現実の日々[前編]
【ドルチェ/ルミネ市場】
「うーん……、今日もいい日になりそうだわ……ぁ」
賑わう市場の中で背伸びをしている女が1人。金髪の横に結ばれたポニーテールが左右に揺れ動き、大きな帽子が今にもずれ落ちてしまいそうも彼女はドルチェ・バーネット=レギオン。ドルチェの眠たそうな顔つきからして、きっとまだ寝起きなのだろう。その証拠として髪はいつもより少し乱れているし、大きなあくびをしている。
(それにしても、この市場はいつも人が多いわねぇ……。だからってあたしのところに来てくれるわけじゃないんだけど)
そう。何を隠そう、ドルチェは芸術家なのだ。しかし個性的すぎて誰もついていけず、客は……まぁ言うまでもないであろう。ハァ……とため息をつきながらも、足を動かす。いつものところへ。
「あ、おばさん。林檎3つ頂戴」
ドルチェはいつも店頭にいるおばさんに言った。すぐさま返ってくる活気のある返事。このおばさんは愛想がよく、ドルチェのお気に入りの人だ。当時、1人暮らしをしに来たドルチェを笑顔で迎えてくれ、この周辺の町についていろいろと教えてくれたものだ。
『はいよ。あんたも林檎ばっかり食べると栄養不足になるよ。肉もたまには食べたらどうだい』
お金ないから、と苦笑し、手をヒラヒラさせながら林檎の入った紙袋を受けとる。
(えっと……、1、2、3……4?)
一応、と紙袋の中の林檎の個数を数えてみたのだが、どうやら1つ多いようだ。確か注文は林檎を3つ。しかし紙袋の中の林檎は4つだった。「あの、おばさんこれ1つ多いよ」と林檎を1つおばさんに返す。
『あぁ、いいのいいの。それ、いつも来てくれるお礼だから』
生活費が少ないため、どうもタダには弱くなってしまったよう。お言葉に甘えて受け取り、自分の家へと引き返す。
それにしても人が多い。進むのが大変である。と考えていたらやはり、
「きゃ!」
人にぶつかってしまった。紙袋が手から落ちてゴロゴロと林檎が出てくる。
(……っ!ああ!もう最悪!)
誰かに踏まれる前に、と急いで散らばった林檎を集めていたドルチェだった。
【レイン/ルミネ市場】
「ふー、久しぶりに人を見た気がする…」
しばらくずっと歩きっぱなしで
ふらふらさまよっていたが
やっと文明のある場所に出れた
「うぅ…た、食べ物が…」
ポケットから財布を出して
懐事情と相談していると
「ん…ぅえ?」
赤いリンゴが足元に転がってきた
「あ…ゴクリ…ってダメダメ!何を考えた俺は!」
人に踏まれる前に拾って、落とし主を探す
【クウゴ/ルミネ市場】
「…………」
人が賑わい騒がしい中、一人の男が「閉店」と書いてあるクッキー屋をまじまじと見ているわけでもなく、ただ単に何か悲しそうに思える人もいるし、無愛想って感じがする顔になっている。
頭がボサボサっとなっていて、黒髪がピョンピョンと寝癖頭の様に跳ねていて、そして猫の目の様な黄金の瞳を輝かしていた。まるで人型の猫のようだった。
そして、タキシードを着こなし、周りには目立つ様な格好をしているが、余り視線を感じないのでそこにホッとする。
そして吹き荒れる風が、ボサボサな頭を掻き乱す。
そう、この男、クウゴ・ロッカーと言う人はそのクッキー屋をただ眺めていただけだった。驚きもせず、かと言って笑顔を容易くするほど気味悪い奴じゃなく、ただぼぉっと見ている。見分けがいい人はすぐに、何処かしら悲しんでいると言う思いをも見抜けるはずだろう。
そして彼は頭を右に掻きながら髪の毛を乱す。
(…当たり前だ。……もう何年になるんだ?、あの人が此処にいるはず訳ねぇよな。あんな年頃で無理しそうな人だから、ポックリ逝ってるだろ。何考えてんだ俺…?)
そう変な思いと悲しい思いをごちゃまぜになりながらも、彼はこのクッキー屋に背を向け、この場を後にした。
美しい雰囲気にただ囲まれながらも一人、ポツポツと顔を下に向けた状態で考え事の体勢をしていた。
だが落ち着かないのか、少し小走りになりながら人を避けてゆく。
(…取り敢えず、あの人の店に拝む事が出来ただけ満足しよう。それ以外もう何も残ってねぇからな、それにディザスターハントの奴等に見つかると面倒だからな)
っと小走りを止め、ゆっくりと進み歩いた。
そこで女の人の声が聞こえ、それにふと目を覚ますかのように前の方を見ると、リンゴがコロコロとこちらへと転がってゆき、それを拾った。
「リンゴ…?はて?誰のか?。生憎俺は人のリンゴを取るほど礼儀正しくねぇぜ、昔の俺ならぁ~………やってたわ。まぁ取り敢えず持ち主は多分転がってきた方向に…」
っと前の上機嫌をポイッと簡単に投げ捨て、どこかしらかリンゴの持ち主を探す。
【ミシェル/ルミネ市場】
今日は良い天気だ。空を見上げゆっくりと歩きながら、ミシェルはそんなことを考えていた。ディザースターハントに会う前にさっさと買い物を終わらせて帰ろう。そう思い前を向いたときだった。目の前の人がりんごを放り投げるのが目に映った。その数メートル奥にはりんごを広い集める女性の姿が見える。ほんの数秒で何が起こったのかを察したミシェルは(酷いことするなあ)とため息を吐き出した。そして地面にぶつかり足元に転がってきたりんごを拾い上げる。女性には残念なことだが、一部が潰れており腕を果汁が伝い落ちる感覚があった。しかし落とし主には返すべきだろう。
ミシェルは被っていたフードをさらに深く被ると、女性―――ドルチェのほうに向かって歩き出して、潰れたりんごを差し出した。
「……これ、落としましたよ」
【ルージュ/ルミネ市場】
蜜柑色の髪の少女は左右で均等に結い上げた髪を揺らされるままに風に揺らしながら白い杖で地面を叩きながら慎重に足を進めて前へと足を進めた。目に巻かれた包帯から分かるように少女は盲人だった。にぎわう市場で杖を持ってないほうの手に先ほど買った荷物を抱えながら人にぶつからないよう注意して歩く。しかし、注意にも限度があるわけで、すれ違いざまに人にぶつかり、ただでさえ小さな体ゆえにぐら付いたままの勢いで反対側の人にもぶつかってしまう。
五感というのは一つ欠ければそれを補おうと他の感覚が鋭くなるものだ。
ぶつかった先で「きゃっ」と女性の声と何かを落としたのだろう、紙のガサリとした音とゴロゴロと何かが転がっていくような音が人々の騒音に紛れて耳に届いた。
「大丈夫ですか」
申し訳程度にぶつかってしまった女性へと声を投げかける。恐らく落としたものを探しているのだろう気配がするが、残念ながら探すのを手伝うことは出来ない。声をかけるとさっさと人混みにまぎれてしまおうと踵を返しかけたことろで先ほどとは違う人の声。
声の主は「……これ、落としましたよ」と告げたことから女性が落としたものを拾ったのだろう。鼻についたのは特徴的な酸味と甘い香り。
林檎だろうか、と考える。ここまで強い香りがするということは落ちたときに割れたか潰れ中の果汁が□き出しになったのだろう。
林檎ならば、と杖を一旦脇に挟み自身の荷物を手早く探る。手探りの感触で目的のものを見つけるとそれを引っ張り出し、そっとぶつかってしまった女性の傍らに置いた。
「ぶつかってごめんなさい。林檎よね?よかったらどうぞ」
そう言うだけ言うと、今度こそ黄緑色のコルセットドレスの裾を揺らして踵を返した。
【アーク/ディザースターハント本部執務室】
窓から入り込む暖かな陽射しと寝不足の目には染みる澄み切った青空。時折、流れる白い雲が日差しをさえぎるがそれでも十分に空気は暖かかった。窓の隙間から入り込む爽やかな風は頬を撫で、傍らの書類が擦れ合いカサカサと揺れる音が耳に入り込む。今のアークにはそれすら心地のよい子守唄のように聞こえる。
風に揺らされた前髪を庇う様にフードを深く引けば代わりにフードのファーが揺らされ頬を掠める感覚がなんともくすぐったかった。机に突っ伏していた体を緩慢に起こすと窓の向こうに広がる青空とその下で人々がにぎわっている街並みを眺める。
「……平和だなぁー」
間延びした呟きを溢した後眠気覚ましにと手元のカップを持ち上げ口元に運ぶが、先ほど飲み干したため、空だ。
一気にやる気を削がれ、再びバタリとアークは机に突っ伏した。
「もう今日はこのまま寝てよくね?」
そう誰ともなしにつぶやきながら
【セレンナ/ディザースターハント本部】
「コーヒーお注ぎしましょうか?」
アーク様のカップが空になっているのに気が付いた
セレンナにとってアークは部下ではあるが、自分よりはるかに年上の人だ
これくらいした方が良いのかなぁ、なんて思って声をかける
確かに、今日は平和だ
ディザースターは未だ沢山いるだろうが、情報がないから何もできない
が、寝るのはちょっとどうかと思う
「ここは昼寝部屋じゃございませんよ? ご自宅に帰ってから寝てください」
と言いながら取りあえず自分の分だけコーヒーをカップに注いで飲む
正直自分の眠い。が、今帰っても定時じゃないだろ、とか言われて家に入れてもらえないだろうし
が、言ってしまった以上ここで寝ることはできないなぁ、と思って
勿論、そんなことは全く表に出さずに
【クウゴ/ルミネ市場】
「おっ、いたいt………」
彼はそっと林檎を右手に持ちながらそれらしい女性を見つけた。大きい紙袋に女性、そして拾い上げる林檎は正しく彼女の物に違いはなかった。だがその時、急にゾロゾロと人が群がり林檎を拾い上げ、そして返す。
俺は何故?と戸惑いながらも思わせながらも、取り敢えず彼女の方へといった方が良いのか考える。
こんなに親切な人がゾロゾロやって来て、なんだ?交流会でもやってんのか?、と思い彼は少しずつ群がっている彼女の方へと近づく。
こんなに群がったら俺の正体がバレてしまうかもしれない、それ故か俺が殺人鬼と知っていては尚更怖い…。
そう恐怖感を導かせた。
だが、ここは決心。こんな気の優しい殺人鬼等、殺人鬼だったらこのまま彼女の方へ刺していくに違いない。
そう胸に抱きながら俺は彼女に近づく
「す、すみません。…林檎拾ったんですが、もしかして貴方のですか?。そうでしたらどうぞ」
っと彼には出ない優しい声を一声掛けた。
言っとくが今の俺、表向きが多いが、少し殺人鬼モードはいってるからこんな優しい声が出た。
表全開の俺ならまんざら想像したくもなかった。
取り敢えず、そう林檎を彼女の方へと渡す姿勢を作る。
彼女、そして群れている人達にも気づかないように祈りながら…。
【レイン/ルミネ市場】
思いの外の人混みで
落としたりんごの持ち主が見つからない
「えー…うー…も、もう食べてもいいかな;?」
小さな腹の音と共によだれがでる
「…ハッ、だ、ダメダメダメダメ!!!」
必死にりんごを遠ざける
そして何か決心する
「だ、誰か―!!!!り、りんご落とした方いらっしゃいませんかー///!!!」
市場に響く大声で人探し
【セルシアンヌ=メルリーチェ / バトラス湖畔】
湖からほんの少しだけ離れたところで腰を下ろし、ちゅんちゅん、ちちち。と綺麗な声で歌を奏でる小鳥達を、大切なものを見るような優しい顔で見つめるセルシアンヌの姿。木々に囲まれ、色とりどりの花が咲き誇るこの静かな湖畔は、セルシアンヌのお気に入りの場所。ディザースターハントの隊員であるセルシアンヌだけれど、ディザースターと対面していない今このときは、ゆっくりと体を休めることの出来る大事な時間で。
ふわりと頬を撫でるそよ風とぽかぽかと暖かな日差しに眠気を誘われて、あふ、と小さな欠伸をひとつ。ああ、いけない。こんなはしたない姿、誰かに見られていませんように。と、きょろきょろと辺りを見渡してみる。口元を覆っていたからといって、無防備に欠伸をしているところなんて誰かに見られては恥ずかしいから。
「 ……本当に、静かで素敵な場所。この場所が、私しか知らない、秘密の場所なら良かったのに 」
ぽそり、と呟いてみる。この湖畔は人気こそあまりないものの、セルシアンヌの望む"誰も知らない場所"ではないから。いつか、私だけの秘密の場所を見つけられると良いのにな。なんて、考えたりして。その光景を思い浮かべて思わず、ふふ、と笑みが零れた。
( ……今更ですけれど、私、ここに居て良いものなのでしょうか。本部に居た方が良かったり、して )
今頃他の隊員達は、ディザースターハント本部内で仕事が来るのを今か今かと待っているはずだ。そんな中、この場所でのんびりとした時間を過ごすセルシアンヌは絶賛おサボリ中、のつもりはないのだけれど、他の隊員達から見ればそう映るだろう。
うーん、と少し悩んで。まあいいか、とその場にころり、と寝転がる。綺麗な青空に手を伸ばして、もしもあの雲を掴めたのなら、甘い甘い綿菓子になるのだろうか。そんなことを考えてみたりして。
【ジルレイン/バトラス湖畔】
仕事の息抜きにフラフラしていたら、近くに湖があるのに気が付いたので
なんとなく足を運ぶ。
「静かだな…初めて来た…」
っと物珍しそうに湖に近づき、朗らかな気分に浸る
と、ちょっと離れた所に全身真っ白な女性を見つけた
なんとなく見覚えがある気がするが、思い出せない
なんか寝っ転がっているし、そっとしておこう、とちょっと距離をとった
「んー気持ちいい…良いとこ見つけたかも」
ちょっと伸びをして微笑む
初めましてどうも憐夜です。
今回から…まぁはい書かせていただくことになりました。
なんか形と言うか色々おかしいですが…視点が多いって感じです。
一応わからなくならないようそのキャラの初めに【名前/場所】書いていきますが。
なにとぞよろしくお願いします