27:追撃戦 3
追手の部隊を全滅させ、残りの拠点に残っている兵士を全滅するべく春人はベルカ帝国軍野営拠点まで戻ってきていた。丘陵の丘を越えると未だにテントや物資が燃え、煙を上げている光景が見えた。その中で負傷兵の介抱をしている者や消火作業をしている者の姿があちこちで見かけられる。
先程の春人を追ってきた部隊とほぼ同じくらいの兵士は残っている様に見えるが、いざ春人と対峙した時に戦える人数は見た目よりもずっと少ないだろう。
それに襲撃を受けたことで自分たちの存在がトリスタニア王国側に気付かれたと思ったのか残る物資を集めて移動する準備もしている。
だがそれをみすみす見逃す春人ではない。
「さて、残りをさっさと終わらせてアリシアの元に帰るか」
炎に包まれていた拠点は春人が戻って来たことでそこはまた地獄に戻った。ミニガンで大量消費した7.62mm弾は既に手持ちの残弾が無く、今はP90を使って残存兵の掃討を行っている。MTで生体反応センサーを常時起動しているので撃ち漏らすことは無い。
両手でしっかりと構えて狙いを定めて確実に少ない弾数で次々と殺していく。彼らの着ている鎧ではP90の銃弾を防げず、それは9mm弾などの小口径の弾でも貫通するのではないかと思うほど脆かった。
いくら銃が強くても弱点は存在する。それはリロードするタイミングだ。銃弾が無くては銃など無用の長物でしかない。それは春人でも例外ではない。
撃ち尽くした空のマガジンをP90から取り出してリロードに入ろうとしたときに真横から何か雄叫びが聞こえてくる
「うぉおおおおおおーっ!」
春人が気が付いた時にはもう目の前にそれは来ており、右手にP90のマガジンを持ったままだったので左腰の高周波ブレードを抜くことが出来ず対処できなかった。
そして大きく振りかぶられた拳が春人を殴り飛ばした。
「なんだと!?」
今の一撃だけで軽く10メートルは飛ばされただろう。そして今起こった事に一番驚いているのは春人である。通常の装備ならばともかく強化外骨格を纏った装備は通常のそれよりも重いため今のように吹き飛ばされる事はそうそう無い。
その春人は彼等が物資の運搬に使っていたであろう木箱が多数積まれた場所に殴り飛ばされ、春人がぶつかった衝撃で木箱は破壊されその残骸に埋もれた。
「コイツの相手は俺がしてやる。お前たちは撤退してそのまま国境を越えろ」
残存兵に撤退するよう指示を出している声を残骸の外から聞こえる。目の前の残骸を払いのけ、今自分を殴り飛ばした人物を見ると春人はまたも驚いた。
その人物は筋骨隆々の巨漢の男性だった。上半身に何も身に着けず、下にズボンを穿いているだけだ。それだけならばまだいい、春人が驚いたのはその男の両腕を見たからだった。
その両腕は鋼のように黒く、ちょっとの事ではびくともしなさそうだった。そんな黒くなっていた腕が先端から元の肌色の腕に戻っている。これもきっと何かの魔法なのだろう。
右手には新品のマガジン、左手にはP90を握っている。まだ向こうからは気付かれてはいない。春人が不意打ちで反撃をするのは今しかない。
なるべく気付かれないようにP90にマガジンを指し、照準をその男の胴体に向けてマガジン内の銃弾総数50発全てをフルオートで撃ち込む。
確実に有効弾を決められたと思ったがそう上手くはいかなかった。今度は胴体が黒く変色してP90の銃弾を防いでいた。
「なんだ? それで攻撃のつもりか?」
「お前、いったい何者だ?」
木箱の残骸から這い出た春人は真っ先に訪ねる。この世界に来て銃弾を防ぐような人間とは遭遇したことが無かったからだ。鎧を着ていればまだ理解できる。だが目の前のこの男は上半身に何も纏わずに防いでいた。まるで肌が硬質化して防いでいるようだった。
「俺が何者かだぁ? 気になるなら教えてやる。俺の名はゲオルグ・アームストロング。鋼鉄のアームストロングという二つ名を言えばトリスタニアでも少しは聞いたことがあるだろう? さあ俺は名乗った。今度はお前が名乗るのが礼儀だろう?」
「アームストロング? 悪いが聞いたことが無いな……それと俺も名乗ってやろう。俺の名はハルト・フナサカ、二つ名はそうだな……死神とでも言っておこう」
異世界人の春人がこの目の前の男、アームストロングの事など知るはずも無いだろう。それに今名乗った二つ名、死神は春人が以前CFの一部で呼ばれていた名前をそのまま使った。
「死神だぁ? 随分と物騒な呼び名を持ってるじゃねえか。まあこの光景を見せられちゃ納得するがな」
「物騒かどうかは知らん。これは昔、周りの連中が勝手につけた呼び名をそのまま使っただけだ。何となくな。それといつまでもお前の相手をしている訳にはいかない。だからさっさと死ね」
P90が通用しなかったので今度は89式小銃を召喚し、5.56mm弾を同じくフルオートで30発全弾撃ち込む。だがそれも黒く硬質化した肌によって防がれた。
「さっきのよりは多少威力は上がっているようだがそんなのは俺に通用する訳が無いだろう」
「そうか……効かないのだったらお前の相手は最後だ。その前にお前以外の生き残りを先に殺させてもらう」
これ以上一人の相手をして時間を取られ、残存兵に逃げられるのは春人にとっていいことではない。もともとはアリシアを救って、そのついでに村で殺された者たちの復讐という事でここの兵士を皆殺しにするために戻ってきていたからだ。
だから春人はアームストロングの相手を最後に残し、一度この場から離れようとした。
だがアームストロングも仲間を殺させに行かせるつもりはない。
「行かせるかーっ!」
またも勢いをつけて春人を殴り飛ばすべくその拳を硬質化させて振るってきた。
それを回避できないと感じた春人は89式小銃を盾にして受け止めようとした。
「なにっ!」
硬質化されたアームストロングの拳を受け止めた89式小銃はその衝撃に耐えきれず、二つに砕かれた。それでもアームストロングの拳は止まらず、未だ春人目掛けて降りかかってくる。
「そんなものでこの俺の拳は止められる訳が無いだろうが! なめるな!」
春人も今度はすんでの所でバックステップで回避した。
「ほう、やるじゃねえか……そうこなくちゃな」
春人が避けた事で感心したアームストロングは軽く拍手をしながら春人を称える。
「やるじゃねえかだと? こっちは使える武器が一つ失ったんだぞ。まあそれはいい、それよりもお前のその体、魔法で硬質化しているな?」
「そうか気がついたか……確かにこれは魔法でもって己の肉体を強化している。それも並大抵の魔法じゃあねぇ、俺だけのオリジナル、俺にしか使えない魔法だ! そんじょそこらの魔術師と一緒にするんじゃねぇ! さあ、この硬質化した俺の肉体に傷を付けられるものならやってみろ!」
アームストロングの硬質化する体の正体はやはり魔法であった。その正体が魔法であると言ったのはそれだけこの魔法に自信があるからなのだろう。確かに攻防一体の強力な魔法である。だがどこかに必ず弱点はあるだろう。
それにしても武闘派の魔術師とは随分変わった人物である。このアームストロングと言う男は……
正体が魔法だと分かった春人は弱点を探すべく次から次へと武装を切り替えては攻撃を加えていく。45口径のガバメント、白リン手榴弾にTNT爆薬を使うMK3手榴弾などすぐに取り出せる武装を惜しみなく使う。
だがその全ての攻撃は硬質化したアームストロングの肉体によって遮られ、ダメージを与えられなかった。
「本当に厄介だなその体……そろそろ死んではくれないか?」
「ようやく面白くなってきたのに死ねとは随分酷いことを言うじゃないか。これだけ一人相手に長く戦えたのは久しぶりなんだ。たいていの奴は最初に一発殴っただけで死んじまう腰抜けばかりなんでな。
ああ、そういえば本国にお前のような変わった飛び道具を使った部隊の噂を聞いたな……まあお前とは関係のない話だがな。
それよりもずっとそんな武器に頼ってないで腰の剣を使ったらどうだ? 男なら接近戦位できるだろう? それともその剣はただの飾りで、お前も他の連中と同じ腰抜け野郎か?」
アームストロングの指摘の通り春人はずっと銃を使い続け、腰の高周波ブレードには手も触れていなかった。
確かにアームストロングの肉体に銃弾が通用しなかった。これ以上撃っても弾の無駄だと感じた春人は気持ちを切り替え接近戦に挑もうとした。
「ああ、いいだろう。コイツでケリをつけてやろうじゃないか」
そして春人は装備しているP90に各種手榴弾などの射撃武器、爆発武器を仕舞った。銃などを仕舞った春人には現在腰の高周波ブレードしか装備していない。
その高周波ブレードを素早く鞘から抜き、腰を少し落とし中段構えの姿勢でアームストロングと対峙する。
「いざ、参る!」
「さあ、どっからでもかかってこい!」
アームストロングもまるでボクサーのように両手を硬質化させて構え、いつでも攻撃できるようにしていた。




