Act.02 ―玄孫ギャング― ②
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それは憂の回想の続き――――浅間は数週間前の、あの出来事を少しだけ思い出していた。
憂のときと同じく真っ白な空間、人は人物や台詞、出来事などをイメージするとき、背景描写を疎かにする。いつもの日常の背景であれば尚更だ。
憂のときと違って、指の先までイメージされた等身大の浅間たち、もちろん衣服を着用していた。
「オマエにウロウロされると、カンパニーのカクがおちんだよ! ジャマばっかしやがって……!」
「オイ、ソレぐれーに……」
五良月が憂に罵声を浴びせると、さすがに見兼ねた浅間が止めに入ろうとするが――
「ご……ごめんなさい……アサマ…くん……」
「オ、オイッ……!」
憂の言葉に動揺した浅間の動きが止まった。
「あん? オレにもヒトコト(一言)ないのか?」
「………………」
さらに悪態づく五良月の言葉は、身を縮こまらせている憂の耳に入らなかったのか、それとも無視したのか、憂は黙ったままで五良月には一言も発しなかった。
「シンちゃんとつるめば、でけーツラできるとおもったか? クソが!」
それは自分自身のことだと、五良月は気づいていない。
姑息な五良月の囁きに流された浅間は思った――『そーゆーコトかよ』と、そして続けて思った。
『ナンだよ。ガッカリさせやがって! オマエもオレがこえェ(怖い)のか? こえェから、オレにコビてるのか? こえェくせにオレとつるんで、エバり(威張り)たかったのか? ソレをオレは、オマエのコトを…………』
友達、だと――
「ぺッ! いこーぜ? シンちゃん」
「……あぁ、いまいく……」
不快そうな顔をあからさまにしながら、その場に唾を吐いた五良月は、白い景色の中に消えて行き見えなくなった。
「ごめんなさい……ごめっ……」
「オイ……」
「シ……アサマく……」
「ナニあやまってんだよ? オレで、エバろーとしたコトか?」
「………………」
その場にぺたんとへたり込んで、震えながら繰り返し謝罪する憂を、浅間は見下すような態度で見下ろした。
憂は浅間の問いかけに首を横に振ったが、このときにはもう憂を信じられなくなっていた。
浅間は憂に『アサマくん』と、苗字で呼ばれるのが癇に障ったようだった。
それ以上に、憂が自分への態度を変えたことに――
「あやまんな! バ~カ!」
「…………アサマくん」
憂が謝る必要がないことなんて知っていたのに、泣きそうになって謝る憂の姿に、浅間は腹が立っていた。
おそらく憂に『浅間』と呼び捨てにされても、きっと浅間は苛立ちはしなかっただろう。
この時の浅間自身は、情けない顔で跪いて謝る憂が、卑屈に見えたから苛々したと思っているだけで、本当の苛々の理由に気付けはしなかった。