38:戦闘準備 1
春人とユーリとの模擬戦から数日経った。あれから街の中の空気がガラッと変わった。
街の中で数日前にはあまり見かけなかった傭兵を多数見かけるようになり、他の街の冒険者もここウルブスに集結している。
彼等がやってきた理由は様々だ。これから攻めて来るベルカ帝国に備えて招集された者達や戦いの匂いに釣られてやって来たもの、それこそ集まった人の数だけ理由が様々だった。正規の兵士以外の者の目的は主に金銭や戦利品が目当てのようだが……
そんな傭兵や冒険者の彼等は自分たちの武器の手入れや備品の補充などをあちこちの武具店などで行っている。こんなに多くの彼等が集まっても喧嘩騒ぎなどのトラブルは今のところ発生していないからまだ街の保安は保たれているようだ。
こんな状況に街の住人もいつもと違う空気を感じ取っていた。国境に一番近い街に住んでいるからか、隣国が攻めて来るんじゃないかと思っている住人も少なくない。そのため住人の一部は他の街や王都に避難を始め、避難できない住人はどうしたものかとずっと考えてるようだ。
そんな戦う術を持たない人々を守るためにここの兵士や他所から集まった冒険者や傭兵が戦おうとしている。それは勿論春人だって同じだ。
いま、ウルブス市内は緊張状態にある。
「うーむ、やはり89式は喪失したか……流石にイベントで配布した銃はショップで買えないか。強化外骨格装備の時はP90を使用するとして、それ以外の時はどの銃をメインにするか……」
現在春人は一人、作業の合間を見て冒険者ギルドのある酒場で昼食をそこそこに取りつつ、MTと絶賛にらめっこ中である。
画面には大量の銃がこれでもかと表示されている。
先日の戦闘で破壊された89式こと89式小銃だが、これはCF時代にイベント戦で上位入賞者にのみ配布された銃で、ショップで購入することは出来ない。なので破壊されれば二度と手に入れることは出来ない。ゲーム中ならまだイベントがもう一度開催される可能性があるが、この異世界ではそうもいかない。
「よう、ハルト。さっきからそのよくわかんないモノをずっと見てるけど、何してんだ?」
ずっと画面を見つめてる春人に声を掛けてきたのは先日模擬戦で戦った相手のユーリだった。彼はあの模擬戦以降、よく春人に絡んでくるようになった。模擬戦時にユーリが春人から感じた恐怖など今は微塵も感じていないようだ。
模擬戦での傷はあの後ベアトリスの治癒魔法によりまるで何事も無かったかのように回復している。
「なんだ、ユーリか。これは別に何でもない、気にするな」
「なんだとはつれないな。それにいつもの企業秘密ってやつか。それと今日はいつもの狼の嬢ちゃんは一緒じゃないのか? それよりもここ、邪魔するぞ」
そしてユーリは春人が返事をする前に春人の向かいの席に座った。それからすぐに彼は適当にメニューの中から昼食を注文している。
「今日はアリシアは他で用事があるから出払っている。それよりも何だ? 席なら他にも空いてるのにわざわざ俺の目の前に座らなくてもいいんじゃないか?」
他人から見ればユーリにつれない態度をとる春人だが、ここでタメ口で話せる数少ない相手なのでこれが二人にとっての普段の会話だ。
それとユーリはやはり春人と同年代だった。
「別に他でもよかったんだが、アンタを見かけたからな。そうか、あの子はアリシアっていうんだな。あの子、結構カワイイよな」
その一言を発したユーリに向けて春人は鋭い視線を送った。
「悪いがあの子は誰かに譲るつもりはない。連れが欲しけりゃ他を当たるんだな」
アリシアとは例の一件以降、二人の距離はグッと縮まり、二人の関係を知る人からすればいずれ二人は結婚するんじゃないかと思わせるほどだ。
実際春人もこの世界に呼び出した者からの使命とやらを終えてからアリシアとはそうなってもいいなと思う時があった。
「冗談だ、さすがの俺も人の連れを奪うような真似なんかしないさ。そんな事したらウチのお師匠に殺されちまうよ。それよりもだ、聞いたか? 敵がどっから攻めて来るかって情報を」
もう偵察に出ている竜騎兵が敵の侵攻部隊を発見したのだろうか? そう疑問に思った春人だがあの会議から既に数日経過している。だからもう見つけてもおかしくはないだろう。
「もう見つけたか? 思ったよりも早いな。それで、どこから連中は攻めて来るんだ?」
もしこれ以上時間が掛かるようであれば春人は自分で無人偵察機プレデターを召喚して偵察しようとしたがそれは必要なくなったようだ。
「南だ。連中は山岳部を大きく迂回してここの南側から侵攻してくるみたいだ。まあ、まだ確証は持てない噂話だがな。詳細を聞きたいなら駐屯部隊本部まで行ってみることだな」
最初に春人が接敵した部隊はあのまま村を蹂躙し、山岳部を越え、そこからウルブスに侵攻するようなルートで移動していたが、今度のは山岳部を迂回して進行するみたいだ。
そこから予想されることは一つ。それは以前よりも進行してくる部隊の人数が多いという事だ。
「そうか……ならばさっさとここに到達するまでに迎え撃つための作業を終わらせるか」
そしてMTの画面を消して席を立とうとした。
「おぉい、ちょっと待ってくれよ! 俺の飯がまだ来てないのにもう行っちゃうのかよ! 少しは俺の話し相手になってくれよ」
自分が頼んだ料理が来る前に席を立とうとした春人をユーリは呼び止める。はじめから彼は春人に話し相手になってほしかったみたいだ。
「はぁ、仕方ない。少しは付き合ってやるよ。それを済ませたら俺は一度本部に行くからな」
「さすが! そうこなくっちゃ!」
それからほどなくしてユーリの頼んだ料理は到着し、彼は春人と他愛のない談笑を楽しみつつ昼食を済ませた。
その間春人は終始MTを操作し続け、先の戦闘で消耗した弾薬をショップから購入し補給をしていた。消耗した弾薬が思いのほか多く、戦闘で獲得したポイントの殆どが弾薬補給の際に消費して残ったのはかろうじて黒字になるかという位しか残らなかった。
「あぁ、やっぱりミニガンの無駄撃ちがここで響いたか~」
目の前の収支結果に頭を抱えている春人であった。




