一話
朝日の暖かな温もりを肌で感じて、俺は目を覚ました。
肌を触ると昨日流した涙の跡が残っている。
……最悪な目覚めだな。
昨日の出来事を思い出して俺は舌打ちをする。
拒絶され、説得も意味なくて耐えきれずに逃げだして、挙げ句の果てには妹に自分の情けない姿を晒した。
部屋に戻ってからも一人ベッドに体を預けて泣いて、いつの間にか眠ってしまっていた。
香織にも悪いことしちまったな。
せっかく楽しい場になるはずだったのに、俺のせいであの場は気まずくなってしまったに違いない。それなのに場を気まずくした張本人が逃げだしてしまったんだから残った香織は俺の尻拭いをするのが大変だったはずだ。
いや、案外大変じゃなかったのかもな。
俺がいなくなってもああして皆で集まって食事をしてるんだ。俺がいないほうがむしろ楽なはずだし、香織も尻拭いなんてしてないかもな。
香織はそんな奴じゃないと考えが頭に浮かぶが昨日の言葉が心の奥底に刺となって刺さってしまっていて、その考えを素直に肯定することができない。
『お前は、もう死んだんだよ』
昨日の修司の言葉がまたしても頭に響く。
あいつがあんな事いうなんてな。
大学時代、グループのムードメーカーとして場を盛り上げて、人当たりがいいやつで有名だった。恋愛事にあまり縁がなくて他人の恋愛相談に乗ることが多かった。決して人を傷つける奴じゃなかったのに……。
死んだんだ……か。俺も嫌われたもんだな。
歳月は人を変える。
俺のいなくなってからの三年であいつにとっては俺はまた現れて欲しい人間じゃなくなったんだな。
その理由はきっと。
「……香織、だろうな」
修司の詰問や香織の気まずそうな様子から俺は予想をたてた。
おそらく俺がいなくなってからこの三年間あいつは必死に香織を振り向かせようとしていたんだと思う。あれだけの剣幕で俺に詰め寄ってきたんだから、まず間違いないと思う。
そして勝手な予想だが香織は俺のことをきっと引きずってくれていた……と思う。だから今までは修司の問題を避けていたと思う。
そんな中、急に俺が生き返って狙っていた香織を攫っていったとしたら、あいつがあれだけ怒ることにも辻褄があう。
まったく、とんだお邪魔虫だな俺は。
かつての旧友には邪魔者扱いされて俺だってことすら認識されていない。説明虚しく拒絶されて、惨めな姿を晒して……。いやになるよホント。
こりゃ目覚めが最悪なのも納得だ。
「はぁ~」とため息を吐き出す。
だけど……あいつ香織のこと好きだったんだな。
昨日よりは多少ショックが和らいだおかげで気づいたこともあった。
それは俺が死ぬ前からか、死んだ後からかはわからないが修司は香織のことが好きだったということ。もし俺が死ぬ前からあいつが香織のことを好きだったらと思うと、何だか申し訳なさが込み上げてきた。
いつもグループ皆に笑顔を与え、中々恋人関係に発展しない俺と香織を茶化しながらも応援してくれていた修司。そんな修司がもし香織のことを好きだったとしたら? あいつの心情はいったいどんなものだったんだろう? 自分の気持ちを抑えこみ、周りにそれを悟られないように隠して常に笑顔を浮かべる。それはきっと苦しくて、俺と一緒にいるだけでも辛かったはずだ。
俺にそんなことができるか? いや、きっとできない。
だからといって素直に香織を渡せるかと言われると……。
「あ~わからねえな」
揺らいでしまう。なぜなら、あいつには明日が保証されていて俺には保証されていないから。
今の俺には何もない。なら、『今』何をすべきだろう?
部屋にこもった嫌な空気を入れ換えるため、俺は窓を開く。太陽の光と肌寒い新鮮な風が出ていく空気と入れ替わり部屋の中に入る。背伸びをするとパキパキと肩や指から音が鳴った。そしてそのまま軽く身体をほぐす。身体をほぐし終わり、最後に顔を軽く叩いて気持ちを切り替える。
よし、朝食でも作るか!
午前七時。新しい一日が始まった。
「祈りを貴方に、手紙を君に」の三章の一話目です。
この話では、改めて現実を知った佳祐が一人悩む場面になっています。いついなくなるか分からない自分と、明日が保障されている修司とを比較してどうすればいいか考えるところが個人的には気に入っています。




