エピローグ&1
エピローグとプロローグと1~10ほどに分けて作る予定です。
雪がこれでもかと降りしきり、膝までも隠しているのにも関わらず、止む気配はない。
着ている服は学校の制服で、冬服だろうと関係ないとばかりに冷気が体全身に響く。四肢の先がかじかみ動かしずらい。
だが、俺は自分でも言語化ができない使命にとらわれ、雪原を歩き続ける。自分では走っているつもりだが、この状況を周りが見れば歩いていると思われるスピードだから歩いている。矛盾している考えを抱いているうちに、目視で視認できる位置に一人の人影が見える。それが使命だと感じ、必死に追いかける。
その人影が女だとわかるほどの距離に移動したところで声を出しても振り向いてはくれず、俺と同様歩いている。
最後の力を振り絞り、すぐ背後まで到達する。こんなにも寒いのに汗を大量にかいている。その距離でも吹雪によって声は聞こえていないのか、はたまた無視されているのか振り向かない。
力の調節がきかず、意思よりも強めに彼女の肩を叩く。すると今までとは違い、振り向いた。だが、その顔を見たとき絶望と後悔と哀愁とも呼べる二度目の惨劇での悲しみが胃からせりあがってくる。
期待外れ。そんな言葉が思い浮かんだが、すぐに消えた。ここでいう期待というのは最悪の事態にならなければいいという諦めに近い感情だったからだ。最悪の想像が現実になっているということは期待外れという言葉には当てはまらない。
彼女はなにもかもを諦めている顔をしているが、涙で光る目はほんの少しの希望を抱いている。
彼女が何かを言おうと息を吸う。この距離ならその音さえも聞こえる。吹雪の音は俺たち二人の世界の外で鳴り響いていた。今は聞こえない。
無限とも一瞬とも捉えられる時間の先に彼女は一言だけ諦めた世界に言い放った。
1
目を開く。雪原を歩いていたことは夢だと気づいた。体の上にのっている布団がいつもより重く感じれた。
夏とはいえ冷房が程よくきいている部屋にいるのにかかわらず、汗を全身にかいている。
上半身を起こすとそのタイミングでスマホのアラームが鳴った。目から落ちる液体で布団を数滴分濡らす。涙をぬぐい、アラームのやかましい音を消す。
一呼吸分溜息をつき今の出来事を早速頭の中で再生し、分析する。学生はもたもたできる時間は限られているため、部屋から出て手洗いに向かう。
今のは夢だった。通りで感情のコントロールや抑制ができず、矛盾などが起こっていた。
もととなる出来事に心当たりはない。だが、あの女のことだけは知っている。
上春藍という名のクラスメイトだ。高校二年間で二年とも同じクラスだが、とくに仲が良いわけでもない。
かといって悪いわけでももちろんなく、話しかけられたら返すし、挨拶も都合が良かったらする。ほとんどの他の女子と同じ接し方をする相手だ。
他の女子との相違点をあげるとするならば共通の友人が違うクラスにいるため、少しだけ接する量が多いことだ。それでも仲がいいと聞かれると本当に微妙な距離にいる。
夢にでてくるほど印象に残っている会話や行動は今までなかった。夢にでてくるとしたら共通の友人とセットだと思う。
理由は考えても分からず、分からなかったところで、驚く理由があったところで、今の俺には特に害はないと思い一度脳の端に置いておく。
洗顔、寝癖直し、着替えを済ませ、俺よりも早い時間に起きている母と姉に声をかける。大学生である姉は誰かと電話をしており、手だけで朝の始まりを伝えてきた。
つけてあった朝のテレビ番組を見ながらスマホをいじる。特になにか重要なメッセージが来たわけでもなく、電源を切って菓子パンの袋を開いて食べる。スティック系のやつだ。
一度端に置いた考えをもう一度真ん中にもってくる。
上春は髪を肩ほどまで伸ばし、地毛が少し茶色っぽく先端がくるっとなっいて天然パーマよりの髪だ。髪型の知識が少ないので彼女の髪型がなんというのかは分からない。入学初日に染めてきていると疑われたというエピソードを聞いたことがある。身長は高いほうの俺より二十センチほど低く、女子の中では真ん中よりほんの少し低いぐらい。体重は知らない。知っていても良いことは一つもないので知らなくていい。顔立ちはそこそこ整っている。上から目線みたいな考えをしてしまい反省する。
クラスメイトの女子のことを考えながら家族の女二人と話している状況におかしくなって話を聞いているときに笑ってしまったらつっこまれた。
姉弟ともに通学の時間が来たのでともに玄関を出る。今日は姉がたまには早い弟についていこうと謎の宣言をしたからだ。駅までは一緒だが、降りる駅が家を間にした反対方向にあるので、乗る電車が逆だ。そこまでなら知り合いに出くわすこともないだろうし特別嫌っているわけではないので同行を許可した。母にいってきますと伝え、扉を開け外に出てから閉じる。
「丹花彼女は?いつ作んの?」
丹花というのは俺の名前だ。
「朝一番でする会話じゃねえだろ」
「まあまあ、面が私ぐらいいいんだからさ、できてもいいころかなぁと」
「つっても相手がおらん」
「文化祭の時仲良くしてた可愛い子いたじゃん」
「誰」
「名前なんだっけえ、そうそう衝羽ちゃん、あの子は?」
「ああ」
姉から俺が考えていたもう一人の女子の名前がでてきた。上春との共通の友人の名前だ。ポニーテルで顔が小さく小柄な印象だ。男子からはそこそこモテている。俺はそういう目で見たことは一度もない。これから見ることもたぶんない。
面がいいと姉が言ったのはお世辞か自画自賛のためだ。自分の顔は中の下ぐらいだと個人的には思っている。姉は中の上から上の中。好みが分かれる顔だと思う。俺は姉の顔に好みとかをのせて考えないので中の上ぐらいだと思う。性格も顔に反映していると無意識に考えているからかもしれない。
「衝羽は違うかな」
「えーもったいない。じゃああの子は?衝羽と仲いい可愛い子」
「特徴言ってくれないとわからん」
こういう時に上春が頭に一瞬浮かぶのはカラーバス効果かなんかだと思う。
「あの、ボブの子」
「たくさんいるからわからんて」
「可愛い子が多い自慢?」
「違えよ、ボブが多いってこと。俺はは今んとこ作る気ないから。逆に彼氏とはどうなんだよ」
俺の姉は人の色恋沙汰には首をつこっみ話を聞く癖に自分のことになると引っ込み思案になる人だ。その弱点を狙う俺も悪い。少しいじりたくなったから仕方ない。
「どっちでもいいだろ!まあでも、仲良くはやってるよ」
こっちを見ていた視線をずらした。こいつは視線のずらし方で考えが分かる。俺と反対方向を見るときは嘘をついているとき、俺の右斜め上を見るのが知られたくないことを言わなくてはいけないとき、または言いそうになる時だ。今回は後者のほうだった。一応関わっている時間は長いからな。
「キスかなんかしてるかは知らねえけど仲いいならよかった」
なんかあると思ったからとりあえず冗談で笑って返す。
こいつの彼氏とは一回だけ共通のゲームで遊んだことがある。できれば長く続いてほしいと心から願っている。姉の幸せといい人が身近にいるということを感じたかった俺の本心だ。
珍しく姉の幸福を願っていたら姉がいきなり歩くのをやめた。駅はほぼ目の前にあるんだし止まることは意味が分からないので「どうした?」と聞く。
「なんで丹花が知ってんの!?」
姉は全身がわなわな震えており笑いと怒りと困惑を均等に混ぜた声を上げた。俺は思わず噴き出してしまう。てきとうな冗談が適当な推測となって彼女のプライドと羞恥心を攻撃していた。
「知らねえよ、冗談のつもりだったんだけど!」
「勘いいなぁこいつー」
そう言いながら俺の肩を小突く。
「まあそういうことぐらいしてもいいんじゃない?大学生だし」
皮肉同然のことを言うと顔を真っ赤にして怒鳴られた。ちゃんと周りを確認して適度なボリュームで怒鳴ったのが我が姉の好意を持てるポイントだ。その前に怒鳴るなと思うけれど。
その後は共に階段を下りてからICカードで改札を通り、ホームに行くと自分が乗る電車が丁度来ていたので姉に別れを告げ、電車に乗り込む。
通勤・通学にしては早い時間なのに、スーツを着た大人たちでほぼ空いている席がなかった。そのあいている席には座らずに立ったまま、スマホをポケットから取り出す。俺らの高校は授業中は使用禁止だが、スマホ持ち込み可能なので、校則違反ではない。
早速耳にイヤフォンを詰め、デジタルカードゲームのアプリを開いてプレイする。姉の彼氏とやったゲームではない。一ゲーム十五分後ほどを終えると乗り換えの駅まで残り二駅だったので好きなバンドと小説家のSNSをチェックして時間をつぶし、駅のホームを踏む。違う路線の電車に三駅分乗り、高校の最寄り駅に到着する。
スマホで時刻を確認し、来る時間が早すぎたため、高校の最寄りのコンビニに入る。パンだけでは足りなかったので追加でそのコンビニ限定のチキンとペットボトルのお茶を買って、店外で食べ、やんちゃはしていないのできちんとゴミ箱に捨てる。
もう一度時間を確認すると、学校に到着したい時間の十分前だったので少し早めでもいいかと思い高校に向かう。
校舎の中に入り、自分の教室に向かう。土間から近い階段を上ると二年生の教室の中で一番遠いのが俺のクラスだ。その道のりの丁度間にやつはいた。恋じゃなくて驚きでドキッとした。
「おぉ丹花」
「おはよ」
「丁度いいとこにー」
「丁度いいとこってなんだよ」
「早く来すぎっちゃてー、仲いい奴だれもいないわけ」
「押田とか最近仲良くなかったけ?あと荷物置きにいっていい?」
「ああごめん、いいよー」
少し歩いて教室に入り、背負っているリュックを机におろし、中身を出してまとめる。一限の用意もしっかりとしておく。
「それでさ、誰かに電話して、きてもらおうと思ったんだよね」
「そんないきなりはこれんだろ。電車内とかだったら迷惑だし」
「それはそうだけど。電車内はマナーモードにしろ」
「誰に言ってんだ」
「してない人たち。通知切ってんならいいけど」
「意味の分からない理由で電話しようとしたやつの言葉じゃないだろ」
そう言ったら彼女、衝羽は笑った。彼女の笑い方は一瞬だけ咲いたように笑う。いつもの表情はけっして険しいわけではないが、一瞬だけ見せる笑顔とのギャップが大きい。それが男子に人気な理由の一つらしい。その笑顔のことについて本人に前話したらお母さんもそうだとその笑顔で返された。
「そういえば押田に告白されたんだよね」
この報告を聞いたのは三回目か、四回目か、詳しい回数は覚えていない。くだらない話が楽しいと感じた俺を砕くような言葉だった。
「それを当たり前のように俺に言うなよ」
「振ったから教室めっちゃ気まずい」
「俺も今女子ばっかで入ったときめっちゃ気まずかった」
「それは丹花のコミュ障が悪い」
「コミュ障じゃねえよ!んなこといったら振ったことが悪いじゃん」
「まだ振ったとは言ってない。振ったけど」
「お前なあ」
こいつ、モテているという利点を使ったことが今までなく、告白はすべて断ってきている。彼氏欲しいと嘆いていたのだから作ればいいと言ったことがあるが、選り好みはしたいといった。その時は反射で「流石我儘」と言ったが、恋愛にとって選り好みはしても良いと思う。むしろするべきだ。俺も選り好みをしてきた結果、高校では想い人はできたことがない。
「仲良かったなら付き合えばよかったのに」
押田とは二年間クラスが違い、数回ほどしか話したことがなく、それも短い間だから彼の性格をあまり知らない。見た感じいい奴そうだったから、付き合えばいいという言葉は本心だ。見た感じだから、周りの評価がどうかは知らないけれど。
「教室入った瞬間目あって、ちょっと目線とか怖い。気のせいかもだけど」
「災難だな」
「友達として見てたし、そうしようって言ったんだけどな」
振られた奴が振った奴のことを恨んだりもともと好きじゃなかっただの言い訳することは嫌いだ。何もかも嘘であり、傷を応急処置するためだけの行為だからだ。そしてそこから他人に傷を見せつけ、少しずつ癒してもらう。治りきった時は噓から出た実である恨みだけが残る。人への想いを虚しさを晴らすためだけに取り消して全く別のものに変える行為をしているやつは心の中で差はあるが侮蔑している。押田がその行為をしているかはまだ分からないが、少し押田の事を悪としてみる考えが浮かんでしまった。
「好きの想いに応えろよ」、たまにこういうことを言うやつがいる。自分は選り好みして選んだのに、その相手は選り好みはせず想いに応えろなんて、あまりにも身勝手だ。提案や勧めることならいいが、強制はあってはならない。俺の中学時代の経験からこの考えは形成された。
難しい顔を数秒していたら俺の考えをわかっているはずはない衝羽に「そこまで深く考えなくてもいいよ」と言われた。こいつのたまに出る悪く言えば間抜けな考え方はいろんな人を気楽にする。大人だと実家感というのだろうか、それが緊張を和らげたいが和らげられない時に役立つ。俺も今は助かった。
この一件で衝羽身に不幸がなければそれでいい。ここからは深く考えなくてもいいことを話した。その時間は一瞬であり、衝羽には深く考えず喜べる再開、俺にとっては深く考えなくてはならないと俺の脳が言う問題が階段を上ってきた。
上春が来た。




