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第4話

書きたいテーマに合わせるため、舞台設定を変更しております。

1話~3話も改稿しております。

別章も更新予定です。

 謁見を終えた後、3人はエマの案内で応接室へ戻り、そこで文官から説明を受けていた。


「……このように、我が国は魔物や隣国によって生活圏を脅かされております。勇者様方には、是非ともお力になって頂きたく……」

「お待ちください。我々は戦うということと無縁で育ってきました。そのため、急に戦って欲しいと言われても、どうすれば良いか分かりません」


 文官の説明で焦点となる部分に差し掛かったところで、文官の話を光が遮る。


「ほ、本当なのですか?」

「はい、我々のいた世界では、魔物という人間の脅威はありませんでした。なので、戦うという経験もありません」

「なんと……」


 文官は光の回答に言葉を詰まらせる。


「ですので、出来れば戦う術を教わりたいのです」

「しかしそれでは……」

「そうでなければ、そちらのご期待に応えられません。お願いします」

「しょ、少々お待ちください」


 文官は慌てた様子で部屋を出て行った。

文官の後ろ姿を見送って、3人は顔を合わせる。


「このまま上手くいくかな?」

「上手くいって欲しいですね……少しでもこちらが主導権を取らないと、流されるままになってしまいますから」


 自分たちの処遇については、3人で事前に話し合っていたことだ。

戦闘に無縁な現代日本人がいきなり戦えと言われても土台無理な話である。

かといって、元の世界に帰してくれと頼むとどうなるか。

それなりの資源を消費して召喚したのだ。

無償でこちらの希望を聞いてくれるというのも楽観的に過ぎる。

幽閉されるのはまだましで、役に立たなければ最悪「処分」という可能性すらある。


「一応、素質はあるってことでいいよね?」

「真樹さんが見せたあれですね」

「あ、ああ。変な感覚だったぜ。躱そうと意識を集中したら、急に相手の動きがゆっくりと見えたんだ」

「魔力による身体能力の強化、とでも言えばいいのかな」

「そうですね。でも、そうした力を自在に使いこなせないとこの先生き残れないですよ」

「だな……」


 騎士の剣を回避して見せた真樹。

何かの片鱗を見せたとはいえ、それが何であるかはっきりと理解していない。

頼る相手が必要だが、この国に囲われている現状、この国を頼りにするしかない。

国に召喚された時点で行動の自由は無いに等しい。


「早く力をつけて、生きる術を確立しないとね。最悪この国を出るって選択肢も……」

「光っ、そんなこと誰かに聞かれたらまずいぞ」

「ご、ごめん」

「不用意な発言には気をつけないといけませんね。誰がどこで聞き耳を立てているか分かりません」


 こくり、と真樹、光の両名は悠人の言葉に頷く。

一応、平和な日本と違うのだと3人は話し合ったが、現代日本人の警戒心がどの程度まで通用するかは未知数だ。

警戒し過ぎて困ることはないだろう、との認識を共有している。


「……まだ戻って来ないな」

「そうですね」


 足音が近づいて来ないか部屋の外に意識を向けているが、まだ戻ってこないようだ。


「この先どうなるかね……」

「流石にすぐに戦え、はないと思うけど……」

「僕たちを育てつつ、囲い込みを図ってくるのが妥当ではないですか?」

「ああ、力は独占したがるもんだよな」

「囲い込みはするでしょうね」

「ありがちな展開の1つで、女がやたら近寄ってきたりとか?」

「ハーレム……罠だと分かっていてもやっぱいいな……」

「真樹……ん?戻ってきたみたいだ」


 3人の会話が雑談めいてきたところで、人の気配を感じ取る。

程なくして、先ほどの文官が入ってきた。


「お待たせしました。検討の結果、皆様方には我が国騎士団の教育に参加頂ければと存じます」

「騎士団、ですか。先ほどもいいましたが、すぐには戦えないですよ?」

「はい。ですので、当面は訓練のみです。ちょうどよい訓練がありますので、そちらへ参加頂ければと」

「なるほど」


 どうやら、3人の企図した流れになってくれそうだ。


「ご配慮ありがとうございます」

「いえ、我々も浅慮でした。申し訳ありません。これから宿泊する部屋へご案内致しますが、よろしいでしょうか?」

「お願いします」


 文官が別の部屋へ案内するということで、3人は席を立つ。

3人は文官とメイドの案内に従って移動していく。

初めて目にする王宮は、単なる廊下であっても物珍しいため、3人は首を右へ左へと振り向けながら歩を進めていった。


――――――――――


「訓練は2日後から始まります。明日は魔術についてご説明致しましょう。それまではごゆっくりお過ごし下さい。何か御用があればこの鈴を。メイドが対応致します」

「ありがとうございます」

「では失礼致します」


 文官が去った後、改めて部屋を見渡す。

3人は当初の応接室から宿泊するための部屋へとやってきた。

3人の感覚からすれば、広めのホテルの一室を思わせる造りになっている。

来客用の部屋の1つなのだろう、居間のように寛ぐための部屋と寝室に分かれており、寝室には1人用のベッドが4つ並んでいる。


「始まりは2日後ですから、まずはゆっくりと身を休めましょう」

「そうだな。気疲れしたよ」

「確かに」


 3人は思い思いの形で気を緩めた。

真樹はベッドに身を投げ出し、体の緊張をほぐすように伸びをする。

光もベッドに向かい、ベッドに腰掛けて部屋を見回す。

先ほどまでの背筋を伸ばした座り方ではなく、後ろ手をついて体支えた姿勢で脱力している。

悠人は目的があるわけでもなくぶらぶらと部屋を歩き回り、そして窓際で立ち止まった。

外を見ながらぼうっと立っている。

窓から外を眺めているようだ。

窓の外には城の一部、城下町として広がる街並み、およそ日本では有り得ない風景が広がっている。


「……本当に……異世界なんですね、ここは」

「……ああ」


 独り言のような悠人の声に真樹が応える。


「光さん、日本や家族を想って辛い時には遠慮なく話してください」

「え、なんで?」

「はっ、おいおい、光だけかよ」


 悠人の物言いに2人が各々さもありなんという反応をする。


「僕と真樹さんは転生者です。もうこの世界で生きていくしかない、と諦めがつきます。ですが光さん、貴方は転移者だ」

「……ああ、そうだったな。俺らと光とじゃ事情が違ったか」


 誰が故郷を想わざる。

日本人は土着の民であるため、生まれ故郷に愛着を抱く民族である。

普段は意識することはないが、故郷から離れた時、あるいは日本から海外へ出た時、郷愁の念を抱くものだ。

ほとんどの者は何かを失って初めてその何かの大切さに気付く。

それが当たり前であればあるほど普段意識できないのは、人間の性である。

これが流浪の民であれば、精神的な寄る辺となる土地を持たないため、ホームシックになることはない。

例えば、日本の隣国である大国の民族がそうだ。


「……そんなこと」

「今はこの現実に慣れることに精一杯ですが、ふとした時に感情的に辛くなる時があるはずです。そうした時、誰かに胸の内を話すだけでも多少は心が落ち着きますよ」

「それは真樹も悠人も同じじゃない?いくら転生とはいえ、前世の記憶を持っているんだ」

「否定はしないぜ。そりゃあ、自分が死んだ後に周りがどうなったか気になるさ。異世界だ、転生だ、って単純に興奮するほど前世を捨て切れちゃいない」


 真樹は少し顔を上げ、どこか遠くを見るような目で天井を見上げる。

悠人の物言いに納得した真樹であったが、「論理的に一応納得した」程度である。

納得したといっても、感情面での整理がついていない。

異世界らしい人や物を見たことに心が躍ったのは事実だが、ひとまず緊張を緩められた今この時、彼の心の内には家族や友人の顔が浮かぶ。


「そう……ですね。光さんが特に気掛かりではありますが、僕や真樹さんもそう変わりないですね」

「俺らは一蓮托生だ。話したいと思った時は何でも話そうや」

「だね」

「分かりました」


 一息ついた今、3人は正直なところまだお互いの距離を掴みきれていない感覚を実感する。

それ故、ある一つの話題について会話が生まれたかと思えば、その話題について一段落すれば沈黙が訪れる。

それを何度か繰り返す3人。

お互いの心理的距離に加え、異世界というあまりにも大きい環境の変化、この先への不安が重なり、途切れ途切れの会話になってしまう。

それでもこの世界に召喚されたのは自分たち3人だけ、何かを話していないと不安が一人歩きしそうになる。

3人の間にまだまだぎこちなさが残るまま、その日の夜は更けていった。


――――――――――


 翌日、3人の部屋にローブを羽織った、いかにも魔術師に見える人物がやってきた。

よく見れば、謁見の場で聖皇の脇に控えていた者の1人であった。


「挨拶が遅れまして。私は宮廷魔術師のグリッジと申します。どうぞよろしく」

「悠人と申します。ご教授よろしくお願いします」

「ま、真樹です。よろしくお願いします」

「光といいます。今日はよろしくお願いします」


 互いに自己紹介をして、4人は席に着く。

グリッジというこの男性は宮廷魔術師を名乗るだけの確かな実力があるのだろう。

加えて、謁見の場にいたということは、それなりの社会的地位にあるはずだ。

つまりは、自分たちが値踏みされているというわけだ。

ここで存在価値を示さなければ、と悠人、真樹、光の3人は内心緊張する。


「緊張してもおかしくはないだろうが、深呼吸でもして少しでも力を抜いてもらいたいですな。そう強張っていては、出せる力も出せないでしょう」

「は、はい……」


 真樹と光は言われたように深呼吸をして肩の力を抜く。

悠人は2人に比べてそれほど緊張した様子もない。


「さて、これから魔術について説明いたしましょう。この世界には魔力という不可視の力が存在し、我々人間はそれを使って様々なことができます。簡単なところでは、身体能力を高めたり、火を起こしたりと。使える魔力の量については個人の適性・能力によります。魔術は得たい結果を具体的に想像することで行使出来る魔術もあれば、詠唱による魔術もあります。前者は想像が簡単な魔術、あるいは十二分に使い慣れた魔術がそうです。後者は複雑な現象を起こす魔術、または大規模な魔術が該当します。また、便宜的に魔術は分類分けがなされております。これは「属性」と呼称されており、火、水、土、風、雷、光、闇といった属性があります。分かりやすくするため、属性は自然現象を元にしています。光属性には神聖属性、闇属性には魔属性が含まれます。神聖属性や魔属性は自然現象とは異なりますので、分類がやや曖昧です。ここまではよろしいですかな?」

「はい、俺、私たちの世界に魔術はありませんでしたが、その概念は存在していました。なので、今の説明は理解できます」

「結構、では実際に使って見ましょう。皆さんに魔力があることは感じられますので、簡単なものは大丈夫かと思われます」


 グリッジの実演に続いて、3人は身体強化、種火を起こす、水を器に注ぐといったことを色々と試す。

真樹と光は小さな火を出すつもりが、予想外に大きな火となってしまう、という結果になる。

素質が非常に高いのか、力の制御が上手くできないのか、いずれにせよやや暴走気味であった。

そんな2人がいることから、悠人の力の発現が弱いように見えてしまう。

最終的に、3人は光属性と闇属性を除く属性について簡単な魔術を使うことが出来た。

光と闇以外は文字通りの属性であり、想像が容易い。

自然現象を科学的に解明したことを教育で学んでいたからこそ想像力が功を奏したようだ。


「おお、素晴らしいですな。複数の属性に適性があるのは珍しいことです」


 3人の受けた教育や持っている知識、引いては地球の技術的背景を知らないグリッジは「適性がある」という形でしか現実を認識できないが、それは致し方ないことであった。

そうして半日魔術講義が続き、残り半日は休養をとってその日は過ぎていった。


 夜の帳が十分に下りた頃、王宮の一室に聖皇以下国の最重鎮が集まっていた。


「して、グリッジ、どうだったかな?」

「はい、3人とも魔力は十分あるようです。青年の2人は身体強化や日常生活に使える初歩的魔術の行使に問題はなく、加えて光属性と闇属性を除く属性に高い適性があるようです。素質が高いのか、魔術の発現力が高いです」

「ほう、流石はといったところか」

「多大な資源を割いて召喚術を行った分に見合うだけの者を呼び寄せられたようですな」

「少年については、特段目立つものはありませんでしたが、気になる点が1つ。青年2人よりも大人びているというか、肝が据わっている印象を受けました」

「ふむ、年齢にそぐわない落ち着きようだったと。あの少年はだいたい13、14歳くらいか?我々の世界の人間を基準に考えても精神年齢が高そうか?」

「おそらくは」

「2人より幼い分、緊張仕切りであったという可能性は?」

「その可能性もありますが、緊張や混乱を感じられるような言動はありませんでした」

「なるほど……当面何か害を及ぼすことはないだろうが、腹に一物持っているやもしれんな」


 為政者は性善説で動いてはならない。

常に最悪を想定していなければ、国家という巨大組織を率いることはできない。


「では少年の言動に注意を払うよう処置しましょう」

「うむ」

「彼らが戦う術を知らないことは想定案の1つだが、最低限の水準で戦えるようになってもらわないとな」

「そうですな」

「陛下、スヴェトラーナ殿下ですが……」

「よい、当人が望んだことだ。今持ち出す話題であるまい」

「はい……」

「次に隣国との関係についてですが……」


 組織というものは必要でありながら厄介なものである。

問題を解決したかと思えば、それを上回る問題や別の解決すべき問題が次々とやってくるのだ。

3人が休む中、為政者たちの夜はまだまだ終わらない。

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