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Political correctness   作者: 憐夜
3/6

現実の日々[後編]

【フラム・テムペール/ルミネ市場】


__今日はやけに賑やかだな__


彼女──フラム・テムペールは重く深い溜め息を吐き、正直にそう思った。

今日は買い出しに来ただけとはいえ、正直人混みはあまり好きでは無いフラムはげんなりとした表情を見せている。

それに加え、先程立ち寄った青果店の店員に小学生と間違えられ、挙げ句の果てには『余ったお釣りはお小遣いにしな』と、いくらか負けて貰ってしまったのだ。

負けて貰ったからには、と割り切って純粋無垢な小学生を演じ、引きつった笑顔をどうにか保つ事が出来たのだが、正直虫の居所が悪い。

さっさと買うものを買ってしまおうと次の店へ向かおうとしたとき、酷い寝癖に猫のような金色の瞳の青年が顔を真っ青にして何かを呟いていた。


__ああ、あいつはまた__


手持ちの袋から500m□の水が入ったペットボトルを取り出し、彼に近付く。


「水だ。さっさと飲め馬鹿クウゴ」


そうぶっきらぼうに言い放つと、ペットボトルを至近距離で投げた。



【アーク/ディザースターハント本部執務室】


掛けられた上司の声に突っ伏していた顔をゆっくりと上げた。自分よか年下ではあるがとても有能な副隊長だ。彼女の言葉に苦笑いしながら重い腰を上げて空になったカップをてにする。

いくらものぐさでも自分の上司を働かせるわけには行かない。


「コーヒーくらい自分が入れるさ。……おっと、副隊長さんも一杯どーだい?」


軽く笑いかけながら部屋の隅のインスタントコーヒーへ手を掛けた。本格的なコーヒーの入れ方は残念ながら知らないのだ。

うっすらと乾いたコーヒーの茶色いあとが残るカップへと粉をいれポットのお湯を注ぎ込む。量は目分量なためいつも味の調節がうまくいかない。今回はどうかと口に運ぶと粉が少なすぎたのかほとんど味のしないコーヒーに眉を顰めた。そんな中、部屋に入り込んできてコーヒーを所望する後輩へ顔を向ける。


「挨拶なしで先輩を使うんじゃねーっての……はいはいブラックだな」


再びインスタントコーヒーの粉を手に取り新しいカップに入れるとビンからドバッと予想以上の粉が溢れた。しかしそれを気にも留めず湯を注ぐとスプーンで手早くかき混ぜ「ほらよ」と渡す。自分の飲んでいる薄いコーヒーと比べると色が倍くらい違う気がするがきっと気のせいだ。

もう一杯副隊長の分も入れると、今度はうまくいったんじゃないかと思う。実際どうかは知らない。飲むならどうぞ、と言うつもりで彼女へもコーヒーを差し出した。

味はしないがコーヒーはコーヒーだ。口に運ぶと眠気は大幅に削られたような気がする。しかし、まぶたはまだ重い。

これは座ったらまた眠くなるだろうと予想して椅子には掛けず、机に手を乗せながら再び活気ある平和な町を見渡した。


「いやー、ゴミはいつ出るか分かんないし、帰って寝てる間にゴミ掃除に駆り出されたらそれはそれで面倒くさいし」


楽して給金貰えるならそれに越したことはないし、と自分のコーヒーを再び胃に流し込んだ。



【ルージュ/ルミネ市場】


さっさとその場から離れようとしたのだが、腕を掴まれ思惑通りにはいかず少女は大人しく足を止めて女性を振り返った。

どうやら自分が林檎を置いたことに引け目を感じているらしい、と理解したときには次々と彼女を引き止めた女性の下に失われた林檎が戻ってきている。途中、渡すだけ渡して姿を消した男性のことは気になったが厄介な匂いがしたので引き止めるようなマネはしなかった。

大人しく女性の下に全ての林檎が集まるのを待ち、頃合いを見て口を開いた。少女らしい透き通ったソプラノが発せられる。


「元々、私がぶつかったから落としたんだもの」


だからどうぞ、と声のする方向へと顔を向けた。もしもその瞳が包帯により閉ざされていなければまっすぐに女性を見ていたことだろうが、それは分かることではない。


「本当は四つ分全てお返しした方が良いんでしょうけど、生憎手持ちがないの」


そういうと、改めてごんめんなさいね、と頭を小さく下げた。

それから女性の手が緩んだのを見計らい今度こそその場を去ろうと思ったが、興味本位からだろうか。その足は動かない。

林檎を拾った男性と、それを引き止める女性。彼が手に巻いた包帯、この国では包帯の下に何があるのかで大きく彼の存在が変わる。

自身の変わりに男性を掴んだ女性、その姿を、包帯の下からまるで見えているかのようにじっと顔を向けていた。



【ミシェル /ルミネ市場】


せめてバレる前に早く本部へ。そう思い背を向け、焦る気持ちに押されて駆け出そうとした瞬間―――「待って!」との声とともに、左手を、掴まれた。驚いて振り返った反動でフードが外れる。その顔を見ると、何かを確信したような、そんな表情をしている。……ヤバい。そう直感で悟るとともに、先ほどよりもなお酷い、吐き気にも似た悪寒が全身を駆け巡った。おまけに掴まれた反動で左腕はポケットから抜け、ほとんど外れかかった包帯の隙間からディザースターにしか現れない印が見え隠れしている。ミシェルは思い切り顔を歪ませた。


「……ッ!離せ!!」


叫ぶとともに、掴まれた腕を乱暴に振り払う。そのせいで包帯は地面に落ち、一瞬あの印が露になった。もしかしたら、周りの人間にも見られたかもしれない。しかし、すぐに突っ込みなおしたおかげで見えなかったらしく、辺りが騒がしくなる様子はない。ミシェルはドルチェを睨みつけながらさらに数歩、後ずさった。そしてフードを再び深く被る。既に顔を見られたが、そんなのどうでもよかった。


「……君がどう思っているかは知らないが、僕はただリンゴを届けてやっただけだ。……ハントを呼ぶのなら好きにしろ。僕はその間に逃げるから」



【セルシアンヌ=メルリーチェ /バトラス湖畔】


 頬が緩むのを感じる。笑みが零れる、なんて可愛いものじゃない。ゆるゆると、にやけてしまっているような、そんな感じ。だって、だって。こんな場所で出会えるなんて思いもしなくて。シアン、と愛称で呼んでくれることが嬉しくて。そして何よりセルシアンヌの頬をゆるゆるにしてしまう最大の理由は、手を、振り返してくれたこと。

 ミーティ、というゾディアの言葉の続きが気になったけれど、此方に向かって走ってきたゾディアの姿を見てそんなことはもうどうでも良くなってしまった。本来ならばどうでも良いことではないのだけれど、ミーティングがあること自体知らないセルシアンヌは、ミーティ、だけでは何のことやら把握出来ないため、まあいいか、という結論に至ったわけで。


「はい、勿論です! ここはとても静かで、暖かくて、小鳥達も楽しそうで。私のお気に入りの場所なんです」


 ここで昼寝をしても良いか、と訪ねてきたゾディアに、こくり、と頷きながら嬉しそうに勿論ですと答え、近くに腰を下ろすようにそっと促す。セルシアンヌもその場に腰を下ろすと、何も語らぬまま暫しの間静かな時間が流れる。

 その静寂を、からん、という乾いた音で遮られて。不審に思ったセルシアンヌは辺りを見渡すけれど、ゾディアではないし、近くに腰を下ろす人物……ジルレインでもなさそうで、勿論セルシアンヌでもない。そして何より、今いる場所からでは木の裏側に隠れた人物に気付くことは叶わない。眉を顰めたまま「 ゾディアさま、今何か音がしませんでしたか? 」と、声を潜めてゾディアへ問い掛けた。



【ゾディア/バトラス湖畔】


「お、ありがとな。ほんと、しっかり休みとった時に来てみるよ」


セルシアンヌが、ゾディアに会っただけで、顔がかなりにやけていることに対して、大袈裟だなあと思い、苦笑いしつつも、相手に了承されたので、この際だからゆっくり休もうと思い、セルシアンヌの隣辺りで寝転び、本当に昼寝をしようとすると、


(あらら、せっかくの休みが台無し)


静かな湖畔に、からん、という音が異様に響き渡る。ゾディアはいくらミーティングを平気な顔でサボり、適当なことしかしないとしても、戦闘面や、実力的にはディザースターハントの中でもトップクラスだ。からん、という音が金属音だということも。音から判断すると、細長くて薄い物。つまり刃物だということもわかっていた。しかし、近くに腰を下ろしている人物の物ではない。正直に言えば、近くに腰を下ろしている人物は、ディザースターハントとして仕事した際に会ったことがある気がするのだが、流石に証拠もなくディザースターだと決めるのは良くないし、何より近くにいるセルシアンヌにそのことを教えたら、否が応でも戦わなければならないと思ったので、声をかけるのはやめた。


「シアン、俺様、ちょっと音のした方見に行って来るから、場所とっといてくれ。」


そう言って、セルシアンヌをその場に残して、ルークが隠れている木に、徐々に近づいて行く。木に隠れている相手が、もしディザースターだったらどうしようとか、そんなことは一切考えずに。



【セレンナ/ディザースターハント本部】


「あらディール様」


入ってきた部下に一応ペコリと会釈

同じ歳だが、別に仲がいいわけではないし


「あ、ありがとうございます。頂きます」


アーク様コーヒーを受け取ってほぼ一気飲みする

睡魔が襲ってきたのもあるが、喉も渇いたから


「…美味しいです。頭がスッキリしました」


また無表情のまま言ってカップを机に置く


「ゴミ…まだまだいっぱいいるのに…早く片付けてしまいたいわ」


窓の外を見ながらつぶやく

まだ捕まっていないディザースターには心当たりがありすぎる

セレンナの仲の良かった人は、何故かディザースターが多い

顔も存在も知っているだけに、とても歯がゆい


どうせなら、自分の手で始末してしまいたい



【レイン/ルミネ市場】


「いえいえ、りんごがダメにならなくて本当によかったw

 (そして自分の欲望に負けなくて本当によかった;;;)」


そして彼女がつかんだ少年の様子に驚く

先ほどまで和やかな雰囲気だったと思ったが


(あ、あれ?なんで…―)


そして少年の左腕の包帯の意味がやっとわかった


「(もしこんな人混みで騒ぎにでもなったら…確実ににげられなくなるな)」


うん、となにか決めたように頷くと


「よ、よし!それじゃぁお姉さんまた機会があったら会おうね!」


余計な事かもしれないと思いつつも

少年の反対側の右腕を掴んで人混みに消えようとする

おかしな緊張のせいか変な汗も出てきた…


(人を隠すには人の中…)



【クウゴ/ルミネ市場】


脳が揺れ動き、視界もままならなくなった時、一人の女……と言うよりも、容姿的に幼き少女が見える。ピントが会わない為はっきりとは見えなかったが、その時に見覚えのある声がしたので、すぐに彼女だと判明した。

馬鹿は余計だ!!、っと言いたいところだが生憎そう文句言うほどの力は無かった。

俺はピントをズレていながらも水の入ったペットボトルをキャッチする。

そして俺は少し焦りながらペットボトルの蓋を開け、直ぐに口に水を運ばせる。段々と目眩と頭痛等の刺激が引いてゆき、ペットボトルの水が無くなると俺はふぅっと口をハンカチで拭き、ハンカチをポケットの中へと仕舞った。

やはり2リットル分は所持しとかないと駄目な身体になってるな。何故そう水をガボガボと飲まなきゃいけない身体付きになってしまったものか、自分の能力が厄介なのか、デメリットの方が面倒なのか。

俺の身体が、水で冷め、体中が潤った感覚がする。こんなに水が美味かったのかと俺は思う。

そして俺はペットボトルを差し出した彼女へと向き、


「サンキューだフラム。此処でぶっ倒れてたら面倒な事になってたかもしれないから助かったぜ」


っと礼を言う。

此処でフラムが来なかったらどうなっていたか、考えたくもなかった。

すると彼は彼女が持っている買い出し物を見て彼は頭をボリボリと掻くと。俺は猫目を少し広げる。


「フラムが此処にいると言う事とその袋から見れば飯の買出しですかい?。献立とかは考えてあるのか?」


っと期待してはいないものの、一応聞いてみた。



【シェリル・メードウィ/ヴァルム山、山頂→ディザースターハント本部】


弟子達との修行を終え、一息ついている所でふと山を降りようかと思った。今日の修行は全部終わっている筈だし、何よりやる事が無いし…快晴の中を飛ぶのもなかなかに気持ちの良いものだ。弟子の一人を呼び止め、「少し出てくる」と声を掛けると勢いよく走り出した。ディザースターハント本部でも行ってみるとするかな…と、ふわふわと思考しながら屋敷を飛び出した。


山に谷、河に湖を越えて私は走る、というか飛ぶという表現の方が近いかもしれない。そんな動きが出来るのは恐らく一部のディザースターか私ぐらいしかいないように思われる。私にとってみれば、この国を縦断するのにも大した時間は掛からない。ディザースターハント本部程度ならほんの5分で着く距離、だと勝手に思っている。修行の足りない弟子は山を登り降りするだけでバテてしまうのだが…


地上を見下ろし、何らかの騒動が起きていないか等を確認しつつ飛ぶ。やがて5分程行った所に、ディザースターハント本部を発見する。地上800m程度の高さから、地面に向かって急降下した。ちょいと足は痛むにしろ、この程度なら術を使わずとも怪我一つせずに楽々着地した。といっても暫く脚が痺れたが。


暫く其処で立ち止まってから、漸くディザースターハント本部の中に走った。「久しぶりに降りてきましたよ」と仕事中の彼女とは打って変わった穏やかな口調で、中にいた彼らに語りかけた。高僧の風格を敢えて釀しつつ。

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