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Act.02 ―玄孫ギャング― ⑦

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 公園に重い足取りで向かう五良月、実力の拮抗したジャンケンによる真剣勝負の敗者が、総隊長のご機嫌伺いに派遣されていた。


「【クソが……! ナンでオレが、ヤローのキゲンとりなんかに……!】」

 五良月が小者に相応しい姑息ぶりで、茂みからコソコソと辺りの様子を伺う。

「……う、うぐうぅ……ク、クソが!」

 大ではない――小である。

 浅間の地の底より響くような悔恨の念、血を吐くほどの思いで――本当に血が滴り落ちた。

 唇の端を思い切り食いしばった犬歯が肉を抉っていた。

「…………【ねんちゅーのヤツらは、いったみてーだな。やっぱ、シンのヤツはボコられたのか? ハンパなイカリじゃすまなそーだ…………よし! コイツはさきにワビいれたモンがちだ! ドゲザすりゃいくらキョーボーなゴリラでも、コロされるなんてコト……】」

 さらに前進、浅間の前まで来て速やかに着座すると、額を地面に擦りつけて、恥も外聞もなく、美しい土下座を披露する。

 まさに彼の生き様を移したように、常に権力者の腰巾着、それが彼の処世術であった。

 「…………あ、あ?」

 浅間が五良月の存在に気付いて、視点を泳がせながら、動画のコマ送りのようにぎこちない動作で少しずつ振り返った。

「シンちゃん、ゴメン! もーにげないからゆるして……! デコらとちがってさ、オレはもどってきたんだし、カンベン……!」

 他人を蹴落としてでも、何とか浅間の怒りを自分から逸らそうと五良月が目論む。

「……ゴ、ゴロ……」

「ハイッ! シンちゃん、シンさん、いやシンさま……」

 保身のために必死で卑屈になって、一段階ずつ浅間を持ち上げ始める。

「……ゴロー、ひとりだけか……?」

「あ、はいそうでございま……………………………………………………………………………


あ……チビリ……?」


 掠れたような声で問いかける浅間に、五良月の心ない一言が炸裂した。

 高々と上に担ぎ上げられた浅間の神輿、彼の醜態を目の当たりにすると、それを最上段から思い切り下に叩き付けた。

 神輿の扱いは、五良月の心中の浅間に対する態度そのものと言っていい。

「……ゴ……ゴロ……? いま、テメ……」


「ウォオイィイッ! ソレ、マジかよ? っハ……ハハアハハハ!」

 

 五良月が気でも触れたかのように突然、腹を抱えるようにして大爆笑を始めた。

 破壊した神輿を足蹴にして溝川に捨てるかごとく、掌を返して、汚い手の内を見せた。

 健十郎だって、ここまでは浅間を嘲笑っていなかったというのに――


「っあああああァ……!!」


「ハハハのハ~! ナンだよソレ、ウケる~ ウソだろオイ! ふひっいぃいひへ……」

 浅間の支配者としての失脚、それを目の当たりにした彼のあまりの豹変ぶりには脱帽もの。

 放心状態から我に返った浅間が号泣して、五良月から這うようにして逃げ出し転倒、慌てふためいてまた走り出して、この場から退場した。

「へへへへひ……ぶぴっいひひひびいぃぎぃえうぇっへへっえええぇ!!」

 浅間の姿が見えなくなった後も、しばらくは暗くなりかけた公園に、狂喜の笑い声が響き渡った。

 まるで、五良月に得体の知れない何かに取り憑かれたかのような狂乱ぶり――


 浅間の暴力なら、五良月ぐらいの小者を脅して黙らせることは難しくなかった。

 問題は彼がそれすらも出来ないほど憔悴していることにあった。

 鎌首をもたげた蛇男の五良月に対して、今の浅間は普段の凶暴なゴリラではなく、『蛇に睨まれたカエル』に過ぎなかったのだった――

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