34:作戦会議 1
共同墓地での葬儀に最後まで参列することなく途中で退席した春人は駐屯地まで戻ってきた。その門で守衛していた衛兵にアリシアを任せ、応接室に案内してもらった。彼女には春人の要件が済むまでそこで待っていてもらう。
そして春人は衛兵とは別の文官風の兵士が迎えに来て、彼の案内により施設内で一番大きな部屋の前まで案内された。そこでこれからのウルブスの防衛についての作戦会議が行われているとのことだ。
扉の向こうから重々しい空気を感じる。そんな部屋の扉をノックした。
「空いている。入ってきたまえ」
中から入室の許可が下りたため、春人は目の前の大きな扉を開いた。
「……失礼します」
室内は中央に大きなテーブルが配置され、その上にはウルブスを中心に見た地図が置かれていた。そのテーブルを囲うように沢山の人が立っていた。 そして室内は重苦く、緊張した空気が支配している。
そんな空気な中で扉を開いた人物、つまり春人の方へ室内にいた者達は一斉に顔を向けた。
会議に参加しているメンバーはハインツやベアトリス・エインズワース、その他に各部署の責任者や将校のような人物、それと何人かの傭兵が参加していた。その参加している人達の殆どと春人は初対面である。
「誰だお前は? ここはお前のようなよそ者が来ていい所じゃない。さっさと失せろ」
参加者の一人である長髪を後ろで束ねた見た目が優男の青年が高圧的な態度で春人の目の前に腕を組みながら立ちはだかり、出ていくよう告げた。見た目の彼の年齢は春人と同年齢くらいだった。
「俺はハインツさんにここに来るよう言われたから来たまでだ。それにアンタに出ていけと言われる筋合いはないはずだが?」
少し癇に障った春人もつい大人げなく殺気を相手にぶつけながら反論した。そして春人の強い殺気をあてられた彼は一瞬たじろいだ。それでも負けじと春人に殺気を送り返している。
「二人ともそこまでにしてくれ」
あわや一触即発になりそうな状況を制したのはハインツだった。彼が止めてくれなければどちらかが先に手を出していただろう。
「そこの彼を呼んだのは私だ。そう無下に扱わないでいただきたい。さて、ハルト君も彼等に自己紹介をしてくれると助かる」
ハインツに促され、春人は会議に参加している彼等に自己紹介を始める。
「船坂春人、こちらの国ではハルト・フナサカだな。春人と呼んでくれ。今は一介の冒険者をしている……以上だ。それとハインツさん、なんで俺をこの場に呼んだんです?」
挨拶も簡潔に済まし、腕を組みながら壁際の適当なところで背中を預けた。そして春人に突っかかってきた傭兵も軽く舌打ちをしながらテーブルの方へと戻っていった。
「君を呼んだのは他でもない。君はつい先日ベルカ帝国と戦った。その時の状況を教えてもらいたい。それに君の出身はトリスタニア王国ともベルカ帝国とも違う第三国の人間だ。そこで兵役に就いていたそうじゃないか。だからこそ君から助言を貰いたい。
さて、これで今回の主要メンバーがそろった訳だ。では改めて今後のウルブス防衛についての作戦会議を始める」
ハインツが会議開始の号令を発した。そこで初めて春人は自分が呼ばれた理由が分かった。
ハインツが春人の出身がどちらの国とも違うと言った時に春人は自分が異世界出身でることを伏せてくれているのだと思った。もしかしたらハインツはそのことを忘れている可能性もあるが、実際はどうかは分からない。
「始める前にちょっとだけいいかハインツさんよ」
さっそく声を上げたのは先程の傭兵だった。
「俺はアンタが呼んだっていうそこの隻眼の野郎、ハルトといったか? そいつの実力が分からない以上俺は信用できないな。例えアンタのお墨付きでもな。そいつは一体どれくらいの実力を持っているのか教えてほしいものだが?」
さっそく彼はハインツに対し春人が信用ならないと言い出した。確かに味方がどれだけの能力を持っているのか把握できていないといざ実際の戦場で使い物になるかどうか分からないからだろう。
もし優秀な人材だと思っていた人物が実戦ではただのお荷物だったとしたら目も当てられない。
「確かに君の言う通りですね。ならば今のうちに私が知ってる彼の実力の一部をお話ししましょう。ハルト君いいかね?」
確認のためハインツは春人に承諾を求めた。それに春人はうなずいて答えた。
「では彼の許可もおりたのでお話ししましょう。ですがこれは我々の方で知っている情報だけですのでその辺はご理解ください。さて彼の実力ですが、先日私の故郷の村がベルカ帝国の兵によって壊滅させられたのは皆さんご存知ですね? その際に敵を退け、更に追撃を掛けて大隊規模の部隊を全滅させたのはそこの彼です。それも一晩で、しかも単身でね」
ベアトリスとこの傭兵を除く他の一同は驚愕の声を上げた。たった一人で数千人は居たであろう兵士を数時間で全滅まで追い込むような人間など聞いたことがないからだ。
それこそ規格外――イレギュラー――もいいところだ。
「仮にそれが本当だとしてその証拠は有るのか?」
証拠が無ければ信じるつもりはない。そう言いたげな傭兵に向かって春人が口を開いた。
「証拠も何も俺が生きてここに居る。それにハインツさんもあの場でベルカの連中の死体を確認したはずだ。そうですよね?」
「ああ、君を回収した時にベルカ帝国軍の兵の死体を見てきた。それだけでは不十分かね?」
二人して証拠を突き付けたが、まだこの傭兵は納得したようには見えない。実際にこれだけで納得しろといっても難しい所ではあるが……
「はぁ仕方ない、ではこの件については後日模擬戦の場を設ける。そこで相手の実力をその身をもって知れば納得できるだろう。それでいいな?」
「俺はそれでもいいぜ。そこの隻眼の野郎と手合わせして実力を計れるならそれに越したことはない」
傭兵の彼はその提案を了承した。
「ハルト君も申し訳ないがそれでいいかな?」
「いいでしょう。俺もそれで異議はないです」
春人はとても面倒だとは思ったが、相手が自分の実力を知りたいというのなら相手をしてやろう。そう内心では思っていた。
「決まったな。ではこの件はいったん終了だ、詳細はまた後で決める。話がそれてしまったが本題に戻そう。これより今後のウルブス防衛について話し合おうじゃないか」
そして今度こそは本題を進めようとハインツは努力していた。
そんなハインツを見ていた春人は数時間前に娘の事をあれだけ気にしていた男と本当に同一人物なのかと不思議に感じていた。




