どうやらお宝のようです
「こーんにちはー……」
とりあえず声をかけながら入ってみたもののやっぱり返事はない。
ヴーンという低い機械の稼働音だけが僕を迎えてくれた。ん、んん?
「……何で機械が動いてるのさ」
「……まぁ扉も空きましたから……あれはどうやら冷凍保存装置ですね。
中身までは分かりませんが微弱な反応も納得です」
しばし静寂。なるほど冷凍保存装置……合点がいった。いったけども。
「マスター、装置の隣を見て下さい」
「お! でっかいエレキストーン!」
「冷凍保存装置と加熱装置に電力を供給しているようですね。
おそらくは隠し扉の動力にも」
「はぁなるほど、永久機関か」
「エレキストーンにも寿命はありますが……あの大きさです。
この程度の発電量なら半永久と言っても差し支えないかもしれませんね」
「そっかー……」
僕の頭ほどの大きさのエレキストーンが加熱装置の上に置かれている。
普通ならお宝発見で即回収するところなんだけど、
経験上こういう場合の冷凍保存装置は非常にまずい。まずいのだ。
ナルと出会ったばかりの頃、同じように廃文明の奥で冷凍保存装置を見つけたことがある。
文明の生き残りか何かと思って解除したら、保存されてたのは侵入者排除用の猛獣で……
それが溶解液は吐く火は吹く空は飛ぶ牙も爪も鋭い、こっちの攻撃は効かない、
挙句の果てにナルも知らない生き物だったからテンパるで……
解凍直後だったからまだ逃げられたものの、結局道を何度も間違えつつ、
ナルと二人で命がけの鬼ごっこを演じる羽目になったのだ。
でも僕としては目の前のお宝をみすみす、
「諦めましょう」
「ちょ、ナルさん?」
「帰りましょう、今すぐ」
「待った待った」
「待ちません、以前のように入り組んだ構造ならまだしも……
今回は逃げ道は一つで上昇中に捕えられる可能性も高いです」
「そ、そう言わずにさぁ、まずは調べてみようよ」
「嫌です。どうしてもというならマスターお独りで」
こ、困ったぞ、こういう時のナルはやけに頑固だ……
でもここでお宝を諦めたらトレジャーハンターの名が泣く。うーん仕方ない。
「あーあ、じゃあ諦めよっか」
「そうです! 諦めも肝心ですよ! マスター!」
「エレキストーンも欲しいけど、
それ以上に中に何が入っているか知りたかったんだけどなあ~
未知なる知的生命体かも」
「そ……! ……そうはいっても危険です……」
「あー、いやいや気にしないで?僕は知識欲なんてないしね。
あ、違う僕たち、か」
「ちが、私は……」
「目の前の問題に解決策もろくに探らないどころか、
未知への探求もしないってのは非常に不本意だけど……
まぁ、ナルの言う事なら仕方ないもんねぇ」
「…………」
「そっかナルは中身をもう知ってるんだね?
じゃあ船に戻ったらさ、中の生き物についていっぱい教えてよね!」
「……した」
「ん? どうしたの? さ、帰ろっか」
「分かりました! そこまで言われてはレリアスの名折れです!」
よーしよし引っかかった。プライド高いからなぁナルは。
船に戻ったらお小言を言われそうだけど。
「ただし! 中身の安全が確認できなければ諦めてもらいますからね!
マスターがやられてここに置き去りは私は嫌ですよ!」
うーんナル、僕をマスターと呼ぶなら僕の身の安全を第一に考えてほしいんだけどなー。
まぁいっか……ツンデレだよきっと……気にせず調べましょ。小さい部屋だしね。
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・
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「とはいったものの……」
参ったなぁ、よくよく考えたら手がかりなんてこんな状況で期待できない。
「マスター?」
「も、もうちょっと……」
「そこの棚を調べるのはもう3度目ですよ」
「うぐ」
あらかた調べ尽くしたけど何も中身に関する情報がない。
他の部屋ももう一回見て回ろうか……?でも部屋多いしなあ。
「やはり帰りましょう、マスター。中身の安全が確認できません」
「うぅーん、そうはいってもなぁ。こう……中身見えないかなぁ」
「その行動は5度目です」
「うぐぐ」
冷凍保存装置にべったりと顔をくっつけてみるけど何も見えない。
うーんプライバシーの関係とやらで中身の見えないタイプが主流だし仕方ないな。
諦めようか……とおもって踵を返すと足に何か引っかかった。
僕に対する警戒心もだいぶ薄れてきたのか、
でっかいダンゴ虫みたいなのがいつの間にか足もとにいたようだ。
「お、お、お、おっとっと」
何とかこけないようにバランスを……なにか掴める物は……
「っとぉ……こけるところだった……」
「マスター……」
「あ」
僕が手をついたのは冷凍保存装置の操作用モニターだった。
ふぃん、と音がしてモニターに光が灯る。
やってしまったー! これはピンチかも!
…………あれ?
「何も……起きない……?」
「……そのようですね」
「装置の操作以外にもいろいろ機能あるみたい。表示されてる言葉が分からないけど、ナル?」
「お任せを」
変にいじりたくなくて敢えて操作用モニターには触れずにおいたけど、
案外燈台下暗しかもしれない。
ナルを装置に近づけると早速アクセス開始。
こういう時、ナルがいてくれて助かる。
未知の言語といってもあっという間にナルなら解読できる。
既知のあらゆる言語と照らし合わせた上で体系的な言語学の観点からみれば……
とかなんとかナルは言ってたけどよく分からん。
「解読完了……どうという事はありません」
「早いねえ……地球語に変換できる?」
「もうやってますよ」
「さっすがぁ」
地球語、といっても要は英語だ。
地球人が有人でワープ技術を確立させた時、宇宙連邦政府からコンタクトがあった。
地球は初めての有人宇宙飛行を行った時から監視されてたけど、
有人ワープが成功したことで他の文明を有する惑星と接触できると見なされ、
宇宙連邦に加わるよう促された。
で、その時に宇宙連邦政府が地球に対して使用した言語が英語。
なんやかんやの後に地球が宇宙連邦に参加してからしばらく経って、
英語が地球語と呼ばれるようになった。
まぁ各国の母国語もローカルな言語として未だに普通にあるけどね。
僕は母さんが日本人なので日本語もできる。
マイナーな言語はともかく、地球上の主要な言語は大方の言語の翻訳に対応してる。
まぁつまりは英語を覚えてなくても問題はない。
「終わりましたよ」
流石はナル先生、仕事が早い。
さてさて、鬼も蛇も出ないことを祈りつつ、何とかこのお宝を手に入れましょう。