51:狙うは敵の大将首 3
後方からのセントリーガンによる援護射撃を受けながら春人は両手に持った二丁のM240を指切りバースト射撃を繰り返しながら確実に敵陣奥深くへ向かっている。
敵の規模だけで見れば前回のアリシアが拉致された時と同じようにミニガンを使えば効率がいいのだろうがその代償に大量の弾薬を消費してしまう。同時に同一目標に対して幾つもの弾を余計に撃ってしまうのでその分の弾が無駄になってしまう。同じように既に斃した死体に対しても撃ち続けてしまうためミニガンはデメリットが多い。
過去の戦闘でのそういった経験を踏まえ、今回はミニガンと同じ7.62mm弾を使う汎用機関銃M240を選択したのだ。ミニガン程の制圧力は無いが指切り射撃を心がけていれば無駄に弾を撃つことは無い。それに今回は後方で二基のセントリーガンを置いてきたので制圧能力は寧ろ以前の戦闘よりも上がっている。
セントリーガンは展開する際にのみポイントを消費するため、残弾が尽きるまで撃ち続けても消費した分の弾薬をショップで購入しなくてもいいという利点がある。その分展開する際に消費するポイントが多くなってしまうが、そのポイント分は直ぐに取り戻せるだろう。
「邪魔だ、そこをどけ」
春人がいつもよりも低い声で敵に向かって声を発して殺気のこもった視線を送っている。それと同時に両手に持っているM240を正面の敵の軍団に向けて掃射している。ひとたびM240の銃声が鳴り響けば狙った敵の命を確実に刈り取っていく。
敵の中枢に向かって移動しながら邪魔になる敵を排除していく。それはもうただの作業の様だ。春人が狙いを定めた以外の敵はセントリーガンが排除している。弾さえあればもう春人とセントリーガンだけでウルブスを守り切れるような勢いだった。
「ったく、数だけはいっちょ前に揃えやがって。いくら倒してもゴキブリみたいに湧いてきやがる」
銃を使う春人の前では敵の戦力がどれだけあっても春人の敵ではない。それでも死を恐れずに雪崩の如く向かってくるベルカ帝国の兵士に春人は少しばかりの脅威を感じていた。
――まったく、人海戦術とは本当に面倒な相手だ。これではリロードする暇も無い。まあ今のところはその必要も無いがな。それにしても、一人の敵にこれだけやられても尚、立ち向かってくるとはこいつ等他に戦術は無いのか?
春人は突撃しか能がないベルカ帝国の戦術を低く評価していた。実際彼等は他にこれといった戦術をとったような様子を見せてはいない。彼等にとってはウルブスを陥落させれば戦闘には勝利できるから人的損害を完全に無視して数で押し切るつもりの様だ。勿論彼等にウルブスを落とさせるつもりは毛頭無い。
そんないつ途切れるか分からない敵に向かって銃を撃ちまくり次々と排除していく。春人と同時にセントリーガンも敵を感知して射撃しているのを繋がって聞こえる射撃音が告げている。
春人が前線に復帰してからウルブスに進攻してきたベルカ帝国の兵の数は一気に激減した。城壁の外に展開していた部隊は春人とセントリーガンによって射殺され、市内に侵入した部隊も他の兵士や傭兵、冒険者たちが奮戦してそれ以上進攻させないようにと奮戦している。一時は押されていたトリスタニア王国陣営も今では一転してベルカ帝国を押し返している。
そしてどれだけ敵の大群を排除しながら春人は進攻しただろうか、気が付けば後方から聞こえていたセントリーガンの銃声が聞こえなくなり、時を同じくして両手のM240の残弾の残りも心もとなくなってきた。ここで弾が切れてしまえばリロードする暇なんて無いのは春人も知っている。
M240の残弾が切れかけたその時、春人の視線の先に他の兵士よりも装備が豪華で他の者よりも身なりが整ってる兵士の姿を見つけた。春人は直感で今のが敵の指揮官だと感じた。
「見つけたぞ!」
春人はそう叫んで、M240に残った残弾を全てを自分の周囲に展開している敵の兵士に向かって掃射して残弾を撃ち切るともう一度P90に装備を切り替え、しっかりと構えながら相手との距離を詰めていった。
春人がベルカ帝国を率いているコーネリアの所へ突撃を行う少し前、そのコーネリアのところでは何やら騒めいていた。
「コーネリア様! 敵が単身でこちらに乗り込んできました。先程からの破裂音はその敵によるものです!」
「敵が単身で……か、随分と我等も舐められたものだな。さっさとそいつを殺してその首を私の元へと持ってこい!」
「りょ、了解しました!」
そう言って兵士が向かってきた春人を返り討ちにするべく向かって行こうとしたときにどこからともなく誰かの「見つけたぞ!」と言った大声が聞こえ、その直後にまた発砲音が鳴り響いた。
するとコーネリアの周囲に展開していた兵士たちがいきなり体中から血を吹き出しながらその場に崩れ落ちていき、その全ての者が二度と立ち上がることは無かった。そして出来上がった兵士の死体の山の先に居たのは右目を眼帯で覆った隻眼の男、船坂春人が銃を構えてコーネリアと対峙していた。
「キサマ、魔道具使いの魔術師か? 何者だ、答えろ!」
仲間の死体に目もくれずコーネリアは自分の目の前に立ちはだかってきた春人に対して何者かと訊ねた。
「俺か? 俺が誰かなんてどうでもいい話だろ? それよりもアンタがこの大群を指揮していた総大将か?」
「名乗る名すらないのか……随分無礼な奴だなキサマは。それと、もし私がこの部隊の指揮官だとしたらどうするつもりだ?」
「決まっている、お前のその首貰い受ける」
段々と言葉に殺気が籠ってきた春人の言葉に対してコーネリアは春人に称賛を送るかのように笑いながら口を開いた。
「ははっ、いいぞ。キサマのような男は嫌いではない。ここまで来れた事を素直に称賛しよう、名も知らぬ戦士よ。だがキサマのした行為は只の蛮勇でしかない!」
そう言うとコーネリアは腰から剣を抜いて春人にその切っ先を向けて更に話し続けた。
「だがその勇気に敬意を込めて私自らの手でキサマを葬ってやろう」
剣を向けてきたので春人は目の前の敵コーネリアがそのまま剣で挑んでくるのかと思っていたが実際は全く違い、彼女はその場から一歩も動かなかった。そしてコーネリアの目の前の地面がどんどん盛り上がっていき、それは徐々に人型の形になっていき、最終的には全長14、5メートルほどの人型のゴーレムが出来上がった。
「ほう、なかなか面白いモノ作るじゃないか」
あまりの出来事に春人はつい構えたままのP90を降ろし、事のいきさつを最後まで見送っていた。春人も流石に巨大な人型の敵とは対峙したことは一度もない。
「行け我が眷族よ、あの戦士をこの世から抹殺せよ!」
コーネリアの指示を受けたゴーレムはゆっくりと動き始め、ある程度春人と距離を詰めるとその巨大な拳を春人目掛けて一気に振り下ろしてきた。
それを春人は避けようともせずに右手を握りしめ、右腕一本だけで受け止めた。
「力比べか? 面白い、相手になってやろう」
春人はコーネリアの召喚したゴーレムを片腕だけで受け止めている。お互いの力が拮抗している様に見えるが実際は春人の方が押している。
「なんだ? ゴーレムと言っても所詮こんなモンか? まだ前に戦ったアームストロングとかいう男の方がまだ骨があったぞ?」
そして更に力を込めた春人は右腕を一気に突き出した。春人と対峙していたコーネリアのゴーレムは春人の勢いに押され姿勢を崩し、よろけてしまった。
姿勢を崩しよろけたゴーレムに止めを刺すためにMTよりロケットランチャー、パンツァーファースト3を取り出し、照準を合わせ、即座引き金を引いた。
「これで終わりだ!」
RPG-7よりも更に強力なパンツァーファースト3の弾頭はゴーレムに着弾したと同時に大爆発を起こし、爆煙はコーネリアのゴーレムの上半身を飲み込んだ。それからすぐに爆煙が晴れ、ゴーレムの姿が見えてくるとそのゴーレムの上半身がきれいに吹き飛んでいた。
「キサマ、中々出来るようだな。だがこれはどうだ!?」
コーネリアが叫びながら剣を振るうと今春人の攻撃で半壊したゴーレムは段々と元に修復されていき、その他にまた今のゴーレムが召喚された時と同様に地面が盛り上がり更にゴーレムが生み出されようとしていた。
だがそれを遮るように春人のP90が唸り、そこから放たれた5.7mm弾が1発、コーネリアの鎧を貫通して腹部を撃ち抜いた。
「っ!?」
何の前触れもなく受けた攻撃にコーネリアは声にならない声を上げながら撃たれた腹部を押さえながらその場に崩れ落ちるように倒れ、再生中のゴーレムや生成中のゴーレムはコーネリアが攻撃を受けた事が原因なのか、コーネリアが倒れ込むと同時に全てのゴーレムが土塊へと戻っていった。
「頼みの綱のゴーレムもただの土塊に戻ったようだな。さて、お前は直ぐに殺さない、聞きたいことが山ほどあるからな」
P90の銃口をコーネリアに向けたまま春人はゆっくりと距離を詰めていき、そして倒れているコーネリアを纏っている鎧の上から踏みつけて彼女の顔に銃口を突き付けた。今から春人が尋問しようとしている時にそれを邪魔するように複数の兵士が春人達の周りを取り囲んでいた。
「おいキサマッ! その足をコーネリア様から退けろ!」
周囲を取り囲んでいる兵士たちに春人は顔色一つ変えずに目線だけを周囲の敵に向けて一通り見回して兵士の配置を確認してからつい溜息をもらしてしまう。
「はぁ、お前は部下たちに信頼されているようだな。まったく、羨ましいよ」
そう言った春人はコーネリアの腹部に出来た銃創を鎧越しに踏みつけ、周囲を囲む兵士達が下手に手を出せないようにした。その間にも春人の足の下でコーネリアは更に苦痛で顔を歪めながら悶えている。
そして今度は周囲を囲む兵士たちに鋭い視線を送り、今までコーネリアに向けていたP90の銃口を今度は春人を取り囲む兵士たちの方へと向けた。
「次から次へと面倒事が多いな、この世界は……」
春人はひとり小さくそう呟くとそのまま続けて敵に兵士たちに向けて大きく声を発した。
「さて、兵士諸君、任務御苦労。さようなら」
それからは春人の一方的な殺戮が始まった。ひとたびP90から銃弾が放たれると春人を囲んでいた兵士は一人また一人と倒れていった。彼等からしたら謎の飛び道具によって仲間達がなす術なく殺されていく光景にさぞ絶望したことだろう。更にその相手の足元には息も絶え絶えの彼等の指揮官、コーネリアが居る。
死に物狂いでも春人を殺そうと挑んではみるが、誰一人春人に近づけることなく皆死んでいった。その場に居る全ての兵士の命を刈り取っていく、その姿はまるで……
――まるで死神のようだ。
この場に居た最後の兵士がそう感じていると、彼の眉間に銃弾が撃ち込まれ、他の兵士と同様に死んでいった。
「周囲の雑魚はこれで一掃したようだな。アンタ、まだ生きているな?」
撃ち切ったP90のマガジンをリロードしながら春人は足元で息も絶え絶えのコーネリアに声を掛けた。周囲を取り囲んでいた兵士を掃討している間春人は一歩もその場から動いてはいなかった。
それからコーネリアの容体など気にも留めずに春人はその場で尋問を始めた。
「あまり時間が無い。さっさと答えてもらおうか。お前、死神部隊を知ってるか?」
だがコーネリアは苦痛に悶えるだけで春人の質問には答えない。しびれを切らした春人は更にもう一発撃ち込んだ。
再び受けた銃弾にコーネリアはもう一度叫び声を上げたが何とか声を振り絞って春人に答えた。
「し、知らない。そんな連中……」
苦痛に悶えながらもなんとか声を振り絞って答えたコーネリアに対して春人は冷たい視線を送り、胴体の方に向けていたP90をコーネリアの顔に向けた。
「そうか……ならばお前にもう用はない。さようなら」
その言葉を最後に春人はコーネリアに止めを刺した。
そして春人がコーネリアに止めを刺した事により、ベルカ帝国の指揮系統は瓦解し、上層部の人間が戦死した事を知った前線の兵士たちは各々敗走を始めた。春人の周囲にいた兵士たちも敗走を始めたが一部は自分たちの指揮官の仇を討とうと春人相手に果敢に戦いを挑んできた者もいたが、それも無駄な抵抗で皆春人に撃ち殺された。
それから戦闘が完全に終結したのは日も傾き始めてきた頃だった。その頃にはベルカ帝国の姿は完全に消え伏せた。残ったのは市内、市外に出来上がった双方の死体の山とウルブスを守り切ったトリスタニア王国陣営の勇敢な戦士たちだった。彼等は敵を退けたことに歓喜し、仲間達と生き残った事を互いに喜び合っていた。
莫大な被害を被ったが、これによりウルブス防衛線はトリスタニア王国陣営の勝利によって幕を閉じた。




