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35:作戦会議 2

「まずは既にベルカの兵士と交戦したハルト君から彼等の印象を教えてくれないか?」


 ハインツは初めに敵の印象を春人に聞いた。交戦経験があるからこそ、そこから分かる事もあるだろうとハインツは思っていた。


「連中の印象か? そうだな……俺が感じた第一印象は最悪の一言だ。連中は女子供でも見境なく殺す。連中は兵士なんかとは呼べない。ただの殺戮者だ」


 春人は身振り手振りを交えて感じた事を話した。


「できれば丘陵で戦った時のことを聞きたいのだが……」


 ハインツが聞きたかったことは春人が話した事とは違っていたようだ。そうとは知らずに春人は頭を抱え、ため息を漏らしながら「そうならそうと初めから言ってくれよ」と誰にも聞こえないような声で嘆いていた。


 そして一息ついてから改めて戦場で感じたことを話した。


「なら改めて話そう。俺が思う限りだが、連中はあれだけの規模でも統制はキチンと取れていた。だが真っ先に俺が連中の総大将を殺したからもし仮に奴が生きていたらどう部隊が動いていたかは分からない。


 後はそうだな……部隊構成だが俺が見たのは普通に剣や槍、弓を持った兵士に騎兵隊。それに魔術師が何人かいたな。あれだけの規模の内、魔術師が何人いるのかは知らないがな。あぁそうだ、それと竜とそれに乗る騎士、さしずめ竜騎兵とでも呼ぼうか。後は各部隊の指揮官と部隊維持の後方要員くらいだろう。


 これでだいたいは話したが何か聞きたい事は?」


 ここで春人は思い出せるだけのことは話したつもりである。だが相手の本気の時の戦闘力がどれだけあるのかは春人も知らない。相手が本気を出す前に春人が近代兵器で問答無用に蹂躙していたから知らないのも当たり前だろう。


 そしてここまで話して、ベルカの兵士は自分たちが勝てないと感じた相手には背中を見せてきたことを話すのを忘れていた。


 春人の話が終わると一人の青年が手を上げた。


「失礼ハルトさん。質問してもいいですか?」


「アンタは?」


「スミマセン、名乗るのが遅れました。自分はマルクです。ここの兵団で弓兵隊を預からせてもらってます。それで質問なのですが敵は、ベルカ帝国はここに攻めてくると思いますか?」


 マルクと名乗った彼は心配そうに訊ねた。こんなので本当に一部隊を預かっているのか気になったが春人は質問の内容に答えた。


「間違いなく連中はここを狙って侵攻してくるだろう。その地図を見たところトリスタニア王国の隣国にベルカ帝国があるのだろう? そしてここがベルカ帝国との国境から一番近い街、そこを狙って攻めるのは当たり前だろう。きっと今頃部隊を整えて再侵攻の準備をしているんじゃないか?」


 彼にはそう答えた。それを聞いていた他の参加者は春人と同じようなことを薄々と考えていたからあまり驚くような反応は見せなかった。


 ただマルクだけはすごく驚いていた。


「お前がそう心配するのも無理はない。ついこの間隊長に任命されてから幾らもしない内に大規模な戦闘が起ころうとしているのだからな。今からそんなに心配していたら実戦では真っ先に死ぬぞ?」


 マルクの隣に立っていた老兵が彼の内心を見破り、すかさず彼をフォローした。


「さて、次の侵攻でこのウルブスが戦場になるのは確実だろう。だがいつ敵が侵攻してくる分からんから急ぎ準備を整えなくてはならないだろう。その辺はハインツも、そして一同も重々理解しているだろう」


 老兵の言葉に一同は頷く。


 それから会議は議題が色々と上がり、どんどん進行していった。やれ人員はどうするのだとか、街の住人をどこに避難させるかなど。城壁の上に設置する防衛設備を設置する人員をどう確保するかなども議題に上がった。


 人員に関してはウルブスを拠点にしている傭兵や冒険者に緊急招集をかけることで何とかすることで話はまとまった。設備の設置などには大工に声を掛け、手を借りるそうだ。


 だが街の全体を覆う城壁の全てに防衛設備を設置するとなるとどうしても時間が足らないだろうという意見が上がった。


 そこで春人がふと思ったことを口にした。


「どこから来るか分からないなら偵察を出せばいいだろう。例えば空からとか」


 それにハインツが反応した。


「その手があったか。すっかり忘れていたよ。その辺は私がここの竜騎兵の者に伝えておこう。本当はそこの部隊長も参加予定だっのだが生憎昨日から王都から招集が掛かって留守なのでな」


 その間は偵察が出来ないのではないかと思った春人はハインツに疑問に思ったことを聞いた。


「それだと王都から戻るまで偵察人員はどうするんです? さいあく俺がどうにかできなくもないですが……」


「いや、その辺は大丈夫だ。別にそこの隊長が戻らなくても私から他の竜騎兵に説明すれば彼等も納得するだろう。それでも人手が足りない時には君の手も借りさせてもらうけどね」


 それからも色々と話は進んで、明日から本格的に防衛の準備が始まるそうだ。そしてこの会議が終わったのは日も傾いてきた夕方のことだった。


 そして余談だが春人に突っかかてきた傭兵との模擬戦だが、その日時が明日の朝になったそうな。それ以外は時間が取れないからとの事だ。


 その事に対して春人はただ「クソめんどくせぇ」と愚痴をこぼしていた。






 その晩、春人とアリシアはハインツの計らいによりウルブス市内の高級宿「月下亭」でしばらくお世話になる事になった。


 そこで発生する費用は全て駐屯兵団が持ってくれるとの事だから彼等に感謝してもしきれない。


「さて明日から忙しくなるぞ。アリシアも今晩は早く休んだ方がいいぞ」


 イタリア国家憲兵隊の制服からいつもの普段着に着替えながらアリシアに話しかけ。


 アリシアと上手い事同室にしてもらった春人だった。ハインツは頑なに二人を同室にしないように部下に指示していたようだが、そこから何か察したその部下の人が二人を同室にした。彼には後で何か礼をしなければと思っていた。


「そうですね、そうします……」


 昼間とは何か違うアリシアの雰囲気に春人は気が付いた。


「……なあアリシア、ここにはもう俺達しかいない。いつまでも無理をする必要はないよ?」


 その一言でアリシアの内側で何かが切れたのか、急に泣き叫びながら春人にしがみついた。


「あぁーーっ!! 私が無力だったからみんな死んじゃって、ハルトさんにもそんな大怪我を負わせてこれじゃあ私、ただの邪魔者じゃないですか! みんなのために何も出来ていない。ハルトさんみたいに強くないから誰も守れなかった! みんな死んじゃった! 友達も、私の事を家族同然に接してくれたご近所さんも、私を慕ってくれた子達もみんなみんないなくなった。もう私には何も残ってない!」


 アリシアは泣き叫びながらずっと我慢してきたことを全て吐き出した。それを春人はただ黙ってアリシアの背中に両腕を回した。


「大丈夫だ……大丈夫だよ。あれからずっと気持ちを吐き出すのを我慢していたんだね。辛かったね、悲しかったね。でももういいんだよ。ここにはもう俺とアリシアとの二人しかいないんだ、我慢する事なんてないよ。よく頑張ったね」


 春人が頭を撫でながら優しく声を掛けた。最後の一言がずっと気持ちを押し殺してきた彼女の感情をせき止めていたものを一気に崩した。


 それからアリシアは春人の腕の中で泣き叫んだ。ただひたすら泣いた。ずっと今まで通りに振舞っていたから余計に吐き出したい事もあるのだろう。


 その合間合間に泣き声に混じって春人の名を呼んでいた。その度に春人は「大丈夫」と囁いている。


 そう、彼女にとって今、一番の支えになっているのが春人である。


 彼が居るから今こうしてアリシアが気持ちを吐き出すことが出来ている。もし春人が居なければずっと前にきっと彼女は挫けていただろう。それだけアリシアの中で春人という存在が大きなものだからだ。


 それから暫くしてアリシアは落ち着き、泣き止んだ。


「ハルトさんにみっともない姿を見せてしまいましたね」


 春人の顔を見上げながらそう言ったアリシアの顔はクシャクシャになって、目元が腫れている。


「そんなことはないさ。俺は君がどんなになっても受け止めるよ。それにしても今日はよく泣いたね。さ、これで涙を拭くよ」


 春人は部屋に備えてあるタオルを手にしてアリシアの顔を拭いた。


「もうっ! 茶化さないでください!」


 これだけ元気が出ればもう大丈夫だろう。だから春人はある事をアリシアに言った。


「ははっ、それだけの元気が有ればもう安心だ。……アリシア、俺と一つだけ約束をしてくれないか?」


「約束……ですか?」


「ああ、そうだ。なにも難しい事じゃない。君には俺がいる。そして俺には君がいる。だから何も残ってないなんてそんな悲しい事、言わないでくれよ。な、難しくないだろ? 約束してくれるな?」


 それが春人がしてほしい約束だった。それに対してアリシアは間髪入れずに答えた。


「はいっ!」


 それは数時間前に告白してきた時と同じような最高にいい笑顔をしていた。


「さ、もう今日は遅い。明日に備えてもう休もう」


「そうですね。ねぇハルトさん、私からお願いがあるんです。もし嫌じゃなければ今晩、一緒のベッドで寝てもいいですか?」


 流石に春人もこれには驚いた。アリシアがこんなに積極的になるとは予想すらしていなかった。だから春人は返事を返すことが出来なかった。


 不意打ちを食らった春人だったが、自分が大切に思っている者からの誘いを無下にするような男ではない。だからこそアリシアを抱き上げることでその答えとした。所謂お姫様抱っこと言う奴だ。


「え? ちょっとハルトさん?」


 困惑するアリシアに無言で答える。春人が向かう先にはベッドがある。


 据え膳食わぬはなんとやら……。これが春人の答えだった。


 そこから先は皆まで言うまい。ただ一つ春人が思ったことがある。それは……


 ものスゴくモフモフだった。

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