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54:亡命者たち

 春人達の目の前で止まった集団は物々しい恰好をしていた。馬車を囲むようにいて展開している馬にも鎧を着せ、それに騎乗している騎士は各々白金に輝く鎧を身に纏っている。そしてその集団に囲まれている馬車にはあちこち矢が刺さっている。


 彼等の馬がみな息を切らしているところから鑑みると相当無理をさせたようにも伺える。


「驚かしてすまない。ひとつ訊ねるが、ここはトリスタニア王国領内で相違ないか?」


 先程退いてくれと言ってきた金髪の女性が馬の上から訊ねてきた。彼女の身なりから察すると、この騎士たちはどこかに所属している騎士なのだろう。


「確かにここはトリスタニア王国内の街ウルブスですが、貴殿たちはいったいどこの貴族様ですかな?」


 そう彼女に答えたのはハロルドだった。彼女や周りの騎士が護衛で付いている事からハロルドはあの馬車の中にいる人物は貴族、もしくはそれに準ずるそれなりに身分の高い人物が乗っているのだろうと思っていた。


「失礼、名乗り遅れた。私は元ベルカ帝国近衛騎士団所属、フィオナ・カールトン。聞いての通りベルカ帝国より参った」


 金髪の女性騎士、フィオナが馬から降りてそう名乗ってきた。近衛騎士団所属という事は他の騎士も同様に近衛騎士の人間であろう。という事はあの馬車の中にいる人間は誰なのかという事は想像に難くない。


 そしてベルカ帝国から来た、その言葉に春人は誰よりも早く反応した。アリシアを守るようにしながら普段より身に着けているガバメントを騎士フィオナに向けた。


「尻尾を巻いて逃げていったベルカの連中が何の用だ? 少数の騎士団で来るとは随分と舐められたものだ」


 春人は強烈な殺気をフィオナや他の騎士たちに向けて放ちながら、いつでも銃を撃てるよう引き金に指を掛けている。


 その殺気を感じ取ったフィオナは交戦する意思がない事を示すために両手を上げた。


「待ってくれ、私達に交戦の意思はない。私達はトリスタニア王国への一時亡命を希望する! だからその禍々しい殺気とその武器? を収めてくれ!」


 下手な事をすれば今にでも殺されてしまうと感じたのか、フィオナは慌てて説明を始めた。


「フィオナとか言ったな? アンタにその意思はなくとも他の騎士達はそうじゃないらしいぞ?」


 春人に言われて気が付いたのか、仲間の騎士団の方へと視線を動かしたフィオナは驚いてた。自分は交戦の意思はないと言ったが、春人の殺気を当てられた他の騎士は反射でなのか、各々剣を抜いていた。


「待てお前達! ここで争ってどうする? すぐに剣を収めるんだ!」


 まさに一触即発、フィオナはそんな状況を収めようとするが、なかなか他の騎士は剣を収めようとしない。それと同じくして春人も殺気を彼等に向けたままでいる。


「隊長! 彼からは危険な感じがします」


「そうです、あんな殺気を出せる人間がまともな人間な筈が有りません」


「さっさと倒しちゃいましょう、こんな奴!」


 他の騎士達は剣を手にしたまま春人の事を好きかって言っている。その言葉に春人は少しカチンときたが、それを顔に出すことは無い。そしてアリシアも春人を悪く言われたので怒りを感じていた。


 この間、戦う術を持たないハロルドはおどおどとしながら様子を見ている。


「で、どうする? やるのか?」


 春人がフィオナにドスの効いた声でそう聞いてみた。相手がその気ならば春人も応戦しようとしていた。


「待ってくれ! ほら、お前たちもやめろ!」


 それにフィオナは慌てふためきながら答えた。この状況を打開するのはもう無理なのかとさえ彼女は思っていた。


 だが予想だにしなかった人物が現れて事態の収束を行った。


「双方とも武器を収めてください」


 今まで馬車の中に姿を隠していた少女が今にでも武力衝突しそうな事態を回避させるために武器を収める様言ってきた。


「殿下! まだ出て来ては駄目です!」


 フィオナは自身が殿下と呼んだ少女が馬車から出て来ることを全く予想していなかったのか、すぐに馬車の中へ戻るよう促している。


「落ち着きなさいフィオナ、貴女が狼狽えてどうするのです? 皆もすぐに剣を収めなさい。これは命令です。そちらの貴方も武器を下げていただけますか?」


 自分達よりも身分の高い相手から命令されて、剣を抜いた騎士団たちは渋々剣を鞘に納めた。そして相手が剣を収めた事により春人もガバメントをホルスターに戻した。


「ありがとうございます」


 春人が銃を仕舞った事に感謝の言葉を差し伸べた。


 その間アリシアとハロルドは固まっていた。どこかの貴族だったらまだしも、殿下という単語から相手が一国の王族の人間だという事が簡単に想像ついたようだ。


「ハ、ハルトさん、皇族の人達に銃を向けるのはマズいですよ!」


 アリシアが春人の後ろであわあわと狼狽えている。


「そうですよハルトさん、不敬罪で私達の首が飛んでしまう!」


 同じくハロルドも顔を青くしてもう終わりだとでもいうような表情で春人に叫んでいる。


「安心してください。私はそのような事で罰したりなどしません」


 殿下は春人の行いを罰したりはしないと言ってくれた。だがそんな事など知るものかと春人は殺気は抑えながらも未だ鋭い視線を彼女らに送っている。


「口では何とでも言える。皇女殿下さんよ、今この国はあんたの国と戦争しているんだ。その辺理解しているんだろうな? 場合によっては殿下やその護衛の騎士たちを人質にすることもできるんだぞ?」


 春人の突き刺さるような視線と脅迫ともとれる怒気のこもった言葉に臆することなく殿下は春人の目をしっかりと見つめてはっきりと答えた。


「貴方たちの国と私達帝国との間で戦争が始まったのも知っています。私達の身柄を拘束されるかもしれない、それも承知でここまで来ました」


 彼女たちは相当な覚悟を持って国を出てここまで来たのだろう。道中で死人が出るかもしれない。着いた先でも碌な扱いを受けないかもしれない。並大抵の行動力ではここまでは出来ないだろう。


 それにわざわざ戦時中に敵国に逃げ込んでくるのには何か理由があるのだろう。そんな思考が春人の頭を過った。


「分かった、殿下のその覚悟に負けましたよ。貴殿らへの不敬をお詫びします」


 殿下の覚悟に負けた春人は今までの不敬を詫び、頭を下げた。それを見たアリシアとハロルドの二人はホッと胸をなで下ろしていた。


「いえ、構いません。そうです、自己紹介が遅れました。私はベルカ帝国第三皇女ルイズ・エレノーア・フォン・ベルカ。どうぞ、ルイズとお呼びください」


「俺はハルト・フナサカ。どうぞ春人とお呼びください。それとこちらはアリシア、そしてそちらの紳士はハロルドです。以後お見知りおきを」


 ルイズ殿下が自己紹介をしたので春人も同じく自己紹介をし、そのついでに二人の事を紹介した。そして紹介された二人は軽く会釈をして挨拶をしていた。


 それからフィオナが春人の所まで近づいてきて右手を差し出してきた。


「先程も申したが改めて挨拶を、フィオナ・カールトンだ。よろしく頼む」


「ハルト・フナサカだ、先程は失礼した」


 春人も差し出されたフィオナの右手を握り返して握手をしながら挨拶を返した。


「構わん、私の騎士団には血気盛んな奴が多いからな。あまり気にしないでくれ。お前たちも今後は彼等とのいざこざは無しだ。今ここで彼と和解したのだからな」


 春人と話しながらもフィオナは仲間達にこれから春人と揉め事は起こすなと注意していた。それに納得したのかどうかは兜で顔を隠しているので分からないが、彼等は完全に納得してはいないだろう。


「さて、話が纏まったようですし、ハルト殿にお願いがあります。どこかで人が集まっている所が有れば案内していただけますか?」


 ルイズが手をパンと叩きながらお願い事をしてきた。人の集まる所というのだから、きっと人を雇おうとでもいうのだろう。


 それに答えたのはハロルドだった。


「それでしたら街中の冒険者の集まる酒場なんて如何でしょう? この時間でしたらみんな集まっているでしょう。ハルトさん、案内してあげてください」


 まるでハロルドは同行しないような感じだった。そう感じた春人はハロルドを傍に呼んで耳元で小さく囁いた。


「ちょっとハロルドさん、一緒に来ないんですか?」


「流石にこれ以上他国の皇族の人と一緒に居たら胃が痛くなってしまいますよ。今でも胃がキリキリいっているんですから。あまり年寄りをイジメないでください」


 ハロルドも小さな声で答えると、ここに居る皆を置いて先にいそいそとクロスボウを包んだ布を抱えて市内へと戻っていってしまった。その際にハロルドはルイズにこう言っていった。


「では殿下、後の事はあちらのハルトが案内します。それでは私は一足お先に失礼させていただきます」


 残されたのは春人とアリシア、そしてルイズとその護衛の騎士団達だけだった。


「ではハルト殿。その酒場とやらまで案内をお願いします」


 ルイズはニコッと春人に微笑んだ。それを見た春人は完全に面倒ごとに巻き込まれたと思ったそうだ。


「本当は酒場には行きたくねぇんだけどなぁ……」


 同時に春人は小さくそう呟いた。

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