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Political correctness   作者: 憐夜
6/6

【逃走】

【シェリル・メードウィ/ディザースターハント本部】


 到着して早々、セレンナに言われた質問に対して苦笑しつつ返す。


「まあ……今の所何かしらの戦いが起きてる訳でも無いんだけどね、ちょっと不穏な動きは感じ取ったけども…」


『不穏な動き』という点は事実だ。と言っても、私が飛んでいる最中に察知した訳では無く、どこかで発生した気の乱れを今此処で察知したのであるが。


 そこで珈琲を飲んで何やら悶絶していた同僚である青年もこちらに話しかけてくる。彼の名前は確かディールと言っただろうか?

「残念ながらこっちも修行した後で暇だったからね。特別な事情は無いよ。まあ、修験者が暇って言うのも大いに問題なんだろうけどさ」

 聡明等という明らかに彼が本心から言わなそうな言葉を取りあえずは聞き流す。


「アーク、その苦い珈琲がどの程度のもんか私にも飲まさせてもらおうか」


 ディールが吹き出しかけていた珈琲は私にはそれなりに上質なものに見えたので、珈琲を渡したアークにそれを求めた。喉もちょうど渇く頃だったしね。



【ミシェル /ルミネ市場】


自分はネス派の非能力者で、ディザースターというわけではない、と語った少女を見つめ、それから防衛目的の武器が入っているらしい真っ黒なスーツケースに目をやり、ミシェルは一瞬、相手を信用していいのか否かについて考えた。確かに自分がディザースターだということがあの女性に露見しかけた(あるいは既に露見していたのかもしれないが)ときにハントに通報することなどをせずに逃がしてくれた点は、本当にネス派なのだと思ってもいいのだろう。しかしそれも油断させて自分を捕らえる罠かもしれない(人通りが少ないところに来ても手を離す気配がないし)。

そう考えレインの目をみるが、それも演技なのかもしれないがとても敵を見るような目には思えなかった。結局「万が一敵だったら即刻逃げればいい」という結論に至ったミシェルはため息を吐いた。


「いや……さっきは助かった。ありがとう。左手……は」


言葉を一旦切り、自分の近くに人がいないかを念入りに確認する。少なくとも左手の印が見える位置にいる人間はレイン以外にはいないようだ、と判断し、左手を少しだけポケットから抜いて印の一部を相手に見せるとすぐにポケットに戻した。相手がどう反応するかを警戒しつつ口を開く。


「……まあ、このとおりだ。ところで右手を離してくれないか」


言いながら、これからどうやって帰るかについて考える。あの市場に戻るのは、あの女性がいる可能性を考えると危険すぎるし、左手をポケットに入れたまま歩いているとハントに怪しまれること間違いなしだ。となると。


「……猫にでも化けてさっさと帰った方が良さそうだな……」


こんなことならりんごを拾ったりしなければよかった、と大きくため息を吐き出した。



【レイン/ルミネ市場】


「あ…これが、し、印…初めて見た…!」


興味津々に印を見つめる

そして、やっと自分がまだ手を離していない事に気づき


「………あっ!!!ご、ごめん!忘れていた…

 包帯、巻き直す?」


あわてて右手を離し、包帯の事を聞こうとして

そしてある単語に反応する


「ね、猫?き、君…猫になれるの?」


瞳の中に抑えきれない好奇心と何かをたたえながら

少年に問う



【セルシアンヌ=メルリーチェ /バトラス湖畔】


 もう少し、後少しでこの刃が届く。肉を切り裂き、綺麗で真っ赤な液体に触れることが出来る。ゾディアに加えられた以上の痛みを、その体に刻み込むことが出来る。そう思うと、どくんどくんと胸の高鳴りが一層強くなって来て、短剣を握った手に更に力を入れると一気に距離を詰めようと脚に力を込め、る、つもりだった。なのに、なのに。止まらざるを得ない状況。先程までセルシアンヌの近くでのんびりと座っていたはずの人物が、ネス副団長を〝ルイス〟と呼び間に割って入って来たのだ。セルシアンヌとネス副団長の間に、まるでその距離を計算していたかのように、これ以上セルシアンヌが近付けないよう、背を向けて、立ちはだかって。勢いを付けて走っていたため間に入って来たその人物にぶつかるまいと思い切り地面を踏み締め何とかその場に静止すると、割って入って来た人物を怪訝そうな顔で見ながら「 急に止まるのって、難しいんですからね 」と不貞腐れたように呟く。

 先程までの胸の高鳴りも静まり、邪魔者によってほんの少し落ち着きを取り戻したセルシアンヌは今の状況を把握するべくまず視線をゾディアとネス副団長へと向けた。どうやらゾディアの放ったヨーヨーは、無事ネス副団長へと絡みついたようだ。流石ゾディアさま、と声には出さずそっと心の中で呟くと、視線を目の前で背を向け立ちはだかる人物へと戻した。


( この人物も、恐らくネスなのでしょうね )


 今までそのことに気付かず、近くでのんびりとした時間を過ごしていただなんて、何たる不覚。ぎり、と奥歯を噛み締めるけれど、後悔先に立たず。どれだけ悔しがっても過ぎてしまったことをうじうじ考えても仕方がないからと、ふるふると頭を軽く左右に振って気を引き締める。ゾディアはネス副団長の相手をしているから、自分はこの人を。と、セルシアンヌに背を向け立ちはだかる人物へと標的を定めた、とき。このぴりぴりとした空気に全く似つかわしくない呑気な声色で、お姫様とナイト様になにか用かな、と問い掛け姿を現した人物にびくりと小さく肩が跳ねた。今までそこに居なかったじゃないか、何処から現れたんだ。そう思い視線をその人物へと向けたセルシアンヌの表情に、笑み。


「 ふ、ふふふ。副団長さまに続き団長さままで。今日は良い一日です、大収穫ですよ、ゾディアさまっ! 」


 そう愉しそうにゾディアへと言葉を紡ぐけれど、セルシアンヌも馬鹿じゃない。三対二、しかも相手は団長及び副団長が揃っていて、此方は我らが隊長に平隊員。分が悪い、内心そう思うけれど、全ては隊長であるゾディアの判断に委ねる所存。敵は三人、一気に斬ることが出来ればここ最近で一番素敵で良い一日となることは間違いなしなのだけれど。



【ミシェル /ルミネ市場 → ネス本部付近】


目の前の少女は印を見てもなお自分を嫌悪する様子などは微塵もなく、むしろ「これが印……!」なんて言いながらまじまじと見つめてきた。その目が興味に彩られてキラキラと輝いているのを見ると、本当に信用しても大丈夫そうだ。

ずっと掴まれっぱなしだった右手をようやく離してもらえたので顔が通行人に見えにくくなるようにパーカーのフードをかぶり直す。


「いや、巻き直したいのはやまやまなんだが、包帯の持ち合わせが…………っておい!そんなことを大声で言うな!」


「君、猫になれるの?」と声量を隠そうともせずに公の場で聞いてくる少女に怒鳴るが、運悪く通行人の一人が聞いてしまったらしい。何処からか「ディザースターがいる!」と声が上がり、瞬く間に騒然となった。当然、周囲の視線は自分に注がれている。


「~~~~~!!!次会ったら覚えてろ!」


このままだと捕まりそうだ、と判断したミシェルは能力を発動させ、一匹の黒猫になってその場から逃走した。



【レイン/ルミネ市場】


「…っあ!!」


言葉を発した時には己の迂闊さを呪った


「し、しまった…!!!」


周りの視線が少年に向けられた時、既に少年は変化し、逃げ出していた

自分がやってしまったことに対しての罪悪感が湧き上がるが

そんなのは後だ、いくら猫に変わったとはいえ周囲の人物が少年の事を覚えてしまっては

後の事が怖い


「…っすみまっせ―――ん!!!」


少しためらうが素早くスーツケースから銃を取り出し、

近くに積み上がっていた箱を打ち崩す。

少年の方へ迎える道を塞いで、自分もフードをかぶりその場から逃げ出す


「…っごめんなさい、ごめんなさい…今はこれくらいしか

 できないけど…今度あったらちゃんと謝ります…!!」


走りながら、先ほどの少年への謝罪を呟く



【ルージュ/ルミネ市場】

眼前、と言っても包帯を隔てた向こう側での出来事だが、少女はじっと辛抱強くその場に立ち竦んでいた。

耳を透過する男性の悲鳴にも似た怒声が敏感になった彼女の聴覚を透過する。ほんの数秒だが、うつむいて何か考えを巡らせていたが男性が傍らの女性に手を引かれ人混みに消えて行くと直ぐに顔を上げた。

女性の謝罪に、構わないというつもりで小さく首を振る、そして林檎を受け取ったことを確認するとこくんと頷いた。


「えぇ、どうぞ。今度は気をつけて」


コンコン、と軽く杖で地面を叩くと方向を確認し少女も踵を返し、行き交う人々の中に紛れ込む。

腕の荷物を抱えなおし、慣れた歩みで帰路を進んだ。

杖を伝ってくる硬い無機質な感触を確かめながら、足を進めて包帯の向こうの青空を仰いだ。


(通報してもいいけど、……ディザースターだって誰も明言してもいないのに何でそうだと分かったか、なんて突っ込まれたらどうしようもないのよね)


そう思考を巡らして、人々の流れへ乗せて足を進めた。



【アーク/ディザースターハント本部】


自身と同じように窓の向こうを見ながら、無表情ではあるが歯がゆい思いを抱えているのが分かるようなそんな呟きが聞こえた。

それを聞きながら薄いコーヒーを一気に胃の中に流し込む。そして彼女の言葉に苦笑を溢す。


「副隊長は綺麗好きなんですねー、ははっ机汚くしてたら怒られそうだ」


そう良いながら書類がゴチャゴチャに重なった自身の机に目をやり、カップを置くと適当に隅に寄せつつ、提出予定の報告書だけを引っ張り出す。これはあとで隊長に渡さねばならないものだ。ふ、と思い至ったゆえの行動だったが、今やらねば忘れそうだと考えてからの行動だった。

だからこそ、ディールのまとう雰囲気が変わったのに気付かなかった。しかし、ディールが自分の淹れたコーヒーを口に運んだのを見ると素早く手元のどうでもいい紙を自分とディールの間に、盾にでもするように掲げる。直後に聞こえる怒声。


「おー、絶対吹き出すと思ったのに結構いい根性してるな」


盾にしていた紙をまた机上に戻しながらディールの脅し文句にも似た言葉を軽く笑って流す。そして悪びれもせずに言う。


「いや、粉の分量多いとは思ったけどさー、ブラックが良いとか言うから濃いのが好きなのかと思ってな。優しい先輩の心遣いってやつだ」


そんな怒るなよ、と肩をすくめながら火に油を注ぐようなことをあっさりと言ってみせる。因みにこれは完全に跡付けの理由だった。

と、そのとき部屋の扉が開いた。入り込んでいたのはやはり顔見知りだった。


「シェリルさん、いらっしゃーい」


整理していた机から目を離し、入り口へ目を向けてから副隊長の提案に同じく賛成する。


「そうそう、退屈だったんだよ、なんか面白い話を頼む。あ、修行の話は勘弁な?」


彼女は熱心な宗教家ではあるものの、残念ながらアークは宗教にそれほどの関心がない。仮にそんな話を振られても反応できず困るだけだ。

しかし、自分たちが求める面白い話はないらしい、落胆しつつ残ったコーヒーを啜っていると何故か彼女にまでコーヒーを求められた。いつのまに自分はお茶汲みならぬコーヒー汲み係りになったのかと思いつつも拒む理由もないので再びコーヒーを淹れるためにインスタントのコーヒー粉を手にもつと新たなコップに粉を入れる。

濃いものをご所望らしいので少し多めに……とか考えていたら再びボハッと音を立てて粉が落ちた。そしてそれにまぁ良いかなとお湯を注ぐとシェリルへ手渡した。


「はいよ、ミルク砂糖は自分で頼む。あとどっかの後輩みたいな恨み言はきかねーからな?」


今のところ、俺のコーヒーでまともなのは副隊長さんの分だけだと笑う。



【ゾディア・ギル/バトラス湖畔】


「あらら、ずいぶんと大所帯。しかも豪華メンバーとはね……いやいやちょっと待て!俺様たちは昼寝していただけだって!さっきはそこの副団長がいきなり出てきて攻撃してくるもんだからつい捕まえたけど今は仕事中じゃないぞ!俺様だってこの仕事をそんな積極的にやってるわけじゃねえんだからさ、ここはひとつ停戦と行こうぜ」


ルークを捕獲して、そのままルークを連れて行こうかと思ったが、気がつけばルークの後ろには、ネスの団長であるアリックの姿が。そしてゾディアとセルシアンヌの間に入るかのようにもう一人、2対1の状況から、気が付いたら2対3の状況、しかもそのうち2人は団長と副団長という状況だ。相手の3人の戦闘能力は知らないし、本気を出せば倒せるだろうが、分が悪いことは確かだ。それに、セルシアンヌも、実力が十分にあるとはいえ、この状況では何が起こるかは分からない。とりあえずは相手を試そう。ルークを縛っているヨーヨーから、いつでも刃が出せるように構えながら少しの間考え、本当に誰も聞こえないような小さい声で呟く。するとその次の瞬間、まるで演じているかのような笑みを浮かべながら、自分たちは昼寝をしていただけであり、先程はつい臨戦態勢になったが、戦う意思はない。ここは戦うのをやめないかと提案する。戦う意思がないことを示すかのように、ルークに巻きついていたヨーヨーを戻して、両手に持っていたヨーヨーを思いっきり投げた。これでゾディアは丸腰となった。


だが、正直なことを言えばゾディアはまだ戦うか否かは決めていない。すべては相手の返答次第。相手がこの提案を受け入れるのならば汚い手などは一切使わずにこの場を引き上げる。提案を拒否するのならばそこから先は仕事の際の心に切り替えて3人まとめて捕獲する。そう本気で考えているため、その言動にはいっさいの迷いがない。ゾディアだって、幼いころを共に過ごした強大な能力を持つディザースターの少女がいたため、それほどディザースターを嫌っているわけではない。むしろ、一緒に共存できるといわれたらはいそうですかとあっさり受け入れる人間だ。すべては相手の返答次第。共存を目指しているのか、それとも侵略を目指しているのか。ディザースターたちの返答を待って。



【ミシェル/ルミネ市場 →バトラス湖畔】


あの市場から逃げ出してどのくらい走っただろうか。景色がすっかり変わったところで、ミシェルはようやく自分を追ってくる人間が誰一人いないことに気がついた。一旦走るスピードを緩め、立ち止まると大きく息を吐き出し、息が落ち着くのを待った。ようやく息が落ち着いたので顔を上げると、走って逃げるのに無我夢中で気づかなかったが、湖畔のようなところに来ていた。向こうには大きな湖が見える。


(……みず……)


大分走ったので喉はからからになっていて、それが安全かどうかも分からない生水だなんて頭に浮かばずよろよろと近づき、水をがぶがぶと飲み始める。しばらくして喉も潤って、ようやくミシェルの頭は正常に働き始めた。それからそろそろ元に戻ろうかと、周囲に人がいないことを確認するために辺りを見渡したところで――――自分の所属するネスの団長であるアリックと、ヨーヨーで捕獲されている副団長のルーク、そして恐らくディザースターハントであろう男女の姿が見えた。


(ハント、か……あれだとルークさんの身が危ないな。……よし)


心の中で小さく頷くと、もしアリックやルークの身が危なくなったときにいつでも奇襲できるようにと、猫が狩りをする要領でそろりそろりと歩き出し、ハントに接近を始めた。



【セレンナ/ディザースターハント本部】


「そうですか…もういっそ外に出て自分の目で確かめた方が良いんでしょうか」


シェリル様の言葉を聞いて若干気落ちする

と言っても本部に隊長も副隊長も不在では問題だろうし、そう簡単には出れない

早く帰ってこないかな、ゾディア様。わたくし暇ですわ。なんて思いながら本部の門を窓越しにのぞいた


「あら、ディール様のコーヒーは美味しくなかったのですか?

 わたくしのは普通でしたよ?」


自分のカップとディールを交互に見やる

そんなに変な味がしたっけか? なんて思いつつ


「綺麗好き…というか、汚くしてますと怒られましたし、勝手に片付けられてきましたから」


アーク様の言葉に昔を思い出す

毎日一定の時間になると部屋中を片付けられてしまい

必要な物も不必要な物も綺麗に捨てられてしまっていたから

何時の間にか綺麗な部屋に慣れてしまったのだろう



【ジルレイン/バトラス湖畔】


「おっと…危ないですよ、怖いですからそんなに睨まないでください」


苦笑しながら首だけ後ろを向き、背後で自分に標的を定めてるらしい女性を宥める

まぁ、落ち着く気はしないが、一応。ここで瞳の色を金とか紫にして無表情になったら驚くかなぁなんて思いながら


「そうでしたか、では、もうお引き取りになった方が良いのでは?

 見たところ、お二人ともそれなりの高官であらせられましょう。部下の方々がお待ちしておられると思いますよ

 私もこの二人がいないと仕事になりませんから」


手ではルークとアリックを少し宥めるようにしつつ

優しく微笑んで戦意がないことを示す。嘘は言ってない、嘘は

お二人とも、というか男性の方が高官だったはずだ。女性の方は残念ながら覚えてないが

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