帰るよコール
高嶺清麿です。下手くそな文章ですが、読んでください。
今日の夕飯はサンマの開きと肉じゃが。それに漬け物を加え、和を表現した。味噌汁の具は、今日は玉ねぎと玉子にした。娘はこの具が一番好きらしい。
「沙織、ご飯出来たよ」
沙織は『はーい』と気持ちいい返事をして、とてとてと走ってきた。沙織は今5歳。今が一番可愛い。
「ママ、パパはいつ帰ってくるの?」
「もう少しだよ」
私がそう言うと、電話が鳴った。
「ほら」
私は受話器を取り、耳に付けると、ケンちゃんの声がした。
「香織か?そろそろ帰るから」
「うん、分かった、気をつけてね」
私は電話を切ると、安心した気持ちで沙織に『そろそろだよ』と伝えた。
ケンちゃんは帰る前に家に電話をして帰るよコールをしてくれる。香織を安心させたいからとケンちゃんが提案したのだ。ケンちゃんはそれ以来、1日も忘れずに帰るよコールをしてくれる。
私とケンちゃんは六年前に結婚をした。出会いは大学の講義。それから結構講義が一緒の時が多くて、その度に話していたら気が合ったのだ。ケンちゃんからの告白で付き合い初めて、ケンちゃんのプロポーズで結婚。両親もケンちゃんを気に入ってくれて、まるでケンちゃんと会ったから幸せを得られたのだと思う。
ケンちゃんがハッピーセットで幸せがおまけ。みたいな感じで。
ケンちゃんの帰るよコールから十分経った。駅からマンションまで約五分。そろそろ家に着く。あと一分待てばケンちゃんに会える。私はケンちゃんが大好きなんだ。
あれからまた十分経った。ケンちゃんは帰って来ない。
「どうしたのかな」
私が呟くと、沙織が『パパは?』と聞いてきた。
「もうすぐ帰るよ」
沙織に微笑みながら言うと、沙織も微笑んでテレビを見ていた。
どこ寄り道してんの…?こんな事、全然なかったのに…。
すると、また電話が鳴った。ケンちゃんからかも…。
私はナンバーディスプレイで番号を見てみると知らない番号があった。私は一瞬嫌な思いがしたけどゆっくり受話器を掴み、持ち上げた。
「もしもし」
「もしもし、こちら、緑ヶ丘総合病院ですが」
私の嫌な予感は、的中した。
「はい…」
「西山さんですよね。西山健司さんの奥さんですか?」
「はい…」
「今日の夜8時十二分、西山健司さんが交差点で歩いていた所、突然の故障により操縦不能となったトラックが、西山さんが歩いていた歩道を乗り上げ、西山さんをひいた後、横転するという事故が起きました」
「!!」
「西山さん…」
「健司は…」
「即死です」
「…」
「でも、安らかな顔です」
「…お願いします…健司を、家に返してください」
「…わかりました」
「…すいません」
「一時間後にはこちらに帰ると思います」
「…はい」
私は電話を切ると、腰から崩れた。ケンちゃんが死んだ。
私がボロボロ泣くと、沙織がトテトテとやってきて、私の背中を撫でた。
「ママ、泣かないで。パパがもうすぐ帰ってくるから泣かないで」
私はその言葉を聞いてから、決心した。
沙織には本当の事を言わなければいけない。まだ五歳だけど、いつかわかる事…。人の死をちゃんと理解しなきゃ。そのままだとずっと沙織は泣いていると思う。言おう。
「沙織、パパはね」
プルルル。電話が鳴った。
こんな時に誰かと思い、知らない番号だったら出ない事を誓いながら電話のナンバーディスプレイを覗くと、そこには何回も見た事がある番号が書いてあった。
ケンちゃんの電話番号だった。
ケンちゃんは死んだんだよ。なんで、ケンちゃんのケータイから電話が来るの?警察かな…。でも病院で全部聞いたからな…。
私は恐怖心よりも、最後にケンちゃんの声が聞きたいという願望に負けて、受話器を取った。
「もしもし…」
「香織…俺だよ」
ケンちゃんの声だ。
「どうしたの」
「香織、今まで、本当にありがとう」
「…」
「香織と出会えて、本当によかったよ」
「ケン…ちゃん」
私は今まで出した事がないぐらい大粒の涙が流れ出た。拭っても拭っても出てくるんだよ。ケンちゃんってすごいね。こんな大きな涙を流させる事が出来るんだよ。
「香織」
「ケンちゃん、ありがとう。大好きだよ…」
「香織…もうすぐで帰るからね…。ただいまを言えなくてごめんな」
「いい…。ケンちゃんがずっといてくれるならいい」
「ずっといるから…」
「もう、どこにも行かないでね」
「うん」
ケンちゃんの声は最初から最後まで優しかった。
沙織にはもうすぐ帰ってくるとだけいった。
一時間後、ケンちゃんが帰って来た。六人の男の人がケンちゃんをせっせと運んでくれた。ケンちゃんは、病院の人が言っていたように安らかに眠っていた。起こせば起きるかもと思うぐらい。
沙織がゆっくりと眠っているケンちゃんの近くに来て、ずっとケンちゃんの顔を眺めた。そして…。
「パパ、おかえりー」
と言っていた。
「ただいま」
そう聞こえたみたいだった。
ありがとうございました




