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Act.02 ―玄孫ギャング― ③

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 回想が終わってからも、憂の小動物のように弱々しく震える姿が、しばらくは浅間の脳裏に残っていた。


「あやまんな……バカ。オマエは、さいしょから『シンちゃん』……だっただろ? 【メーレーすりゃクラスのヤツらは、オレのゆーコトをナンでもきく。くだらねェ……オマエもそーだったってのか? コビてオレのキゲンばっかキにしやがって……! そんなにオレがこえェのかよ!?】」

 浅間が五一たちに聞こえないような小さな声で、憂の愚痴をぼそっとこぼす。

 【  】の中は人の偽りのない真実で、心の中の本音の描写として今後も表現される。

 『シンちゃん』から『アサマくん』と、呼び方を変えた憂の態度が気に入らなかった。

 浅間のもやもやとした気持ち。正体のわからない不快感にやきもきする。

 その脳裏には、憂の浅間の顔を伺うような、おどおどした表情が次に浮かんだ。


「しゅーごーかけたほーがいーんじゃね? シンちゃんだって、さっきはしゅーごーかけるって……」

「……ゆってね(言っていない)」

「いらねーよ! キガのザコごとき……ココによびだして、オレがヤってやる!!」

 再度、憂を集団で虐めさせるべく、集合をかけるように促す五一と、単独で憂を虐めようと、息巻く五良月に対して浅間は――

「オマエら……キガにテだすな」

「……でもよ、キガは……」

「いいな?」

「……ンンッ!」

 先程より少し大きめの、それでもまだはっきりとは聞き取りにくい低い声で、浅間が冷たく言い放った。

 ほとんど声を荒げることもなく、呟くだけの浅間に気圧されて口を噤む手下共。

 はっきりとした格の違いが、たった6歳の子供の間にあった。

 

 物語の根幹となるはずだった火種が、浅間に冷たい一言を浴びせられただけで、たちまち鎮火させられてしまった。

 正確にいえば、まだ火種は燻ってはいたが、ただいつまでも燻っているだけで、この火種は大事件に発展することはなかった。

 

 しばらく沈黙が続いた後、遠くから見える人影が、こちらに向かって手を振っているのが見えた。

「オ~イ、コッチきてくれ!」

「あ、ガメがよんでる」

 ここでもう一人の取り巻きを紹介する。

 五一に『ガメ』と呼ばれた彼は、苗字は不明で、ファーストネームが『(かめ)()(ろう)』。

 偵察隊長で役に成りきり、手には双眼鏡と好んで緑色の迷彩服を着ている。

 髪を真ん中に分けたオールバックの金魚のように大きな黒目で、前歯2本が出っ歯になっている園児。

 その彼が浅間たちにこちらに来るようにと、再び大きく手を振って合図している。


 各々に隊長と肩書きが付くも、各隊に他に隊員がいないという子供の遊び特有の名ばかりの隊長たちで、総隊長である浅間以外では、武闘派と呼ばれる塾通いの特攻隊長のみが、三人の隊員を従えている。

 残りはゴッコに付き合わされている隊長不在の親衛隊の皆さん。


「どしたあ? ナニがあった?」

「タイヘンだよ! オレらのナワバリがあらされてるっ!」

「……ンだと?」

 浅間たちが亀太郎に呼ばれて、彼のいる方向に向かい始めた。

 浅間が低い声で亀太郎に向かって叫ぶと、『アサシン』が支配下としている公園が、何者かに荒らされていると返ってきた。

 さらに不機嫌な形相になる浅間、亀太郎が指を差す先には滑り台があった。

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