Act.01 ―暗殺者(アサシン)たち― ③
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここから、時間を遡って回想するシーンは、拙い憂のイメージでお届けすることとする。
その憂が回想するその世界は、景色のない真っ白い世界、作画でいえば手抜きの世界で、現実ではないと分かりやすい世界。
そこに存在するのは、憂と浅間の二人だけ――
二人は今よりもさらに頭でっかちの可愛いデフォルメぽい感じで、肌色の身体は衣服を着用していなかったが、手足の指先とか詳しく再現していない粗末な粘土細工のような造形で、局部もなく、まったくいやらしい見た目ではなかった。
それは、絵心の足りない憂の乏しいイメージ? 手作り感の溢れる優しい世界の反映?
「アサシン?」
「さつりくぶたいだってよ。ナンかゴラツキのヤツが、オレにカンパニー(隊)のアタマをヤレって……まっ、ガキのアソビにツキあってやってもいーかとおもってな。ソレでさ、キガ……」
首を傾げる憂に、見るからに嬉しそうな浅間が、五良月に『アサシン』の旗揚げを持ち掛けられたことを語りだした。
肝心の『憂を勧誘したい』という言葉が、なかなか切り出せない浅間は意外と照れ屋さん。
「たのしそうだね。ヒミツのきち(基地)とかつくるのかな? いろいろなトコをタンケン(探検)したりとか……」
こちらも意外と男らしい遊びが好きな憂が、わくわくした顔で浅間に尋ねた。
「オー、ココにいたかシンちゃん」
そこに、二人だけのドアもない空間に、いつの間にか邪魔者の五良月が出現していた。
「……ゴローか、ナンかようか?」
「1コしたにキタヅキとかって、ナマイキなヤツがいんだけど……」
二人の話を遮った五良月が、年長組戦争を制した(隣の『まつぽっくりぐみ』のボスを引き籠りにさせた)浅間の次なる標的にと、生け贄の園児の名を一人、挙げてきた。
その標的の名は、憂たちの一つ下で、年中組の園児、『北月』という園児だった。
五良月とその彼とで、何やらいざこざがあったらしいのだが――
「ネンチューのガキ?」
「え? ジンちゃん……?」
二人に聞こえないようなか細い声で、憂がその名を呟いた。
その生意気?な『北月(ジンちゃん?)』と憂は、どうやら既知の仲であるようだ。
「『アオっぱなぐみ』のヤツだよ。シメシつけとかねーとナメられちまう……しゅーごーかけてくれよ! せんそー(戦争)だ!」
たった一人の年下の園児を相手に、クラス総動員で畳みかけようと五良月が浅間を嗾ける。
実は既に一悶着あって、戦況は劣勢、いや既に敗退の一途を辿っていた。
ここで五良月という園児について補足させてもらうと、彼は威勢がいいだけの『虎の威を借りる狐』で、実は年下に泣かされたと言っても、誰も驚かないほどの驚きの弱さを誇る。
うまく浅間に取り入ることで、威張っているわけなのだから、仲間内の評判は良くない。
「せんそうゴッコ?」
「ゴッコじゃねーよ! 『アサクマ』みてーにヒキコモリにしてやろーよシンちゃん!」
尋ねるように首を傾げる憂を退けて、五良月が浅間に近づいて来た。
引き籠りになった『アサクマ』とは、『まつぽっくりぐみ』の元ボスで『朝熊悟』。
以前は『デビル朝熊』と呼ばれて、皆に恐れられていた。それも今では懐かしい話――
「ん、あ……あァ……」
浅間が気乗りしないといった態度で返答した。
「シンちゃん、ケンカしにいくの? ダメだよ」
「あん? ナメられたままでダマってろォっつーんか? オマエ、ソレでもオトコか?」
「うっうん……」
少し恥じらいのある仕草で、僅かに女子力を感じさせる憂に、五良月の心の底からの感想がこれ↓だった。
「ウゼッ!」
「あぅっ……!」
そして、五良月がわざと肩というよりも、腕を振り回して憂にぶつけて来た。
「ジャマだカス! いこーぜ。シンちゃん」
「あ……ダメッ!」
「デコイチ(浅間の取り巻きの一人)ら、こーえんでまってんよ」
五良月が憂を邪険にして、浅間に一緒に公園へ行こうと促す。
「あ、あぁ……」
浅間は歯切れのよくない相槌をした後、しばらく押し黙っていた。
「シンちゃん!」
「マジでウゼッ! ……っつーかよ、ナレナレしーんだよ! シンちゃんがオマエみてーなザコとダチなワケねーだろ?」
「…………え?」
二人の行く手を遮ろうと、部屋の出口の方に回り込んだ(この空間は真っ白なので出入口はないが、実際には出入口のある室内だったらしい)憂に、五良月が自分の弱さを棚に上げて、罵声を浴びせた。
「オマエなんかとトモダチやってて、ナンかとく(得)があんのかよ?」
「……っ」
お節介な憂を少し鬱陶しく感じていた浅間の心の隙間に、身長もスケールも矮小な小悪――小者悪魔が入り込み、浅間はまんまとその悪魔の囁きに耳を傾けてしまった。
「………………」
「どけっ!」
「ぁわっ…!」
意気消沈してフリーズ状態になっていた憂が、五良月に突き飛ばされて尻もちを着いた。
「シンちゃ……」
「まだナマイキに、シンちゃんのダチのつもりかよ?」
「……そ…………」
「………………」
憂はショックが大きすぎて、座り込んだまま起き上がれなかった。
五良月の質問というより罵倒に、『そう』と言い返そうとした憂が、押し黙ったままで動こうとしない浅間の姿を見て口を噤んだ。
『そう』と言い返したかった憂と、言って欲しかった浅間。
「オマエにウロウロされると、カンパニー(部隊)のカク(格)がおちんだよ! ジャマばっかしやがって……!」
「………………」
呆然自失、憂はへたり込んだまま動けない。
顔を伏せていて表情は見えないが、きっと泣きそうな顔をしているだろう。
浅間の心には戸惑いと、少しの苛立ちがあって、二人の溝が深まったのは、浅間が憂の味方になれなかったこの時からかも知れない。
『質より量』、浅間はお節介な憂一人よりも、クラスの一山いくらの、五良月ら15人を打算で選んでしまった。
15人とは憂と浅間と不二山を除いたクラスの男子の人数で、この園内での浅間の絶対的権力を意味していた。
浅間はその頃には、憂のお節介に煩わしさを感じて、苛立つことも少なからずあった。
憂を力でねじ伏せることはしなかったが、それっきり憂を仲間に誘うこともなかった。
しかし、その現状さえも崩れてしまった今――――
五良月を怒らせた不二山、その不二山に肩入れする憂、姑息な五良月に少しずつ唆されていく浅間には、憂のどっちつかずともとれる気遣いが、疎ましいものになっていた。
友達の作り方を知らない不器用な浅間は、自分についてくる五良月らは友達で、自分に意見する憂は友達としてどうなのかと、友達という枠に歪な線引きをするようになった。
顔は(無駄に)大人でも、心が幼く未熟な浅間が、自分の中でこんな極論を出したのも無理はないだろうか。
加えて五良月の憂に対する悪態が相乗効果となり、ただでさえ自己中心的な浅間は、憂のことを忌み嫌っている五良月にまんまと乗せられる。
内緒だが、実は五良月はこゆみに惚れていて、勘違いの男像をこゆみにアピールしていたのだが、憂を虐めている当の五良月は、こゆみに嫌われる悪循環に気付いてはいなかった。