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47:対死神部隊戦 2

すみません遅くなりました。

 サミュエルの追撃を邪魔する形で現れた目の前のローブの者はフードを外してその顔を晒した。それはかつて死神部隊を春人が指揮していた時に副部隊長として春人をサポートし、また春人が忘れもしないあの日に他のクランと手を組んで春人に謀反を企てた張本人の男だった。


「まあそんな怖い顔するなよジーク。それとも前のようにボスと呼んだ方がいいかな?」


「ハミルトン! 俺はあの日からずっとお前の事を忘れたことはないぞ!」


 春人が因縁の相手ハミルトンを忘れたことが無いと言うと、ハミルトンはニヤリと笑みを浮かべた。


「おぉ嬉しいねぇ。俺の事を忘れないでいてくれたとは。それにしても約3年ぶりか? アンタとこうして面と向かって話すのは」


 約3年ぶりの再会だと言いながらハミルトンは最初に投擲したマチェットを回収しながらサミュエルの前に立ち、春人から目を離さずに立ちはだかった。その両手に構えた二本のマチェットはいつでも振るえるようにしている。


「隊長……私はどうすれば?」


「お前はこのまま予定通りに回収地点へと向かえ。俺は少しコイツと遊んでいく。それに強化外骨格の無い今のお前ではアイツの相手は荷が重いだろうからな」


「了解しました。では一足お先に」


 サミュエルはそれだけ言うとハミルトンより先にこの場を後にした。


「待て!」


 春人は撤退していこうとするサミュエルの背中を撃とうとP90の銃口を向けたが、踏み込んできたハミルトンによってそれは阻止された。


「今のアンタの相手は俺だ。よそ見をしているなんて随分余裕じゃないか」


 そう言いながらハミルトンは両手の大型マチェットを二本同時に振り下ろしてきた。それに春人は咄嗟に高周波ブレードでしのいで、そのまま二人は鍔迫り合いに入った。


「二本一組のそのバカデカい高周波マチェット……まだそんな物騒な武器を使っているのか?」


「いい剣だろう? これは俺の趣味だからな。アンタだってその高周波ブレードを昔から愛用しているじゃないか」


 鍔迫り合いをしながら春人はハミルトンの高周波マチェットを物騒な武器と言い放った。それに足してハミルトンも春人の使う高周波ブレードだって長い間愛用しているじゃないかと返した。


 そう言い合っている間にもお互いの刃はガチガチと音を立てながら、火花を散らせている。


 そして徐々にだが春人の方が押されてきている。ハミルトンのローブの下にどんな装備をしているのか分からないが、春人の強化外骨格よりも高出力の強化外骨格を纏っていることが伺える。


「物騒な武器を好んで使う戦闘スタイルは前から変わらないようだ……な!」


 鍔迫り合いに終止符を打たせるために春人はハミルトンの事を思いきり蹴り飛ばした。だがハミルトンの強化外骨格は重く、多少間合いを取る程度の距離しか蹴り飛ばせなかった。


「久しぶりに剣を交えたが腕は落ちていないようで安心したよ。ところであの平原に設置した地雷原はアンタが用意したのか?」


「だとしたらなんだっていうんだ?」


「そうか、それは残念だったなぁ、あそこは俺達のほうで空爆して地雷原は処理させてもらったよ。つまりはせっかく準備した地雷原も無駄になった訳だ。今頃はベルカの連中が大勢で進軍している頃合いだろう」


 少し前に南門の方から聞こえた爆発音は彼等死神部隊の仲間の空爆によって起こった音だった。その空爆で春人達が設置した地雷原が処理されてしまったのだ。


「まったく余計な事をしてくれたな……ならばそこで無駄に消費した分のポイントは返してもらわないとな」


 そう言って今度は春人の方から斬りかかり、踏み込みと同時に下から切り上げるように振るった高周波ブレードをハミルトンは両手に持った二本の高周波マチェットをクロスさせるようにして防いだ。


 そしてまた鍔迫り合いが始まった。


「そうカッカするなよ。俺達が敵対したのはもう昔の事じゃないか? まだ気にしているのか?」


「あの時の謀反の首謀者だったお前が気にしていなくとも、お前たちに裏切られた俺は今でもあの時のことは許したりはしない」


「まあ俺もアンタに許してもらおうとは思っていないさ。この際だから教えてやる。アンタを隊長に祭り上げて結成した死神部隊は俺や他のメンバーがあのゲームの世界大会で優勝して世界一になるための踏み台でしかなかったんだよ。もともとアンタは俺達が力を付けたら排除する予定だったんだ! 所詮アンタも、アンタが率いていた頃の死神部隊も俺達が力を付けるための道具でしかなかったんだ!」


 ハミルトンはCFコンバットフィールドで死神部隊を結成した理由を打ち明けた。それは衝撃な事実だった。彼は最初から春人を利用して自分たちが世界大会で優勝するための力を付けるため道具として利用するつもりでいたのだ。


「大体そんな事だろうと薄々感じてはいたよ。それで他のクランに俺を始末しようとか何とか言って適当に吹っかけてあの裏切り行為をしたんだろ? だがそれも失敗に終わったがな」


「あぁ、そうだな。あの時はアンタが抵抗してくるのは予想していたが、まさか俺達や吹っかけたクランの連中諸共全滅するとは思わなかったさ。流石は死神の異名を持つ男だ、大隊規模の敵を単身で撃破出来るのはアンタくらいだろう」


「所詮お前たちの考えなんてその程度のものだったんだ。だからお前たちは負けたんだ」


 考えが浅はかだったからハミルトン達は春人に負けたんだ。そう言うとハミルトンは両手の力を抜きながら高周波マチェットでの防御を解きながら大きくバックステップをしながら春人の高周波ブレードの切っ先を回避した。


「あの時は確かに俺達は負けた。だが今度は違う!」


 バックステップをしながら叫んだハミルトンのローブの内側から突如幾つもの銃弾が春人目掛けて飛んできた。予想外の攻撃に春人も驚いたが、瞬時に高周波ブレードを素早く振るって飛んできた銃弾を弾き落とした。


 そして反撃とばかりに春人もP90で銃撃を行ったが、ハミルトンは避けたり春人と同じように剣で弾くような事はせずにただ強化外骨格の防御力にものを言わせて防いでいるだけだった。さすがに頭部は高周波マチェットで弾が当たらないように防いではいるが。


「サブアームユニットとは俺の知らない間に面白い物を使うようになったじゃないか」


 春人が言ったようにCFコンバットフィールドの強化外骨格にはいくつかの追加オプションを装備できるようスロットが用意されていて、そこに予備の武器を装備したり、ハミルトンのようにサブアームを装備できるようになっている。


 その中でもサブアームユニットは操作難易度が高く、春人もCFコンバットフィールドをプレイしていた頃にハミルトン含め他の強化外骨格を所持しているプレイヤーを見たことが無かった。


 ちなみに春人の強化外骨格にも追加装備用のスロットは存在するが、現状彼が使っているのは腰回りに装備している高周波ブレードの鞘とP90を格納しているウェポンマウントしか使用していなく、他のスロットは現在使用する予定がない。


「使いこなすのに随分と時間が掛かったが慣れればいいものだぞ? アンタも銃弾を剣で弾くとか中々にバケモノじゃないか、CFコンバットフィールドにそんな事出来る人間、見た事も聞いたこともないぞ?」


「それもそうだろう、お前の前でこれを披露したことなんて無かったからな」


 そしてハミルトンが言うように春人の高周波ブレードで銃弾を弾くような行為も出来る人間は他に存在しない。本当にこんな事が出来るのは春人ぐらいだろう。


 正確な射撃の他にこうした人外じみた技術などを有しているからこそ、春人が死神と呼ばれていた理由であろう。


「アンタの時代は終わった! ここで死ね、ジーク!」


「死ぬのは今度もお前たちの方だ! ハミルトン!」  


 そしてまた互いに銃撃を交えながらまた剣を交えた。大口径の銃を使う余裕がない以上、強化外骨格を纏った相手に有効な攻撃手段は現状では高周波を纏わせた近接武器しかない。


 そしてやがてお互いの銃の残弾は尽きたがそれでも剣を振るう手は止まらない。


 春人があらゆる方向から斬撃を繰り出すとハミルトンはそれを何度も防ぎ、そして隙を見ては二本ある高周波マチェットで反撃すると今度は春人が防御している。そんな一進一退の攻防が何度も続いたが力にものを言わせて戦うハミルトンと技術と経験で戦う春人では若干ではあるが春人の方が押している。


「技術の伴っていない剣術など所詮ただの棒振りだ!」


 剣の技術が自分よりも下のハミルトンの剣術をただの棒振りだと評価して、一気にハミルトンの高周波マチェットを跳ね除けた。


「なに!?」


 ハミルトンはまだ手から高周波マチェットを離してはいないが、両手のそれを跳ね除けられて両手を上に上げられた事で今まで以上の隙を生んでしまった。


「終わりだ!」


 春人はそう言いながら一度高周波ブレードを鞘に戻し、そして居合い切りの要領で鞘から素早く抜いて何度も斬撃をハミルトンに浴びせる。その攻撃はハミルトンの着ているローブと一緒にその下の強化外骨格にもダメージを与えていた。


 そして止めの一撃を与えようと刺突の構えをとり一気に突き刺したが、この最後の一撃だけはハミルトンに躱され、彼の強化外骨格の脇の部分にダメージを与えただけだった。


「クソ、ここまでやるとはな。……まったく、これじゃあ暫く強化外骨格を使えないじゃないか。アンタも損傷した強化外骨格の修復に時間が掛かることくらい知ってるだろう?」


 彼の言う通り、戦闘能力を格段に上げる強化外骨格はその能力の代償に大きなリスクが存在する。元々CFコンバットフィールド内でも存在する数が少なく、大会上位入賞者及びショップで一時期限定的に販売された分だけしか存在しない。並の銃弾も通さず、対物ライフル、高周波ブレードもしくは高性能爆薬を使用しなければ効果的にダメージを与えられないこの装備は一度損傷すると修復までにとてつもなく時間が掛かる。普通の戦闘服や対爆スーツなどの実在する装備であればMTマルチツールに収納すれば遅くとも数時間以内には完全に修復されるが強化外骨格ではそうもいかない。


 一度MTマルチツールに収納され修復が始まると早くとも数日、長ければ数週間掛かり、その間はMTマルチツールから取り出すことは出来ない。そして修復が不可能な程損傷が激しければ最悪の場合装備を失う事もあり得る。これはショップでの購入者も大会上位入賞の景品で手に入れた者も関係はない。それだけ強化外骨格の使用には大きなリスクが伴っていたのだ。


 そしてこの装備を使用した相手を撃破することの出来る高周波を纏った近接武器が同時期にリリースされた。春人がP90と高周波ブレードの組み合わせで戦い始めたのもこの頃からだった。


 それと以前の春人が隊長だった頃の死神部隊は全員が強化外骨格の纏い、その装甲に傷一つ付けずに戦場を制する覇者として世界中のCFコンバットフィールドプレイヤー達の中では有名な存在だった。同時に倒すべき相手、越えるべき壁として君臨していた。


「それ位強化外骨格使用者なら誰でも知ってることだろ。ハミルトン、お前たちの目的はなんだ? どうやってこの異世界に来たんだ?」


 そして春人は以前、この世界の神だと思われる者から来たメールの内容をふと思い出し、ハミルトンに何が目的かと聞いた。そう訊ねた間にもいつでも攻撃できる姿勢は解いていない。


「なんだ話してなかったか。まあ答えてやってもいいだろう。俺がどうして異世界に居るのかをな」


 それからハミルトンがなぜ春人と同じ異世界に居るのかを話し始めた。


 ハミルトンは元の世界でトラックとの交通事故に会いそこで死亡したらしい。その後神と名乗る人物と対面し、この異世界に転移させると言われたそうだ。その際にCFコンバットフィールドでハミルトンが使用していたアバターに魂を移し替え、当時所持していた全ての装備、及び春人が死神部隊を解散させた後に彼が再結成した新生死神部隊に在籍していたメンバーを複製してからこの異世界に舞い降りたようだ。


 まさにハミルトンは最近よく目にする神様の手違いか何かによって死亡した者がチート能力をもらって異世界で活躍するラノベの主人公のような存在だった。


 それに引き換え春人は同じようにCFコンバットフィールドでの能力を有しているが、その見た目はゲーム中のアバターではなく現実の姿で、更に仲間などいない。これが転移の特典だと言えば春人のはあまりにも少ない。言い方を変えればハミルトンの特典が多すぎるとも取れるだろうが。


「まさに異世界転移物のテンプレ主人公のようだな。で、その戦力で何をしようって言うんだ? 自分たちの国を造るとかか?」


 春人はハミルトンを鼻で笑いながら彼をテンプレ主人公のようだと評価した。実際に元の世界から今までの経緯を聞けば誰もがそう言いたくなるだろう。


「国を造る? まあそれも悪くない。だが俺の目的は違う……おっと、悪いがどうやらここで時間切れのようだ」


 そう言うハミルトンの背後からエンジンの轟音と共に両翼の巨大なプロペラを回転させながらある飛行物体が接近してきた。


「オスプレイだと!? そんなものまで持ち込んでいたのか!」


 彼は銃火器などの武器だけではなくCFコンバットフィールドで使用できた乗り物まで持ち込んでいた。オスプレイが有るという事は他にも装甲車に戦車、戦闘ヘリなどを所持していてもおかしくはない。これもショップ内でも販売はしているが消費ポイントがとんでもなく高い。


「久しぶりの再会、短い時間だったが楽しかったよ。残念だが今日はここまでだ」


 ハミルトンは春人にそう告げると二人の頭上でホバリングをしているオスプレイの開かれている後部ハッチに向かって一気に跳躍して飛び移った。


「待て! ふざけるな!」


 オスプレイに飛び移ったハミルトンを追おうと春人もオスプレイに向かって飛ぼうとしたが、その後部ハッチに設置されたM2重機関銃の銃口が春人に向き、そこから12.7mmの銃弾が春人を足止めするために放たれた。


「じゃあなジーク、また会おう。そして次こそはアンタを殺す」


 オスプレイの後部ハッチから春人を見下ろす様にハミルトンが言っていたがそれはM2重機関銃の銃声とオスプレイのエンジン音によってかき消された。


 そしてハミルトンを回収したオスプレイは春人を足止めしながら戦線を離れていった。だがそれを見逃す春人ではない。


「逃すか!」


 ここぞとばかりに春人はスティンガーミサイルを装備しオスプレイを狙う。ワイバーンはロックオン出来ないかったが、現代兵器のオスプレイ相手ならば問題無くロックオン出来る。


 そしてロックオンを告げる電子音が春人の耳に響くと間髪入れずにスティンガーミサイルの引き金を引き、ミサイルを撃ち出した。


 だがそのミサイルはオスプレイから投射されたフレアによってオスプレイに命中することは無かった。


「お前等を地の果てまでも追いかけて、一人残らずぶっ殺してやる!」


 死神部隊に逃げられた春人は担いでいたスティンガーミサイルのランチャーを投げ捨て、飛び去って行った死神部隊のオスプレイに向かって罵声を上げながら中指を立てていた。

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