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52:邂逅

 ウルブスで激戦があったその晩、春人は不思議な夢を見ていた。そこは辺り一面どこまでも広がっているような真っ白な世界で平衡感覚や距離感が狂いそうな光景だった。


 そんな場所を春人は立っていた。本人はこれが夢であると自覚していたが、それと同時に現実でもあるような何とも言えぬ変な感覚を感じていた。


「ようやくこうして話が出来るようになってよかったよ」


 すると何もない所から突如誰かの声がした。


「誰だ!」


 誰もいないのにいきなり声がしたので春人は誰かと叫び、声の主に誰何した。普段から肌身離さず身に着けているガバメントを抜きたかったところだが、腰にいつもは有るホルスターがなぜか今は無い。これもきっと夢の中だからだろう。


「そんな声を荒げなくてもワシは直ぐに出ていくよ」


 そう言うと共に声の主は春人の前に姿を現した。姿を見せたその相手は幾らか年老いた一見どこにでもいそうな老人だったが、彼を見た春人は直感でこの人物が自分を異世界に飛ばした張本人の所謂神様であると感じ取った。


「何者だ? 名を名乗れ」


 春人は相手が誰なのか分かっていながらあえて聞いてみた。


「おー怖い怖い。それは兎も角、ワシが何者かは聞かなくとも君はワシの正体に気付いているのだろう? だが敢えて答えるのであればワシが神だはっ!」


 随分とふざけた態度をとりながら、自分を神と自称する彼の言葉を最後まで言い切らせずに春人は彼の顔面目掛けて強烈な右ストレートを繰り出した。そして春人に殴られたその自称神はその勢いで後方に殴り飛ばされた。


「お前の正体なんて言われなくとも気付いているさ。さてと、ようやくのご対面だ。俺も色々と聞きたい事がある。大人しく吐いてもらおうか、自称神様さんよ」


 春人は指を鳴らしながらドスの効いた声と氷のような冷たい視線で倒れている神様を追い込んでいく。一方殴られた神様は春人に殴られた右の頬を擦りながら春人を見上げていた。


「待って、暴力反対……」


 そう小さく呟いていたが、そんな小さな囁きなど春人の耳までたどり着かなかった。こんな姿では神様の威厳など全く感じなく、面目丸潰れもいいところである。


 春人と神様の衝撃な対面から暫し時間が経過して、春人は目の前の神様から自分が何で異世界転移させられたのか、何で自分が選ばれたのかなど今までずっと疑問に思っていた事を神様に説明させた。


 内容は以前のメールでもあった通り、他の転移者がこっちの世界の裏で好き勝手に暗躍して世界を破壊してやろうと目論んでいるとの事だ。で、その相手が春人がCFコンバットフィールドで率いていた死神部隊に属していたプレイヤーネーム、ハミルトン及び彼が転移する際に複製した他の死神部隊のメンバーであるそうだ。彼等死神部隊が世界をどうにかする前に探し出し、対処してくれというのがこの神様の依頼だそうだ。


「オーケー、大体の事情は察した。要はこの前のメールの内容の通りに他の転移者……つまり死神部隊を始末すればいいって話なんだろ? アンタ以外の神様とやらが送ったとはいえ、まったく面倒な仕事を押し付けてくれたな」


 春人は大きな溜息を吐きながら現状の事態に呆れていた。以前のメールで自分以外の転移者をどうにかしろと言われ、その辺についてはある程度理解しているつもりだった。それでも相手の詳細などの情報を書いてくれてもいいのではと思っていた。


「その点については色々と面目ない。本当なら転移させる前にここでワシが色々と状況を説明してからあの世界に行ってもらう予定だったのだが、他所から干渉があってそうはいかなくての。それが落ち着いてやっと君に連絡が取れたのがつい先日の事なのだ。だからメールを送らせてもらったのだ」


「にしては随分と説明不足もいいところだよな? 相手の情報くらい教えてくれてもよかったんじゃないのか? 本当に役に立たないな。アンタ本当に神様なのか?」


「本当に面目ない……」


 春人に神様かどうか疑われて、この神様はどんどん縮こまっていっている。それを見て春人は更に追撃の言葉を発した。


「本当に神としての威厳もクソもないな」


 それが響いたのか、それ以上この神様はなにも言ってこなかった。そんな雰囲気を察してか春人は話を切り替えた。


「まあそんな事は心底どうでもいい。話を変えよう。アイツ等を倒した後は本当に元の世界に戻れないんだよな?」


 春人はもう戻れないと分かっていながらも敢えて神様に聞いてみた。すると神様は立ち上がりながらこう答えた。


「それは前のメールでも告げたように戻ることは出来ない。既にあっちでは君の肉体はもう存在しないのだから。それに君は仮に帰れたとしても元の世界には帰らずに、こっちの世界に骨を埋める気でいるのだろう? 大切な存在がこっちで出来たわけだし、彼女と共に過ごしていく、そう考えているのははっきりと分かるぞ」


 神様が言う春人にとって大切な存在とは言わずもがなアリシアの事である。もし仮に帰ることが出来たとしても彼女を残して帰るつもりなどは毛頭ない。仮に帰ったとしても春人はまた自分一人になってしまうのは分かっていた。


 大切な人が帰りを待っていてくれているのを知ると、もう孤独の世界には戻れない。正確には戻りたくないというのが今の春人の心情である。


「はぁ……なんでもお見通しって訳か。なんだかやりづらいな、まったく」


 春人がそう呟くと目の前の神様はそれが聞こえたのか、胸を張りながらドヤ顔でこう春人に言ってきた。


「当たり前であろう。ワシ、これでも神の一人だからな」


 そのドヤ顔に少しイラっときた春人だったが、その事については敢えて突っ込まずにまた溜息を漏らしてしまう。


「ホントに調子が狂うな。メールの時との印象が全然違うじゃないか」


「あの時はワシの威厳を保つために敢えてああいった文章でメールを送らせてもらったが、まあ慣れない事をするもんじゃないな」


「実際にアンタと対面してみると威厳もクソも無かったどな」


 随分と予想と違う神様に春人は終始狂わされっぱなしだったが、それも今は深く突っ込まないようにした。これ以上突っ込んだところで余計に疲れるような気がしたからだ。


「まあいい。話を元に戻そう。再確認なんだがおれはあの世界で死神部隊を探し出して奴等を始末すればいいんだろ?」


「まあそう言う事になるの。それとひとつ付け加えるとすれば、まだ他に生き残っているそれ以外の転移者が居るから、彼等と協力するというのも一つの手ではあると思うがね」


「そうか、だがそれは遠慮しておこう。アイツ等は俺と因縁のある相手だからな。俺がこの手で始末をつける。アイツ等に力を与えたのはある意味では俺だからな。それと質問なんだが、何で俺を転移者として選んだんだ? 他にも候補は居たんじゃないのか?」


「確かに他にも候補の者はいたが、君が最適だとワシが認識したからそうしたんだ。君ならば彼等を止められると確信している。さてと、そろそろ時間の様だ」


 神様がそう言うと春人の体が徐々に透けはじめてきた。時間とはここに居られる時間がもう残り少ないという事なのだろう。そしてえ春人が完全に居なくなる前に神様は最後にこう付け加えた。


「最後にこれだけは言っておかない事がある。彼等は君らの世界の核兵器を所持している。くれぐれも注意してくれ。では、後を……ワシの世界の未来を頼んだぞ」


 神様の言葉に春人も完全に消える前に自分の言葉が届くかどうか分からなかったが最後にこう答えた。


「俺に任せておけ」……と。


 それを最後に春人の姿は完全に消えてなくなった。そしてこの真っ白な世界に残ったのは神様ただ一人だけである。その彼は春人が居なくなるとひとり、こう呟いた。


「俺に任せておけ……か。頼もしいな。君に任せて正解だったようだ。では君に未来を託そう」






「……変な夢を見たな。それにしては随分現実味があったな」


 ウルブス防衛戦から一晩明けた翌朝、目を覚ました春人は頭を抱えながら開口一番にこう言っていた。その春人の横ではまだアリシアが眠っている。


「さて戦後の後処理の手伝いにでも行くか」


 彼女を起こさないよう静かに着替えてから、部屋に「先に行っている」とメモを残して春人はまだ静かな部屋を後にした。

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