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13:和解

今回書いていて何だかご都合主義になってしまった気がする……

 朝日が窓越しに部屋を照らし、日光に照らされてアリシアは目を覚ました。まだ微かにうとうとしている。


「おはようございます、ハルトさん」


 何時ものように隣のベッドで寝ているであろう春人の方に声をかける。だがそこに春人は居なかった。


「あれ? ハルトさん?」


 春人が居ないことを疑問に思ったアリシアは周りを見回す。だが結局春人の姿はなかった。それよりも隣のベッドが使われた跡すらなかった事に気が付いた。


 置いていかれた、捨てられたと思い、慌てて部屋を飛び出しロビーに駆け降りていく。きっとこの宿のどこかにきっといる筈だと思いながら。


 ロビーに降りても春人の姿は無く、宿の従業員が何人か居るだけだ。


「おはようございます。昨晩はよく休めましたか?」


 従業員の一人がアリシアに話しかけてくる。アリシアはきっとここの従業員ならば春人の居場所を知っているだろうと思い訪ねてみる。


「えぇよく休めました。それよりも私と一緒にいた男の人は今どこにいるか知りませんか?」


 だが帰ってきた返事はアリシアにとってよくないものだった。


「お連れ様ですか? 昨晩泊まられたのはお客様お一人で、お連れ様はいらっしゃらなかった筈ですが?」


 今まで一緒に行動を共にしてきたのに急に春人の姿が消えたことにアリシアは動揺した。私が何か気に障る様な事でもしたのだろうかと自問自答するが思い当たることはない。本当に春人がどこに行ったのか見当がつかない。


 現状が理解できずにパニックになりそうな時に宿の入り口に人影が見える。逆光で顔ははっきりと見えないが、アリシアは姿形だけでそれが誰だかはっきりと分かった。


「おはようアリシア、迎えに来たよ。昨晩はよく眠れたかい?」


 アリシアの今の気持ちを知らない春人は何時もの調子でアリシアの前に現れた。そんな春人に怒ったアリシアはグイグイと詰め寄っていく。


「おはようじゃないですよ! 昨晩はどこに行ってたんですか? 起きたら部屋には私一人だし、隣のベッドは使われた形跡は無いし、おまけにここの従業員の人に聞いたら泊まったのは私一人って言われたんですよ! あのままハルトさんは私を置いて一人でどこか行ってしまったんだと思いましたよ。私が何か気に障るような事でもしましたか? 私がいると本当は邪魔なんじゃないですか!?」


 アリシアは今の気持ちを全部春人にぶつける。最後にはアリシアの目に涙が小さく流れていた。春人の事を本当に信頼しているからこそ、急に居なくなってしまった事を激しく責め立てる。


「何も言わずに留守にして本当にゴメン、これには訳があるんだ。アリシアが落ち着いたら全て話すよ」


 春人は何も言わずに出て来たことに謝りながら訳を話そうとする。だがその前に泣いているアリシアをなだめる為にどうにかして落ち着かせる。


 春人はこの世界に来て色々と失態を犯してきたが今回のが一番の失態だと思った。いつも傍に居てくれる女の子を泣かせてしまうのはもうとしないと心に誓った。


 暫く時間が経ちアリシアも落ち着いて話が出来る様になり、まず春人は訳を話すよりも今一番気になっている事から聞いてみる。


「落ち着いたかい? 慌てて飛び出してきたのは見れば分かるんだが、寝巻きから着替える余裕すら無かったみたいだね」


 春人に言われて気付いたが今のアリシアの格好は寝巻き、所謂パジャマ姿のままだった。自分が着替えるよりも早く春人を探しに出たため、ずっとこの格好だったことを忘れていた。


 この格好に気付いてからアリシアは恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「とりあえず部屋に戻ろうか」


 春人の提案に頷いて答え一度部屋に戻る。


 アリシアが着替えるために部屋に戻っている間に春人はロビーに戻り朝食を取りに行こうとする。またどこかに行ってしまうんじゃないかと思い、着替え終わるまですぐ傍で待っててと言ったが、春人は直ぐに戻ると言ってロビーの方へ行ってしまう。


 そしてアリシアは部屋で春人が戻るのを待ちながらパジャマから何時もの服装に着替える。春人がちゃんと戻ってきても彼に対する憤りはまだ収まっていなかった。


「何よ、あんなに心配させておきながら何事も無かったかのように出て来るなんて。私がどんな思いをしたかも知らないで。ハルトさんにはお詫びをしっかりとしてもらうんだから……本当に居なくならないよね?」


 アリシアは一人不安な気持ちが混じった言葉を呟く。ある程度着替え終わった頃にドアがノックする音が聞こえた。


「アリシア着替え終わった? 終わったなら入ってもいいかな?」


 ドアの向こうにいるのは春人の様だ。本当にすぐに戻ってきてくれたみたいだ。


「どうぞ、空いてますよ」


「それじゃあ入るよ」


 そう言って春人は部屋に入る。手にはロビーで貰ってきた朝食を持っている。ちゃんと約束通り戻って来てくれた事にアリシアはホッとした。


 ここの朝食は朝食と言っても、少し大きめのパンと何かのスープが有るだけのあまりにも簡素なものだった。


「なあアリシア、なんだかこれ少なくないかい?」


 春人は疑問に思った事を聞く。それにアリシアは簡素に答える。


「宿の食事なんてどこもこんなものですよ」


 異世界から来た春人はこの世界の宿での食事の量の基準は分からなかったが、この量では絶対に足りないだろうと思った。


まだ日本のビジネスホテルの朝食のがしっかりしているのではとも思った。まあ春人はビジネスホテルを利用たことが無いから知らないが……


「正直これで足りる?」


「正直なところこれだけだと少ないですね。いつもはあの酒場で朝食をしっかり食べてから活動していましたもんね。まあ無い物ねだりは出来ませんからね、そこは我慢です。それとハルトさんの分の朝食が無いですけどどうするんです?」


 無い物は仕方がないとアリシアは言った。それと泊まったのがアリシア一人だけだからロビーで貰ってきたのはアリシアの分しかない。今ここには春人の分の朝食が無かった。


「俺の分の心配はしなくても大丈夫だよ。すぐに準備できるから」


 そしてMTマルチツールを起動しそこのアイテムリストからある物を取り出す。探していた物はリストからすぐに見つかった。


 --世界各国レーション巡りの旅 ランダムver


相変わらずふざけた名前のアイテムだがこれで元居た世界の食べ物が食べられるのだからありがたい。これを二人分召喚する。元々は戦闘糧食だが何もないよりはマシだ。


 春人も最近元の世界の料理が食べたいと思っていたので丁度良かった。それと異世界人のアリシアの口に合うのか心配であった。


 そして出て来たのはフランス軍のレーションだった。毎回どの国のが出るか分からないのが不便だ、後で幾つかの国のレーションに絞ろうと春人は思った。そしてその内の一つは日本ので確定している。


「よかったらこれも食べなよ。口に合えば良いけど」


 そう言って二つ出て来たうちの一つをアリシアに渡す。謎の箱を渡されたアリシアは不思議そうにそれを見ていた。


「何ですかこれ? ただの箱じゃないですか」


「その箱を開けて中に小分けされて入っているのを食べるんだ」


 そう言って見本がてらに箱を開け、中に入っている二つある缶詰の内の大きい方ととアルミ製の小袋のパッケージを開けて見せた。アリシアも見よう見まねで缶詰と小袋のパッケージを開けた。


 中身が見えるとアリシアは不思議そうに中を見ていた。どうやって食べればいいのか分からないらしい。


「ハルトさん、そしたらこれはどうやってたべるんです?」


「食べ方は特に決まりはないよ。箱の中にスプーンが入っているからそれを使って食べるといいよ」


 それから春人は先に食べ始める。アリシアも続いて箱の中からスプーンを取り出し缶詰の中の鶏肉の煮込み料理を恐る恐る一口食べてみた。


「美味しい……これすごく美味しいですよ!」


 異世界の料理はアリシアの口に合ったようだ。この反応を見れば誰でも分かる。さっきまで垂れていた耳がピンと立ったのが何よりの証拠だ。


 よほど味が気に入ったのか春人よりも食べるペースが早く、宿から出た朝食も含めて先に食べ終わってしまった。


「ふう……ご馳走様でした。あんなに美味しいもの初めて食べました。あれはもしかしてハルトさんが元居た世界の料理ですか?」


「口に合ったのなら良かったよ。これは確かに元居た世界の料理だよ。まあ一般家庭用じゃなく、軍人が行軍する時に持ち歩く戦闘糧食なんだけどね。それよりももう一つの小さい缶詰を開けてごらん、そっちはデザートが入ってるから」


 アリシアはこれが戦闘糧食だと聞いて驚いたが更に食後のデザートが付いてくるとは思ってもいなかった。そしてそのデザートの缶詰を開け、一口口にすると予想以上の甘さが口の中に広がった。


「何ですかコレ! すごく甘いです!」


 今度は目をキラキラさせながら言ってきた。ちなみに今アリシアが食べたのはチョコレート味のムースだ。この世界にはここまで甘い菓子は無いのだろうかと春人は思った。


「何なら俺の分も食べる?」


 そう言って春人は自分の分のレーションから同じ缶を取り出し差し出す。


「いいんですか!?」


 春人がいいと言うとすぐに春人の手から消えて、アリシアの手の中に移った。そして速攻で蓋を開けて食べ始めた。今のアリシアの顔はさっきの悲しそうな顔と比べるととてもいい幸せそうな顔をしていた。


 これだけ美味しそうに食べてる姿を見て、冒険者を辞め、このレーションでも売って生計を立てようかと思った。幸いこれは所持数無限の減らないアイテムでもあるから売り切れる事は無いだろう。


 そんな余計な事を考えながら朝食を食べ終えた。食べ終えたゴミはいつものように時間が経てば消えていった。


 そしてアリシアの方から先程の話を切り出した。


「さて、そろそろハルトさんが昨晩帰ってこなかった理由を教えてもらえますか?」


 ここでどこから話そうか考えたが、下手に話しても言い訳にしか聞こえないので最初から全て話した方がいいだろうと思い、春人はありのまま起こった事を話す。


「少し話が長くなるけどいいかな? まずはどこから話そうか……そうだな、昨晩誰かに尾行されてたのは知ってるよね? そいつが深夜に宿舎の俺たちの部屋に侵入してきたんだ」


 それを聞いてアリシアは驚いた顔をしていた。それでも春人は話を続ける。


「そいつが部屋に来るのを予想してアリシアをこの宿に避難させたんだ。何も言わなかったのは本当にゴメン。それでそいつの相手をするのに俺は部屋で待機してたんだ。まあ予想通り本当に来たから困ったよ。誰も来ないで何事も無かったらよかったのにね。


 で、そいつの目的が俺の武器、銃を狙ってきたもんだから大変だったよ。どこで知ったとか色々聞いたりお話していたらいつの間にか日が昇り始めてきたんだ。それからそいつを適当に処理してから急いでアリシアを迎えに来たんだ。そしてここに来たらアリシアがあんな状態だった訳だ。俺の一番の失敗はアリシアを心配させて泣かせてしまった事だね……本当にゴメン!」


 春人は精一杯の誠意を見せ、頭を下げアリシアに謝罪する。


「そういう事なら一言私に相談してくれれば何かできた筈なのに、まだ私の事を信用していないんですか?」


 アリシアの悲しそうな視線が春人に突き刺さる。アリシアは春人から信頼されていると思った矢先にこんな事が起こってしまったので疑心を抱いてしまった。


「そんな事はないよ。俺はアリシアの事を信頼している。だからこそこうして宿に避難させて、危険から遠ざけたんだ。君を危険な場所に近づけたくないんだ!」


 そう言うが春人の戦闘時の姿を見せたくないという理由もあった。またあんな姿をこの子の前で見せたら今度こそ自分の前から居なくなってしまうのではないかという不安もあった。


 でもその不安な気持ちをアリシアに打ち明けるつもりはない。しかしその時が来たらしっかり話そうと思う。春人はアリシアよりも年上だから弱い所を見せないようにしているが、この気持ちもいつかは知られてしまうだろう。


「ハルトさんがそういった理由で私に言わなかったんですね。でも私は言ってくれれば今度からはいくらでも協力しますよ。私はハルトさんの事を信頼していますから!


 それと今回のハルトさんの事はあの美味しいご飯に免じて許してあげます。何かあれば私に相談してくださいね、私でよければ力になりますんで。でも今度また同じことをしたら許しませんよ?」


 今回は美味しいレーションに免じて許してくれたが次は無いらしい。許してくれたことに春人は感謝する。


「ありがとう。もし今後何かあれば相談させてもらうよ」


「そうですよ、ハルトさん一人で抱え込まなくていいんですよ。なんでも相談してください!」


 そう胸を張って言うアリシアがなんだか頼もしく見えた。こんな時に仲間がいてくれて本当に良かったと思う。


「さてと、話は変わるけど今日のギルドのクエストは全部無しだ。他にやらなきゃいけないことが出来たからそれを終わらせに行くよ。さっさと終わらせて俺は寝たいよ、一睡もしてないんだ」


 春人は今日中にハロルドの所に行くという用事が出来た。アポは取っていないが急ぎの用だと言えば取り次いでもらえるだろう。


「ならばここで少し休んでから行きます? 幸いチェックアウトまでは時間が有りますからね。そうした方がいいと思いますよ。ほらここのベッドが空いてますよ、時間が来たら起こしますんで少し寝てください」


 そう言って使われていない方のベッドを指さす。アリシアの気遣いに感謝してベッドの方に行く。


「じゃあそうさせてもらうよ。正直もう限界だったんだ。時間が来たら起こしてくれ」


 疲れからか春人は違う方のベッドに倒れこむ。そっちはアリシアが使っていた方だった。


「ちょっとハルトさん! そっちは私が使ってた方ですよ!」


 慌てて叫ぶが春人の耳に入ることは無く、既に意識を手放し眠ってしまっていた。


「まったくハルトさんはしょうがないんだから……私よりも年上だからって全部一人で抱え込んでるのは知ってたんですよ……私だってあなたの力になりたいんですよ」


 そう言いながらベッドにもたれ掛かっている春人を何とかベッドに寝かせる。


「やっぱり男の人ですね、けっこう鍛えてますね」


 春人をベッドに寝かせるのも女の子の力では大変だった。


 ベッドで寝息を立てている春人の所にアリシアも入って来た。そして春人の頭の近くに座り膝枕を始めた。アリシアの視界には自分の膝の上で寝ている春人がいる。これだけでもアリシアは幸せだった。


「少しの時間しかないですけどゆっくり休んでくださいね。私はどんな事が合ってもあなたを信頼していますから。それといつか私の気持ちを聞いてください」


 返事が返ってくることはないがアリシアは春人に語り掛ける。


 こうしてチェックアウトの時間までゆっくりと時間は流れていった。

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