虚実
カタリナ嬢が何故かテーブルにあるものを睨んでいる。
「どうかしたのか?」
「実は。ぺミカンが何かわからないと言ったら、これを出されまして」
薄いベージュ色に細かく刻んだものが散らばったものを悩ましげに見ている。
「私が管理するのは食料のはずですよね、だったらこれも食料? 私にはこれは蝋燭に見えます」
確かに固まったラードを細く固めたものは一見すると蝋燭に見えるだろう。実際材料もそう変わらない。
「どうやって食べるのですか?」
「そのままかじるんだが」
カタリナは苦悩している。まあ大貴族のお嬢様には理解しがたい食生活かもしれないが。
「一度食べると胸焼けするほど腹もちがよくてな。少量でも満足感がある。まあ、味に関しては蝋燭とそう変わらないと思うが」
意を決してカタリナ嬢はぺミカンを口に入れた。
豚の油は口に入れたら一気に解けるので少量ずつが基本だ。
何とも言えない顔でそれを咀嚼していた。
「うまいか?」
「不思議なお味です」
ハンカチで口を押えながら答える。
「うまく無くて当たり前だ。うますぎると食べすぎる奴らが出るからな。そういう時に備えてあえてまずくしてある。極限まで腹を減らせれば味を気にする連中はまずいないからな」
「そういうものですか」
そしてしばらく沈黙していた。
「私は何も知らなかったのですね」
まあ、大貴族のお嬢様はこういうことは普通に知らない。
「建前と実情、そう言いますでしょう。でも私の前にあったのは建前だけでしたわ、私、殿下のこと別に好きではありませんでしたの、ほかの方の所に行ったとしてもそれほど気にしていませんでしたわ」
その清楚な横顔を見ていた。なんだか表情が消えている。
「だから、私は別にあの人のことも嫌いじゃなかったのですけれど、建前上あの方を愛しているという前提で行動しなければならなくて、でも本当の愛って、私は理解できなかったのですの」
そして、彼女はぺミカンを見つめている。
「ここで初めて実情というものを考えてみたんですの、私は何かを間違っていたのでしょうか」
いや、本当にこっちに振られても困る。こっちも分からない。
だって、上官の娘を嫁にもらってその間何でか知らんが冷え切った結婚生活、娘一人生まれた後は口も利かない関係で五年後嫁が病死して以来、悪い意味で嫁が忘れられないからと再婚を避けまくっていた俺に聞かれても。




