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29:世界の裏側

 春人がベルカ帝国軍と交戦し、その後到着したトリスタニア王国軍ウルブス駐屯部隊に回収されてから数時間が経過した。


 既に壊滅したベルカ帝国軍の野営拠点とその周囲には春人に殺された兵士の死体しか残っていない。その中で動いている人物が何人も現れた。彼らは皆、全身を覆うかのような黒く、大きな丈のローブを身に纏い、その姿はとても不気味なものであった。


 その見た目は春人が死神部隊の装備で身に纏っている黒いローブに酷似している。そして何よりも彼らが手にしている武器は本来この世界には存在しない物を手にしている。それは形は違えど春人と同じ銃であった。


 そんな彼らは幾つかのグループに別れ、周囲の捜索を始めた。


『こちら野営拠点外周捜索班、こっちも死体の山だ。しかしそっちの死体よりも見た目がヒデェ、まるでミンチの様だ』


 彼らが装備している長い棒のようなものが付いた、長方形の箱のような道具から声がする。それを手に取り会話を始めた。


「了解、そちらも生存者は確認できないようだな? それよりもこちらの捜索対象は確認できたか?」


『いや、確認できない。どうやらここには居なかったようだ』


「了解した、あれが国境を越えた所までは我々も確認している。この国の人間と合流する前に確保しなければいけない。そちらはそのまま捜索を続行しろ」


『了解、こちらも捜索を続行し終了次第そちらと合流する。それと再度確認なんだが、捜索対象を発見したらどうするんだ?』


「対象を確認し次第、対象を確保する。それが不可能ならば射殺しても構わない。以上だ、オーヴァー」


 そして会話を終了した。この道具は遠くの者と会話する事の出来る道具の様だ。


 会話が終了したのを見計らって一人の人間が近づいてきた。


「隊長、こちらに来てください。見ていただきたいものがあります」


「ああ、今行く」


 隊長と呼んだ者を連れてある死体の前に連れて行く。


「見てくださいこの死体。幾つもの刺突跡があるように見えますが、これはどう見てもレイピアなどで出来た跡ではないです。我々と同じ銃によって出来たものだと推測します」


 それと同じタイミングで先程の道具からまたも声がした。


『隊長、こちらで面白いもを発見しました。ミンチの死体の他に斬殺死体。ここまではここでも有りそうな死体ですが、これだけは今まで見たことが無い。これは明らかに銃殺されて出来た死体です』


「ああ、こちらでも同じような死体を確認した。そっちの捜索を終了しこちらに合流しろ」


 この隊長と呼ばれたものは何かに気が付いたのか、一度別れたグループをこちらに呼び戻した。そのグループが戻ってくるまでに更に他の者から報告が入る。


「こちらもある程度捜索が終わりました。この部隊を指揮していたギルバート卿、および鋼鉄のアームストロングの異名を持つゲオルグ・アームストロングの死体を確認しました。他、竜騎兵や魔術師、通常の兵士などの死体を複数確認、ほぼ全滅です。それとやはり我々が探している人物はここには来ていないようです」


 これで彼等がギルバート侯爵が率いるこの部隊が全滅したことを知る。だがそんな事はどうでもいいようで彼等の本来の目的である誰かを探すことの方が重要なようだ。


「ところでUAVからの映像には映らないのか?」


「ダメです、全然映りません。奴ら結界を張りながら上手く移動しているようです」


「そうか……分かった、今は別班と合流するのを待とう」


 それからすぐに別れた他のグループが戻ってきた。


「野営拠点外周捜索班、ただいま戻りました」


 これで黒いローブを纏った人間が全員集合した。その光景はとても異様な光景である。


「これで全員だな。総員よく聞け! ここに我々が追っている目標、ベルカ帝国第3皇女とその一行はここには居ない。いいか、あの一行がトリスタニア王国に亡命される前に何としても確保するんだ!」


 隊長の号令を周囲の者達は無言のまま聞き入れ、すぐに移動を開始しようと動き始めた。だがそれを制止するかのように隊長は更に話を続ける。


「まあ待て、話はまだ終わってない。我々の受けた任務と同等以上の重要性を持った事を今のうちに話しておこう。諸君らはここの死体を見て気が付いた者も居るだろう。明らかにここの死体には銃創……銃で撃たれた後の有る死体が幾つも有る。それが何を意味するかは分かるな? この世界に俺達以外に転移者がまた現れたという事だ。今度はここにいる我々の他に銃を使える者……”銃使い”だ。だが、どれだけの人数がこちらに来たのかは分からない。一人かもしれないし複数人かもしれない」


 それは衝撃の一言だった。そこで一人の者が発言の許可を求めた。


「隊長、発言の許可を」


「いいだろう、許可しよう」


「ありがとうございます。では他に現れたその”銃使い”はどうするおつもりで? 現状、このまま接触すれば敵として対峙することになりそうですが?」


「確かにこのまま接触すれば敵として対峙するだろう。だがそれは俺の本望ではない。可能であれば仲間として引き入れたいところではある。もしそれが出来なければ……また殺すだけだ」


 その言葉には敵対すればその相手を確実に殺すという殺意がこもっていた。


「他に質問は? 無ければ移動開始だ……”死神部隊”出撃」


 その号令と共に全身黒ずくめの一行は動き始めた。


「それにしても……この殺し方、まさかアイツがこの世界に飛ばされてきた訳じゃないよな?」


 隊長と呼ばれた者が発した小さな言葉は誰にも聞こえることは無かった。


 春人の知らないところでもう一つの「死神部隊」を名乗る一団が行動を始めた。それはこの世界に騒乱を引き起こす存在なのかは今は誰にも分からない……






 時を同じくして春人に殺されず、アームストロングの殿もあって何とか撤退することに成功したベルカ帝国の兵士はトリスタニア王国とベルカ帝国の国境まで撤退することに成功した。


 そこにはもう一つのベルカ帝国の部隊が陣を構えていた。その部隊と合流し、自分たちに起こった事を全て報告した。


 それをこの部隊を指揮する者が自分の部下から報告を受けた。


 その報告を受けたこの指揮官はブロンドの髪を束ね、騎士風の格好をした麗人であった。


「……そうか、ギルバート侯爵は死んだか。奴の性格は私は嫌いだったが私もベルカ帝国の将兵の一人だ、いずれ彼の仇は討とう。それで彼の部隊を壊滅に追い込んだのは本当に一人の人間だったのか?」


 それを報告に上がった兵士に訊ねた。訊ねられた者の姿は兵士というよりも文官といった方がしっくりくる恰好をしていた。


 そしてその疑問はもっともだ。大規模な部隊であったギルバート侯爵の率いる部隊が一夜にして一人の人間の手によって壊滅させられたのだから……


「はい、ここまで撤退してきたギルバート侯爵の所の兵士の証言では敵は一人で現れたそうです。奴は彼等が拐ってきた獣人の娘を驚異的な身体能力で奪還した後、再び戻ってきたそうです。我々の知らない強力な武器で奴を追った兵士は文字通り全滅、残りの兵士はあのゲオルグ・アームストロングが殿を務めた事でここまで撤退することに成功したそうです」


「彼はここまで戻ってきたか?」


 それに対して文官風の彼は無言で首を横に振って答えた。


「そうか……彼も死んだか……」


「まだ確証は持てませんが、戻ってこない以上彼も討ち死にしたかと……では我等もトリスタニアへの侵攻を開始しますか?」


「いや、まだだ。今は一度戦力を整える時だ。その謎の戦力を持った者の動向も気になるが、ソイツとはいずれ決着をつけなければな。


 まずは撤退してきギルバート侯爵の所の兵士を私の所の部隊に再編成し装備の確認、および本国からの補給が終了次第、侵攻を開始する。まずはトリスタニアの国境に一番近い街……たしかウルブスと言ったな? そこに侵攻する」


 そしてこの世界に迷い込んだ春人の知らないところでこの世界の情勢は大きく動こうとしていた。一つは春人が元居た世界で所属していたクランと同名の部隊の存在、もう一つはウルブスに侵攻しようとするベルカ帝国の部隊。


 この二つの存在がこれからどう春人達に影響を与えるのかは分からない。

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