44:決戦! ウルブス防衛線戦 4
すみません、お待たせしました。しばらくこんな感じになりそうです。
ベルカ帝国が次の部隊を侵攻させて来る前に部隊の再配置をしておる。ちなみに最初のベルカ帝国の第一波はC4とクレイモアによって彼等が何かするまでもなく全滅した。そのお陰で時間を稼ぐことが出来た為、配置を練り直す時間を稼ぐことが出来た。
「弓兵と魔術師部隊は城壁の上へ! 剣士は一部を城壁の上に残し、それ以外は南門周囲に展開! 次の敵の侵攻でハルトさんの罠が尽きるそうだ! それまでに急ぎ各々の持ち場に付け!」
ウルブスの城壁付近では現在ウルブス駐屯の名もない兵士が前線の指揮をし、彼が部隊の配置を再度練り直している。これも春人がC4で時間を稼いだお陰だろう。
「来たぞー! 敵の第二波だ! 今度は後方に魔術師の姿も確認した!」
敵の進攻を観測していた兵士がベルカ帝国の次の進攻を知らせてきた。
一息つく間もなくベルカ帝国は次の兵を向かわせた。今度は魔術師による支援攻撃を混ぜて攻撃してくるようだ。
「総員手筈通りにやれ! そうすればこの戦い、俺達の勝利で終わらせられるぞ! 絶対に敵を城壁に近づけさせるな!」
指揮官の号令で次の侵攻を迎え撃つべく南門周辺では部隊の展開をしていた。彼等は春人抜きで敵の第二波を迎え撃とうとしていた。
その間春人は何をしていたかというと……
「やはりスティンガーではロックオン出来ないか。まあワイバーンと航空機では発する熱量が違うから当たり前か。それにしても右目が見えないだけでこんなに不便だとはな」
FIM-92スティンガーを担いで竜騎兵狩りをしようとしたが、このミサイルがワイバーンをロックオン出来なかったからMT内へと戻していた。
スティンガーミサイルとは赤外線誘導式の個人携帯用地対空ミサイルである。これは相手から発せられる熱赤外線をロックオンして使用される地対空ミサイルである。高性能なセンサーを搭載しているから発射後の操作が不要な撃ちっ放し能力を持っている。
「よくよく考えたら竜に向けてミサイルがロックオンする事自体が無理な話だな。シモノフでは市街地戦に不向きだし、散弾ではまともに威力を発揮しないし……」
色々と思考したうえで春人は一つの結論に至った。
「ここはやはり、いつも通りの戦い方で行くか」
結局は高周波ブレードと銃という戦法に行き着いた。ただ先日のようにP90ではなく、その左手には別の銃が握られていた。
「コイツが効くかどうか分からんが……まあいい、行くか」
そして春人は今だ混戦中のウルブス市街上空で繰り広げられているワイバーン同士の空中戦へと参加しに行った。最初の目標は近くを低空飛行しているベルカ帝国の竜騎兵からだ。
――お前たちの敵はここにもいるぞ?
まずは狙いを定めた敵相手に空の竜騎兵や地上の弓兵や魔術師だけが敵だけではないと教えてやると春人は考えていた。
そして強化外骨格の能力でもって一気に跳躍し、狙っていたワイバーンへと飛び乗った。
「な!? なんだキサマは!」
いきなり飛び乗ってきた春人にベルカ帝国の竜騎兵は驚愕していた。この時に彼はあまりの出来事に飛び乗ってきた春人を振り落とそうというところまで思考が回らなかった。
「どうも初めましてベルカの兵士よ、ウルブスへようこそ。早速で悪いが君にはご退場いただこう」
春人に襲われたベルカの竜騎士が最後に見たのは、自身に向かって剣を振りかざしてきた右目に眼帯をした隻眼の男の姿だった。
竜騎兵の首を刎ねた春人はそのまま死体をワイバーンの背から蹴り落し、ワイバーンを操ろうと手綱を握った。だが本来の騎手ではない春人が手綱を握ったからか、ワイバーンはギャアギャアと鳴き声を上げながら暴れ出した。
「このヤロウ、暴れるんじゃねえ!」
暴れるワイバーンに春人はつい声を荒げてしまったが、そんな事はお構いなしにワイバーンは暴れ続け、春人を振り落した。
上手いこと屋根の上に受け身を取って着地した春人に向かって、暴れたままのワイバーンが春人を食い千切ろうとその口を大きく開いて一目散に飛んできた。
「羽の生えたトカゲ風情が舐めやがって!」
今に食らいつこうとしているワイバーンを睨みつける様にして春人は地面に片膝を着きながら、手にしている大型の銃をそちらに向けた。
今春人がワイバーンに向けて構えている銃はXM25というグレネードランチャーである。40mmグレネード弾が主流の中、25mmグレネード弾という珍しい口径のグレネード弾を使用している。FCS(火器管制装置)が組み込まれており目標との距離を計測して、目標周辺や目標上空で起爆させる空中炸裂モードに対応している。他の山なりに撃ち出すグレネードランチャーと違い、これは弾が真っ直ぐ飛んでいくので普通の銃のように構えて撃つことが出来る。
「散弾の威力がイマイチならば榴弾はどうだ?」
そう言いながら春人は銃の引き金を引き、ワイバーンに向けて榴弾を放った。放たれた榴弾は真っ直ぐ飛び、春人に向かってくるワイバーンの鼻先に命中し、内部の信管を作動させて弾頭が即座に起爆した。その爆発はワイバーンの頭部を覆うように発生し、爆発が収まった後には爆発で首から先が吹き飛んだワイバーンの死体がスピードを殺しきれずに春人に向かって来て、そして春人の手前でそれは止まった。
今のワイバーンを殺して、次の目標を物色していると春人の傍に一匹のワイバーンが下りてきた。それは味方のトリスタニア王国の者だった。
「おいアンタ! こっちは俺達と地上の弓兵と魔術師で十分間に合っている。アンタはこれから来る敵に備えていろ!」
ワイバーンに騎乗している兵士が空の敵の相手は間に合っていると春人に言い、春人に次の攻撃に備えろと言ってきた。彼は間に合っている、自分達だけでどうにか出来ると言ってはいるが見る者が見れば押されておるのは彼等の方なのは明らかである。
「手こずっているようだったからな、俺が手を貸してやろう。このままではいずれお前達の方が負けるぞ?」
「くっ……。分かった、だが足手まといにはなるなよ?」
誰かの手を借りるのは彼のプライド的に許さなかったのだろうが、このままでは負けると春人に言われてしぶしぶ春人の手を借りることにしたようだ。彼にも正直この戦況は自分たちは今も敵に押されていて、劣勢であることは理解していた。それでもまだ彼は春人に自分たちの邪魔をしないでくれと言っていた。
それだけ言ってまた飛び立っていった彼を春人はただ鼻で笑って見送った。
「邪魔はしないさ。だがそちらも俺の邪魔だけはするなよ? 誤射で無駄撃ちだけはしたくないからな」
まるで悪人のような笑みを浮かべながら春人は残りの竜騎兵を掃討するべく、行動を開始した。
それからは空の移動する敵に対する射撃練習にしかならなかった。どれだけ離れていてもXM25の射程内であれば確実に一撃で葬る事の出来るワイバーンなど脅威にすらならない。
それでも普通のライフル弾を通さないようなワイバーンの硬い外皮をどうするかが今後の課題である。対物ライフル弾や榴弾で現在は対処しているが、いずれはワイバーンの死体でどの銃弾が通用するか検証しなければと考えていた。
右目が見えないのに余計な事を考えながら銃を撃っていると春人は狙いを外してしまった。まだ隻眼での戦闘、特に遠距離射撃には慣れていないようだ。
「クソ! 外したか。まあ後の事は後で考えよう。今は目の前の戦闘に集中しなければな」
思考を切り替えて春人は現在の戦闘に集中するようにした。そして今外した弾でちょうど残弾が無くなっていた。それからマガジンの交換をしてXM25の火器管制装置(FCS)から射撃設定の変更をした。
「信管の設定を空中炸裂モードに変更、これなら今の俺でもまともに狙えるだろう」
そして再度銃を構えなおして次の標的へと狙いを定めた。
「さてと、左目だけの射撃にもさっさと慣れないとな。それにしても左手で大型の銃を構えると何だか変な感じだな。まあ、それも慣れか……。よし、いくか」
次は外さないとばかりに意気込んで攻撃を再開した。
設定を変えてから発砲した榴弾は狙った敵ワイバーンの至近距離で起爆し、ワイバーンに飛行継続不可能な程の損傷を与えた。それよりも同じく爆風に晒された竜騎兵は全身を爆発に巻き込まれ、一瞬にして物言わぬ肉片へと姿を変えた。墜落したワイバーンは既に虫の息で、誰かが止めを刺さずともいずれは死ぬ状態だった。
これならば隻眼になってしまった自分でも問題なく空の敵を撃つことが出来るだろうとふんだ春人は更に攻撃を続けた。
ウルブス市内の建物の屋根の上をあちこち走り回り、見つけた敵に狙いを定めて引き金を引き、ベルカ帝国のワイバーンを竜騎兵諸共撃ち落とし、残弾が無くなればすぐにリロードして攻撃の手を緩めることはなかった。
途中、味方の竜騎兵や地上の兵士たちが春人に対して何か言っていたようだが、今の春人の耳には入っていかなかった。それが春人に対する声援だったか自分たちの獲物を取られたことに対する文句だったかは分からない。
そして気が付けば空にはベルカ帝国の竜騎兵の姿が見当たらなくなっていた。ウルブスの制空権は完全にトリスタニア王国側が掌握した。
「竜騎兵はこれでおおかた片付けたかな? さてと、ボチボチ前線に戻るか」
周囲に敵の姿が無くなり、制空権を抑えた事を確認した春人はまた城壁の方へと戻ろうとしていた。そして一歩足を進めた瞬間に南門の方角から爆発音が連続して起こり、それと同時に黒煙が上がり始めた。
ウルブスの南門周辺から大爆発が起こった時、ウルブスの上空にこの世界には存在しない、人工物が飛行していた。
「依頼主の依頼変更によりウルブス攻略部隊の手助けをした訳ですが、ここからの爆撃だけでいいんですか隊長?」
機内の開かれた後部ハッチから下を覗き込むようにしながらある男が自身の隊長に確認を取っていた。
「問題ない。城壁手前に設置された地雷原の除去、それだけしてやれば後は下の連中が勝手に攻めて前線を押し上げるだろう。それにしても下の部隊の第一波を吹き飛ばしたもの……お前はあれは何だか見当は付いているか?」
「その様子だと隊長は見当が付いているようですね。自分はあの爆発はC4によるものだと思います。その後の小規模なものについては対人地雷の類のものでしょう」
「やはりお前もそう思うか……。やはり例の”銃使い”は敵として我々の前に立ちはだかるようだ」
彼等の会話から察するとウルブスでのあの爆発は彼等が爆撃したことによって発生したもののようだ。この爆撃によって春人達が仕掛けたクレイモアは全て除去されてしまった。
「さて、俺達の仕事は一先ず終わった。後の侵攻はベルカの兵士に任せよう。上空に居る俺達は一時待機だ。それと、先行してウルブスに入ったアイツに指示を出しておいておくれ。ウルブスの中枢を抑えに行けと」
上空から地上に居る彼等死神部隊の他の仲間に指示が出された。ウルブス防衛の要、ウルブス駐屯地の指揮所を制圧しに行くようにと。
流石の春人達も既にウルブス市内に敵が潜入しているとは思ってもいなかった。それが死神部隊のメンバーだという事すら想定外の事だった。
それに春人はこの世界に自分が指揮していたクラン、死神部隊のメンバーが居る事さえ知らなかった。春人の望まぬ最悪の再会、そして異世界でかつての死神部隊隊長、船坂春人と現死神部隊との交戦が始まるまであと数十分……
「……さてと、隊長から指示が下りてきたことだし私もそろそろ行動を開始するとしますか」
いつもは住人の活気ある声で賑わっているウルブスの市内だが今は住んでいる住人も既に避難所に避難している為閑散としている。居るのは防衛戦に参加している兵士や冒険者、それと傭兵くらいだろう。
その中の大通りから一つ逸れた路地に一人の男が春人と同じようにMTの画面を開いて佇んでいた。
その格好は短く切った白髪の上からハンチング帽を被り、無地のシャツの上からサスペンダーでズボンを吊り下げている、一見どこの街にでもいる一般市民のような恰好をしていた。ただ一つ、スリングを使って銃を吊り下げていること以外は……
「さあ、仕事の時間だ」
彼は被っている帽子を整えながら路地から大通りへと出て来た。その目の前には二人の兵士が何か話し合っていた。
「ん? なんだオッサン、どうした? もしかして避難しそこなったのか?」
話し合ってた二人の内の一人が潜入していた死神部隊の彼の存在に気が付き、話しかけてきた。兵士から見たら彼は避難に遅れたこの街の住人のように見えたようだ。
「まあそんなところだね。それよりも部隊の本部の場所を教えてはもらえないだろうか? 緊急事態なのでね? 急ぎ伝えなければいけない事が有るんだ」
彼は終始にこやかしながらトリスタニア王国の兵士にウルブス防衛の指揮所の場所を尋ねた。
「ああ、それならこの通りを少し行ってから……」
そして尋ねられたからか、聞かれた兵士は指揮所の場所を簡単に答えてしまった。そして不審に思ったのかもう一人の方の兵士が彼の事を怪しく思いながら声を掛けてきた。
「オイ待て、緊急の要件なら俺達で伝言を預かってそれから上に伝えておくが、いったい何事なんだ? それに手にしているそれはなんだ?」
そして彼は不敵な笑みを浮かべながらこう答えた。
「あぁこれかい? これは銃と言ってね、君達を殺すための便利な道具だよ」
二人の兵士は目の前の男が敵であった事に気が付きすぐに剣を抜いたが、それよりも早く死神部隊の彼はスリングから下げていた銃を二人に向け、セミオートで数発ずつ銃弾を撃ち込んだ。
「遅ぉい!」
勝負は一瞬で方が付いた。銃弾は二人の心臓や頭部などの致命傷や即死しやすい部分に撃ち込まれ、その場に倒れた。これだけでも十分なのに彼は倒れた二人の頭部に更に銃を撃ち、確実に殺害した。
「まったく……君達は警戒心というものが無いのかね? だからこうやって簡単に敵に侵入されるんだ。まあ、死んだ君達に言ってもどうしようもないがね。さて、場所も分かった事だし、そろそろ行くか」
そして彼は駐屯地の指揮所へとゆっくりと足を進めた。




