17:田舎暮らしのスローライフ
春人がアリシアに過去の事を話して、生活の場をアリシアの実家のあるウェアウルフ達の村に変えてから約2ヶ月が経とうとしていた。ここでの生活は街に居た頃よりもゆっくりと時間は流れ、春人にとってなんだか田舎で生活しているような気分に浸っていた。
そんなスローライフを満喫しながらも最低限の仕事はこなしてはいる。ウェアウルフは元々狩猟民族らしく、狩りに行く度に春人も同行して、そこで他のウェアウルフと親睦を深め、仲良くしていった。
以前に春人が初めて彼らの狩りに同行した際に一人のウェアウルフの男性に言われたことがあった。
「アンチャンは体力や獲物を探す能力は長けてるけど、弓だけはイマイチ駄目だな」
それが少し癇に障ったのか、春人は少しムキになって大口径の銃を展開し、これで大物を一撃で仕留めるという事が有った。この時に何をしたんだと聞かれたが、春人は以前の事もあって企業秘密だと答えた。
それから春人が狩りに同行した時は必ずと言っていいほど大物を仕留めて帰ってきたため村はお祭り騒ぎが続いた。
狩り以外にも定期的に春人は街に行き、ギルドのクエストをこなして現金を稼ぎに行くこともあった。現金がなくてもここでは暮らせるが、それでも多少は稼いできた方が後々役に立つだろう。その際にアリシアには留守番をしてもらって、その日のうちに春人は帰る様にしていた。
それから村の子供達とも仲良くなった。はじめは初対面もあって警戒もされていたが、それは時間が解決してくれた。そして、初めて会った時にあまり春人はいい印象を覚えなかった少年も時間が経つとともに打ち解けた。それでもちょくちょくアリシアは渡さないと言ってきてはいたが……
子供達に連れられて遊びに出かけることもよくあって、その度にヘトヘトになるまで付き合わされることもよくある事だ。そして疲れて帰って来ると毎度の如くアリシアには笑われた。
アリシアとも春人が過去の事を話して以降より一層お互いの仲が良くなった気がする。それでも偶に就寝前に春人の部屋に来て他愛ない話をしに来ることがあるが、何故寝る前に話に来るのかが春人にはイマイチ分からなかったが、それでもこの時間はとても大切な時間だと思った。
そんな楽しい生活がずっと続けばいいと思っていた。あわよくば生活の基盤をこの村に変更し、ここで家でも建ててのんびり異世界でのスローライフを満喫しようと思うくらいに……
そんなある日、春人は家で使うための薪を切っていた。他の家でも男性が薪割りをしているのはこの村ではよく見る光景だった。額に汗を流しながら薪割りをしている春人の傍に村の子供達が釣竿とバケツを持ってやってきた。
「おーい、ハルトにーちゃん! 一緒に魚釣りに行こうよ!」
「そうだよ、アニキが来てくれないとつまんねーよ!」
そう言って春人を川釣りへと誘う。今ではそれくらい彼らに慕われている。
「おー、ちょっと待ってろ! この薪割りが一息ついたら一緒に行こうか。それまで待ってろ!」
春人が待ってるように言うと子供達は元気に「はーい」と返事を返してた。
「なんだか私よりも人気者になっちゃいましたね」
アリシアが手にタオルと飲み物を持って春人のもとにやってきた。
「お疲れ様です、少し休憩にしましょ。ハイッこれで汗を拭いてください。それと冷たいお茶も入れて来たのでどうぞ飲んでください」
彼女のこういった気配りがなんとも嬉しい。
「ありがとう。丁度喉が渇いてきたところなんだ。それよりもさっきの見てた?」
春人は少しだけ照れくさそうにしている。
「しっかり見てましたよ、ハルトさんもすっかりあの子たちに懐かれましたね。これからあの子たちと釣りに行くんですか?」
「そうだね、これが一段落着いたら行こうと思うよ。」
そう言いつつ薪の方に目をやって答える。春人ももう少し薪割りをしてから子供達の所に行こうと思っていた。
「だったらそれ位で2、3日は持つ筈ですからもう大丈夫だと思いますよ。それよりもあの子たちと一緒に行くなら少しだけ待っててくれますか? あの子達の分も含めてちょっとしたお弁当を作っちゃいますから!」
アリシアは手を腰に当てて仁王立ちしている。その顔は何だか自信に満ち溢れていた。
「それは助かるよ。きっとあの子たちもアリシアが作ってくれたと知れば、きっと喜ぶだろうからね」
「それじゃあ腕によりをかけて作りますから、期待して待っててください!」
そして家へ戻っていく。残った春人は薪や使った道具を片付けて、時間を潰す。
アリシアが家に戻ってから数分後、春人も片づけが終わり、一息ついた頃にまた子供達がやってきた。
「ハルトにーちゃんまだー? そろそろ行こうよー」
「ああ、今アリシアがみんなの分のお弁当作ってくれてるから少しだけ待ってな」
アリシアが今、お弁当を作ってるから待ってるようにと子供達を促す。それを聞いた子供達ははしゃいで喜んだ。そしてアリシアが戻ってくるまで春人のもとで待っていた。
それから10分位経ったらだろうか、家の中からアリシアが戻ってきた。
「お待たせー、ってなんだ、みんなもう来てたのね」
手にバスケットを持ってアリシアは家の中から出て来た。先程家に入った時には居なかった子供達が揃っていることに一瞬だけ驚いた様子を見せた。
「ありがとう、ついさっきこの子達も来たから丁度良かったよ。よーしお前ら、アリシア姉ちゃんからの弁当も貰ったことだし、そろそろ行くぞー!」
「「おおー!」」
アリシアから弁当の入ったバスケットを受け取った春人は、誘ってきた子供達を先導するかのように出発する。それに子供達も元気に返事をする。
そして一行は村の近くの川へと向かった。
「なーアニキ、全然釣れないよなー」
春人が村の子供達と一緒に魚釣りに来てから早数時間、持ってきたバケツの中には一匹も入っていない。つまり現状の釣果はゼロ、ボウズということだ。
来てから合間合間にアリシアに作ってもらった弁当を皆で食べながら、のんびりと釣りをしてきたが今日に限って全然釣れなかった。
それに高かった日ももう傾き始めてきている。
「本当に今日は何だか全然釣れないよな。まあこんな日もあるさ、さあ皆、日も傾き始めてきたことだし、そろそろ撤収するぞ」
そう言って皆に片付ける様に促し、村に帰る支度をする。
こんな日は長居せずにさっさと帰って、違う日にまた来ればいい。そうすればきっと今日とは違う結果になるだろう。
そんな春人の思いが通じたかどうかは分からないが、子供達は帰り支度を済ませ、いつでも村に帰れる状態になる。
「ハルトにーちゃん、今日はダメだったけどまた違う日に来ようよ。その時はきっと沢山釣れるよ!」
「ああ、そうだな。今度は沢山釣って帰ろうか」
そして片付けも済ませた春人達は村へと帰路につく。
この子供達は春人と共に魚釣りに来たことで、その後の自分の運命が変わるとは春人を含めてこの時は誰も思わなかった。




