26:追撃戦 2
ランスを構え、真正面から突進してくる騎兵隊を強化外骨格で強化された脚力でもって跳躍し、その頭上を飛び越えた。
「なに!?」
そんな騎士の声が春人に聞こえたかどうかは分からないが、跳躍された騎士は兜の内側で驚愕の顔をしていた。そんな顔をしている時に頭上から何かが落ちてくる。
「俺からの贈り物だ。遠慮せずに受け取れ」
騎兵隊のちょうど真上に到達した時に春人はMTからある物を取り出し、ピンを抜いてから真下に落とした。
そして騎兵隊を飛び越えた春人が着地したと同時に春人の背後から強烈な爆発音と眩い閃光が起こった。
それは以前、ゴブリンの巣で使った物と同じ非致死性のグレネード、M84スタングレネードが炸裂して起こったものだった。その音に驚いた騎兵隊の馬が暴れ出し、騎乗している兵士を次々落馬させていった。
振り落とされた兵士は武器を捨て馬から離れていく。それでも運の悪かった者は暴れる馬の蹄に踏みつけられる者も居た。
そこに止めを刺すように春人は更に次の物を投げる。
「さあ、これで止めだ」
暴れている馬の元に投げられた物体は2つ。それは先程のスタングレネードに似た大きさの物体で、春人の手から離れて数秒後、その物体を中心に周囲を一瞬で灼熱の地獄に変えた。
次に投げたのはM34白燐グレネード、内部に封入されているリンが化学反応で発火し、その燃焼温度は一瞬で2500度以上になる。
その炎に飲まれた兵士たちは叫び声も上げることも出来ず、着ている鎧ごと、周囲で暴れている馬ごと生きたままその身を焼かれながら殺された。そして炎が消えた後にはかろうじて人と馬の姿が確認できる程度の見るも無残な死体が出来上がっていた。そして肉の焼けた臭いが辺りに立ち込めている。
「はは、よく燃えてるじゃないか」
騎兵隊を焼き殺してその足を止めた時に春人目掛けて無数の矢が飛んできていた。
「今だ! 奴が足を止めたぞ! 今のうちに弓で射て殺せ!」
そんな号令が残りの兵の方から聞こえ、春人が振り向いた頃には目の前に矢が迫ってきている。
――こいつはちょっとマズいな……
さすがに強化外骨格を纏っていたとしても首から上は防具など装備しておらず、ここに矢が刺さればさすがの春人でも死は免れない。
この攻撃を受ける訳にはいかないので身を低くして敵集団に向かって突進していく。それでも自分に刺さりそうな矢だけは高周波ブレードで叩き落とす。
「弓矢でもダメか……ええいこうなったら魔法だ! 魔法で奴を殺せ! 魔術師部隊は障壁を消して攻撃に転じろ! ここに近づく前に殺せ!」
弓矢では効果が無いと判断した部隊は今度は今まで障壁を展開していた魔術師を使って魔法による攻撃に転じてきた。春人を部隊の所まで近づけないつもりの様だ。
魔術師が呪文の詠唱を終えると火球や光の矢などを生み出し、それを春人目掛けて撃ちだしてきた。
「攻撃魔法か……やはり最初の攻撃で魔術師は全滅しなかったか。それにしても物理法則を無視してくるとは面白い」
撃ちだされる魔法攻撃は弓よりも早いが春人の使う銃の銃弾よりは遅い。なので撃ちだすのを確認してから避けることなど容易であった。
真っ直ぐに飛んでくる魔法攻撃を春人は横に進行方向を変えることでそれを避ける。この魔法に誘導能力は無いようで、回避した春人の横に着弾した。直後、爆風と砂煙が春人を飲み込む。
「やったか?」
魔術師の一人がそんな事を呟いていた。だがそれはフラグである。
煙が晴れるまで部隊は動こうとせず、今の攻撃が効いたかどうかの行方をうかがっている。そして幾分か砂煙も晴れてきた。
「見えてくるぞ! 各員警戒しろ!」
砂煙の中で春人の姿が微かに見えてきた。その手には今までの銃よりもさらに大きな暴力をそのまま具現化したようなものが握られていた。
「なに!? 傷一つ無いだと!? 奴は本当にバケモノか!?」
今の魔法の攻撃で確実に殺したと思っていた兵士たちはその煙の中から無傷で立っている春人の姿を見て驚愕とその防御力の高さに恐怖し、自然と足が竦んでいた。
「さすがにあそこまで威力があるとは思わなかったな。だが直撃しなければどうということは無い。今度はこっちのターンだ、お前たちには本当の暴力を教えてやる」
そう言って春人の手にしている武器のグリップに付いているスイッチを押す。そして手にしていた武器はモーターの駆動する音を唸らせ、先端の部分が高速で回転を始めた。
「さあ殺戮の時間だ」
春人の発した言葉は同時に起きた発砲音によって遮られ、聞き取ることは出来なかった。
その銃声は獣の咆哮の如く辺りに轟き、そこから放たれる銃弾はまるでレーザー光線の如く一直線に飛び出していき、数発に1発の割合で含まれる曳光弾がその光跡を作り上げている。
M134、通称ミニガンと呼ばれるこの銃は機関部より6つの銃身が伸び、それをモーターの力で回転させ驚異的な発射速度を持つ機関銃である。そこから毎分3000発の発射速度で撃ちだされる7.62mm弾が撃たれた相手が痛みを感じる前に殺すことが出来るので無痛ガンと呼ばれることもある。
そして本来は人が手に構えて撃つにはその反動及び振動が到底制御できるものではないが、そこは春人の着用している強化外骨格によって制御できるようになっている。なお、駆動用の電源はこの強化外骨格から供給されている。そのため何本かのケーブルがミニガンと強化外骨格を繋いでいる。
薙ぎ払うように掃射する春人になす術もなく一掃されるベルカ帝国軍の兵士は次々と死体の山を築いている。その掃射している春人の足元には空薬莢と外れたベルトリンクが散らばっては消滅して消えている。
ミニガンの掃射で崩れ落ちる前衛の兵士を見て、敵うはずがないと思った後続の兵士は武器を投げ捨て逃げ出そうと背中を向けた。そこにもミニガンから放たれる7.62mm弾は逃げる者にも問答無用で撃ち込まれる。
同じところに何発も銃弾が当たり、肉体を鎧ごと切断していく。
「逃がす訳が無いだろう」
逃げる兵士に距離を詰めるように春人も前進する。ミニガンは常に発砲を続け、銃身が赤くなってきても気にせず撃ち続け、背中に背負った弾薬箱も気持ち幾らか軽くなってきた。
そしてとうとう最後の1発を撃ち、弾薬箱に収められていた総数7000発の弾丸を撃ち尽くした。撃ち終わっても銃身の回転は止まらず、空転を続けている。ボタンを放して駆動を止める。最後に数回回転し、完全にミニガンは動きを止めた。
その頃には春人の視界にはベルカ帝国軍兵士だった者の見るも無残な死体の山が築かれている。残存兵が居ないか生体反応センサーを起動したがその中に動いている反応がまだ少しある。運よく味方の死体を盾にして凶弾から逃れられた兵士が居たらしい。
「まだ残っているか……よろしい、次は残党狩りだ」
残弾も無くなったミニガンをMTに戻し、右手を刀の鞘に添え、更に追撃を続ける。
運がいいのか何とか逃げることに成功した兵士が自分たちの拠点に向かって走っている。
「頑張れ! もう少しで拠点に戻れる」
「俺達はとんでもないものを敵に回したんじゃないのか?」
「あれは……マズい! 奴が追ってきたぞ!」
手にしている武器を捨て、着けている兜などの防具すらも投げ捨てて少しでも身軽にして死屍累々の戦場から逃げてきた。
それでも春人からは逃げることは出来ず、すぐに追いつかれる。彼らには春人は自身の命を刈り取りに来た死神に見えただろう。
「早く逃げろ! ……おいっ、聞いているのか」
そう言って一人の兵士が振り向いた先には上半身が無くなった仲間の死体が立っていた。ついさっきまで一緒に走って逃げてきた仲間がいつの間にか殺されていた。
そして彼らが進もうとしていた方から強烈な殺気が感じられ、冷や汗を流しながらもゆっくりとそちらを向くと血の滴っているブレードを手に持って立ちふさがっている春人が居た。月明りに照らされて薄っすらと見えたその顔は笑っている様に見えた。
「ひぃっ! まて、降参だ。殺さないでくれ!」
その懇願も聞くわけがなく、春人も高周波ブレードの刀身を彼らに向けて、刺突の構えで突進する。
「ま、待て……来るなー!」
そこからはまた一方的な殺戮が起こる。武器を投げ捨てて逃げてきた彼らに対抗手段は既に無く、春人により撫で切りにされるだけだった。
素手でも立ち向かう者が居たがその者には真正面から切り伏せ、そこからまだ逃げ出そうとする者の背中にはP90の5.7mm弾を容赦なく撃ち込んだ。
「お前が最後だ」
その言葉と共に最後の兵士の心臓目掛けて高周波ブレードを突き立てて殺した。これで追手の部隊は文字通り全滅した。残るは拠点に残っている部隊を倒せば一先ずこの戦いは終わる。
「さてと、残りの連中を始末しに行くか」
刀身にべったりと着いた血を払い落とし、ゆっくりと高周波ブレードを鞘に納める。
それから消耗した弾薬を再度整え、残りの敵を全滅するべくベルカ帝国軍の野営拠点に向かって歩みを進める。




