03:冒険者登録完了!
酒場の中はたくさんの人で賑わっている。時間もお昼を回っているから当たり前か。これで人の少ない寂しい酒場なら余り面白くないだろう。
辺りを見渡すと昼間から酒を飲む人、仲間と談笑しながら食事を楽しむ人、独りで黙々と食べる人、実に様々だ。酒場とは言っても昼間は食堂も兼ねているのだろう。
「いらっしゃい、適当に空いてる所に座って」
ここの店員らしき女性が声をかけてきた。確かに腹は減ってきたが、まず先にギルドで登録することを優先しよう。それからお昼ご飯にしてもいいだろう。
「すまないが、俺は冒険者ギルドに用があって来たんだ。ここで間違いないだろうか?」
「あぁ、それなら奥に受付があるからそっちだね。せっかくの昼時なんだ、用が済んだら飯でも食っていっておくれよ」
やはりここで間違いなかったようだ。さっさと登録を済ませて食事にしよう。
彼女に礼を言い、店の奥の方に行く。店の一角に元の世界の銀行のような受付がある。その側では冒険者であろう鎧を纏った人達が壁に貼り出されたクエスト内容が書かれているであろう羊皮紙を物色している。どうやらあそこで間違いないらしい。
「すまない、冒険者ギルドはここで間違いないだろうか?」
受付のカウンター越しに声を掛けてみる。すると、奥から若い女性が出てきた。
「こんにちは。今日はどういったご用件ですか?」
ギルドの受付嬢が若いのは今まで読んだことのある異世界転移ものの小説でもお約束だったが、ここでもそれは他と変わらないのか。
「冒険者登録をしたいのだが、ここで大丈夫だろうか?」
最低限の仕事さえしてもらえれば、余り年齢は気にしない。
「かしこまりました。それではこちらの書類に記入してください。記入していただいた内容は後で変更はできないので誤字に注意してください」
差し出された羊皮紙を見て、今になって大変なことを思い出した。何故かこの世界の言葉は話せても文字は読めなかった。流石にこの書類を日本語で書いたらマズイだろうか? それ以前にどの項目に何を書けばいいのかも分からない。あ、そういえば羊皮紙なんて初めて見た。
「あのー? 大丈夫ですか? 何か分からない事があったら何でも聞いてください」
渡りに船とは正にこの事だろう。
「非常に申し訳ないがこの国の言葉は話せても文字が書けないんだ。すまないが代筆を頼めないだろうか?」
「大丈夫ですよ。ギルドに登録される方で文字が書けない方もたまにいますのでこちらで代筆します。必要事項をお聞きしますのでお答えください」
彼女に登録に必要な項目を記入してもらう。ここで躓いては今後の活動に支障をきたしかねない。彼女に代筆を任せて正解だったな。
「それではお名前は?」
「ハルト・フナサカだ」
「年齢は?」
「24」
「出身地は?」
「日本」
「使用魔法は?」
「魔法が使えるか分からないから、そこは無しで」
「魔法が使えるか分からない、ですか? そしたらそこに置いてある水晶に手をかざしてみてください。それで魔法が使えるか分かりますから」
言われた通りに手をかざしてみたが、何もおこらない。
「……何も反応しないなんて珍しいですね。普通の人でも多少は水晶が光って反応するんですけど」
どうやらこの世界で俺は魔法は使えないらしい。まあ銃が有れば問題ないだろう。
「そうすると、使う武器はどうします? 見たところ腰に下げているナイフ位しかないように見えますけど」
「あぁ、武器なら心配要らない。俺には銃があるからな」
そう言って背中に背負っている89式を示す。
「ジュウですか……初めて見る武器ですね。何かのマジックアイテムかと思いました。分かりました、使用武器はジュウと書いておきます」
どんどん 書類に記入していく。彼女が書く文字はやはり見たことがない。少なくとも地球上の言語ではない事だけは分かる。
「出来ました。それでは最後にもう一度先程の水晶に手をかざしてください」
言われた通りにもう一度水晶に手をかざす。するとさっきは何も反応しなかった水晶が光だした。光る水晶の中から手のひらサイズのカードの様なものが出てきた。
どういう原理で出てくるのかは分からないが、たぶんこれも魔法の一種なのだろう。
「これで冒険者登録は完了です。今出てきたギルドカードに先程登録した内容が記載されているので確認してください。それと、このカードは冒険者としての身分証になるので絶対に無くさないでください」
カードを見るとそこに
名前:ハルト・フナサカ
出身:日本
ランク:E
とだけ書かれている。他には何も書かれていない。
「続けて冒険者ギルドのシステムについて説明させていただきます。まずはクエストの受け方ですが、あちらのクエストボードに貼られている中から選んでいただいてこちらの受付に持ってきてください。その時に先程のカードも一緒に提示してください。
まず冒険者のランクですがE~Aまであり、ランクが高くなる程より難易度の高いクエストが受けられます。最初は皆さんEランクからスタートしていき、ギルドが昇格するに問題ないと判断したら昇格試験を受けられるようになりますので無事試験を合格したら上のランクに昇格出来ます。
次に報酬ですが、収穫系のクエストならそのまま受付に持ってきてもらえればそれでクエストは完了しますが、討伐系のクエストは討伐した相手の一部を剥ぎ取って持ってきてもらえれば大丈夫です。
最後に税金についてですが、冒険者の方はクエストの報酬の一部から税金が差し引かれます。クエストボードに貼られたクエストは既に本来の報酬から税金が差し引かれた額で掲載していますのでこれ以上は差し引かれないのでご安心ください。クエストを一定期間受注しない場合にも税金は発生しますので、注意してください。
説明は以上ですが、何か分からないことはありますか?」
「いや、大丈夫だ」
これだけ説明を聞けば相当な馬鹿でない限り十分理解出来るだろう。そういえば税金はちゃんと取られるんだな。報酬額から既に差し引かれているから後から税金の手続きをする手間が省けていいな。
「それではご武運を」
そう言って軽く一礼をしながら彼女は見送ってくれる。それでは本格的に異世界で生活するために気合いを入れていこう。
でもクエストを受けるその前に腹ごしらえといこう。腹が減ってはなんとやらと昔から言われているからな。せっかく貰った金貨を使わないのは勿体ない。ここで有効活用させてもらおう。
そして酒場の空いてる席に座った。