45:決戦! ウルブス防衛線戦 5
先週は更新をお休みさせていただきました。お待たせしてスミマセン。
「今の爆発は魔法なのか? まるでC4を幾つも纏めて爆破したみたいな感じだったが……」
南門周辺から起こった幾つもの大爆発に春人はまるで現代戦のようだと思いながら、地上戦力を迎え撃とうと準備している仲間の元へと合流しようと春人は市街地内を走っていった。
ベルカ帝国の竜騎兵は既に文字通り全滅してウルブスの制空権は完全にトリスタニア王国が握っている。後方で竜騎兵と戦っていた他の兵士や魔術師も現在南門へと移動をしている。
「まさかベルカ帝国側に転移者が居るのか? それも現代兵器を使うような奴が」
春人はまるで今の爆発が魔法ではないような気がしていた。そして同時に敵の側に転移者が居るのではとも薄々気が付いた。だが、その転移者がまさか自分と因縁がある部隊であることはまだこの時は知るよしもなかった。
そして今の爆発の目的が何なのかにも感づいた。
「それにしても今の爆発の目的だが……クソッ! やられた!」
一旦足を止め、MTのマップで状況を確認した。それは現在最も最悪な状態だった。せっかく仕掛けたクレイモアが今の爆発でほとんどが破壊されてしまった。残ったのはごく僅かで、ベルカ帝国の第二波を効果的に足止めするには明らかに数が少なすぎる。
今度は敵の大群が対して数を減らさずに南門へと襲ってくる。死を恐れずに突撃を慣行し、数にものを言わせる人海戦術で攻めて来る敵ほど厄介なものはいない。
現在の戦況は思っていたよりも最悪だ。このままではウルブスが陥落してしまうのも時間の問題だろう。
――攻めて来る敵は全て俺の獲物だ、全員殺してやる。一人残らずな。
そう春人は意気込んで、南門へと足を進めようとした。敵を一人たりとも市内へと入れないために、そして何よりもこの街の住人とアリシアを守るために。
春人が南門へと向かおうとしていると市内から幾つもの銃声が鳴り響いた。そしてとっさに音の鳴った方へと振り向いた。
「銃声だと? 俺以外に銃を使える奴が味方にいないと思ったが……。あぁクソ最悪な状況だだ、ずっと前から敵が潜んでいやがったな。完全に俺もこれは想定外だ」
まだ敵だとは断定できないが市内に銃を使う事の出来る者、おそらく他の転移者が潜んでいて現在何者かと戦闘しているようだ。これが本当に敵だとしたら完全に想定外の事態である。
そして同時に春人はなぜか急にアリシアの事が気になって前線へ戻るかどうか迷っていた。
――今の銃声が敵のなら、この世界の人間では太刀打ちできないだろう。どうする、音のした方へ行くか? それともこのまま前線に戻るか。それにしてもなんでこんな時にアリシアの事が気になるんだ?
少し迷った結果、春人は一度アリシアが向かったハインツの居る場所、ウルブス駐屯地の指揮所へと向かう事を決めた。
だがその前にやるべきことが一つだけある。
「そこのアンタ、すまないが前線の仲間たちに伝えてくれ! 敵がどれだけ向かってきても俺が、春人が戻るまでは持ち応えてくれと」
適当に近くを移動していた兵士に伝言を頼むと春人は直ぐに指揮所の方へと走り出した。
ウルブス市内で春人以外の銃声がしてから間もなく、駐屯地内で不審な男が指揮所を目指して移動していた。道中で遭遇したウルブスの兵士を射殺しながら……
「いやはや、ここまで手応えの無い連中だとはね。もう少し頑張って抵抗してもいいじゃないか。これじゃあただの弱い者虐めではないか。さてと、この建物が目的地のようだね。ではさっさと制圧しに行くとするかね」
そして彼は目的地である駐屯地内の司令部の建物の前に到着し、その建物の内部へと足を踏み入れた。
謎の男が司令部へ足を踏み込んだその時、内部の指揮所では少し前にやって来た伝令の兵士が指揮所のハインツの元へとたどり着いて前線での状況を報告していた。
その室内にはハインツを中心に部下の複数人の若い副官に魔術師ベアトリス、それとアリシアが居る。
「伝令! 敵の攻撃により先日ハルトさん達が仕掛けた罠が破壊されました! すぐに敵の大部隊がウルブスへと進行してきます!」
「先程の爆発音はそれだったのか……分かった。至急市内に展開していた対竜騎兵部隊を増援として南門へと向かわせろ」
伝令から戦況を聞いたハインツは落ち着いて状況を理解し、それから南門へと増援を送るよう指示を出し合た。それからすぐに彼は窓越しに外を見ながら何か考え事を始めた。
「あのすみません、どこかでハルトさんと会いませんでしたか?」
ハインツと伝令との会話に割って入る形でアリシアが春人の所在を伝令の兵士に聞いた。彼女は宿の前で春人と別れてからずっと彼の事を気にしていた。
「ハルトさんですか? いえ、自分は見ていません。聞いた話では敵の竜騎兵隊を相手に戦うと言って一度前線を離れたという事くらいしか……」
「そうですか……」
アリシアはそう答えるしかなかった。だが外から微かに聞こえてくる銃声が春人が戦っていて、まだ生きているという事を証明してくれている。
まだ春人が生きていると分かってはいたが、今現在どうしているのか気になっているアリシアだった。
アリシアが春人の事を気にしている間にもハインツは窓越しに外の景色を見ながら黙ってまだ何かを考えていた。
彼はもう一つ、別の場所から銃声がしたのを偶然聞こえ、外の喧騒の中でもだんだんとその音が近づいて来るように聞こえていたのを気にしていた。
――まさかとは思うが敵がすでに市内に潜入していたのか? それもハルト君と同じように銃という武器を使う者が。
その考えの答えはいくらも経たない内に答えが出た。
ハインツが考え事をしていると建物内に銃声が響いた。それは確実にゆっくりとだがこの指揮所へと近づいてきている。
「いったい何事だ!」
「敵が侵入したとでもいうのか!?」
「ここの守備は万全ではなかったのか?」
いきなりの音に副官達は更に騒ぎ始めた。彼等はハインツと違って実戦経験が無く、士官学校から出て来たばかりの新米の士官だったので、彼等はいきなりの襲撃に対応できなくパニックを起こしていた。ハインツは新米の彼等を現地で指導するために副官として預かっていて、不幸にもそんな時にベルカ帝国に攻め込まれたのだ。
「静まれ! こんな時にこれから部隊を預かる人間が騒いでどうする? それでは自身の部下を無駄に不安を与えるだけだ。指揮官とはこんな時でも冷静でいるものだぞ? そこのハインツのようにな」
そんな彼等を叱責し沈めたのはハインツではなくベアトリスだった。彼女に責められた副官の彼等はパニックに陥った自分を恥じ、言われた通りに冷静でいられるよう気を引絞めた。
「士官学校出たての君たちにとって初めての実戦で落ち着いていろというのは難しい課題だが、ここでの経験はいずれ何かに役立つだろう。今は失敗しても構わないが君たちが部下を預かるようになったらそうはいかない。私の元に居る間に色々と学んでいくといい。まず今はこの戦いを勝って、この街の住人を守り、私たちも生き残る事だ」
ハインツが副官達にすかさずフォローを入れた。
その間にも建物内で聞こえる銃声はだんだんと指揮所のこの部屋へと近づいてきて、それはこの部屋の扉の前で止んだ。そして部屋の扉が勢いよく蹴破られ、その向こう側に一般市民と似たような恰好の男が銃を構えながら立っていた。この男の細い目と終始にこやかと笑顔を絶やさないように見える表情が一層不気味さを際立たせている。
「やあどうも初めまして、トリスタニア王国の兵士の諸君。見たところここが指揮所で間違いないようだね? さて、この中に総指揮官はいるかね?」
銃を構えたままこの男はウルブス防衛の指揮官が居ないか聞いてきた。
「な、何者だキサマ!」
若い副官の内の一人が現れた男に訊ねた。その声には恐怖が混じっていて、それはこの銃を持った男にも伝わっていた。
「声に恐怖が混じっているのがまる分かりだぞ。それと私が何者かかね? 私は死神部隊所属のサミュエルという者だ。以後お見知りおきを。と、言いたいのだが今から死ぬかもしれない連中に自己紹介してもどうしようもないのだがね」
銃を手に現れたこの男は自身をサミュエルと名乗った。それに死神部隊という単語に聞き覚えの有ったアリシアが反応を示し、何か言おうとしたがそれは先に口を開いたサミュエルに遮られた。
「さてと、私は君達に降伏勧告を勧めに来たわけだがどうするかね?」
「もしそれを断れば我々をどうするつもりかね?」
降伏勧告を勧めに来たと言ったサミュエルにハインツが断ればどうなるのかと聞いた。
「どうやら貴官が指揮官のようだね? もし君達が降伏を受け入れずに抵抗を続けるというのなら私はここで君達を皆殺しにするだけだが。まあ私としては多少抵抗してくれた方が私の楽しみが減らずに済むのでそちらの方がいいのだが……」
楽しみが減らずに済む、この言葉はサミュエルという男が殺しを楽しんでいるという事を示していた。殺人趣味の狂人か戦闘狂かは分からないが、この男がまともな人間でない事はこの部屋に居た全ての人間が理解した。
そんな緊張状態の中でアリシアが恐る恐る口を開いた。
「あの、すみません。あなたは死神部隊に所属していると言いましたが、手にしているそれはもしかして銃……ですか?」
春人が使う物と形は違えど部分部分の形状が似ている事からそれは銃ではないかと言ったのだ。
「なんだねそこの小娘。銃を知っているという事は私達と同種の人間を知っているという事か?」
アリシアがサミュエルの武器が銃なのかどうか聞いたのに対してサミュエルは自分達と同じ人間を知っているのかとだけ答えた。
それはサミュエルも春人と同じく異世界から来た人間だと遠回しに言っているようなものだ。それに私“達”と言っている為、他にまだ複数人の異世界からの転移者がいることも推測できる。それが理解できたのは春人が異世界から来た人間だと知っているアリシアとハインツだけだ。他の者達は一体何を言っているのか理解できないでいた。
そしてサミュエルはアリシアの羽織っているローブに目が留まり、そこに描かれていた死神部隊のエンブレムを目にした途端、声を荒げた。
「そこの小娘ぇ! そのローブを何処で手に入れた!? 答えろ!」
そう言ってサミュエルはアリシアに銃口を向けた。その彼の雰囲気は今にでも銃を撃ちそうで、アリシアも撃たれるかもしれないと恐怖を感じた。
だがサミュエルはの持っている銃から銃弾が放たれることは無かった。それは部屋の窓ガラスが割れる音と共に何者かが部屋に飛び込んできたことでそちらに気を取られたからだ。
「やっぱり戻ってきて正解だったな」
窓をぶち破って飛び込んできたのは前線に戻ったと言われた春人だった。




