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その娘はフィオナ

「私、フィオナ。フィオナ・マリオレット」


 フードを外した彼女はそう名乗った。僕と同じ人間種だ。

 ここ何日かろくに食事もお風呂もできていなかったようで、

 最初はずいぶんとみすぼらしかったが、

 今はシャワーから上がってきて随分と綺麗になった。

 くすんで見えたが、洗うとすごく綺麗な金髪だった。年は僕の一つ下らしい。

 服も随分汚れてたので洗濯に。今はリアさんの服を借りている。というか貰ってた。

 リアさんはサイズ違う服をなんで持ってたのか……

 お手製のカルボナーラを遠慮がちに食べながら、フィオナはぽつぽつと語りだす。


「私もね、宇宙廃品回収業者スペーススカベンジャーなの。

 父さんと母さんがそうだったんだけど、事故で死んじゃって……

 でも、後を継いで兄さんと二人で頑張ってた」

「ほ~ぅ、それでそれで?」

「……ちょうど先週の話。私と兄さんは偶然、

 お金を稼ごうと行った《岩窟星》グランディルで、未開拓の遺跡を見つけた。

 それまではあまり収穫もなくって結構切羽詰まっててね?

 燃料もギリギリだったから、すごく嬉しかった」


 あー、その気持ちはよく分かる。宇宙広しといえど同業も多いから。

 誰も手を付けてない遺跡とかはなかなか見つけるのが難しい。

 僕もナルと出会うまでは何も見つからない日々が多く、

 いざ見つけてもロックが解除できず、仕方なく他の人と合同での作業になったり。 

 でもその場合、向こうにも取り分持っていかれるからなあ。 

 そんなわけで仕方なく、ウィローでバイトと探索の往復だったなぁ。


「で、ちょっと舞い上がりすぎちゃったのね……遺跡の奥でいかにもなお宝を見つけたの。

 キラキラした大きな宝石で……思わず私は駆け寄ったわ。そしたら罠。

 とっさに兄さんが突き飛ばしてくれて私は助かったけど、

 兄さんは電磁牢に閉じ込められた」

「お兄さん~まだ生きてるのかねぇ~?」

「生きてる……! わよ……きっと……

 食糧は殆ど兄さんが持ってたからあと1週間は持つはず。

 それでね、牢を解除しようとしたけどそんな暇はなかった。

 警備システムがまだ生きてたみたいで……電磁牢の中は逆に安全だろうけど」

「あぁ、それで君だけは何とか逃げ出せたわけだね」

「助けに来るから待ってて、とは言ったものの武器の類も兄さんが持ったまま、

 だから私にはスタンロッドくらいしかないの。

 でも助けようとしたら装備を整えなくちゃと……」

「にっへへ~。でもお金がなくっちゃ始まらないねぇ~」

「あー……それで僕を」


 うーん、そういう事情であれば仕方ない……のか?


「あの星ではまともに救出用の装備なんか整えられない。

 だから急いでウィローまでは来たけどもう燃料切れ、

 バイトなんかしてたら間に合わないし、誰も話なんか聞いちゃくれない。

 何とか一獲千金の手段がないかも探したけど、途方に暮れちゃって……」

「で、モリりんのお店でカモを探してたってわけだぁ~賢いねぇ」

「リアさん」

「おっとぉ……賢くない、賢くないよ~フィオりん。君はなんておバカなのだ~」

「いやそういうフォローはいいです……」


 まぁでも正直、あそこで張ってれば一獲千金の可能性はそれなりにあるなぁ。

 実際今回がそうだし。と、ふと僕は思い当たった。


「もしかして、転移装置まで迎えに来たのって」

「そ~だよん、モリりんが明らかに怪しいのが尾けてった~なんて連絡よこすからねえ、

 この辺りは人通りもほとんどないしね~」

「でもフィオナ、よく僕の行き先が分かったね?」

「私、目はいいから、装置の外から君がどう操作するか見て後をつけてきたのよ」

「なぁ~る、フィオりんはや~るねぇ」

「リアさん……いやもういいです」


 なんかリアさんは妙にフィオナを気に入ったようだ。


「でも失敗…………今から準備しててもとても間に合わないし、

 兄さんの所にたどり着くだけの装備も……私……ごめん、ごめんね兄さん……」

「フィオナ……」


 フィオナがはらはらと涙をこぼす。襲われたのは僕なんだけど……

 うーん、何とかしてあげたくなる。


「で、レストはどうするのかな~?」

「……え、僕ですか……? えーっと」

「ふんっ!」

「痛って!」


 また拳骨を食らった。理不尽だ……なんなのこの人。


「そ~いうときは『僕に任せろ!』くらい言ってみんしゃ~い、男だろ~?」

「えぇ……そんな無責任な……それに自分で言うのも屈辱だけど、フィオナより弱いですよ、僕」

「リアさん、気持ちは有難いです。でも、いいんです……

 父さん母さんもそうだったし、覚悟は二人ともしてました。やっぱり私は」

「ふんっ!」

「いたっ!」


 次はフィオナに拳骨。今日は拳骨日和だ。


「生意気なこと言ってんじゃねえ~」

「でもリアさん、僕とフィオナじゃあ……」

「レストはナルるんがいりゃあ~色々やれることもあるでしょ~が。

 フィオりんもスタンロッドがあんだけ使えるならまぁよ~し! それに何より……」

「「何より……?」」

「このリアお姉さんがついてってやるって言ってんのさぁ~。安心せいよ、若人よ~」

「「えぇーっ!?」」


 こうして即興でパーティーが編成されることとなった。

 フィオナも最初は遠慮してたけどリアさんが拳骨をちらつかせると黙った。

 ホントに痛いんだよね……あれ……



「で、こんな時間に帰ってきた挙句にリアさんと……

 フィオナさん? を連れて帰ってきたわけですか」

「はい、ごめんなさい」

「遅くなるならこまめに連絡を下さい、っていつも言ってますよね?」

「はい、その通りです」


 結局ミストラルに帰ったのは夜中だった。

 フィオナの話を聞いてたらナルからの連絡に全然気づかず、

 いきなり人を二人連れて帰る。

 その後は救出作業ですって簡単に返信したら当然怒られた。

 

 しかもすぐ帰るといいつつ、帰ったのは連絡してから2時間後。

 なんやかんやリアさんの店で、色々旅支度をしていたのだ。

 リアさんの店には少し旧式だけど武器もあったし、

 長引くことも考えて、食料もたっぷり持ってきた。

 消耗品の費用は出世払いでフィオナが払うらしい。

 なにがどうなってどのようにフィオナが出世するかわからないけど……

 リアさんがそう言うならまあいいんでしょ。


「おぅおぅリューちんや、ナルるんは怖いねぇ~」

「キュー……」


 リアさんはそんなナルもどこ吹く風でリューちゃんとお戯れだ。

 ホントいい性格してるよなあ。


「あなたも……! はぁ、リアさんはまぁいいとしてですね……あなたです、あなた」

「わ、私……ですよね?」

「そうです! いきなり来てなんですか! マスターを襲った上で兄を助けろだなんて!」

「うぐ……わ、分かってますごめんなさい……」

「そんな危険人物! 捕まらないだけありがたいと思ってください!

 マスター! 今すぐこの人を降ろして下さい!」

「まぁまぁナル、これには訳が……」

「訳があろうとマスターを襲うなんて! 聞きたくありません!」


 リアさんの性格はナルもよく分かっているとして、やっぱりフィオナも怒られた。

 事情はリアさんがナルにものすごく端的にしか話してないが、

 僕が襲われたってことはうっかりしっかり話してしまったので……


「大体ですねマスター、あなたは少し人が良すぎ……!?」

「おおっ!? なんで船が動いてるんだ!?」

「とりあえず手続き完了~自動操縦でその星に向かってるよ~ん」


 いきなり動いたのでびっくりしたよ。

 この人はホントに……人の船を勝手に動かさないでほしいなぁ……

 ナルの話なんて聞かずにもう出発しているようだ。

 あーなんだか締まらないけれど、いざ、《岩窟星》グランディル……


今回の収穫


•スプリントブーツ

量産化には向いておらず、基本的にはオーダー品。

普通でも、通常の5〜10倍程度の速度で走れるようになる。

今回の入手品は、数百倍以上の速度も出るピーキーな性能。

今回のもそうであるがマスター登録を行うと、

脳波を感知し速度調節がスムーズに行えるようになるのが主流。

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