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50:狙うは敵の大将首 2

お待たせしました。

「敵の大将首、取りに行かないか?」


「え?」


 いきなり突拍子もない事を言われたユーリは困惑していた。春人の無茶苦茶な誘いを乗る乗らない以前にこの状況でそんな事が出来るのかといったことだけがユーリの頭の中を巡っている。


 そしてすぐにユーリは現実に戻って来た。


「いやいやいやいや、いくらハルトが強いからってそれはいくら何でも無理だろ。そんな簡単に言わないでくれよ。それをやるってことはあの敵の大群の中に突っ込むってことだぞ? そんなの自殺行為もいいとこだ!」


 ユーリは城壁の外のベルカ帝国の大群を指さして答えた。可能であれば無茶な行動をしようとしている春人を止めたかった。


「そうか、それは残念だ。ならばここはユーリや他の連中に任せよう、。ユーリ、俺の背中を任せるぞ」


 春人のその一言はユーリや他の仲間達を信頼しての言葉だった。仲間を信頼する、それはかつての死神部隊のジークとしての春人だったら絶対にすることの無かった行動だった。そしてユーリに背中を預けた春人は城壁の縁へと足を掛け、ウルブスの外の光景をその隻眼で鋭く睨みつけている。


 春人の足元では今でもベルカ帝国の兵士が侵攻を続けている。雪崩も如く城門からウルブス市内に雪崩れ込み、城壁に掛けられた梯子からぞろぞろと兵士が昇ってきている。それをウルブス防衛を務めているトリスタニア王国の兵士が必死に防戦を続けている。


「おい待てハルト、早まるな!」


 春人の背後からユーリが叫んでいる。彼には春人が死ぬことを望んでいるように見えていた。だがそれは彼の勘違いである。それと同時にユーリの叫び声が春人の耳に届いてはいなかった。そしてもちろん春人もここで死ぬつもりは無いし、敵にやられるほど弱くもない。


「さてと、俺は今非常に虫の居所が悪いんだ、少しばかり俺の憂さ晴らしに付き合ってもらおう」


 両手に手榴弾を持ったまま春人は小さく呟きながら手榴弾のピンを抜いてから眼下の敵の大群へ向けてそれを落とした。


 春人の手から離れた手榴弾は地面に着地してから間髪おかずに起爆し、周囲にその破片をまき散らして敵兵を排除していった。それでもまだ全体から見れば大して効果が有った訳ではないが、今ので外の敵の注意をそちらに引き付けることが出来た。


 だが今のが春人の攻撃手段ではない。今のはただ敵の意識をそちらに向けて春人の武装を変更するための時間稼ぎの手段でしかない。そのわずかな時間で春人は武装を変更する時間が出来たのでMTマルチツールから新たな武装を取り出した。


「さあ、消毒の開始だ」


 まるでどこかで聞いたことがあるようなことを言いながら春人は手にしてる武器の引き金を引き、その先端から灼熱の炎を吐き出させた。


 春人がいつぞやのゴブリンの巣の有った洞窟で使用しかけた火炎放射器をここで使った。あの時に使っていたらアリシア諸共焼いてしまっていたが、今は違う。今の春人の目の前にいるのはこのウルブスをどうにかしようとしている敵の姿しかない。余程下手な使い方でもしない限り味方に誤射することは無いだろう。


 そして吐き出されている炎はベルカ帝国の兵士を飲み込み、一瞬でウルブスの城壁の外を地獄へと豹変させた。それはまるでドラゴンが吐き出すブレスを連想させた。そして辺りに火炎放射器の燃料であるナパームの臭いと同時に微かにだが人肉が焼ける不快な臭いが鼻に付く。


 春人は梯子を登っている兵士やその下に展開している兵士を主に狙って攻撃をしている。そしてある程度敵を掃討し終えると春人は周囲の仲間に指示を出した


「外の敵は俺が引き受ける! 今のうちに連中の梯子を蹴り落せ!」


 春人の声を聞いた仲間達はベルカ帝国の兵と交戦しながらも隙を見て城壁に立てかけられた梯子に向かって行き、梯子を外していった。


 そして城壁の上から敵の兵士を生きたまま焼き殺している春人の姿を見た者がこの戦いの後にこう言っていた。


「彼は敵を容赦なく焼き殺していた。それはまるでドラゴンの様だ。そうでなければヒトの皮を被った悪魔かなにかだ」


 周囲の人間からそう思われている事などつゆ知らず、春人は残っている火炎放射器の燃料を全て吐き出すように放射を続け、背中に背負っている燃料タンクが空になる頃には城壁周囲に展開していた敵を粗方一掃し、それと同時に敵が仕掛けた梯子も外すことが出来た。


 それでもベルカ帝国の侵攻は止まらず、まだその後方から続々と敵の兵士が進軍を続けている。


「視界に入る城壁周囲の敵勢力は粗方掃討完了。今度はこっちから攻めに行くぞ」


 誰かに伝える訳でもなく春人は一人呟きながら火炎放射器を解除し、今度は設置武器をMTマルチツールから二つ取り出し、城壁上に銃口を市外に向けて適当に設置した。それはミニガンを搭載したセントリーガンだった。そしてセントリーガンを設置し終えると春人は両手に二丁のM240を抱え、今にでも城壁から飛び降りようとしていた。


「ハルト、もう行くのか?」


 春人が敵の中枢へと吶喊しに行く前にユーリが呼び止めた。


「やっぱり来る気になったのか?」


「いやそうじゃない。本当に無茶じゃないのか? 勝算はあるのか?」


「無茶も何も誰かがやらなければこの戦闘を終わらせることが出来ない。その誰かが偶々俺だったわけだ。あまり時間が無い、俺はもう行く。その前に言っておくことがある」


 そう言って春人はまだ起動前のセントリーガンに手を置き続けてこう話した。


「皆に伝えろ。死にたくなければコイツの前に立つな、城壁の外に敵を追撃するな。それとコイツを敵に破壊されないように護衛してくれ。最後に市内の残敵掃討はお前たちに任せる。俺はこれ以上市内に敵を入れないようにする。外にいる敵は全て俺の獲物だ」


 今伝えるべきことを矢継ぎ早にユーリに伝え、春人は城壁から市外の地面に向かって飛び降りようとしていた。だがその前に何かを思い出したかのように首から上だけを動かしてユーリの方へ振り向きこう言った。


「あぁそうだ、ひとつ言い忘れていた。ユーリ、死ぬんじゃないぞ」


 そして春人はユーリの返事を聞く前に城壁から飛び降りた。






「セントリーガン起動」


 地面に着地したと同時に春人はそう口にし、MTマルチツールがその言葉を認識して遠隔操作によって設置してきたセントリーガンを起動させた。今のセントリーガンの設定は射程内に存在する春人以外の動く物体を撃つように設定されている。だから春人がユーリにセントリーガンの前に立つなと言ったのだ。


 そして起動したセントリーガンが春人の頭上で轟音を轟かせながら射撃を始めた。その銃弾は春人の視線の先に存在するベルカ帝国の兵を正確に薙ぎ払っている。


「船坂春人、いざ参る!」


 春人はこのウルブスでの戦いに終止符を打つために、ひとり単身で敵陣中枢へと乗り込んでいった。

長々と書いてきたウルブス防衛戦も次でラストになります。

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