に参加した兵からも幾つもの証言が取れている。それがこの国の軍門に下らぬとも冒険者としてこの国に手を貸すと言ったのだ。ベルカとの戦争の早期終結には彼を利用するのがよいと私は思います」


「敵国の皇女を連れてきたのはあの男だろう? ならば奴も帝国の人間かもしれないぞ!」


「もしそうならば何故奴は味方の筈の兵士を殺したのだ? 話が嚙み合わないではないか」


 大臣たちも大臣たちで春人を見極めることが出来ないでいるようだ。その結果として今、各々で勝手に議論し合っている。


「もうよい、そこまでにしておけ。では彼を見極めるのはこれからにしよう。少なくとも我等に敵対する意思は無いようだしな。貴公らも下手に彼を刺激するでないぞ。最悪の場合帝国と我が国が共倒れすることも考えられるからな」


 これ以上議論を続けると誰かが春人を下手に刺激しかねないと思ったのか、国王は審議を中断させた。彼等が春人を見極めるにはまだ十分な程時間は有る。


 彼等はどうしても春人が正確には春人の持つ戦力が欲しい。その為には何でもするだろう。


「では陛下、あの者の見極めは自分が行ってもよろしいですか?」


「構わぬが……分かっているな?」


 一人の将軍が名乗りを上げ、春人の見極めをしたいと進言した。


「承知しております」


 その際に春人を必要以上に刺激しない事、敵対するような真似はしない事。そして可能であれば味方としてこちらに引き込むようにと国王はその将軍に確認した。


 それをその将軍も言われずとも分かっていたのか、二つ返事で返して彼もまた謁見の間を後のした。


 春人の知らない水面下で死神部隊以外にも春人を狙う者たちが現れはじめてきた。

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