ハッカのお話
文才無くても小説を書くスレで、お題を貰って書きました。 お題:薄荷
カランカランと缶を鳴らすと甘い飴ばかりが出てくる。
「禁煙するんですか?」という、同僚の声が聞こえてきた。
視線は俺の手にあるサクマドロップに向いている。
「ああ、最近懐が厳しくてね」と缶を振ってみせると、軽く頷いて納得してくれた。
「でも、値上がりしてからだいぶ経ちますが?」
「だからこそ。他の事にお金が使えない日々が長かったから、後悔できたんですよ」
「なるほど」
佐久間は今度は深く頷いて見せてから「お目当てはやはりメンソール。ハッカ味ですか?」と聞いてきた。
「ああ。けれどもう選り分けて食べきってしまってね」
「そうでしたか」
というと、佐久間は仕事の手を止めて体ごとこちらを向くと「なら、ハッカの代わりに、それにちなんだ話なんかはどうでしょう」と語りだした。
「おや、何かあるのかい?」
そう答えたのは、半ばは気分転化のため。もう半ばは期日が切迫しているはずのこの部署内で、どうも弛緩した空気が流れていて、それに流されたせいでもあった。
「例えば、そのドロップのハッカ味。その原液には色がないとか」
「というとあの白さは……?」
「気泡の白さです。他の色と区別がつきやすくするためにあえて一手間入れているようですよ」
「なるほどな」
こんな風にのんびりとばかげた話をする余裕があったのはいつごろぶりだろうか。
「もう一つ、ハッカはシソ科の植物らしいんですが……」
それはそれほど興味があったわけでもなかったが、この久々ののんびりとした会話のキャッチボールは楽しく、結局無意識のうちに「そうなのかい?」と聞いて話の続きを促していた。
「ええ。……で、ハッカ油があるようにシソ油もあるんですが、ハッカは茎から、シソは種から採ることが主流らしいです」
「同じ科なのに採集方法が違うのか」
「シソ油は主に調理に用いられますが、ハッカ油は揮発用が求められますからね」
「採集効率はともかく、シソと同じ方法で採集したらハッカも調理油として使えたりしないのかねえ」
「おや、ご執心のようで」
「咽の奥までサッパリするてんぷらを食べてみたいなと思ったんでね」
最近は疲れからか胃もたれが辛いが、ハッカならどうにかなるんじゃないかなという期待もあった。
「なるほど、それはいい。長い休暇が取れたら少し試してみましょうか」
その言葉で我に返っても、それほどショックを受けない程度の期待だったが。
「どうかされました?」
佐久間は顔を覗き込んできていた。
そして俺は頭を下げていたのだと自覚した。
「いや、長期どころか、少しの休みでもあったらいいな。……とね」
「ああ、それなら最後の、ハッカのような話ですが」
そこで佐久間はしてやったりとばかりの笑顔で
「前々から納期の無茶振りばかりしていたあの会社ですが、どうやら監査が入るみたいで……」と語った。
思わず耳を疑った。
けど、耳は俺に疑われながらもしっかりと佐久間の話を聞き続けた。
「今回のプロジェクトも、そう急がなくていいことになりそうですよ」
「それは……」
ハッカの話はどこへやら。
けれど確かに聞けてよかった話で、俺は咄嗟に「確かにスッとする話だね」と言った。
拙速に過ぎ、文が単純だったかも知れませんが、むしろ淡々とした感じこそが仕事に疲れたサラリーマンの悲哀がでてるかなとも……。
取り違えていたお題を考えようとしていたのですが、どうにも前作のイメージが頭の片隅にちらついて離れなかったので、一度頭をリセットする為に新しいお題を貰ってこの作品を仕上げました。
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176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/28(日) 19:40:13.46 ID:kH39JpV00
貰ったお題、一時保留
という罰当たりにもう一つお題下さい
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/28(日) 20:39:54.17 ID:某BNSKスレ民
>>176
薄荷
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/28(日) 20:40:36.98 ID:kH39JpV00
把握しました