表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/95

46:対死神部隊戦 1

 ウルブスの街の中に潜んでいた死神部隊の男サミュエルが指揮所を制圧しようとしていた所に春人が窓ガラスをぶち破って室内に侵入したことで室内に漂っていた緊張感はかき消された。


 まさに狙ったかのようなタイミングで春人が飛び込んできたのだ。


「こんなところで我々以外の転移者が出くわすとはね。本当に戦場では何が起こるか分からないな。だからこそ面白いのだが」


 今までアリシアに向けていた銃口を窓から飛び込んできた侵入者、春人に向けてサミュエルが話している。それはまるでこの状況を楽しんでいるようだ。


 そんなサミュエルに対して春人もP90を向けていつでも撃てる状態で相手を睨んでいた。


「MP5か……室内戦でそれを選択したのは間違ってはいないが俺にはそんな豆鉄砲が通用すると思うなよ?」


 春人は侵入者サミュエルがMP5というサブマシンガンを装備していたことに選択ミスでない事を言いながらも自分に効かないと告げた。


 CFコンバットフィールドで登場しいていた強化外骨格は通常のライフル弾やなどは効かず、強化外骨格装着者相手にまともにダメージを与えるのならば大口径の対物ライフル弾もしくは高周波ブレードを使用するしかない。


「P90は兎も角、そのどこかで見覚えのある強化外骨格……さてはお前、CFコンバットフィールド出身の転移者だな?」


「だとしたらなんだ?」


「はははは、いやこんな異世界で同郷出身の者が他に居るとはね。ならば我々の部隊の名くらい聞いたことがあるだろう。我々は死神部隊、私はそこに所属する者、名をサミュエルという」


 笑いながらサミュエルと名乗ったこの男は春人と同郷であると言い、そして自身の所属は死神部隊であると言い放った。そしてその死神部隊という言葉を聞いた途端、段々と怒りが込み上げてきて、春人から今まで発せられたことの無い強い殺気が放たれた。


「死神部隊だと? ……この裏切り者共がぁー!」


 怒気のこもった絶叫と共に春人は感情に任せてP90の引き金を引いた。そこからフルオートで放たれた5.7mm弾がサミュエルに向かって飛翔していった。


 だが春人から発せられた殺気にマズいと思ったのかサミュエルは春人が銃を撃つ前に回避動作とり、部屋から出て扉があった場所の陰に隠れて被弾するのを避けた。そうしなければサミュエルは今頃全身に鉛の銃弾を受けていた事だろう。


「避けるんじゃねえよ、弾が当たらないじゃないか。さあ顔を出せ、一発で楽にしてやる」


 春人は今だ殺気を放ちながらサミュエルを射殺することだけを考えている。


「裏切り者呼ばわりとは侵害だね。あぁそうか、分かったぞ。君は私の入る前の、前の死神部隊の隊長だな? 名を確か……ジークと言ったね?」


 壁越しにサミュエルが春人の正体に気が付いた。そして春人は舌打ちをしながらその返答代わりに更に銃を撃った。それはサミュエルに応戦して銃を撃ち返す余裕を与えない程だった。


「確かに俺は以前ジークの名を名乗っていた事があった。だからそれがどうした?」


 そう言いながら春人は壁際に隠れているサミュエルをあぶり出す為に銃をXM25へと持ち替えて、室内で、しかも至近距離でも構わずに榴弾を撃とうとしていた。


「ふざけるな! 何を考えているんだアイツは」


 サミュエルは一瞬だけ銃撃が止んだところをチラッと顔を出して春人の様子をうかがった。あわよくば反撃できればと思っていたが、そんな状況ではなく、被弾しないように一目散に退避した。今の一般市民と変わらないような恰好のサミュエルが榴弾を食らえば肉片しか残らないだろう。


 サミュエルが撤退したことなど知らない春人は廊下に向けてXM25を撃った。撃った先の廊下で榴弾が爆発して、爆風が広がった。だが今の射撃で春人は手応えを感じなかった。


「ちっ、逃げられたか」


 逃げたサミュエルを追うために春人は銃を再度P90に変更してから部屋を出ていこうとした。その間指揮所に居た他の者はただ唖然と見ているだけだった。春人と共闘して今の侵入者を排除することが出来ただろうが、春人の感情が今まで見たことの無いものだったので、その姿に皆驚愕していた。仮に共闘したとしてもそれは春人が許さなかっただろう。


「ハルトさん!」


 そんな今の光景を何も出来ずに見ていた中でアリシアが真っ先に我に返って春人を呼び止めた。


「アリシアか……ケガはしていないようで良かったよ。悪いが今は君の相手をしている場合じゃないんだ、また後でな」


 呼び止められた春人はアリシアにいつもと同じような雰囲気で答えたが、ずっと放っている殺気までは隠しきれていない。今はアリシアの相手を出来ない、ただそれだけ言って部屋を後にしようとした春人にアリシアが続けて声を掛けた。


「どうか無茶だけはしないで」


 ただそれだけを春人に言うと、春人は「善処する」とだけ言って答えて部屋を出ていった。


 それからサミュエルを追って春人はこの司令部の出入り口に向かって急いで移動していた。そして廊下の角を曲がろうとしたときに進行方向から銃撃を受けた。


 とっさの事に急いで身を戻して弾を避けた春人だが、数発が強化外骨格の表面をを掠めていき金属が擦れるような音を立てていた。もしこれが普通の戦闘服だったらかすり傷を負っていただろう。


「久しぶりの銃撃戦だ、お互い楽しもうじゃないか」


 廊下の先でサミュエルが春人に言っていたが、春人は銃撃戦を楽しもうとは思ってはいない。それよりも春人は久しぶりの銃撃戦で自身の腕が確実に落ちていることに気が付いていた。この異世界に来て一方的に撃つことは有っても、撃ち合うという事はこれが初めてだ。異世界に来て早数か月、その間銃撃戦を経験していないので回避や防御の動作が疎かになっていた。


「悪いがお前と楽しく撃ち合うつもりはない。さっさとお前を殺せればそれで十分だ」


 そう答えながら春人は角から銃だけを出して撃つ所謂ゲリラ撃ちと呼ばれる撃ち方で応戦した。めくら撃ちとも呼ばれるこの撃ち方は弾がどこに着弾するか分からない為、あまり褒められる撃ち方ではない。


 それから二人は互い残弾の限り撃ち合いながら春人はサミュエルのMP5の撃った弾の数を数えて、それがゼロになったのを見計らって突撃した。どうしてもリロードしている時は隙が生まれてしまう。それにマガジン1本辺りの装弾数が多い春人の方がいくらか有利だった。


「さあこれで終わりだ」


 春人がそう言いながらサミュエルが隠れているであろう場所に飛び込みながら銃を向けると既にそこにサミュエルの姿はなかった。彼はマガジン内の残弾が無くなるとリロードしながらすぐにその場から移動していたのだ。


「クソ、あの野郎また逃げたな。ったく、逃げ足だけは早いな」


 残り少なくなってきたP90のマガジンを交換して、サミュエルを追うために春人は更に追撃を続けた。


 それと余談だが、この時XM25を使い続けていればサミュエルをここで斃せていただろうと気が付いたのはウルブスでの戦闘が終わってからのことだった。






「まったく室内でグレネードランチャーを使ったりめくら撃ちであの精度とか初代隊長は何者だ? 正真正銘のバケモノじゃないか。隊長聞こえるか、緊急事態だ。至急私の回収を頼む」


 春人に追われながらも一時的に逃げることに成功したサミュエルは現在司令部の建物を出て、それから駐屯地からも出て今は市街地まで移動していた。そして市内をひたすら走るサミュエルは無線機を手に上空で待機している死神部隊へと通信を行っている。


『どうしたサミュエル、予定よりも連絡が早いじゃないか。緊急事態とはそっちで何があった?』


「指揮所の制圧は失敗した。それよりも我々と別の転移者と接触した。聞いて驚くな、そいつの正体はジークだ」


『……分かった、では予定通りの回収地点に向かえ。すぐにそちらに向かう』


 そこで交信は終わり、サミュエルは前もって予定していた回収地点へと向かっている。


「待て! 見つけたぞ! サミュエール!」


 逃亡を続けているサミュエルを見つけた春人は絶叫しながらP90をひたすら撃ち続けながら追ってきた。


 かつて春人を中心に編成され、そして他のクランと手を組んで謀反を起こして春人に牙をむいた裏切り者、死神部隊。それがまたこの異世界で目の前に存在しているのだから落ち着いていられないのも無理はない。


「いいねぇ、そのケモノのような感情。闘争本能がむき出しじゃないか」


 追われているにも関わらずにサミュエルはまるでこの状況を楽しんでいるようだ。ただでさえ細い彼の目は更に細くなり、終始絶やさないでいた笑顔を今でも続けていた。


 そしてその笑顔のまま春人に向けてMP5を撃ちながら逃亡を続けている。強化外骨格を纏っていないサミュエルの足では強化外骨格を纏った春人にすぐ追いつかれてしまうためこうして春人の足を止める必要がある。だが結局それは無駄な行為であった。


 自身に飛んできた銃弾を春人は高周波ブレードを抜いて銃弾を弾きながら更にサミュエルとの距離を縮めていく。刃物で銃弾を弾くなど常人では普通出来ないような事を春人はいとも容易くこなしてみせた。偶然なのかそれとも自身の技術なのかは分からないが、春人が今した事は完全に超人レベルの技だろう。


 それを見たサミュエルは春人の事をバケモノ級の相手だと評価した。


「どうしても私を見逃してはくれないようだね」


 とうとう春人から逃げるのを諦めたのか、サミュエルは走る足を止めて春人と対峙する。だがそのサミュエルの目は生きることを諦めた目ではなく、まだ戦う事を望んでいるような目をしている。


「あぁ、当たり前だ。俺にとって因縁のある相手が何の因果かこんな異世界ところに居るんだ。逃がす訳がないだろう。だからそこで惨めに死んでくれ」


「死んでくれと言われて、はいそうですかって死ぬ人間などどこにもいないだろう? だから私は最後の最後まで抗わせてもらうよ」


「その時間すら与えられると思うなよ?」


 左手に持ったP90をサミュエルに向けて、今にでも引き金を引こうとしている春人と更に反撃を行おうとしているサミュエルとの間に上空から一本の巨大なマチェットが降ってきた。


 目の前のサミュエルに集中していたところにいきなり巨大なマチェットが落ちて来たので、春人の意識はサミュエルから逸れた。そしてマチェットが落ちてきた空を見上げるとそこには同じく巨大なマチェットを振りかぶりながら春人目掛けて降下してきた漆黒のローブを纏った人型の物体がいた。


 流石に強化外骨格と言えどもあの一撃を受ければ何かしらのダメージを受けるだろう。そんな強力そうな攻撃を右手で握ったままの高周波ブレードで落ちて来た者の巨大なマチェットをしのいだ。その際に強化外骨格の人工筋肉が膨張するのを感じながら春人は更に右腕に力を込め、そのまま相手が地面に足を着ける前に勢いと力に任せて高周波ブレードで押し返して相手を吹き飛ばした。


 そのまま追撃とばかりに春人はP90をフルオートで相手に撃ち込んだが、そこから聞こえた音は何かの金属で弾かれる銃弾の音しか聞こえてこなかった。


 そしてローブを纏ったこの者は空中で一回転しながらサミュエルの前へと着地した。その着地姿勢は片手片足を地面に付けて着地するというアメコミやハリウッド映画で見かける俗にいうスーパーヒーロー着地と呼ばれるものだった。


「ナイススーパーヒーロー着地。だがそれは膝に悪いそうだぞ? 纏ってるそのローブ、お前も死神部隊だな? それにその下には強化外骨格ときたか」


 春人がローブを纏った者相手に茶化しながら、今落ちてきた者も死神部隊のメンバーであるとなと言った。更にP90の銃弾を弾いた音が聞こえたのであのローブの下に強化外骨格を着用してることも指摘した。


「なんだすぐに気が付いたか、まあいい。それよりも久しぶりだな”元”死神部隊隊長ジーク。見慣れない顔つきだが、あぁそうか、それがアンタの現実リアルでの顔か。どおりで一目見ただけじゃ分からなかったわけだ。それにしても異世界こんなところで会うなんて奇遇だな。」


 それだけ言うとローブを纏った者はその場でローブのフードの部分を取って見せた。その下には春人にとって忘れたくとも忘れられない顔があった。


「お前はっ!」


 それは春人にとって一番因縁のある相手だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ