18:襲撃者
川から村に戻っている春人達一行は村まであともう少しの所まで戻って来ていた。釣果が全然ダメだったので行きと帰りが殆ど荷物の量が変わらなかった。
あえて違うところを上げるとすれば、アリシアに作ってもらった弁当を皆で食べて、その分だけ荷物が軽くなった位だろうか。
そして村が近くなってきたときに村の方角から異変を感じた。
「ねえ、あれ見て! 村の方から煙が上がってる!」
一番先に気付いたのは春人と一緒に居る子供の方だった。
確かにこの位の時間になると村の家々から夕飯の支度などで火を使うために煙が上がることはよくある光景だ。それでも今見える光景はそれとは違っている。
村から黒煙が上がっている。それも一つ二つではなく村のあちこちから上がっている。
「何かがおかしい。おい! 俺は先に戻るがお前たちは一度ここで待ってろ! 今戻ってはダメだ!」
そう子供達に言い、春人は手にしていた釣竿やバスケットを放り投げ、村の方角に走っていく。子供達にここで待ってろと言ったのは春人の元FPSプレイヤーとしての勘がそうさせた。
「おいアニキ! 荷物放り捨ててどうするんだよ!」
「って言ってる間に行っちゃったね」
「仕方ない、これは後で届けよう。それにしてもすぐに帰るなってどういう事なんだろう?」
「まあとりあえずハルトにーちゃんの言うこと聞いておこう。何だかその方がいい気がする」
走っていく春人の背を見ながらそんなやり取りをしている。そして子供達は春人の言いつけを守り、その場で待機する。
先行して村に戻った春人が目にしたのは夕日に照らされるよりも紅く、何者かに火が放たれている村の光景だった。あちこちの家から炎が上がっている。
「一体どう言う事だ?」
春人がこんな独り言を言うくらいに現状を理解できていなかった。それでも現状を理解するための出来事はすぐに訪れた。
よく見ると燃え盛る炎の合間に何かから逃げ惑うウェアウルフの姿があちこちで見える。そしてそんな住人を次々と斬り伏せていく全身フルプレートメイルに覆われた重装備の兵士が居る。その兵士の鎧は血で汚れ、手にする剣は血で真っ赤に染まり血が滴り落ちている。
鎧を纏った兵士の他にローブを纏った、いかにも自分達は魔術師ですと言わんばかりの格好をした人物も何人か混じっている。そんな魔術師が魔法で村の家々に火を放っていた。
「貴様ら何をしてるかー!」
春人はこの虐殺行為をしている兵士に向かって怒りを込めて叫ぶが、家が燃える音と逃げ惑うウェアウルフ達の悲鳴にかき消される。
そして素早くMTを起動し、そこから89式小銃とタクティカルベストのいつもの装備を展開し、初弾が装填された89式の銃口を兵士に向ける。
目標に照準を素早く合わせ、引き金を引く。
――非武装の民間人を襲うとはいい度胸してるじゃないか。
春人の怒りと殺意のこもった弾丸は確実に相手の鎧を貫通し、着ていた人間の命を奪っていく。
破裂音に似た銃声に気付いた、付近に居た兵士や魔術師が攻撃対象を春人に向け近づいてくる。それでも春人は自分に剣先が届く前に兵士を排除し、魔術師も何か呪文のようなものを詠唱している間に倒していく。
撃たれた敵は悲鳴や叫び声を上げながら死んでいく。中には声を上げる前に絶命する者もいた。どちらかというと後者の方が多かった。春人の攻撃に慈悲など無い。
近代火器の前では連中の剣や詠唱が必要な魔法などは無力だった。それでも剣の当たる範囲内や詠唱の終わった魔法相手ではどうなるかは分からないが……
「戦う力のない者を虐殺していくとはなんとも情けない。お前らには誇りは無いのか?」
蔑む様に言う春人の言葉を聞いた者は誰も居ない。付近に居た敵は春人が全て殺害した。そこにあるのは春人が築いた死体の山だけがある。
そして春人は一番大切なことを思い出した。
――そういえばアリシアは無事なのか、他の村の住人はどうなったんだ?
そしてアリシアや他の住人を探すために村の中心部に向かって走る。その間に見かけた敵は確実に始末していく。
アリシアの実家に向かう途中で一人のウェアウルフの男性と遭遇した。彼の手にも敵と同じような剣が握られていた。
「おいアンタ! いったいこれは何があった!? アイツ等はいったい何者だ!? 他の連中はどうした? それとアリシアはどうした?」
春人は矢継ぎ早にどんどん質問していく。
そして春人に声を掛けられたウェアウルフの男は敵が襲っていたのかと思い、殺気の混じった顔を向けたが、相手が春人だと知り表情が少しだけ緩んだ。
「なんだアンチャンか、見ての通り連中がいきなり襲って来やがったんだ。村の男共は皆を守るために戦ってるが女子供達はどうなったのかは俺には分からん! それとすまないがアリシア嬢ちゃんの場所も分からない!」
それだけ答えて彼はまた周囲の敵を倒しに向かう。今何が起こっているのかは彼にも詳しくは分からないようだ。
そしてアリシアの居場所も彼は知らないようだったので春人は一先ずアリシアの実家に向かう。
しかしそこで見たのは他の家と変わらず、炎に包まれているアリシアの実家だった。この村で出来た思い出と共に燃えている。
「おい、そんな……嘘だろ……誰でもいい、これは出来の悪い冗談だと言ってくれ」
その場に崩れ落ちる春人に、目を背けたくなる現実が突き刺さる。
目の前で起こっている事に絶望していると背後から何者かが近づいてくる。カチャカチャと鎧の音がするので少なくともこの村の人間でないことは分かる。
「こんな獣どもの村にもお前みたいなちゃんとした人間が居たのか。お前に恨みは無いが死んでくれ」
そう言って背後から切り付けようと鞘から剣を抜こうとしている音が聞こえる。
「お前は俺に恨みは無いだろうな。だが俺はお前たちに恨みは大有りだ!」
地面に座っていた状態から素早く立ち上がりつつ、背後の敵に体当たりを決める。それでバランスを崩したのか、今度は敵の兵士が倒れた。
起き上がろうとしていたところを春人に踏みつけられ、起き上がることは出来ないでいた。
「なあお前、ウチのアリシアを知らないか? なあ、知ってるんだろ?」
89式の銃口を相手の顔に向け、ドスの効いた声で訪ねえる。
「え? 誰だそれは……」
この反応から察するにこいつは知らないようだ。
「知らないなら……死ねよ」
春人は踏みつけたまま敵の額を撃ち抜き射殺した。これでまたアリシアの手がかりが無くなった。
――なあアリシア、どこに居るんだ。せめて無事でいてくれ!
そしてまたアリシアを探しつつ、敵を倒しに動き出そうとしていた時に誰かが声を掛けてきた。
「おーい! ハルト君、こっちだ!」
振り向くとそこには隣の家の旦那が呼んでいた。




