魔王として召喚されたけどハンコを押してたら勝っちゃいました
異世界召喚されたと思ったら魔王になってた。
もう意味わかんないよね。でもこれ現実なの。逃げられないの。どうしてこうなった。国語の授業中に寝てたのがいかんかったのか。急にブワッと眩しくなったと思ったら知らない人達に囲まれていた。
混乱しているとお姫様っぽい子が出てきて事情を説明してくれる。
ここは日本ではなく異世界で、彼女らは魔族と呼ばれるもの達。魔族と人間は長い間戦争をし続けて来た。ずっと均衡状態が続くかに思われたが半年前から勇者と呼ばれる異世界の住民達が大暴れしてピンチに。じゃあこっちも召喚して対抗しようと言う事で俺が呼ばれたんだと。
無理無理。俺まじなんも出来ねえから。どうにか拒否しようとしたのだが、お姫様曰く異世界に召喚された者はなんか能力が上がったりするから大丈夫との事。次元の壁を越えるというのははぐれでメタルな奴を倒したみたいなものなのかね。
とりあえずステータスの魔法を使えと言ってきたお姫様。
仕方あるまい……我が前に姿を示せ、"ステイタス"!
たいりょく:10
まりょく:0
ちから:1
ぼうぎょ:2
とくしゅ:0
すばやさ:3
さいのう:2
すきる:なし
全員が崩れ落ちた。何にも変わってねえよ……。
城内は割れんばかりの大罵倒! まあ当然ですわな。魔王を呼び出そうとしたら一般人出てきたんだもんな。そりゃ理不尽にキレるわ。いやー、人気者はつらいぜ(白目)
もはやこれ殺されるんじゃないだろうか。生存すら怪しくなってきた俺。 しかし、なんとかこの場を納めてこちらに向き直ったお姫様は震え声で言った。
「で、では、魔王様……。どうか私たちをお導きくださいませ」
お前は一体何を言ってるんだ。もしかして狂っちゃった?
そういう訳ではないらしく、異世界から召喚する代償に自分達の所有権を全て召喚者に与えなければならないとか。つまり魔族達は全ておれのものである。もう後には引けない、と。博打は身を滅ぼすということだ。また一つ賢くなったね! 活かす機会があればいいけど。
もはやお通夜モードである。この状況を打破する為にはどうすれば良いんかね。俺に出来ることと言えば魔族を奴隷の様に操って贅沢三昧すること位しかない。あれ、いい考えかも。
でも勇者さんたちの目的は魔王を倒すこと、つまり俺である。このままでは殺される未来しか見えない。現実逃避は許されないってはっきりわかんだね。
とりあえず幹部とかを集めて会議をすることにした。
しかし魔族は基本脳筋らしく、戦争で勝てるか勝てないかの議論しかしていない。馬鹿かこいつらは、まともに戦って勇者に勝てないから俺を呼んだんだろうに。
そう言うと激しく怒った魔族たち。お姫様は俺に叫んだ。
「ならばどうすればいいんですか!」
戦ったら負けるんだったら戦わなければいいじゃん。
「は?」
何言ってんだと馬鹿にするような目で見てくるので解説タイム。
魔族のみなさんが俺にくれた資料は敵の戦力が事細かに書いてあり、情報収集する力がとても高いことがわかる。だけど本当に戦力のことしか書いておらず、そこがどんな国なのかとか、どんな物が栄えているのかとか、勇者だとどんな人なのか、どんな性格なのかとか全く書かれていない。
つまり魔族は人間の心理面を全く攻めていないのだ。まあ種族が違う以上軽視するのはしょうがないかも知れないが。人間の事なんて理解したくもないって感じだし。
そこを攻めればだいぶ状況が変わる。例えば国の後ろ暗い秘密を民に流布すればそれだけで士気は下がると思う。戦争で戦うのはほとんど平民らしいし。もっとうまい使い方をすれば内乱が起きて戦うどころじゃなくなるかもしれない。俺はそこまで頭良くないから無理だけど。
ふふふ、ちょっと自分の言ってることがわかんなくなってきたぜ。
何が言いたいかっていうと、戦うのは最後の手段ってこと。その前に人間同士で争わせたり、魔族側に引き込んだりと、いろいろ手を打って、これで絶対勝てるって確信してから戦う。
いいか。戦争ってのはな、
――戦う前に、勝つんだよ。
決まった……っ! 俺今すげえ輝いてるよ! みんなも俺を尊敬の眼差しで見てる! 実際は適当にホラ吹いただけなんて言えないな!
ポーズを決めて余韻に浸ることしばし。誰も動かないので構えを解いて「後は、分かるな。各々考えて行動に移せ」と呟き会議室を去った。やべえ俺超かっけえ。惚れてまうわ。
その日は近くのメイドさんに俺の部屋に案内してもらい、疲れていたのですぐに寝た。いやー、爽快だったわー。
二年後。
「報告いたします。アルデア王国で内乱が発生。その混乱をつき、占領いたしました。これで最後の敵国を排除。我ら魔族の勝利です!」
拍手喝采をあげる魔族の皆さん。とても喜んでおられる。ちなみに俺はドン引きである。だってまだ二年しか経ってないんだぜ? 速すぎるよ。
「これも全て魔王様のお力添えのお陰です!」
なんもして無いよ。気が付いたら勝ってたんだよ。どうしてこうなった。
召喚初日にビシッと決めてから、ものすごい速さで魔族は変わっていった。情報部ができ、人間の情報を集め、良い部分は真似し、悪い部分は突きまくった。国に不満を持っているやつを集めてレジスタンスを作り革命を起こさせようなど、そういう戦争以外の所で戦った。
勇者たちも必死に混乱を食い止めようとしていたらしいが、無理だった。なぜなら勇者たちは、俺のクラスメイトだったからだ。高校生に情報戦で戦えるはずもない。というか俺だけハブられてるんだけどどうゆうことですかね。まあいいけどさ。
その間に俺がやったことといえばひたすらハンコを押しただけ。次々くる書類を確認してぺったんこ。お姫様が協力してくれなかったら死んでたね。
俺の主観としては二年間ハンコを押していたら勝っていたって感じ。意味不明にも程がある。
あ、一つだけ自分でやった事があるかな。それは日本への帰還方法を見つけること。お姫様に協力してもらい三ヶ月くらいかけて異世界を渡る魔法を作った。なんと日本とこの世界を行き来できるようになったのだ。一人行き来するのにものすごい魔力が居るけど。
そしてそれを餌に勇者たちを勧誘。なんと全員が釣れた。どうやら召喚した国の汚い部分を見てうんざりしていたが、魔王を倒さないと帰れないと聞かされていて仕方なく戦っていたらしい。そこに俺が来てかえれるぞーと言ったら飛びついてきたわけだ。
心配してたんだぞとか貴方なら信じられるわとか言われて俺は大号泣。良い友を持ったな……!
勇者が味方についてくれればあとは簡単である。ドバッと占領して良い政治をしてみんなを幸せにしての無限ループ。最後の方なんて占領されたがってる国とかあったもん。いいの、それ。手のひら返しすぎだよ。
まさか適当にカッコつけただけでこんなになるなんて誰が予想できたよ。人生って不思議やな。
こうして人間と魔族の戦争は終わった。魔族は勝利したが、別に人間を蔑ろにはしなかった。つーか魔王の俺が人間だから無理に決まってるんだけど。
ちなみに俺はお姫様と結婚しました。ついにリア充の仲間入り。末長く爆発します。
これからも頑張ってハンコを押してこの国を良くして行こうと思うので、国民の皆様、どうかよろしくお願いします!