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15:帰郷

「ハルトさんもう着きますよ。起きてください」


 春人が寝ているうちにいつの間にか村の近くまで来たようだ。目を覚ました春人は大きく欠伸をする。


「またうなされてましたよ。本当に大丈夫なんですか?」


――また同じ夢を見ていた。あの事だけはどうしても忘れたくても忘れられない。


「大丈夫、本当に大丈夫だから。心配してくれてありがとう」


――この話をすればきっとこの子も俺から離れていくだろう。


 それでも心配そうにアリシアは春人の顔を覗き込むように見ている。その距離はとても近かった。


「大丈夫じゃない人はすぐ大丈夫だと答えるって前に誰かから聞いたことがあります。ハルトさんはきっと今は大丈夫じゃないと思うんです。今すぐじゃなくてもいいんでハルトさんに昔何があったのか教えてくれますか? 話せばきっと少しは楽になると思うんです。」


 アリシアは春人の事が本当に心配だからこそ、春人にここまでしつこく聞き出そうとしていた。


「はあ……分かったよ、後でちゃんと話すから、ちょっと離れてくれ。流石に近い」


 なぜこんなに必死になって聞こうとしているのか春人には理解できなかったが、アリシアの気迫に負けてため息交じりに答えた。


 気が付けば顔が近かったことに気が付き、アリシアは顔を少し赤くしながらとっさに離れた。こんなやり取りが馬車を降りるまで続いた。


「お二人さん、もうすぐ目的地の村の外れに着きますよ」


 乗せてもらった行商人が声を掛けてきて目的地に到着したことを知らせてくれた。


 そして停車した馬車から自分たちの荷物を下ろし、ここまで乗せて来てもらったことに二人でお礼を言った。


 それに対して馬車を走り出させた行商人は片手を大きく上げながら返事をした。


 そして今の時間を調べるのにMTマルチツールを起動して時間を見ると今は昼過ぎだった。午前中の内にウルブスを出て、数時間で村に到着した。


「先ずは私の家に行きましょうか。この荷物を先にどうにかしないといけないですからね」


 そう言ってアリシアは足元に置いた荷物に目をやる。


「いや、これは俺が持って行くからアリシアはそのトランクとかなるべく軽いのを持ってきて。重いのは俺が持って行くから」


 春人はアリシアが荷物を手に取るよりも先に、今は着ていないアリシアの鎧などの比較的重い物を手にする。


「さあ、行こうか。ここからアリシアの家まで案内してくれる?」


 それからアリシアが先導して村の中心の方へと向かう。ある程度村の中へ入ると、春人も見覚えのある光景が見えてきた。


 そこでは村の住人が行き来していたり、子供たちが遊びまわっていた。やはりどこを見ても誰にも獣耳に尻尾が付いていた。


「あっ! アリシアおねーちゃんが帰ってきた!」


「アリシアねーちゃんが男の人連れて帰って来てる!」


「おねーちゃんお帰り!」


 アリシアの姿を見た村の子供たちが一斉に駆け寄ってくる。


「随分と人気者のようだね」


 アリシアに寄ってくる子供たちを見ながら春人は軽く微笑みながらアリシアに言う。


「ええ、ちょっとね……村に居た頃にこの子たちの面倒をよく見ていたものですから」


 それにアリシアも微笑みながら答える。そのアリシアに寄って行った子供たちの内、一人の女の子が春人に近づきまじまじと見つめている。


「おにーさんはだあれ? もしかしてアリシアおねーちゃんの恋人?」


 唐突な発言に春人は驚いたが、それよりも一番驚いたのはアリシアだった。顔が真っ赤になっている。


「ちょっと何変な事言ってるの!? この人は私のお友達だよ……あっ」


 慌てて子供たちに春人が何者かを教える。それにしても最後のあっと言ったのは誰にも聞こえなかった。そのあっと言った意味はアリシア以外は誰にも分からない。


 それから春人はしゃがんで、春人に近づいてきた女の子と同じ目線になって自己紹介をする。


「やあ初めまして、俺は春人って言うんだ。よろしくな、小さなお嬢さん」


 微笑みながら挨拶をした。そしてその女の子はいい笑顔で返事をした。


「うん! わたしはペトラって言うの。よろしくねハルトおにーちゃん!」


 そしてすぐにその子は皆の中に戻っていった。そして友達だと思われる子たちにお嬢さんって言われちゃったとはしゃいでいる。そんなにそう言われたのが嬉しかったのだろう。


 そんな子供たちの中にずっと春人の事を見ている男の子がいた。


「オマエ、アリシアの何なんだよ」


 いきなり随分と年上を舐めた様な事を言ってきた。正直春人から見てこの子の第一印象はあまりよくなかった。それでも自分はこの子から見て大人であるため、イラついたりせずに大人の対応をする。


「何って言われてもなあ。アリシアは俺の仲間ってところだな。それと自己紹介位はしっかりしたほうがいいぞ。とりあえず俺は春人っていうんだ。よろしくな」


「オマエが誰だろうと関係ないや! 誰にもアリシアは渡さないからな!」


 春人の大人の対応でもどこ吹く風で、春人を指さしてアリシアは誰にも渡さないと宣言して何処かへ走り去っていった。


「どう見てもあの子は君に恋している様にしか見えないな」


 あの子はどう見てもアリシアに恋しているませた男の子だった。


「前からあの子はああなんですよね。まあ、そこがあの子のかわいい所なんですけどね。きっと恥ずかしくて初めて会うハルトさんにうまく挨拶できなかったんですよ」


 そう言ってあの子のフォローをする。まあ、あの位の男の子は身近な年上の女の人に恋をするのだろうと春人は思った。春人にそんな経験は無かったから実際はどうなのかは知らないが……


「それよりも、ここで立っているよりも早く行きましょ。家はすぐそこなんですから。早くしないと置いて行きますよ?」


 そう言ってアリシアは先に進んでいく。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ」


 春人は一度地面に置いた荷物を慌てて手にして、アリシアの後を急いでついていく。そして少し歩くと、前に春人が一晩お世話になったアリシアの実家が見えてきた。






「ただいまー!」


 家に入るなり、すぐにアリシアは叫んだ。誰も返事をしてくれる人は居ないのだが、ただいまと言いたくなるのはきっと気分の問題なのだろう。


 それから荷物を下ろし、二人は一息つける。


「ちょうどいい時間ですし、そろそろお昼にしませんか? できればまたハルトさんが出してくれたご飯がまた食べたいんですけど……ダメですか?」


 アリシアが申し訳なさそうにまた戦闘糧食が食べたいと言ってきた。丁度ここに着いたのが昼過ぎなのでお昼にするにはいい時間だろう。それに見たところ家の中に何か食べ物が有るようには見えないのでレーションがいいと言ったのだろうか?


「別にいいけど、これ戦闘時用の食事だからあまり食べ過ぎると余り体に良くないよ?」


「と言うと?」


 アリシアが首を傾げた。春人が遠回しに言っても通じなかったので、少しため息をつく。


「あまりこう言いたくないけど、要は食べ過ぎると太りやすいってこと」


 仕方なく分かるように説明する。あまり女の子にはこう言いたくはなかった。


「うっ!」


 そう言われてアリシアは一瞬だけたじろぐ。


「まあ少しは動いたりして消費すれば大丈夫だよ。すぐに体に影響する訳じゃないから」


 そう言ってまた今朝と同じようにリストから戦闘糧食を取り出す。


「それならばいいんですけど……本当にすぐ太ったりしないですよね?」


 やはり太ると言ってしまったのがいけなかったのかもしれない。それでも覚悟を決めて春人から戦闘糧食を受け取る。


「まあでも、ちょっとだけなら……ちょっと位なら大丈夫ですよね。その分動けばいいんですからね」


 ここだけを聞いたら全然よろしくものに聞こえる。それでもちゃんと食事を取るということはいいことだ。


「食べないよりは全然いいよ。毎日のようにこればかり食べればすぐに影響が出るだろうけど、たまになら大丈夫だと思うよ」


「そうですよね、たまにならいいですよね」


 そして二人は今朝と同じようにパッケージを開けて、中身を広げる。今回も今朝と同じで缶詰と小袋の内容助かった。もし違う物だったらまた説明しなければいけなく少しだけ面倒だからだ。


 今回も今朝と同じでフランス軍のものが出て来た。流石にメニューは朝食とは違う。


「それじゃあいただきます」


 春人がそう言いながら手を合わせているのを見て、アリシアも同じように手を合わせた。


「いただきます」


 そしてまた二人は缶詰を開けながら昼食を始める。今朝と変わらずアリシアはとても美味しそうに食べている。このアリシアの顔を見て春人もつい笑顔になってしまう。


 ずっとこの笑顔を傍で見ていたいとこの時春人は思った。春人がアリシアに対する気持ちに少しだけ変化があったがこの時の春人はそれがどんな気持ちかはまだ気づかなかった。


 それから昼食を食べ終えた二人は食後に一息ついてから、少しの間留守にしていた家の中を掃除して綺麗にする。そして掃除が終わったのが夕方近くになってしまった。思ったっよりも時間が掛かってしまった。


 それから夕飯の支度で近所の人が忙しくなる前に近所の住人に挨拶に回る。そこでも春人は熱烈な歓迎を受けた。


 そこでもこの村に着いたときに子供達に言われた春人はアリシアの恋人なのかと言ったことを行った先々で同じことを何度も聞かれた。その度にアリシアが顔を赤らめて必死に否定してた。


 そして最後にこの村の長の所にも挨拶に向かった。そこで出て来たのは白髪の老人のウェアウルフの男性が出て来た。


「おお、アリシアちゃんじゃないか、いつ帰ってきたんだい? それとそっちの彼はもしかしてアリシアちゃんの恋人かな?」


 ここでも同じ質問が来た。そんなにこの村の住人には春人がアリシアの恋人に見えて仕方がないらしい。


「もう村長まで皆と同じことを言うんですね。この人はハルトさんと言って私の恩人であり仲間の人です!」


 ここでも必死になって違うと否定している。それがどことなく可愛く見える。


「おおそうかすまんすまん、茶化して悪かったね。それとハルト君だったね? ワシはこの村で長を勤めているボーアというものだ、以後よろしくたのむよ」


「初めまして春人です。こちらこそよろしく」


「さあ立ち話もなんだから二人とも中に入りなさい。そこで色々二人の話を聞かせてくれるかな? それと帰ってきたばかりだと夕飯の準備も出来ないだろう、よかったら家で食べていきなさい」


 そう言って室内へ二人を招き入れる。中に入ってから村長の奥さんにも温かく迎えられた春人であった。


 そして村長のお宅で夕飯をご馳走になり、その時に春人とアリシアの出会いを話した。


 春人が冒険者ギルドのクエストでゴブリンを討伐しに来た時にその巣穴でゴブリンに拐われたアリシアと出会い、そこで彼女を救い出した。その後にアリシアの父親に誤解で襲われたが、それも和解した。その後に春人がウルブスに戻るときにアリシアが同行してきて、今まで一緒に過ごしてきたと。


「そんなことがあったのか……ワシからも礼を言わせてもらおう。ワシらウェアウルフの一族の一人であるアリシアを助けてくれて感謝する。そして今後もこの子の事をよろしく頼むぞ」


 それからも村長たちとの歓談は夕食後も続き、村長宅を後にしたのは日も沈んで辺りが暗くなてしまった。その暗闇の中を春人とアリシアは家に帰宅する。






 村が闇夜に包まれ、空も雲で覆われ星空が見えない中で春人は蝋燭の灯りを頼りに暗闇を見つめ続けている。帰宅して暫くしてから二人は床に就いたが、春人は寝付けなかったためにこうして家のデッキに出ている。


 また寝てしまうとあの夢を見てしまうと思ったからだ。


「眠れないんですか?」


 春人の背後からアリシアが近づいてきた。


「ん? ああ、ちょっとね……」


「やっぱりハルトさんが夢で見たことが気になるんですか? その、ハルトさんの過去にあった事を話してください。やっぱりどうしても私気になるんです!」


 ここまで迫ってくるアリシアに本当に過去の事を話そうかずっと春人は迷っている。もし話さなければきっとこうして今後も迫ってきて話を聞き出そうとしてくるだろう。


 それにもしあの話をしてアリシアが春人の傍から離れていくかもしれない。そういった恐怖が春人にはあった。


「そんなに聞いたか? まあ話すといった手前話さないわけにはいかないからな。仕方ない、この場で話すとしよう。ただこれだけは先に言っておく、聞いたことを後悔するなよ」


 そう言って春人は先に警告する。


「私はどんなことを聞いても後悔しません。なんでも受け止めます。最後まで話してください」


 アリシアもすべて受け止め最後まで聞くといった。


 それから春人は話し出す、その昔何があったのかを……

次回で主人公、春人の過去を書きます。

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