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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
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第83話:革命

 俺の重傷度合いから表彰式は決勝戦の一時間後に決まった。

 あまり優勝したという実感が俺にはなかった。

 あの魔奥を切り捨て、一言言った後には気絶していて実況の言葉を聞けなかったのもあるだろう。

 でも、魔法使いの治療を受け、待機室に来たみんなの言葉に実感してくる。


「優勝おめでとう、濡羽!」


 ミアは元気な様子でそう言うと俺に抱きついた。


「濡羽、優勝おめでとう」


 茶淡は笑顔でそう告げた。


「先輩、おめでとうございます。次の大会は私が優勝するので卒業した後も見に来てください」


 そして何故か居るシェリーが二年後に開催されるキングクラウンの優勝を宣言する。


「みんな、ありがとう。ルナの姿が見えないけど……」


「ルナは……」


 ミアが答えにくそうにする。

 俺はその様子に嫌な光景が脳裏に浮かぶ。


「もしかしてルナは……」


「お姉ちゃんなら、先輩のこと会場外の公園で待っているって言ってたよ」


「へ?」


 あれ、想像していたことと違う回答だけど……


「ミア、揶揄ったな?」


「ええ、不謹慎だけどこういう揶揄いの方が今のアンタには効くでしょ」


 もしかしてミアはとっくに気付いていたのか。

 ルナが俺の初恋相手であることに。

 だから、デートに誘ったのか。

 俺がミアのことを考えていることに気付いたのか、ミアは少しだけ辛そうな笑顔で言う。


「ほら、ルナの元に早く行ってやりなさいよ」


「ああ……」


 俺はその顔を正面から見ることなく待機室を去る。

 今まで普通に接してきたはずなのに、今になってミアとの接し方を忘れてしまった。

 落ち着いたら、二人で話すか。

 俺は足早に会場外の公園に向かう。

 その公園は木々が多く、記憶の中に残ったあの森に似ていた。

 公園の中央にある噴水の近くでルナの姿を見つける。


「ルナ。どうして、ここに……」


「ねぇ、私の夢覚えてる?」


 振り返りながらルナは俺に尋ねる。

 その姿が一瞬、記憶の中のあの少女、昔のルナに重なる。


「もちろん、探索者になるだろ?」


 ルナは不貞腐れた顔をする。


「ちょっと違うわ」


「え」


「正確には——」


 ルナは距離を詰め、間に指が挟まらない距離で、顔を近づけて言う。


「貴方と一緒に探索者になるよ」


 俺はルナの美しさにドキッとする。


「さて、昔は私から誘ったけど……今は身長も実力も上なんだから〜〜ね」


 ルナは期待するような眼差しで俺を見る。

 分かるでしょ、という態度に俺は応えるように口を開く。


「俺と——」


 そこからはどうも恥ずかしさと少し残った自嘲が妨げる。

 俺が答えられず無言でいるとルナはやれやれねという感じで言う。


「表彰式準備の時間も近いし、会場に戻りますか」


「ごめん」


 俺のボソッと言った謝罪にルナは反応し、俺の唇の上に指を置く。


「濡羽って他人のためならズカズカ本心言えるのに自分の思いを告げるのは本当に苦手よね。でも、そんなことは昔から分かっているわ。だから、表彰式が終わった後、ここで待ってるから」


 ヘタレな俺にとってはその言葉がとても嬉しかった。

 だから、自分の思いに決心つけよう。


***


 表彰式。

 試合会場には優勝者の俺と準優勝者のルナ、実況と優勝者が被る王冠を持った彼我見の姿があった。

 彼我見は在学中三回出場して優勝することが出来なかったのに、こう言う形で王冠を持つことになるなんて屈辱だろうな。

 でもその王冠を被るのが俺だから嬉しさが勝つだろう。


「キングクラウン表彰式を行います」


 観客席から拍手が起きる。

 先ほどまでの熱狂とは違う。

 どこか“敬意“のこもった拍手だった。

 実況は息を整え、声の調子を通常のテンションへ戻しながら。


「いやぁ……皆さま。死闘と呼ぶに相応しい激戦から、わずか一時間。両選手は治療を終え——こうして、今この場に戻ってきて来れました」


「黒曜濡羽、前へ!」


 濡羽は壇上に上がる。

 観客席からは称賛が入り混じった拍手が起こった。

 続いて——


「準優勝、ルナ・フェメノン・ルージュ」


 ルナがゆっくり壇上に上がる。

 表情には曇りがない。

 むしろ誇りと、何か吹っ切れたような微笑を浮かべていた。

 二人が壇上に並び、試合場全体が静まり返る。


「それでは——キングクラウンの称号を授与します!」


 彼我見がゆっくりと王冠を掲げる。

 照明が一点に集まり、濡羽の姿を照らした。


「キングクラウン優勝者——黒曜濡羽!!」


 王冠が濡羽の頭へと置かれる。

 その瞬間、会場は立て続けに拍手の波が起こった。

 一時間前の混乱とは違う、決着を受け入れ、讃える音だった。

 俺は深く息を吸い込み、、小さく頭を下げる。


「……ありがとう」


 それだけをつぶやく。

 実況が続ける。


「そして準優勝、ルナ・フェメノン・ルージュ」


 ルナの名前が呼ばれ、強い拍手がまた起こる。

 彼我見が賞状を手渡す。

 彼女は静かに微笑んだ。


「……悔しいけど。本当に、良い試合だった」


 濡羽が横で小さく聞こえるような声で言う。


「……ルナが相手だから、勝ちたいと思えた」


 ルナは苦笑する。


「そのセリフ……もっと勝者らしく言いなさいよ」


 二人のやり取りに、実況と彼我見はほのかに笑みを浮かべる。

 そして司会が締めくくる。


「以上をもちまして魔女の競技会——キングクラウンを終了します!」


 その瞬間、俺の背後に殺気が生まれる。

 俺よりも先にルナが振り返り、俺を庇うように立つ。

 だが、閃光はルナを超え、俺を切る。


「濡羽!!」

 

 ルナの悲痛の声が響く。

 断ち切られた俺の右腕が鮮血と共に宙を舞う。

 それを実感し、遅れて痛みがくる。


「くっ……」


「やはり君は厄介だから、ここで死んでもらうよ。濡羽くん」


 俺は相手を見る。


「何で、お前が!」


 観客の一人が声を上げる。


「次期光明……」


 俺は声を張り上げる。


「ライター!!」 


「生徒会長、何で……」


「革命のためさ、君たち二人には革命の礎になってもらうよ」

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