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第3話

 3人はメイドのエマから聞きだしたことをもとに、再度3人で話し合いをする。

ここはレイトピア皇国という国らしい。

国王に相当する「聖皇」が国の元首であり、その下に行政機能が設けられているそうだ。

そして、3人がなんとなく予想していた通り、貴族という身分が存在する。

科学技術ではなく、魔術とそれを応用した技術体系が組まれているが、文明の水準は地球ほど発達していない。

そして、現在人類の世界は、魔物や魔族と呼ばれる者達によって生活圏を脅かされており、その対処に苦心しているという。

また、隣国との関係次第では、国家間の戦争も起きている。


「なんつーか、よくありがちな設定だよな~」

「設定じゃなくて現実だからね?」

「わかってるさ、光。こんな現実味のありすぎる感覚が夢だなんて思っちゃいないさ」


 真樹は肩の高さで両手を広げつつ、肩を竦めながら答える。


「何にせよ、こうしてこの国に召喚された以上、この国の保護を受けるしかないかなと思います。逃げ出そうにも先立つものがありませんし」

「だよなあ」

「聖皇にまた謁見するということだけど、逃げようがないね……」


 例えば、この世界に召喚された場所がどこかの森で、生きていくために必要な一通りの道具や武器が揃っていたら、自由に動き回れただろう。

だが、現状はそうではない。

3人はこの国に囲われた形になっており、選択肢はないに等しい。


「まあ、俺たちのことを最初から洗脳したりだとか、そんなことはしてこないだろうさ。その間にどれだけの力があるのか確かめて、強くなればいい」

「……」

「それには賛成するよ。自分たちの安全を確保するための力はどうあっても必要だろうから。まずはこの後の謁見をどう乗り切るかだね」

「そこは光、頼んだ」

「ええ!?」

「悠人に頼むと格好がつかないし、俺か光だろ?俺はこんな軽い調子だからおかしなこと口走ってしまうかもしれないからな」

「いやいや、そこは一番年上の真樹でしょ?」

「人の良さそうな好青年の光の方が印象いい」

「それを言うなら、イケメンな真樹の方だね」


 少し黙っている悠人を尻目に、二人は大役を押し付けあう。

未だに現実味の無さという違和感は抜け切れていないが、先ほどの謁見をもう一度するとなれば、2人とも積極的に受け答え役を担う気は起きない。


「あの、やはり背が高くて目鼻立ちも整った真樹さんの方がいいかなと僕は思います」

「そうそう、そうだよね」

「んなっ……」

「なんだかんだ、見た目での第一印象って重要じゃないですか」

「真樹は自分を軽いっていうけど、見方を変えれば気後れしないともいえるじゃないか。適任だよ」

「いや、そうはいってもなあ」


 悠人の言葉に便乗してヨイショする光。

自分が面倒ごとのお役御免になれそうだと畳み掛ける。


「不安なら、ちょっとここで練習したらどうですか?」

「え?」

「面接の練習みたいに、謁見の練習です」

「それはいいかもね」

「悠人はしっかりしてるよなあ。いっそ悠人にお願いするか」

「さっき自分で格好がつかないって言ったじゃないか、真樹」

「冗談だよ、冗談。ああ、もうやるしかねえか。おかしなこと言わないようにしないとな……」


 異世界に来て、まさかの面接訓練である。

光・悠人組と真樹が向かい合い、練習をする。


「えー、あなたが当社を志望した理由は?」

「御社の分野は私が深く関心を寄せている分野であり、やりがいをもって……って違う違う。就職の面接じゃないだろ、悠人」

「あはは、すいません。でもすらすらと言葉が出てきましたね。その調子でいきましょう」

「まあな。年上だけに、多少はそういった経験はあるさ」

「その延長線でお願い、真樹」

「ああ、そうだな」


 少し緊張がほぐれたところで、練習を続ける。

とはいえ形式的には、がちがちの本番を模した練習というよりも、受け答えの内容をどうするかという話し合いに近い。

謁見というお堅い場、突飛なことは話さないだろうと踏んで、3人は受け答えする内容を詰めていく。


――――――――――――――――――


 エマに先導されて、3人は謁見の間に移動する。

3人とも表情が強張っている。

先ほどまで話し合っていたとはいえ、身内でやっていたことだ。

これから異世界人を相手にするとなると、緊張しないわけがない。

ごく普通の二十歳前後の若者が総理大臣や大統領かそれ以上の立場の人と会わんとするのだ。


「到着しました。どうぞお入りください」


 エマが扉を開ける。

扉が開くと同時に3人は歩を進めて中へと入った。

先刻目にした荘厳さを感じさせる部屋の光景が目に入る。

だが、前回と違って、数多くいた列席者がいない。

玉座にいる聖皇と、その両隣に控える4人の計5人である。

3人は、居並ぶ多数の目に晒されないと分かり、幾分緊張が解れる。

そして、エマから聞いた礼式に従い、片膝をついた。


「楽にしてよいぞ。面を上げよ」

「……はい」

「汝らの名は何と言う?」

「私は真樹、隣の青年は光、少年は悠人と申します」

「マサキ、コウ、ユートか。して、少しは落ち着いたか?」

「はい、ご配慮ありがとうございます。お陰で心を落ち着かせることができました。侍女の方からこちらの世界のことを多少伺うこともできました」


 打ち合わせ通り、真樹が矢面に立って天皇の問いかけに答える。


「うむ、突然我らの世界に呼び出したのだから、混乱も仕方なかろう。さて、大よそのことは侍女から聞いておるだろうが、汝らの力を貸して欲しい」

「我々に力があるのか、まだわかりませんが……」

「それであるがな、ちと試してみよう」


 聖皇が脇に視線を移すと、傍に控えていた内の一人が真樹達に向かって歩いてきた。

鎧は着ていないが帯剣しており、騎士と見受けられる体格の良い男性である。

腰に佩いた剣とは別に、訓練用だろうか、木刀のような模擬剣を手にしている。


「その者が斬りかかってみる。見ての通り真剣ではないが、まともに打たれればそれなりの怪我をするだろう」


 聖皇の脇に控える者の一人が説明をした。


(え!?ちょっ、マジかよ)


 真樹は内心焦る。

腕試しは可能性として考えてはいたが、自分が丸腰は想定外である。

格闘技や武道の心得がなくとも、徒手空拳で剣を相手にすることがどれだけ不利か分かっている。

真樹らに近づいて来た騎士は、一足一刀の間合いで立ち止まると、そのまま剣を構える。

正眼から剣をやや横にずらし、体もそれに合わせて半身、薙ぎ払いをしやすい構えだ。


「手加減はしない。上手くかわしてくれよ?」

「ッ!!」


 向かい合った騎士の言葉に真樹は歯を食いしばり、目の前の相手に集中する。

真剣ではないとはいえ、当たれば骨折してもおかしくはない。

何とかしてこの状況を止めようにも、その術を思いつかない。

聖皇以下、「向こう」はこれを止めるつもりはないようだ。

そして


「ハッ!」


 構えていた騎士が腹に力を込めるような短い掛け声とともに踏み込みつつ、横薙ぎに剣を振る。


「っと……え?」


 なんとしてでもかわさなければ、と必死に避けた真樹。

そこで、自分の気持ちと身体の感覚とにずれが生じる。

振るわれた剣を余裕でかわすことができたのだ。

相手の踏み込みや剣筋が良く見えたため、剣をかわすための体捌きが思ったよりも簡単にできたのだ。


(どういうことだ?)


 真樹はその違和感に自問自答する。


「フッ、ハッ」

「ッ!」


 続いて繰り出される剣閃も難無くかわしていく。

だが、気持ちの面ではまだ余裕がない。

まだ剣をかわすことに心の余裕が無いのが半分、そして必死にならずとも回避している自分の身体感覚と気持ちのずれによる混乱が半分といったところだ。


「よい。止めよ」


 幾合かしたところで壇上から制止の声がかかる。

剣を振るうのを止めた騎士は、剣を納めるように持ち替え、居住まいを正すと壇上に戻ることなく悠人らの傍に立った。


「その者は一応剣技に優れておる者の一人でな。素手で相手をするには厳しいはずなのだが、どうかな?」

「え?……はい、この方の動きがよく見えたので、かわすことができました」

「ふむ、どうか?」

「はっ。可能性は見出せたかと」

「魔力のゆらぎも見られます。魔力を扱う素地はあるかと」


 真樹は短く自分の感触を答える。

これも3人で話し合ったことだ。

何が不興を買うかわかったものでないので、無駄に修飾語をつけることなく事実を単純に述べようと決めたのだ。

聖皇は傍に控える者を見遣って問いかけると、軍人・武人風に見える男性、魔術師風のローブを羽織った者と小声で話し合っている。


「さてマサキ殿。我らが力を貸して欲しいとは言ったものの、汝らは自分たちに力があるのか、あったとしても使い方がわからない。そうであろう?」

「はい、その通りです」

「ならば、当面は我が国でこの世界について学んでみてはどうかと思うのだが、どうか?」

「……」


 貴真樹は悠人と光をちらっと見ると、2人は頷く。


「はい、私たちもそのように考えておりました。ご厄介になりたく存じます」

「それがよかろう。汝らには世話役をつける。細かいことはその者と話してくれればよい。まずはここでの生活に慣れてもらわねばな」

「ご配慮ありがとうございます」

「うむ。ではあとは頼むぞ」

「「はっ」」


 脇に控える人に一声かけると、聖皇は退室していった。

まずは最初の関門を抜けたことに、3人はとりあえず安堵のため息をついたのだった。

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