41:決戦! ウルブス防衛線戦 1
待ち望んでいない日ほどそれは早くやってくる。それは異世界でも変わりはない。
日が昇り始めて朝日がウルブスの街並みを照らし始めた頃にそれは起こった。
「うぅー、明け方の見張り程ヒマな事ってないよな」
「まったくだ。早く交代の見張りが来ないもんかな」
「さっさと交代して熱いコーヒーが飲みたいぜ」
ウルブスを囲う城壁の上で見張りの兵士が暇そうに雑談をしながら次の交代の兵士を待っていた。ここは街の南部に位置する場所の城壁の上である。この上から市内を見ればあちこちにバリケードが設置され、城壁の上にはバリスタや投石機、それに盾を大きくしたような防壁が置かれている。いつのもウルブスとは見た目も雰囲気も大きく変わっていた。
そこに交代の兵士がやって来た。
「見張り番ご苦労! 交代の時間だ、後は我々が受け持つ」
城壁に上がるための階段から現れた数人の兵士のうちの一人が交代の時間だと告げた。これでずっと見張り番をしていた彼等の仕事は終わった。後は兵舎に戻って各々ゆっくり休むだけだ、そう思っていた。直後に発せられる一言を聞くまでは……
「おい、アレはなんだ?」
交代で来た兵士の内の一人が明け方の太陽の光に照らされながら、遠くから飛来するいくつかの物体を発見しその方角を指さしている。
「ん? なんだ、何事だ?」
交代するはずだった兵士は首から下げていた双眼鏡を覗き込み、先程の兵士が指さした方を凝視する。すると彼は思わず声が漏れてしまった。
「あ……あぁ……」
「どうした? 何が見えたんだ?」
「敵だ、ベルカが攻めてきた……敵襲……敵襲だ!」
彼が見たのはウルブスに飛来するベルカ帝国所属の翼竜、ワイバーンに搭乗した竜騎兵の部隊にその下には地面を覆いつくさんばかりの大軍団だった。
その一言が事態を一変させた。皮肉にもこれがトリスタニア王国、ベルカ帝国両国の戦争開始の合図になってしまった。
見張り番が侵攻してくるベルカ帝国の大軍団を発見してから数十分後、春人達がお世話になっている月下亭にて春人が寝泊まりしている部屋の扉を思い切り叩く音で春人は目を覚ました。
「お客様、フナサカ様! お目覚めください!」
未だ思い瞼を擦りながら春人は部屋の扉を開けた。そこには血相を変えた支配人が立っていた。
「何ですか? こんな朝早くに?」
「緊急事態です。ベルカ帝国が攻めてきました! 早く避難を!」
その一言で春人は目を覚ました。
「マズい……アリシア起きろ!」
状況を察した春人はアリシアをたたき起こす。それにアリシアは少々文句を言いたそうに目を覚ました。
「なんですかハルトさん、こんな朝早くに。もう少しだけ寝かせてくださいよ」
「緊急事態だ! ベルカが攻めてきた! いつまでも寝てられないぞ?」
いつもと違う春人の雰囲気とベルカ帝国が攻めてきたとの一言でアリシアも事態の緊急性を察した。
「クソっ! もう少し先だと思っていたが連中、足を速めたな? まさか偵察が気付かれたか!?」
壁を叩きながら予想していたよりも早く攻めてきたベルカ帝国に文句を言っている春人だが、こうしていても事態が変わることはない。そんな春人にアリシアは声を掛けた。
「ハルトさん、今はそうするよりもやる事が有るんじゃないですか?」
「そうだったな……先ずは外に出よう。それよりもその格好じゃ色々とマズい。これを上から着ておけ」
流石に寝巻きのままで外に出す訳にはいかないと思った春人は以前アリシアに着せた春人の死神部隊仕様のローブをその上から着せた。これで人目を気にせずにいられるだろう。だが、こんな事態では他人の格好を気にしている余裕はないが……
「支配人さんも早く他の従業員を連れて早く避難を! 避難場所については聞いていますね? 俺達に構わず先に避難してください!」
「はい、承知しています。では、申し訳ありませんが一足お先に行かせていただきます」
支配人はその言葉を最後に残っている他の従業員を引き連れて避難していった。
「さて、俺達も動こう。俺はこのまま城壁の方へ向かうがアリシアは?」
「私は一度父様の所に行きます。きっと今は駐屯地の指揮所に居るはずですから」
春人はアリシアに先程の宿の従業員と同じように避難してほしかったが、それを言ったところでアリシアは言う事を聞いてくれることはない事を春人は知っている。だから春人は折れて、アリシアの意見を尊重した。
こういう時のアリシアは絶対に折れることはない。
「分かった、とりあえず今は外に出よう」
それから二人は宿の従業員たちより一足遅れて外に出た。
外では住人が着の身着のまま大慌てで避難している。その中には寝間着姿のままで外に出てきている住人もいる。彼等は軽くパニックを起こしているようだが、住人を避難先に誘導している兵士の尽力によってまだ大混乱にまでは至っていない。
そんな彼等の頭上を1匹のワイバーンが地表すれすれの所を飛んでいき、その先で口から火を吹いていた。その先には避難している住人たちの姿があった。
攻撃を受けた住人たちは悲鳴を上げながら抵抗すら出来ずに殺された。
「ヤロウ、見境なしかよ」
その光景を見ていた春人は怒りをあらわにしていた。女子供、人や亜人種関係なく無慈悲に焼き殺していくその光景は春人にウェアウルフの村での出来事を思い出させるのには容易だった。
今住人を虐殺したワイバーンに向けて数多の弓矢や魔術師による魔法によって生み出された火球が一斉に飛んでいき、騎乗していたベルカ帝国の竜騎兵諸共倒していた。
ワイバーンといっても竜の中では弱い方である。このように人の手で倒せないという事はない。中には人の手ではどうしようもないほどの強力な力を持った竜がいるらしいが……
「アリシア、ちょっといいか」
ベルカ帝国のワイバーンが撃ち落とされるのを見届けた春人はアリシアの後頭部に手を回し、彼女の額に自分の額をくっつけた。こんな状況でいきなり何を始めるんだとアリシアは困惑している。
「いいか、よく聞いてくれ。絶対に死ぬなよ。今度は俺から言わせてもらう。約束だ」
今までは同じような約束をアリシアからしていたが、今度は春人が同じように約束してくれるようお願いした。
「分かりました、ハルトさんも死なないでください」
「ああ、俺も死なない。じゃあ、また後で会おう!」
言われなくとも春人は戦場で死ぬつもりは毛頭ない。それから春人は城壁へ、アリシアは父親が居る駐屯地の指揮所にそれぞれ向かって行った。
インフルエンザでダウンしているときに無理して書くものじゃないですね…
まともに頭が働かない。




