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第2話

 部屋に光が満ちる。

見れば床には複雑な模様、魔法陣が描かれており、その線に沿って光が走っている。

部屋には魔方陣を見る多くの人が居り、その内の数人が魔法陣の近くで手をかざすようにしている。

徐々に強まった光は、やがて部屋にいる者達の視界を埋め尽くすほどになり、数秒の時間を置いた後に光の輝きは収まった。

魔法陣を囲っていた数人の者達は、光が収まると同時にぐったりと膝をつく。

光を発しなくなった魔法陣の中心には1人の少年と2人の青年が立っていた。

少年は黒髪でやや小柄な背丈、まだまだ男性としての成長はこれからという容姿は、やや童顔、幼さゆえに女顔にも見える顔立ちが、身長と相まって幼い印象を強くする。

青年の内の一人は、十代後半から二十台前半、少年と同じく黒い髪に溌溂さを感じさせる凛々しい顔立ち、背丈は平均的成人男性と遜色のない好青年である。

もう1人の青年は、年齢は同じくらい、背丈は先の青年より若干高く、若干彫りの深い整った顔立ちと茶髪が垢抜けた印象で、ファッションモデルや芸能人かと思わせる美丈夫である。


「ようこそ、異界の勇者よ。国を代表してそなたたちを歓迎する」


 部屋は奥に向かって段々と高くなっており、その頂上にある立派な椅子に腰掛けた男性が3人に声を掛ける。

装飾煌びやかな衣装に王冠、その脇には西洋風の鎧を着た騎士と思われる男性、ローブを羽織り、杖を持った男性が立つ。

それを見れば、誰しもが「王様」「皇帝」といった言葉を思い浮かべるであろう。

周囲には、高級そうな衣服を着た男女が並び立つ。

そこは、童話、映画やアニメで見聞きするような広間であった。


「……」

「え?何だ?本当、なのか?」

「マジかよ、これ……」


 少年は押し黙ったまま、2人の青年は信じられないとばかりに声を漏らす。


「突然のことで混乱もしていよう。部屋に案内するゆえ、しばし休んでもらおう。時間をおいてからまた顔を合わせよう」


 そう話を続けた男性が鈴を鳴らせば、メイドと思われる女性が近寄り、「こちらへ」と案内をする。

混乱が治まらないためか、言われるままに歩を進める3人。

案内された部屋に入れば、机や長椅子が並んでおり、応接室と思われるに足る部屋の造りになっていた。

もっとも、日本の一般市民の感覚からすれば、広すぎる、豪華すぎると気後れしそうな部屋ではあるが。

部屋の中はお香を焚いているのか、ほのかに甘い香りがする。

それとて不快にならないよう、加減が調節されたわずかなものであり、格調高さを感じさせる。


「まずはこちらでごゆっくりお寛ぎ下さい。こちらの鈴を使って呼んで下さればすぐに参ります」


 部屋まで案内をしてくれたメイドが話しながら鈴を茶色髪の青年に手渡す。

その間に、他にやってきたメイド達がお茶やお菓子を机に並べていく。

メイド達を見れば、違和感が大きい。

いかにもメイドらしい服装、ミニスカート等ということはない、本来の機能である作業着を兼ねたメイド服についてはいい。

顔立ちが東洋人よりも西洋人に近い彫りの深さというのもまだわかる。

一番の違和感を生じる点は、彼女らの髪の色であろう。

緑、桃、青等と、明らかに地球ではあり得ない髪の色をしている者がいる。

彼女らはごく当たり前のように自分の仕事をしており、粛々と立ち回る様は彼ら3人をして違和感を抱く自分たちがおかしいのではないか、という戸惑いを3人に抱かせる。


「申し遅れましたが、私のことはエマとお呼びください。この世界のことで知りたいことがありましたら、私がお答え致しますので何なりと。私をお呼びにならなくても、しばらくしましたら一度お声をお掛けさせて頂きます。それでは失礼致します」


 一通りの作業を終え、最初に自分たちを案内してくれたメイドが最後に退室して行き、部屋には自分たち3人が残る。


『……』


 3人はしばらくの間沈黙したままだった。

無理もない。

ここは外国どころか地球ですらないと思われる場所。

あまりの環境の変化に対応しきれないのが普通だろう。

なぜか言葉が通じることがせめてもの救いである。


「えっと、じ、自己紹介しませんか?僕は草薙悠人くさなぎゆうとと言います。日本人です」


 少年がおずおずと最初に言葉を発する。


「あ、ああ。俺は天寺光あまでらこう。同じく日本人、17歳だ」


 黒髪の青年が戸惑いながら答える。


「俺は金木真樹かねきまさき。俺も日本人。年は19だ」

「皆さん日本人でしたか」


 それぞれがお互いの名前を言い合う。

同じ日本人同士、と安堵の吐息を悠人が漏らす。


「金木さんは本当に日本人、なんですか?」


 お互い初対面で個人の事情は知らない間柄だ。

いきなり無遠慮にお互いの内情を話し合うまでには至らず、かといって一歩踏み出さなければ沈黙が続くだけだ。

光は話しの切っ掛けに、と真樹の外見が日本人離れしていることを話題にする。


「年の差はあまりないんだし、真樹でもいいぜ。俺も光って呼ぶからさ。敬語もいらないだろ?でだ、ここに召喚される前に神様が願いを叶えてくれるって言うから、外見を変えてもらった。本当にイケメンになったのか?」


 そういって真樹は部屋の中を見回し、鏡を見つけるとそちらへ歩いていく。

鏡に映った自分を見て「うぉーマジか!すげー!」とはしゃいでいる。


「悠人君は何歳なの?」

「僕のことも悠人、でいいですよ。年齢は32でした。お2人からしたらおっさんですね。僕の場合は神様に若くしてもらった……のですが、若くなりすぎのような」


 悠人は苦笑しながら背丈を光と比べつつ、自分の顔や体を手で触って確認する。


「え!?そ、そうなんですか!?」

「あ、敬語にしなくてもいいですよ。周りに変に思われてしまうかもしれませんし、僕もむず痒いです。うーん、不思議な感じですが、肉体年齢に精神が引っ張られているのでしょうか」

「そうで……わ、わかったよ」

「おっと、すまん。自分がどう変わったか見たことないからさ」


 真樹が鏡の前から戻ってくる。

望み通りであったのか、満足気な様子である。

自己紹介を切っ掛けに、各々話したいことは次々と浮かんでくる。


「これって本当に異世界なのかな?」

「間違いないだろ。俺は死んだと思ったら何もないところにいて、神様とやらにこの世界に来ることを持ちかけられた。日本にはこんな西洋の城と町並みなんてないしな」


 光の疑問に対し、「死んだ」というところで苦虫を噛み潰したような表情をしつつ、真樹が窓から外を見ながら答える。

光もつられて窓の外を見れば、この部屋はそれなりの高さにあり、眼下には城の敷地、城の周りに広がる街、そして街を取り囲む壁が見える。


「え?し、死んだ!?」

「僕も同じです。日本にいた時に、事故に遭って死んだと思ったら、真っ白な空間にいて。光さんは違うんですか?」

「俺は死んだんじゃない、と思う。自分の部屋で普通に寛いでいたら、急に視界が変わって。それでだから」

「じゃあ俺と悠人は転生、光は転移ってやつか?」

「真樹さんは詳しいのですね。オカルト好きなんですか?」

「オカルトもそうだけど、漫画やアニメである設定だろ?まさか自分がそうなるなんてな。あれか、神様からのチートで勇者として活躍、美人を囲んでハーレムってか!?」

「ま、まあそういう話が王道だね」

「男のロマンってやつですね」

「まだ実感できちゃいないが、人並み外れた力もあるんだぜ。そうならないわけないだろ!」


 真樹は自分の容姿が望み通りに変わったことで、この状況が本物だと受け入れられたのだろう。

まだ戸惑いを隠せない2人と違って、自分のこれからを思い描いてやや興奮気味である。

悠人は机に並べられた軽食に目を向け、そちらへ向かって歩を進める。

茶器を持ち上げて眺めたり、ポッドの中を確認したりと一通りいじってみてから、2人に声を掛ける。


「せっかくだし、これ、頂きませんか?」

「ああ」

「そうだね」


 悠人の提案に応じ、2人は机の周りに置かれた椅子へ腰掛ける。


「おお、うめえな。お菓子も、うん、地球と遜色ない」

「紅茶みたいですけど、ほんのり甘みがついてますね」

「ああ、これはいいね」


 しばしお茶と軽食に舌鼓を打った3人は、ソファにゆったりと腰掛けて話を再開する。


「で、どうするよ?」

「どうって。これ、帰りたいから帰る、なんていかないよね」

「光さんはともかく、僕と真樹さんは向こうで死んでますからね」

「あ、ご、ごめん」

「いえ、お気になさらず。それよりも、僕たちにはこっちに来て何もないです。生きて行く術がない。誰かの庇護を得る必要があるので、どこかの国に頼らざるを得ないかと」

「おお、悠人、お前大人だな」

「元々おっさんでしたからね。僕の場合は前世から比べると若返っています。それなりに苦労してますので」

「そうなのか」

「ああ、言葉遣いとか接する態度はかしこまらなくていいですよ」


 光に対して既に打ち明けていたことを、真樹に対しても話す悠人。


(いいの?)


 と、光が目線で問いかければ、


(変にかしこまられても困るだけです)


 悠人はそうした意味を込めて小さく頷く。


「わかったよ。まあ、初めて会ったばかりでその背格好だし、俺は気にしないいさ。よろしくな」

「こちらこそ。それより、現状を少しでも多く知らないと」

「だな」

「じゃあ、この鈴鳴らせばいいのかな」


 光は先ほどメイドのエマから受け取った鈴を目の高さに持ち上げる。


チリンチリーン


 光が鈴を左右に振って音を鳴らす。


「お呼びでしょうか?」


 鈴を鳴らすと、すぐにエマが部屋に入って来た。


「色々と聞きたいことがあるのですが」

「何なりとどうぞ」


 3人は思いつく限りの質問をエマにしていくのであった。

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