魔法使い
仕事をしていると一人の異様な風貌の女性が現れた。薄茶の髪は全く結われておらずそのまま背中に流されている。そして特に目を引くのは服装だ。
生成りの布をたっぷり使い縫製がほとんど入っていない服を巻き付けるように着ている。
首には細かいビーズを編んだ幅広い首飾りを何本もつけ、腕や足にもいくつも幅広の金属に宝石をはめ込んだ輪をつけている。
私の視界には横顔しか見えないがこめかみから頬にかけて青いつる草のような文様が描かれていた。
将軍たちがその女性を取り囲んで何やら話をしている。
私は昔噂で聞いたことのあること。彼女はもしかしたら魔法使いかもしれない。
魔法使いは我が国の中で完全自治を行っている少数民族だ。
我が国に住んでいてもその生活様式も社会構造も全く違うと聞いた。
魔法使いは十年に一度長を選びその長に絶対服従だとか。そして、長の命令は私たちの王の命令に勝るのだそうだ。
我が国の王に忠誠を誓っていない少数民族がなぜこの国の中で生活することができるのかと言えば彼らの持つ魔法という技術がその理由だ。
生活様式は我々に比べればとても野蛮であるが。彼らの操る魔法は我々の技術では成せないことをやすやすとやり遂げてしまうのだそうだ。
それを実地で見たことはないけれど、見たことのある人が口をそろえてあれはとんでもない、想像をはるかに超えていると言っていた。
なんだか胸がどきどきしてきた。
少数民族であるが、求められれば王国のためにその魔法を使うことは定められている。
長となったものもそれを守ることは義務だ。
当然だが、この戦争に駆り出されるためにあの女性は連れてこられたのだろう。
不意に彼女は振り返り私と目が合った。正面から見ると顔の文様は左右両方に描かれているのが分かった。そしてよく見てもその年齢が読み取れない。若いようにも思えるし私よりはるかに年上にも思える。
そして不意に彼女は私を見てにっこりと笑った。
なんなんだ今の顔は、私はずいぶんとぶしつけな視線を送っていたはずだ。そう思ってとっさに机に視線を落とす。
うっかり手が止まっていた。こんなんじゃ仕事が終わらない。
私はペンにインクを付けた。
ほかの人たちは彼女を見ていなかった。もしかしたら魔法使いなど彼らには見慣れた存在なのかもしれない。
私は気を取り直し、数字を帳簿に書き写し始めた。




