40:戦闘準備 3
ハインツとの意見交換会を終えた春人は現在ウルブスの南門でハインツが選んでくれた人員を待っていた。
春人が設置するという罠だがこの世界基準で考えられる物ではなく、勿論これは現代兵器である。設置する物に関しては既にMTのショップから購入して装備品リストの中に収納してある。
「おーい、アンタがハルトか? ハインツ隊長に言われて来たが人手が必要なんだって? 俺達で良ければ手を貸してやるよ。それにしてもアンタ、本当に変わった格好をしているなぁ」
人混みの中から春人の元にやって来た兵士が声を掛けてきた。その数全部で10人、これだけいれば何とかなるだろう。
そしてやはりこの世界の住人からしたら春人が現在着ている迷彩服がとても不思議な物に見えるのだろう。
「ええ、自分が春人で間違いないです。集まっていただき感謝します」
集まってくれた兵士に礼を言いつつ、今から行う作業内容について彼等に簡単に説明してから街の外に向かった。
「なあハルトよぉ、さっきから等間隔にコレを埋めているが、いったいこれは何なんだ? まるで粘土みたいな触り心地だなコレ」
現在街の城壁からかなり離れた外では春人の指揮のもと、春人の所持品の装備を等間隔に埋める作業をしている。
ウルブスの南門の外は広大な草原が広がっている。そこからベルカ帝国の在る東の方へと目を向けると森林が生い茂り、その先には山がそびえたっている。そこの峠を越えた先にアリシアやハインツの故郷だった村があった。先日の襲撃によって今では既に廃墟になってしまっている。
「ああコレですか? これはC4っていう爆薬です。コイツの詳細を教えることは出来ませんが、威力に関してはお墨付きです」
春人はC4爆薬を手に持って簡単に説明する。
C4爆薬、プラスチック爆弾の一種であるこの爆弾はアメリカ軍をはじめ、世界各国の軍隊で使用されている爆弾である。威力もあり形状が粘土状であるため運搬も容易なことから使用用途は多岐にわたる。これに衝撃を与えても暴発はせず、耐久性、信頼性、安全性は高い。火の中に入れてもただ燃えるだけだ。これを起爆させるためには専用の起爆装置や雷管が必要になってくる。
「へぇ、こんなの見た目で強力な武器か……アンタの見た目といいコイツといい、本当に変わってるな。なあ、試しにこいつを爆発させてくれないか? な、一つでいいからさ」
春人にC4について聞いてきた兵士がいきなり突拍子もない事をお願いしてきた。流石にこのお願いを飲むことは出来ない。
「さすがにそれは出来ないです。まずコイツの威力がたった一つでもあなた方が予想しているよりもはるかに強力なんですよ。それに今起爆したら街の人に迷惑をかけてしまいますよ。これの威力は実戦までのお楽しみってことで」
春人に爆破することを拒否されてしまった兵士は渋々納得して作業に戻っていった。これだけ言えば今後戦闘前に爆破してくれなどと言ったお願いをしてくる者はきっといないだろう。
それから日が沈む前にC4を設置する作業は終わった。ここで一日作業していて春人はC4に設置上限数が無い事に気が付いた。これで心置きなくこれでもかと罠を設置することができる。
「皆さん今日の作業はこれで終了です。すみませんが明日以降ももう少しだけお付き合い願います」
作業終了の合図に手を貸してくれた兵士からは「お疲れー」や「明日もよろしくなー」などとお互いをねぎらいながら街へと帰っていく。それから彼等は酒場でどんちゃん騒ぎをするのだがこれはいつものことだ。
酒場へ向かう彼等とは別れて春人はお世話になっている宿へと帰った。そこには先にアリシアが帰ってきていた。
先日からアリシアは別の所で城壁の上などで作業している人達用に差し入れの軽食を作ったりなど後方で市内の女性たちと働いていた。彼女たちが差し入れを作ってくれているから作業に当たる者達のモチベーションが下がることはない。その中でもアリシアの作った物は何故か人気がある事は春人は知らない。
そんなこんなで宿に戻った二人は今日一日あったことなどを話し合いながら夜が更けていった。
そして翌日以降も春人の指揮のもと、同じような作業を繰り返し行っている。ただ、今日設置している物はC4爆薬ではなかった。
「おはようございます。今日は昨日と違う、このクレイモアという物の設置をお願いします。これは昨日皆さんに設置してもらった物よりもはるかに危険な物なので今から話す注意事項をよく聞いてから作業にあたってくっださい」
それから続けてクレイモアについての特性と扱う際の注意事項を説明した。クレイモアを設置する際に正面に伸びたワイヤーには決して触れない事、正面には絶対に立たない事、その他設置する際の向きなどの詳細を話し終わると春人を筆頭に作業が開始された。
クレイモア、正式名称M18クレイモア地雷。特徴ある湾曲した箱状の外観に700個の鉄球を内包している。起爆すると内包された鉄球が扇状に発射され、設置位置の前面の広範囲に対して強い殺傷能力を持っている。なお余談だがネット上では形が似ているので漢字の『只』と表現されることがある。
昨日設置したC4の埋まったエリアからだんだん街の方へと戻るようにしてクレイモア地雷を設置していく。足元が草で生い茂っているので起爆用のワイヤーを隠すのにちょうどよかった。
「なあちょっとだけいいか?」
そう声を掛けてきたのは昨日C4を起爆してくれと頼んできた彼だった。
「なんです?」
また何か突拍子もない事を言われるんじゃないかと身構えたがそんなことは無く、真面目な質問をしてきた。
「いやさ、俺も団長から聞いてはいるんだけどよぉ、ベルカのヤロウが南側から攻めて来るっていうじゃないか。疑問に思ってるのは本当に奴らはこっちから来るのかってことだ。もし別の方角から来たらせっかく置いたこの罠が無駄になっちまうんじゃないか?」
彼の質問はもっともだ。本当にこの方角から来なければせっかくのC4やクレイモアが無駄になってしまう。だがそんな無駄な事をする春人ではない。
「確かにその疑問はもっともですね。でも連中は必ずこの方角から来ますよ。ベルカ帝国の位置はここから見て東の位置にありますよね。向こうから見たらここに来るのに丘陵地帯を抜け、峠を越えて、そこから更に森を抜けなければなりません。それには時間が掛かかり、物資の消費も激しくなる。それを避ける為にあえてそこを大きく迂回して平坦な場所を移動してくる。だから連中はこっちから来る、というのが俺の予測ですけどね。こんなんでどうでしょう?」
「いいや、それだけ聞ければ十分納得できる。ありがとう、じゃあ俺は作業に戻るよ」
そしてこの答えに納得した彼はクレイモア設置に戻っていった。
「ふぅ、実際はどうなることやら」
先程の兵士の背中を見送った春人はひとり言を呟いた。
彼にはそう言ったが本当にこっちから襲来してくるのか春人でも分からない。もしかしたら山岳部を迂回してからルートを変更してくるかもしれない。この後どうなるか分からないので春人は誰かに質問されても一応は答えるが、その答えに自信はなかった。
だけど偵察に出てくれたこの国の竜騎兵、そして侵攻ルートを予測してくれたその他の将兵を信じて今は出来る事だけに専念する。
それから翌日も同じようにC4やクレイモアを設置作業を行い、その日に春人が予定していたエリアの罠の設置作業が終わった。
その全体像はMTのマップに表示された。以前この世界に来た当初はまともに使えなかったマップ機能だが、今では無人偵察機プレデターでの上空からの情報を基に周囲のマップを作製することによってこの機能がようやく使えるようになった。それを知ったのは本当に最近の話であるが。
そのマップに表示された罠……というよりも地雷原と表現した方が正しいこの場所には大量のC4、クレイモア地雷が設置されている。それはもし春人と同じミリオタやFPSプレイヤーが見たら思わず眉をひそめたくなる程にであった。完全にこれはやり過ぎである。
ちなみにここでもし他のルートから侵攻されたら春人はこれらの購入に消費したポイントが全て無駄になってしまう。そうなれば完全に大赤字である。そうならないよう春人は密かに願っていた。
この地雷原の光景を見て春人はつい思ったことを呟いていた。
「これで鉄条網でも有れば最高なんだけどな」
この日を境にウルブスの南側の門は封鎖され、誰一人そこから出ることはなくなった。
ウルブス混成防衛部隊とベルカ帝国の侵攻軍との決戦まであと数日……




