42:決戦! ウルブス防衛線戦 2
アリシアと一度別れた春人は避難していく人の波を避ける為、装備を強化外骨格へと変更して建物の屋根の上を一目散に進んでいた。
強化外骨格で強化された身体能力は地上から2,3階はある周囲の建物の屋根の上に飛び乗る事は容易である。
目的地の城壁の上まではあと少し……
「空はベルカのワイバーンばかりだ。こっちの竜騎兵は何をしているんだ?」
敵に制空権を押さえられそうになっている中、未だ上がってこないトリスタニア王国側の竜騎兵に文句を言っている。言ったところで状況が変わる事など無いが。
予想していたよりも早い攻撃に、迎え撃つ準備が完全に整っていないウルブスはなす術なく一方的に攻撃を受けている。ベルカ帝国に完全に奇襲攻撃をされた形だ。まだ竜騎兵による上空からの攻撃のみなので地上からの侵攻はまだなのだろう。
これならばまだこちらの被害は最小限に食い止めることが出来る。
「まだだ、まだ間に合う! ……くそっ! こんな時に!」
屋根伝いに走る春人を見つけたベルカ帝国の竜騎兵が仲間を引き連れて上空から襲ってきた。その数、総数3匹、この世界基準なら兵士一人に対してやり過ぎな戦力だが、たまたま相手が近代兵器を使う春人だったからやり過ぎという事は無いだろう。
「いたぞ! 敵だ!」
そう叫んだ敵兵士は自身が騎乗しているワイバーンに攻撃の指示を出している。そして口を大きく開いたワイバーンは今にも炎を吐き出そうとしている。
「悪いがお前たちと遊んでるヒマなんて無いんだ。蹂躙させてもらうぞ!」
春人は普段はあまり使うことの無いショットガンを装備してワイバーンの開かれた口の中に照準を合わせる。正直ワイバーンの外皮がどれだけ硬いのか見当がつかないが、口の中や翼膜など明らかに薄い場所を狙えば倒せるだろう。
以前の戦闘ではシモノフ対戦車ライフルで外皮を貫いて殺したが、そもそもシモノフは狙撃銃、市街地で、ましてや近距離での戦闘では全長2メートル前後あるこの銃では使い勝手が悪い。
今回春人が使ったショットガンはレミントンM1100。レミントン・アームズ社が開発したセミオートマチック式のショットガンである。装弾数は8発。
「もらった!」
何度もトリガーを素早く引き、銃口が大きくブレるのを抑えながら全弾撃ち込む。そのショットガンから撃ち出された弾は小さな鉛の粒を沢山吐き出す散弾ではなく、一つの大きな鉛の粒を使用するスラッグ弾だった。大型の獣でもこの弾を受ければひとたまりもない。
最初のターゲットは正面に位置している、口を大きく開けて今にでも炎を吐こうとしているワイバーンだ。小銃よりも大きな銃声を響かせながら撃ち出されたスラッグ弾は狙った所と寸分の狂いもなくワイバーンの口の中に吸い込まれていく。
命中したスラッグ弾は口腔内の上顎からそのままワイバーンの脳幹を撃ち抜いて即死させ、上に乗せた竜騎兵諸共地面へときりもみ落下していった。高所から落とされた竜騎兵は仮に生きていてもトリスタニア王国陣営の人間に止めを刺されるか、捕虜にされるかの未来しか残っていないだろう。
「さあさあ、よそ見をしている余裕なんてないぞ?」
一瞬の内に撃ち落とされた仲間の姿に唖然としているところに春人は更に追撃を掛けようとした。だが今M1100は弾切れである。再度射撃を行うにはリロードするしかない。銃の知識が有る人間ならば敵がリロード動作に入った際に生まれる攻撃の好機を見逃すはずはない。だが、春人の相手は異世界人、そんな知識は有るはずもない。
本来ショットガンはリロードに時間が掛かる銃であるが、春人はスピードローダーと呼ばれる道具でその隙を最小限にまで抑えている。これは筒状の道具で内部に弾薬が込められ、ショットガンの装弾口にあてがい、備え付けの取っ手を銃側に押し込むことにより一気に装弾が出来る便利な道具である。
「さあ、第二ラウンドだ、今度はコイツを試させてもらうよ」
唖然としたままの残りの竜騎兵はワイバーンをその場で滞空させたままでいたので春人の良い的だった。今度の弾は散弾を使用してワイバーンの試しに翼膜を狙って撃ってみる。
銃口から広がるようにして撃ち出された散弾は簡単にワイバーンの翼膜に穴を幾つも明けた。
幾つもの穴を空けられたワイバーンは徐々に飛行能力を失い最初のワイバーンと同じように墜落していった。もう一つ残った方の竜騎兵はワイバーンに一旦春人から距離を取るように指示を出して、そのまま一時撤退していこうとした。
「逃げられると思うなよ?」
もう一度M1100にスラッグ弾を装填し、騎乗している竜騎兵に狙いを定めて引き金を引いた。そしてスラッグ弾は竜騎兵が着ている鎧ごと心臓を貫通してその胸の所に大穴を開けた。それから続けざまにワイバーンの胴体に向けて残りの弾を撃ち込んだ。大口径の銃弾であればワイバーンの外皮を撃ち抜くことが出来るらしく、最後のスラッグ弾が命中した頃にはワイバーンは内臓の損傷が激しいのか、銃創から大量に出血しながら建物の屋根に墜落していった。ワイバーンの重量に耐えられなかった建物はワイバーンを乗せたまま崩れていった。
あの虫の息では春人が止めを刺しに行かなくともすぐに息絶えるだろう。
「ワイバーン相手にどの銃弾が効くか後で検証しないとな」
M1100を肩に担ぐようにしながら春人は地面に落ちていったワイバーンを眺めながら考え事をしていた。暫し思考してから春人はまた足を進めた。
それから春人はベルカ帝国の竜騎兵の相手をすることなく、ただひたすら城壁へと足を進める。それでもどうしても進行方向上に展開する邪魔な竜騎兵には「邪魔だ、そこをどけ」と言わんばかりにワイバーンではなく上の竜騎兵にむけてスラッグ弾で狙撃をして排除していった。
そして城壁が見えてきたところでトリスタニア王国側の竜騎兵がようやく登場し、春人の頭上を何匹もの味方のワイバーンが飛んでいった。その姿は非常に頼もしく見え、壮観な光景だった。
「まったく……遅かったじゃないか」
春人の独り言をよそに、彼等は一気に散会し、ベルカ帝国の竜騎兵と空中戦を繰り広げた。相手のワイバーンの首筋を噛み千切ったり、お互いに火球を吐き出し合ったり、騎乗している竜騎兵が手にしている大型の剣やハルバートなどの様々な武器を使ったりなど戦闘方法は多岐にわたっていた。
――ほんと、ファンタジーな光景だな。
春人がそう思っていると1匹のワイバーンが横に滞空してきた。
「貴公がハルトだな!? すまない、待たせたな! 後の空の敵は我々に任せろ!」
それだけを言うとその竜騎兵は春人の返事を聞く間もなく一気にワイバーンを飛翔していった。そして竜同士の空中戦に加わっていった。
空の戦力は練度だけで言えばトリスタニア王国の方が優勢の様だが、圧倒的に数の多いベルカ帝国にいずれは押されるだろう。その前にベルカ帝国の空中戦力を完全に無力化できるかが問題だろうが、空の敵はいったん味方の竜騎兵に任せて春人は先を急ぐ。
それからようやく城壁の上段へとたどり着いた春人だが、それよりも先にここに到着していた者達がこれから来る地上戦力との戦闘に備えていた。
「アンタはこの間闘技場で戦ってた……確かハルトだっけか? 遅かったじゃないか?」
「ああ、待たせたな。状況は?」
先に到着していた者の一部は春人の事を知っているようだ。それは先日の模擬戦を観戦していた人間だからだろう。その彼から現在の状況を聞き出す。
「そこから外の平原を見てみろ。あの数では流石に勝てるか分からない。それにしても本当にこっちから攻めて来るなんてな」
そう言われたので春人は城壁から顔を出して外の光景を確認した。そこに見えたのは、春人達が設置した地雷原のその先に集結しているベルカ帝国の大軍団の姿だった。
時を同じく、ベルカ帝国陣営内にて……
「先行した竜騎兵は現在ウルブス市街地を攻撃中。先程敵の竜騎兵が上がったと観測班より報告が有りましたが、数で上をいく我々の敵ではないでしょう。これで我々の侵攻作戦は成功したと言っても過言ではないですな」
陣地内の中央に位置する場所で部隊の指揮官と参謀と思われる者達が話し合いをしている。この部隊は麗人の騎士が指揮をする、先日壊滅したギルバート侯爵の部隊とは別のもう一つの部隊だった。
「ああ、このままいけば1日とかからずにウルブスを陥落させることが出来るだろう。だが気掛かりもある」
「それは一体なんでありましょうか」
「それは先日ギルバート侯爵の部隊をたった一人で壊滅させた人間の存在だ。もしあれが敵に居たら我々の損害も計り知れない。あぁそれとだ、本国から連絡があった。皇帝陛下直属の部隊が援軍として我々と戦線を共にするそうだ」
それを聞いていた参謀とは違う、文官風の男が皇帝陛下直属という言葉に反応した。
「コーネリア様、それはもしかして今、本国内にて噂されている例の部隊、ということでしょうか?」
その質問に指揮官コーネリアは即答した。
「援軍がその噂の部隊かどうかは私は知らん。だが、この状況になっても顔を出さないとはロクな部隊でない事に違いはないだろう。皇帝陛下直属だろうが今居ない戦力などあてにするな!」
ここに居るコーネリア以下全ての将兵はその援軍が自分達よりもずっと強力な力を持っている部隊だという事は知らなかった。
「それよりも地上部隊の第一波の編成はどうなっている?」
未だに現れない部隊をあてにしていないコーネリアは自身の大部隊だけで侵攻させるために再度部隊編成の確認を行った。それに参謀がすかさず返答する。
「はっ! 第一波は傭兵団を中心とした混成部隊を編成してあります! 御命令が有ればすぐに進軍させることが出来ます!」
「本国を出る前に雇ったゴロツキ共は所詮使い捨てか……。まあいい、侵攻部隊第一波に通達! 第一波は予定通りに侵攻を開始せよ!」
それから傭兵団を中心とした混成部隊は指示通りにウルブスに向けて侵攻を開始した。
その手前に地雷原が有るとも知らずに……
インフルエンザから復帰してすぐに仕事が忙しくなり、これから筆を取る時間が中々取れなくなりそうなので今日以降しばらくの間は週一、もしくは不定期になりそうです。
また仕事が安定してきたらいつも通りのペースで更新していきます。
読者の皆様を私の都合に付き合わせてしまい申し訳ありませんがよろしくお願いします。




