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36:模擬戦 1

 昨日の作戦会議から一夜明けてウルブスの街に新しい朝がやってきた。街の住人が働き始めると時間と同時に駐屯兵とウルブスに拠点を置く傭兵団、及び手の空いている冒険者が街の防衛の準備を始めようとしている。


 そんな中、市内にある闘技場のような場所に春人の姿があった。なんでこんな施設が市内にあるのかアリシアに聞いても彼女も知らないそうだ。


 そんな春人の顔は何だかゲッソリとしている。


 それに引き換え、隣に居るアリシアは顔はとてもツヤツヤしていた。


「ねぇハルトさん、顔色があまりよろしくないですけど大丈夫ですか?」


「これくらい、どうってことは無いさ」


 昨晩の事など無かったかのように普段通りにしているアリシアと比べ、春人はとてもくたびれていた。


「さてと、もう時間だ。さっさと行って、さっさと終わらせてくるよ」


 そうアリシアに告げると春人はひとり、闘技場内へと入っていく。


「どうか気を付けて」


 そう春人の背中に向かって応援した。それに答えるかのように春人は片手を上げて答える。


 闘技場の中央に向かって続く通路の途中で春人はハインツと出会った。


「どうもおはようございます」


「おはよう。昨日はよく眠れ……ていないようだね」


 春人の顔色を見たハインツが心配してきた。流石に春人もここで本当の事を答える訳に行かない。


「あれから部屋に戻って今後の事についてどうするか考えていたら眠れなくて、ですね」


 すぐ頭に浮かんだ言葉でその場を何とか凌いだ。昨晩の事がハインツに知られれば自身の命が危うい。


「そうか、色々と面倒を掛けてすまないね」


「いえ、これも何かの縁でこうなったのでしょう。それよりもこの後の予定がぎっしり詰まってるんでさっさと終わらせてきますよ」


 ハインツと話しながら歩いて行くと先が開けた場所に出た。そこは周囲を丸く囲んだコロシアムのような場所で、その上段には観戦席のような物が設置されている。


 設置されているだけならまだいい。そう空席だけならば何も言う事はない。


 周りの席を見れば人で埋め尽くされている。その中をよく見るとアリシアの姿もある。彼女だけが居るのならばまだ理解できる。だが、他の人は恰好を見ると此処の兵士や傭兵、それに冒険者が観戦に来ている。


 春人が現れたら一気に歓声が上がった。


「まったく、これから忙しくなるのに連中ときたら……どこで噂を聞きつけたんだ?」


 ハインツが春人の横で頭を抱えている。それに春人は苦笑いするしかない。


 そうこうしているうちに向こう側から昨日の傭兵が横に白髪の老兵と共に現れた。


「よう、逃げずに来たな」


 相変わらず向こうの傭兵は感じが悪かった。


「逃げる必要がどこにある?」


 春人も負けじとドスの効いた声で答える。もはや不良の喧嘩の様だ。


「ハルト君、さすがにそれは大人げないと思うが……」


 そんな春人をハインツはたしなめた。流石に今のは春人もやり過ぎたと思い、深呼吸をして気を落ち着かせる。


 一方向こうの傭兵も付き添いの老兵に一発殴られてしめられていた。随分と向こうは過激だ。


 そしてその老兵が春人の元へとやってきた。


「お主がハルト殿で相違ないな? 此度はウチの馬鹿との模擬戦を受け入れてくれて感謝する。それがしはグレイズ傭兵団団長のグレイズである。あ奴はウチの傭兵団の内の一人であるユーリ。昨日の会議は某の体調が優れなくて代わりにあ奴に出てもらったたのだが、見ての通りあ奴はどうも喧嘩っ早くての。面倒ごとを起こして申し訳ない。


 お主の実力は某の耳にも入ってきておる。だがあ奴はそれを中々認めようとしない。だからお主の力でもってあ奴に分からせてやってほしい」


 あの傭兵の名はユーリというらしい。彼の上司であるこの老兵、グレイズからも喧嘩っ早いと評価されている。その点には春人も同じ感想である。


 昨日の会議の時といい、今の対応といい、その言動を見ているとまさしくその通りであろう。


 もし会議にこのグレイズが参加していたらきっとこんな面倒ごとにはならなかっただろうと春人は思い、嘆きたかったがそうもいかない。


「まあ確かに彼の性格には難がありそうですね。心中お察しします。とりあえず彼には実力の差っていうのを体に教えてあげます」


 グレイズの心中を察しつつも、目の前の傭兵ユーリに対して彼我の力の差がどれだけあるのか教えてやると宣言した。


「ではハルト殿、よろしく頼むぞ」


 そしてグレイズはハインツと二三言葉を交わしてから二人はコロシアムから出ていき、ここに残ったのは春人とユーリの二人である。


「ウチのお師匠と何を話したかは知らないが、さっさと始めようじゃないか。それと先に言っておく、俺はかーなーり強いぞ?」


 ユーリは直ぐに模擬戦を始めたそうにしている。更に自分は強いぞとまで宣言している。それが本物なのか、もしくはただの口先だけなのかは知らないが。


「そんなに強いか? それは楽しみだな。だったら俺からもひとつ教えておこう。お前は俺の足元にも及ばない」


 流石に今の春人は落ち着き、冷静になっている。もうあのような大人げない醜態を晒すようなことはない。今はもう戦闘状態に気持ちを切り替えている。


 二人が睨みを利かせている中、先程出ていったハインツとグレイズは観客席に現れた。


「これより、冒険者ハルトとグレイズ傭兵団所属ユーリとの模擬戦を執り行う。ルールは相手を殺さない事、使用する武器や魔法は問わない。相手が降伏したらその時点で模擬戦を終了とする。また、我らが戦闘中に止めに入った場合も同じく終了である。制限時間は30分! 自分の全てを出し切って戦う事!


 最後に観客席に居る全員に言っておく! これから忙しくなるのだからこれが終わり次第さっさと作業に掛かる事、以上だ!」


 ハインツは高らかと模擬戦開始の宣言をしている。その際にルールの説明している。


「それでは……模擬戦開始!」


――さて、アイツには格の違いという奴を教えてやるか。

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