ある侍女の怒り
お嬢様お労しい。
私はあふれる涙をハンカチに浸みこませながら軍人たちの話を聞いていた。
「お嬢様が何をしたというのです」
そうハンカチで隠した裏でそう呟く。
絶対に悪いのはお嬢様ではない。もちろん一番悪いのはあの阿呆だ。たまたま高貴な家に生まれたということしか取り柄のない愚者。
お嬢様の元婚約者という裏切り者に対しては悪意しか浮かんでこない。
そしてお嬢様はこの無残としか言いようのない話し合いで毅然とした態度を崩さなかった。
幼少期より常に厳しくこの国を代表する淑女として育てられたお嬢様。どれほど過酷な状況でもその表情を崩すことは許されなかった。
常に家庭教師たちに囲まれ、学ぶ以外の時間をほとんど持つことができなかった。それもこの国の頂点たる淑女となるためだったのに。
今思い出しても腹の立つあのあばずれ。
あのへらへら笑うその顔のどこが天真爛漫だ。ただのあほ面だろう。
確かにお嬢様は表情豊かとはいいがたいが、それも厳しい淑女教育ゆえ、誰のためにそんな生活してたと思ってんだあのドぐされ王太子。
その挙句、このような辺境にお嬢様を追いやるなど。
もちろんお嬢様に対してしでかしたことは許しがたいが。お嬢様は宰相の令嬢。さらに親戚一同にかなりの数国政に携わる方々がいらっしゃる。そのお嬢様に対してそれもお嬢様より男爵令嬢を取ってこのような暴挙に出るなど、どう考えても命が惜しくないとしか思えない。
お嬢様を愛している方もいらっしゃるが。それ以上に自らの一族に理不尽を強いるというなめた行動をとられた場合、ちゃんと報復をしなければメンツが立たないと思われる方も多いだろう
よく考えたら私がここであの愚か者を呪わなくても将来は終わっているのではないだろうか。
そしてお嬢様は嘆きもせずドレスから軍服に着替えていた。
「お嬢様、本当にそれでよろしいので?」
はっきり言ってその軍服はお嬢様に大きすぎた。袖は途中でつまんであり。ズボンは何度もめくりあげた状態で縫い付けてある。
上着の丈は長すぎてお嬢様の太ももを半ば隠していた。軍靴はさすがに用意できなかったのだろう。もともとはいていた靴を履いていた。
「これがけじめでしょう」
そして着替えた後くるりと回る。
「動きやすいわね」
驚いた顔でそう言った。
もともとお嬢様はもっとも動きやすいものでも重い生地で作られた大きく膨らんだスカートのドレスを身に着けていた。それを脱ぐのは寝る時ぐらいだった。それに比べれば動きやすいだろう。




