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16:船坂春人の過去

 この世界に迷い込んできた男、船坂春人。その男にも忘れたくても忘れられない過去があった。それは今から十数年前、春人がまだ小学生の頃まで遡る。


全てはあの日に変わった。


 その日は夏休みも終わりに近づいたある日の事、両親に連れられ出かけていた。そのついでに銀行に寄った時に事件は起こった。


「強盗だ! 大人しく金を出せ!」


 ありきたりな台詞を吐きながら、覆面を被り、拳銃を手にした人物が窓口越しに銀行員に脅迫している。


「まあまあ、お兄さん少し落ち着こうか」


 誰よりも人一倍正義感の強かった春人の父親が犯人にさとしながらゆっくりと近づき、あわよくばそのまま取り押さえようとしていた。


「うるさい! それ以上近づくな!」


 急に後ろから声を掛けられた犯人は驚きながら父親の方に銃を向ける。それでも近づくのを止めなかった。


「来るなって言ってるだろ!」


 そう言って犯人は引き金を引いた。


 そして乾いた音と共に父親の腹部が赤く染まっていく。


「え?」


 そして春人の父親はその場に崩れ落ちる。まだかろうじて息はしているが、このままだと確実に死ぬというのが誰が見ても明らかだった。それだけ出血が激しかった。


 この時初めて犯人の持っている銃が実銃だということが分かった。


「「きゃあああああああ!」」


 室内に何人もの悲鳴がこだまする。その中には春人の母親も含まれている。目の前で自分の旦那が撃たれ、今にでも死にそうになっているのだから無理もない。母親は倒れている父親の所に行き、撃たれた所を押さえながら犯人を睨みつける。


「何だその目は、そんな目で俺を見てんじゃねぇ」


 今度は春人の母親の方に銃口を向ける。


「死んじまえよ」


 何の躊躇いもなく今度は母親を撃つ。頭を撃ち抜かれ即死だった。


 一瞬のうちに父親が撃たれ瀕死の状態になり、母親は頭部を撃たれ即死だった。 春人には現状を理解する事が出来なかった。


「チッ! 無駄な手間をかけさせやがって。おいっ! それよりもさっさと金を出しやがれ!」


 また銀行員の方に銃口を向け、金を要求している。この犯人にはもう正常な判断はできないようだ。


――よくも父さんと母さんをやったな。あの野郎絶対ぶっ殺す!


 ようやく事の次第を理解し、まず先に抱いたのは犯人への復讐心、相手を殺す事だけしか考えられなかった。丁度今犯人は春人に背を向けている。襲うなら今しかない。


「ああああああああ!」


 春人が大声をあげながら犯人に飛び掛かる。不意を突かれた犯人は対処することも出来ずに春人の決死の体当たりで突き飛ばされる。


「あークソっ! 痛てぇじゃねーか、何しやがんだこのガキ」


 犯人が突き飛ばされた状態から上体を起こして春人の方を睨みつける。だがそれもすぐに驚いた顔に変わる。目の前の春人の手にはついさっきまで犯人が握っていた拳銃が握られていたからだ。


 先程突き飛ばされた時に手から離れてしまったようだ。


「お、おいボウズ、まて早まるな、少し落ち着け」


 銃口を向けられて犯人は狼狽えている。今度は形勢逆転だ。


 そして犯人に銃口を向けている春人の目は生気が消えていた。


「よくも俺の両親を撃ったな! お前なんか死ね!」


 そう言い、躊躇うことなく引き金を引き、犯人を撃つ。最初の一発で相手の眉間を撃ち抜き、その一撃で犯人は死亡した。それでもそのまま残弾が無くなるまで相手に死ねと連呼しながら撃ち続け、残弾が無くなり、スライドが後退した状態になってもずっと引き金を引き続けていた。


 事件は警察が到着する前に終息した。


 それからすぐに警察と救急車が現場に到着した。最初に入って来た警官が見たのは死亡した犯人にずっと引き金を引き続けている春人の姿だった。


 それから他の人と同じ様に春人は警察に保護され、撃たれた両親は救急車で緊急搬送された。が、それでも病院に着いた頃にはまだ息をしていた父親も母親と同じように息を引き取った。


 春人がこの事を知ったのは数時間後の事だった。


 それからが大変だった。警察の事情聴取に両親の葬儀、全てが終わった頃には春人は両親を失った喪失感に駆られていた。時々自分に力が無かったから両親は死んだと自分を責めた事もあった。


 そしてその事件以降、周囲からの目も変わった。事件の被害者であったにもかかわらず、周囲からは犯人を射殺したという理由で事件の容疑者のように見られた。


 この事が理由で他の親族は誰も春人の事を引き取ろうとせず、この頃からほぼ一人で暮らしていた。それでも役所の人間が訪ねて来てくれて、色々と面倒を見てくれていた。


 近所の大人も白い目で見てくるようになり、学校では人殺しと言われよくイジメの対象になっていた。それでも春人はそんな奴らを返り討ちにするかのように喧嘩していた。喧嘩と言ってもほぼ春人の一人勝ちだったが……


 そしてこの頃からオンラインでのFPSゲームにのめり込む様になった。元々この種のゲームをよくやっていたが、この一件以降さらにのめり込んでいた。それは現実世界でのストレスを発散するかのように……


 ゲームの中だけがこの時の春人にとっての唯一の居場所であった。ここだけは自分自身で居られたからだ。


 そんな生活を高校卒業し就職するまで続けていた。今まで生活していくのに両親の遺産などで何とか生きていくことは出来た。


 この頃になると世間で高性能なフルダイブVRゲームも登場し、春人も戦場をVRMMOFPSへとシフトしていった。


 そして春人も自分の力に溺れ、戦闘スタイルも以前よりも残虐なものに変わっていった。


 その中で発売されたCF-コンバットフィールド―が春人の戦場だった。元々この手のゲームでの才能が有ったのか、すぐにトッププレイヤーの一人として名を連ねることになった。


 各種大会で優勝者に進呈される勝者の証でもある限定装備の強化外骨格パワードスーツを着用し、その上から真っ黒のローブを纏って様々な戦場を練り歩いてきた。その両肩には大鎌を持った死神のようなエンブレムが描かれていた。


 その圧倒的なまでの強さと、印象的な見た目から、いつの日からか「死神」という二つ名が付き、その名で呼ばれることになった。そこには敵味方共に尊敬と畏怖の念が込められていた。


 そんな強さに憧れて春人の元にも仲間が集まってきた。そして「死神部隊」と言うクランが誕生した。彼らは皆、春人を真似て同じような黒いローブを纏っていた。


 そして死神部隊はその強大な力で戦場を蹂躙してきた。


 が、そんな死神部隊の活躍は長くは続かなかった。いつの日からか内部での春人に対する見方が変わってきた。最初はその姿や力に憧れを抱いていた者が、いつからかその思いは嫉妬に変わっていった。


 いつまでたっても春人の力をを超える事が出来ないでいた為、嫉妬心が芽生えたのだろう。そんな彼らがある日謀反を起こし春人を倒そうと行動を起こした。


 ある戦いの最中、彼らは反旗を翻し、敵部隊と共謀し春人を倒そうとしてきた。


 そんな戦いは長時間続き、春人も満身創痍の状態になりながらも孤軍奮闘し、何とか敵部隊と謀反を起こした仲間を全て倒した。この戦いで最後まで立っていたのは春人ただ一人だけであった。


 その後春人は死神部隊を解体し、今までの「死神」と呼ばれていた頃の装備を封印して、この異世界に来た時と同じような装備に変更した。


 そして装備を変えた春人もオンライン対戦の表舞台から姿を消して、いつの日からだろうか「死神」と呼ばれたプレイヤーの話は伝説や噂話で語られるようになった。


 表舞台から姿を消した春人はPvEでその後は活動し、その力をCPU相手に振るってきた。


 そして運命のあの日、敵から追われRPG-7の攻撃で吹き飛ばされた春人は崖下に落ち、この異世界にたどり着いた。






「……とまあ、こんな感じだ。子供の頃に目の前で強盗に両親を殺され、その時の相手を殺して両親の復讐を果たした。それから周囲の人間からは迫害され、その鬱憤を全て戦いにぶつけてきた。そこで仲間も出来たと思ったんだ。それでも連中は俺を裏切った! 結局は俺には何も守れない、どこに行っても皆俺から離れていく、どこに行っても俺は一人なんだ!」


 過去に起こった事を話した春人は最後は怒号のように叫んだ。


 目の前で両親が殺害され、自らの手で両親の仇を討ち、それから周りから迫害され、その後自分の居場所であった所で出来た仲間だと思っていた者に裏切られた。そんな過去が有れば忘れる方が無理な話だ。


 それでもまだ以前ハインツ達の前で自分は異世界人だと言った時と齟齬が生じないように話す位の事は忘れずにいた。ずっとこのままゲームの世界から来たと言わないつもりだ。なのでゲーム中の話はカバーストーリーででっち上げた。


 そんな春人をアリシアは強く抱きしめた。


「確かに目の前でご両親が殺されたら誰だって忘れる事は出来ないですもんね。それでもハルトさんは今まで頑張って来たんですよね。それにもうハルトさんは決して一人じゃないですよ、こうして私が傍に居るじゃないですか。ハルトさんが前にゴブリンから私を助けてくれたから私はこうしていられるんですよ。ハルトさんは私を守ってくれました。何も守れない訳じゃないんですよ?」


 半ば自暴自棄になっている春人の事を優しくなだめる。そんなアリシアの優しさを感じた春人はアリシアの事を優しく抱きしめる。


「……ありがとう」


 今の春人にはこの言葉しか出てこない。気が付けば春人の目には何故か涙が流れていた。


「いいんですよ、私もハルトさんには感謝しているんですから……


 そうそう、それとハルトさんを裏切った人達、あの人達は仲間なんかじゃないですよ。聞いてる感じだとその人達はハルトさんの傍で一緒に居て目立ちたかっただけの残念な人なんですよきっと」


 そう言ってCF内で春人の事を裏切った連中に悪態を突く。それだけアリシアにもその連中に嫌悪感を感じていた。


「そうかもしれないね、もう連中の事は忘れよう。その方がいいだろうからね。それと最後まで黙って話を聞いてくれてありがとう」


 そして春人はもう一度アリシアに礼を言う。


「いいえ、こちらこそ話してくれてありがとうございます。こうしてまたハルトさんの事を知れたんですから。何かあれば私はいつでもハルトさんの事を支えますよ。私はこれからもずっと傍に居ますから」


 そして抱きしめたままの春人に下から見上げる様にして笑顔を向ける。春人は最近この笑顔に助けられている気がした。


「こんな俺に付いていてくれてありがとう。そしてこれからもよろしくな。さ、お話はこれでお仕舞だ、そろそろ中に戻ろう」


 そして室内に二人は戻る。 そして床について眠りについた春人は以後、過去の事でうなされることは無くなった。

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