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死闘

「小手調べだ」


 そう言いながら、シャンガルは僕の目の前に立っていた。

 一瞬で距離を詰められたせいで反応できないでいる僕に向けて、横薙ぎに刀を振った。


「……っ!」

「厄介だな、その見えぬ鎧」


 刃を腹のあたりに受け、吹き飛ばされた。

 受け身なんて取りようがなく、そのまま壁まで転がり叩きつけられる。

 防護服のおかげでダメージはないけれど、転がったせいで少し目が回る……


「だがな」


 体を起こすと、シャンガルが目の前に再び立っていた。

 大刀を上段に構え、今にも振り下ろそうとしている。

 反射的に、スプリントブーツを使って反対の壁まで一足飛びに跳んだ。

 危な……でもこの靴、だいぶ慣れてきたぞ。


「そのように避けるという事は、いつまでも耐えきれるものでもなかろう。

 どうした、逃げてばかりでは死を待つだけだぞ」


 クソ、鋭いな。

 シャンガルが刀を鞘に納め、ちょうど居合をする時のような姿勢で、こちらに駆けてくる。

 一歩が大きいうえに、部屋もそこまで広くないのであっという間に距離が詰まった。

 確かに言う通り、逃げてばかりじゃあジリ貧だ。

 だったら、防護服がまだ健在の内に決着をつけるしかない!


「はぁっ!」

「力比べか……?面白……!?」


 僕が振り下ろしたブレードを刀で受け止めた。鍔迫り合いだ。

 でも、どうやら今の技術には疎いようだね!

 ぐ、と力を込めるとシャンガルの巨体がずず、と後ろに下がった。

 ナルがその隙を見逃さない、シャンガルの背に集中したビームを放った。


「ちぃ」


 さしものシャンガルも後ろに跳び、ビームを躱した。

 おぉ……効いてる効いてる!

 のっぴきならない状況なのは変わらないけど、

 打つ手がないわけではなさそうだ。


「よい連携だ。それを卑怯とは言わんよ」

「……そりゃどうも」

「だが、鬱陶しいな」

「ナル! 避けて!」

「はい! あっ!?」


 密集しているドローンの真下にシャンガルが駆ける。

 そのまま上体を大きく反らしたと思うと、上空に刃を滑らせた。

 ナルがドローンを散開させたけど間に合わず、

 一振りで一気に5つ、斬り捨てられた。

 あぁ……結構高いのに……いやいやそんなこと考えてる場合じゃないよ!


「ナル! いける!?」

「残りドローンは9、まだダメージは与えられるものと思います!」

「オッケー! 攻撃のチャンスが来るまでは散開させてて!」

「タイミングはお任せください!」

「気張ってよ!」

「マスターも!」


 ナルが残りのドローンを散開させて部屋中を飛び回らせた。

 本当は出来るだけ同じ動きを複数のドローンにさせた方が、

 ナルの処理も減るから楽だろうけど……仕方ないな。


「食らえっ!」


 スプリントブーツで一気に距離を詰め、ブレードで斬りかかった。

 空振り。シャンガルはどこに……?


「レスト君! 右!」

「え……うわっ!」


 シャンガルが真横に立っていた。なんて身のこなしだよ……全く見えなかった……

 上段から刀が振り下ろされ、右肩辺りに食らったせいで、

 僕は前のめりにバランスを崩す。

 

「ふん!」


 前のめりになったところをシャンガルに蹴り上げられた。

 そのまま僕は天井に叩きつけられる。こいつ、脚力も半端ない!


「避けれんだろう」


 なすがまま落ちてきた僕は、シャンガルの力いっぱいの薙ぎ払いをよけようもなく。

 再び、壁に叩きつけられた。

 防護服がなかったらと思うとゾッとする……


「マスター!」

「レスト君!」

「まだ大丈夫だから、ナル!」

「遅いわ」


 シャンガルが跳んだ。そのまま中空で2つ、一息にドローンを斬り捨てた。

 おっそろしい切れ味に剣の腕だな……怖い……

 僕も大丈夫とは言ったけど、実は防護服がそろそろやばい。

 でもこれだけの攻撃に耐える防護服を、

 一発で限界近くまで追い込んだスプリントブーツの最大出力って……恐ろしい。

 最大出力での体当たりも考えたけど、避けられる可能性も高い……ダメだダメだ。

 

「ドローンの反応が鈍いぞ? 機械の癖に疲れる、とは本当のようだな」

「くぅ……残り7つです……」

「ナル、ドローンを呼んで! 斬られるだけだ!」


 ドローンをポーチにしまった。そろそろナルの処理能力が落ちてきたし……

 この戦闘では斬られるだけだろう。


「よい判断だ。殺すのが惜しいぞ、レスト」

「殺されるつもりなんて……ないけどね!」

「ほう?」


 今度は仕掛けず、相手の出方を窺うことにした。

 力はこっちの方が上なんだから、待ちの戦いだ!


「ならばよい」


 大股でシャンガルがゆっくりと近づいてくる。

 怖っ! 怖い怖い怖い! 逆に怖い!

 ただでさえ大きいのに殺気バリバリだから威圧感が半端ない!

 けれど僕に出来るのは、さっきみたいに受け止めて力押しで何とか……?


「…………」

「……?」


 シャンガルは僕の目の前に立ったまま動かない。両腕をだらりと下げたまま。

 あ、ひょっとして見逃してくれます?

 いや、そんな訳ないな。

 しばらく膠着状態が続いた。

 シャンガルはゆっくりとした動きで両腕を大きく広げる。

 何か来る!

 思わず体を強張らせ……た瞬間、僕の目の前に破裂音が響いた。

 一瞬意識が飛びかけた……何をされたんだ!?

 最後に見たのは両手を僕の目の前で叩いて


「待つのはよいが、悪手だな」

「いけないマスター!逃げて下さい!」

「え?」


 瞬間。僕の頭がわしづかみにされていた。

 そしてそのまま壁に叩きつけられた。何度も何度も。

 まだダメージはないけど、視界が激しくぶれる。


「レ、レスト君……」

「マスター! マスター!逃げて下さい! マスター!」


 激しく揺さぶられて何も考えられない。

 フィオナが消えるような声で呟いているのと、

 叫んでいるナルの声が、なんだか遠く聞こえた。

 ふと、シャンガルの手が止まった。

 どうしたんだ……?


「その鎧は大したものだが、それに包まれるお前はそうでもないな。

 ……ようやく限界か、長かったぞ」


 限界……?

 まだふらつく頭で自分の手を見ると、防護服が少し強く光って……消えた。


「ぬうんりゃああああ!」

「あぐっ!」


 再び、頭が壁に叩きつけられた

 痛い痛い、痛い痛い痛い。

 ぼんやりとしていた頭は、痛みで一瞬で覚醒した。

 

「得物は放さんか」


 そう言いながら、シャンガルに後ろにぶん投げられた。

 ゴロゴロと転がって、ちょうど部屋の真ん中で止まった。

 中央の穴からは、青白い月が見えた。幻想的だなぁ……

 ん、なんかドロッとしたものが頬に……なんだろう……

 手で触ってみてみると、血だ。真っ赤な血。

 僕の意識が引き戻される。防護服のおかげで遠くにあった死が、

 今は目の前まで迫っていることに気づいた。


「う……」

「怖いか? そうだろう。蔑みはせぬ。

 死を恐れぬものは、それこそ愚か者よ。

 だが……受け入れ乗り越えてこそ、勇だがな……ぬぅ!?」


 その瞬間、シャンガルの体に電撃が走った。

 フィオナだった。スタンロッドはまだ機能は失ってなかったんだ。


「レスト君! 逃げて!」

「…………次はない、我は確かに言ったぞ」


 シャンガルが動きを止めたのは一瞬だった。

 ぐるりとフィオナの方を向くと、胸ぐらをつかんで壁に投げた。

 全力で投げたわけではなさそうだったけど勢いは十分。

 フィオナも壁に叩きつけられ、苦しそうに息をしながら、

 それでも立ち上がろうとしていた。


「させ……ないん……だから……!」

「フィオ! いけない!」

「よい心意気だ。お前も名を名乗れ」


 ナルが叫ぶ。シャンガルが大股でフィオナに近づいていく。

 ダメだ、フィオナも敵認定された。このままじゃ……


「ぐ……うぐ……」


 結構な勢いでぶん投げられたせいで、僕もあちこち体が痛い。

 でも、フィオナだって立ったんだ!

 体に鞭打ち、やっとこさ僕も立ち上がった。

 そしてシャンガルに向かって駆け出した。


「りゃあああああー!」


 渾身の一振りをシャンガルに向かって振り下ろして……躱された。

 バランスを崩した僕はそのままこけて、フィオナのそばに倒れこんだ。


「不意打ちでは叫ばぬようにせねばな。もう次はないが。だが、見よ」


 シャンガルが左腕を僕らに向かって突き出した。

 手首の辺りに、少しだけだけど切り傷がついていた。


「お前達のようなものに、僅かでも手傷を負うとは思わなかったぞ。見事だ」


 その手傷を負わせるのに、僕たちボロボロなんだけど。


「せめてもの褒美だ。苦しまぬように一瞬で送ってやろう

 向こうで我が主もさぞや褒めることだろう」


 シャンガルがゆっくりと刀を振り上げていく。

 今までの人生が一瞬で思い出される。

 これが走馬灯か……なんて他人事のように感じていた。

 いやだめだ、せめてフィオナだけでも……

 けど僕に出来るのはフィオナを背にするくらいだ。


「ダメ、ダメよレスト君……」

「マスター……せめて私も共に……」

「安心しろ、そこの腕にはめた相棒ともども、死ぬときは一瞬よ」


 刀の動きが止まる。あれが振り下ろされて……あぁ、いよいよ死ぬのか……

 死を覚悟したその時、僕らの後ろの壁が開いた。


「間に……合った……! に、へへへ」


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