仲間が増えました
さぁて、冷凍保存の終了……これはまだいじれない。設定……も必要なし。
テキストログ……お、2つだけ保存してあるぞ。えーと……
『題:これをみてるひとへ
このこをつれていきたかったんだけどできないです
もしやさしいひとならこのこそだててください
いしはあげますからどうかおねがいします
いつかこのこがおそらをとべますようにおねがいします』
なんのこっちゃ、いまいち要領を得ない文章だな……次っと。
『題:これを見ている方へ
先の文章では幼子の文章でお見苦しい点もあったかと思いますがお許しください。
この装置には、守り神様の子が眠っております。
愚かな戦争で守り神様が守り神様たることも忘れられ、戦争に駆り出され、
どうにか残せたのはこの子ひとつ。もはや地上は焦土と化しました。
この星から逃げ出す私たちに守り神様を育てる余裕はありません。
この子も戦争で死んだ夫から受け継ぎ、父の形見としていた石をここに託しております。
どうか、どうか、この子の願いを受け継ぎ、守り神様の命脈を絶やさぬよう……』
「…………」
「…………」
うわー重い。中身は安全そうだけど想像以上に重いぞ。
「……ナル」
「マスター」
「ハイナンデショウカ」
「置いて帰ったり……しませんよね?」
あれ!? 置いて帰ろう帰ろうってナルがずっと言ってたよね!?
とにかく守り神様がなんであれ、正直こんな願いを託されても僕に期待に添える自信はない。
けどナルは機械の癖にこういう話に弱いんだよな~。
Sちゃんねるのまとめサイトで涙腺に来る系の話をよく読んでるのは知ってるんだぞ。
「けどさぁ……餌とかどうすんのさ。特定の食物しか食べない生き物も多いよ?」
「中身を見る前からそんなの分かりません」
「危険な生物かも」
「そんなものを守り神にしたり誰かに託したりしないでしょう」
「船にスペースがさ」
「縮小装置を使えばいいではないですか」
「さ、さっきまで帰ろうとか言ってたじゃないか」
「こんなものを見せられて、無視して帰るようではレリアスの名折れです」
出たよレリアス。
もう滅んでるからよく分からないけどそれはそれは気高い種族だったそうだ。
そんな種族がナルに人格をインプットしたとしたらこうなるのか。
さっきの帰る帰る言ってたナルはまだ何とかなるけど、こういう時のナルはもう無理だ。
ていうかふつう逆じゃないのかなー。
人間の僕が駄々こねて機械のナルが諭すっていう感じでさー。
「あーもう仕方ないなあ。解凍してみて手に負えないなら然るべき施設に預ける。それでいい?」
「しかしそれでは……」
「ダメ。世話に追われてもう旅が出来ません、なんて本末転倒だ」
「う……」
「絶対施設に預けるって言ってるわけじゃない。そういう可能性もあるって話さ」
「……分かりました」
「じゃあ開けるよ?」
はー骨が折れる。なんて人間臭い機械なんだ。普段は僕がナルにお小言もらってるのに。
……まぁ、ナルのこういうところは正直嫌いではないけどね。
何はともあれ、いよいよ冷凍保存を解除する。さてなにが出るやら。
ぷしゅーと言う音とともに中の気体が外に出てくる。
あらかた出たところでようやく装置の蓋が開く。
「こ、これは!」
装置の中にでんと置かれたそれは、白くて丸くて……どう見ても
「卵だ」
「卵ですね」
卵でした。
「なーんだもうびっくりさせないでよ!」
「卵の状態で保存してあるとは……」
「卵ならさあ、持って帰って考えようよ」
「うーんそうですね……」
卵を持ち上げる。パワーグローブで壊すとシャレにならないので仕方なく素手だ。
結構重いし早くポーチに入れちゃおう。
お、動くな動くなこやつめ、ハハハ。は?
「あ、やば」
なんてこった、生まれる直前だったのか。あ、あぁぁ。
「キュー!」
殻をバリンと破ってはい、元気な赤ちゃんですね。おめでとうございます。はぁ。
「ナル、これなんだろう? トカゲ?」
「マ、マスター、これ、これは」
「え、危ないやつ?」
「と、と、とんでもない! 隕石龍ですよ!」
「何それ、ファンタジーな名前。ナルってそういう趣味あるよねー」
「冗談ではありません! とんでもないことですよ!
いいですか、マスター。隕石龍はそもそも遥か昔に絶滅したとされていて……」
いけない、これは長くなるやつだ。
「ナル、おーいナルさーん」
「そもそも隕石龍の由来はその表皮、大気圏突入にも耐える……」
「ナルってば! 話はいいんだけどそれよりもさ」
「それよりとは何ですか、大事なことですよ!」
「いや、この子何食べるの?」
「あ……私としたことが……」
めんどくさい……とりあえず収まったけど後でたっぷり聞かされるな多分。
「過去の記録によると隕石龍は雑食、肉から野菜から大抵のものは食べます」
「ふーん……とりあえず流動食で大丈夫そうかなぁ」
「えぇ、まぁそうですね」
「ギュアア」
さっきから頭をぶつけてきたり僕の手を齧ったりしてくる。
生まれたばかりなのになんて食いしん坊なやつだ。
ポーチからポットに入れたお粥を取り出す。なんでお粥入れてるか?
常識ですよ、常識。こういう生業をしてると救難信号を拾う事もままある。
見つけたはいいけど食糧が尽きてて息も絶え絶え、なんてこと珍しくないから、
食べやすくて消化にいいものを携帯するのは半ば必須なのだ。
宇宙旅行マニュアルにもそう書いてある。
おっとしまった、一緒に秘蔵のささみの燻製も出してしまった。
「ギュアッ!」
「あ、おいこら!」
食べられた。
「あークソやられた、まだ歯も生えてないのに丸呑みしたよ」
「キュー」
ポットを齧るな。本能的に食い物が入ってるのを悟ってるな。
「はー……帰ろ」
「そうですね、これ以上留まる意味もないでしょう」
「キュ?」
なんだか疲れてしまった……ナルは心なしか嬉しそうだけど。
何はともあれこうしてこの星での探索を終えた僕は、
ミストラルに戻り商星ウィローへと針路を取った。
・
・
・
「マスター、先ほどの星の座標情報ですが、どこかに売りますか?」
「あー、うん、いやーどうかな」
大きなエレキストーンを眺めながら答える。
「では今回の目立った収穫はそれだけ、ですか?」
「…………」
なんだか疲れてしまったので帰ってきたけど、
他にも似たような施設がありそうだし、
戦争により荒廃したのであれば掘り尽くしたわけでもないだろう。
採掘団に情報を売って取り分の1割でも貰えば、
とんでもない額の収入が得られる見込みだけど……
「いや、ちっちゃなエレキストーンだけだよ」
「……そうですか」
窓から外を見ながら答える。
上手く言えないけどこの石は売るようなものではない、と思う。
それに僕が掘り当てた奴だけでも、贅沢さえしなければ
少なくとも3か月分くらいの収入になる見込みだ。
「リュー君の故郷を変に荒らすのもどうかと思うしね」
毛布を敷いただけの簡単にあつらえた寝床で寝息を立てる隕石龍の子供。
名前はリューと名付けた。安直? いいじゃん。
幸い成体になってもそこまでドでかくはならないらしい。
いずれリュー君が大きくなったら故郷の星を見せてやろう。
「あの」
「ん?」
「私はマスターのそういうところ、好きですよ」
「はは、ありがと」
「それと、あの子の名前ですが」
「変えたいっての? ダメダメもう決めた。ナルも異論なしだったじゃない」
「いえ、マスターが良いなら良いのですが……女の子ですよ」
「うぇ!?」
リュー君改め、リューちゃんが加わりました!
気を取り直して、いざウィローへ!
今回の収穫
・エレキストーン
加熱することにより発電する石。
地下深くでしか採取できないが、極々稀に地表近くでも採取できるため、
それを目印として採掘がおこなわれる。
エレキストーンが採れた星は殆どがそれを採るためだけの星となる。
発電時に仄かに光ることと石自体の珍しさから、
今は宝石としての需要が高い。
・隕石龍
鱗はなく、大きなトカゲのような印象。体色は黄色。
翼は姿勢制御用で、実際は重力を操って空を飛ぶ。
稀に、自分の周囲の重力も操れる個体もいるらしい。
成龍ともなると、単独で星の重力を振り切り宇宙空間に飛び出す。
また、熱に強い表皮のため体を丸めることで大気圏突入にも耐える。
その表皮や重力操作器官を目当てに乱獲された過去があり、遥か昔に滅びた。
多くは失われたが、未だに隕石龍の素材を使った道具などは残っており、
殆どが星宝級、もしくは天文学的な価値がつく。




